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ウォーターメロントルマリンの導き

「あぁ、どうやら効いて来たようね。即効性の毒だもの」


 半神である私でさえ一瞬天界のお花畑が見えるくらいの凄い毒だ。これを吐き出しただけで生還できる白雪姫は超人なんじゃなかろうか。首を振り、なんとか視界がハッキリしたところで立ち上がる。


「こんなことをしなくても、マントくらいあげるのに」


「え、な、なんで」


「私、神の子なんでこんな毒効きませんよ」


 普段隠していた神気を解放しながら言えば、少女は腰を抜かしたように床に倒れ込んだ。すぐさま、五体投地のような格好で謝罪をされる。


「人を殺してまで物を奪うものではありませんよ。その行いはいつか貴方を破滅させます」


「はい、ごめんなさい。すみませんでした!」


 少女からお詫びの品として、きっと旅の間に役立つと言う食べた人をロバにするキャベツと元の人間の姿にするキャベツをくれた。これは早速実験だな。


「では、お兄ちゃん。実験台よろしくです」


「え、俺が食べるの!?」


 台所をお借りして、千切りにしたキャベツにニンニクをオリーブオイルで炒めたソースをかけたサラダを作りお兄ちゃんに出せば、彼は覚悟を決めたような顔で一口食べた。飲み込んだとたんに人間の姿は消えうせて、一匹の雄のロバに変わってしまう。人の言葉も話せないようで、ロバの鳴き声しか聞こえてこない。


「うわ、すごいですね。どう見てもロバです」


 使い道はイマイチ思いつかないが有難くいただいておいて、お兄ちゃんロバに人間に戻るキャベツを食べさせる。


「うーん、ロバの感覚というのも何とも変な感じだ。とりあえずキャベツがすさまじいご馳走に見えたよ」


 少女は夜になるから泊っていくように勧めてくれたが、お兄ちゃんが断り、城を出るよう促されたので私たちもそれに従う。夕陽を浴びて一面が燃えているような森の中を三人で歩く。


「お兄ちゃん、どうしてお城を出たのですか?」


「この世界はね、グリム童話の登場人物たちで作られた世界なんだが、ある日俺たちみたいな異世界の住人が紛れ込んでしまい、あるお姫様に恋をしてシナリオを変えてしまったんだ。そのせいかは分からないけど何故か他の物語も影響を受けて軒並みバッドエンドに変わり、主人公が死んだらまた物語のはじめに戻ると言ったようにループをし始めて先に進まなくなってしまったんだ。まぁ、夕理さんが介入したことでいくつかの童話はハッピーエンドに変わってループも終わり、登場人物たちもその先の未来を生きられるようになったみたいだけど」


 やはり、ここは童話の世界だったのか。


「では、その異世界の住人に会って話をした方がいいね。あれ、でもそれなら何故私達が喚ばれたのでしょう?」


「この世界を元の状態に戻すことが出来る力を持つ者が貴方だからだろう」


「では問題を解決すれば元の世界にもどれるのか。それで異世界の方はどちらへ」


「彼がいるのはザルツブルク城。あのいばら姫が百年の眠りにつく城だよ」












 ようやく森を抜ければ、そこには太陽の光を受けて金色に染まる草原と、その真ん中にいばらに覆われた古い大きなお城があった。


「ここがいばら姫さまのお城なんですね」


「オニキス君知っているのですか?」


「それは綺麗なお姫様が精霊の呪いを受けて眠り続けているとか。でも最近王子様がこの城に入ったと聞いたのですがね。まだ呪いは解けていないようですぜ」


 お城に注意しながら近づけばいばらが私たちを拒むように立ちはだかる。


「オニキス君、護衛今までありがとうございます。危険ですのでもう帰っていいですよ。あとはこちらでなんとかします」


「そうだぞ、妹の護衛は兄である僕に任せておいて」


「大丈夫です、俺は夕理さんに出会って今までの生き方を反省できたんだ! 俺はどんな危険があろうが、地の果てまでだって夕理さんと共にいきやす!」


 うわ、なんて良い狼なんだろう! 感動で泣きそうだ。


「分かりました。では、オニキス君も行きましょう」


 とりあえず、この茨を何とかしなければと思っていると胸元に付けていたウォーターメロントルマリンのブローチが光り出しその光を浴びた茨が道を開けるように動いた。私達を招き入れるような姿に三人顔を見合わせて中に入る。

 独りでに茨が両脇に分かれてくれるので、鋭い棘に刺されることも無く城の中を歩くことが出来た。城の中では、女中や料理人や家来や大臣の人々がみんな眠り込んでいて何だか異様な光景だ。とりあえず、先にお姫様を起こした方が良いかななんて考えていると、お城の塔の上へと続く階段に出た。

 登っていけば階段の中ほどにはあの有名ないばら姫を刺したであろう糸車があった。なおも、茨に道を開けてもらいながら息を殺して登っていくと扉が見えた。おそらく塔の天辺にあるいばら姫の部屋の扉だろう。



 三人で顔を見合わせ、うなずき合ったところでお兄ちゃんが私を庇うように後ろにし、一気に扉を開けた。そこには上質なビロードで出来た天蓋付の絹のベッドですやすやと気持ちよさそうに眠る、天使のように愛らしい姫君とそれからその頭をいとおしそうに撫でる男の人だった。

 うん、確かに王子と呼びたい美貌だわ。でも黒髪黒目なせいかさっき出会った王子様よりは目に優しい。


「初めまして、いばら姫の王子様」


「貴方達はどうやって……? 一体どちら様ですか?」


 警戒したような目線を向けて来る彼に私達が事情を話せば、王子様の顔がどんどん険しくなる。


「そのいばら姫さんはあきらめてくれないかな。でないと、この世界は」


「それは無理です!」


 悲痛な叫びに思わずびくっと震えてしまう。そうだよね。


「では、そのお姫様を起こして童話通りに貴方が彼女と結婚して添い遂げれば、上手くいくのではないですか」


「それは出来ません!」


 否定の言葉にビックリする。最善の策だと思うけど。


「僕は悪魔なんですよ。そんなの彼女に知られたら絶対嫌われる。人間が悪魔を好きになってくれるわけがない。それなら僕は眠り続ける彼女の傍に永遠にいた方がいいです」 


 まさかの人間じゃないパターンだった! いやでも。


「大丈夫だと思うけど。王子様カッコイイし、優しそうだし」


「そんなの、僕の正体が知れたら意味無いですよ。帰って下さい! 嫌なら力づくでも」


 王子様が本性である銀の爪に翡翠の鱗をもつドラゴンの姿に戻る。うおー、マジか。頭を抱えそうになったがオニキス君のキャベツの一言で思い当たる。

 そのまま大きな口を開けて火を吐こうとする王子様の口めがけて、ロバになるキャベツを投げつける。飲み込んだとたん、ロバに姿を変えた王子様に、頭冷やせという意味を込めて魔法で水をぶっかけてやった。










「本当に申し訳ありませんでした」


 今日はやたらと土下座を見るな、なんて思いながら魔法で鱗を乾かしてやる。


「大丈夫だよ。信じろよ、自分が好きになった彼女のことを」


「そうですよ、眠る人を愛するのもそれはそれで魅力的ですが、やっぱり生きておしゃべりしたり触れ合ったりする時間の方が何倍も素晴らしいと思います」


 私達の言葉に王子様が頷いたところで元の姿に戻るキャベツを食べさせる。再び、黒髪の青年の姿に化けなおした彼はいばら姫さんの頬に手をあてるとそっとキスをした。


 その途端、止まっていたお城の時が動き出した。


 茨は消え去り、お城の人が自分の仕事をしている音や庭で飼っているのであろう動物たちの鳴き声が聞こえてくる。いばら姫さんはサファイヤのような美しい青の瞳を開き、頬がバラ色になりながらじっと王子様を見つめていた。


「あぁ、やっと貴方にお会いできた。夢ではなかったのね」


 そう言って抱き付いてくるいばら姫さんを彼は幸せそうに抱きしめた。なんだ、心配することなかったね。


「じゃ、結婚式には呼んでくれよ。お祝いはずむから」


「私も是非呼んでください。オニキス君、今日はありがとうございます。また、遊びに来ますね!」


 祝福のバラの花びらを部屋中に降り注がせながら、私達は元の世界に帰るための転移呪文を唱える。気づけば、広場のクリスマスツリーの下に兄と二人で立っていた。私は一瞬今の事が現実なのか戸惑ったが、胸元にあるウォーターメロントルマリンが輝いたことでふわりと笑う。


 今のはおとぎ話なんかじゃない。


「二人の結婚式楽しみですね」


「そうだね。俺もなんだか恋人が欲しくなっちゃったな」


 雪が舞う中、私達は雑談しながら満月が照らす家への帰り道を歩いて行った。

登場したグリム童話

「白雪姫」「キャベツろば」「いばら姫」


次回の更新ですが、薺くんがしれっと高校生に成長していた場合、ネタがなかったんだなと鼻で笑ってやってください。本編での最高神と戦う夏休みのお話を薺くん視点でします。柚月さん達と合流する前に実はアレコレしていたのです。

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