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天使の戯れ 紅葉の交響曲

夕理さん視点での七五三のお話です。

「あら、随分と可憐なお姫様になったわね」


 お母さんがにっこり笑って褒めてくれるのが嬉しくて、私は着せてもらった着物を見せびらかすようにその場でクルクル回ってみせる。火怜さんが縫ってくれたこの着物は、紅葉と鶴があしらわれ、金糸で綺麗な刺しゅうが施されたオレンジ色の着物で、とても美しい。まるで秋を纏っているようで、この着物を着られる今日が楽しみで仕方が無かった。


「ほら、お転婆な俺の可愛いお姫様。まだ、動かないで。髪を結っていないでしょ」


 お父さんの声にそうだった、と鏡の前に座って、わくわく気分で台に置いてある桜の花をあしらった赤いリボンの髪飾りを手に取る。これは、お父さんのお兄さんである明陽さんが、七五三を迎える私の為に作ってくれたものだ。


「ホント、あーちゃんは器用だよね」


 いつの間にか隣に来ていたお兄ちゃんが髪飾りを手に取る。明陽さんは手芸が得意だから、よくぬいぐるみを作ってはプレゼントしてくれるんだけど、こういうのも作れるんだね。

 なお、そう言うお兄ちゃんはとんでもなく不器用なので買ってもらったプラモデルの部品を壊しまくり、ついには手先が器用な明陽さんに組み立てて作ってもらってから遊ぶようになっていた。プラモデルってそうやって遊ぶんだっけ? 家庭科の宿題で作っていた手芸はまるで呪いの人形のようで、夜中に独りでに動き出すんじゃないかと密かに疑っていたのは秘密だ。


 髪はお団子にしててっぺんに髪飾りをつける。サイドに垂らした髪は今日はくるくると巻いてある。普段こんな髪型をしないから新鮮だ。角度を変えながら鏡を覗きこんでしまう。


「それじゃ、神社にお参りに行こうか。なっちゃんは本当にお留守番でいいの? なんなら夕食は外食でも……」


 お母さんが気遣わしげにお兄ちゃんを見る。


「料理を作るのは良い息抜きになるから大丈夫だよ。夕理さんもその格好じゃ、折角のレストランであまり食べられないだろうし」


「あまり無理はしないでね。帰ったら俺も手伝うよ」


「自分の裁量で色々やりたいから手伝いは不要です。ありがとう」


 お兄ちゃん意外と協調性皆無だもんね。お兄ちゃんが作ってくれる夕食を楽しみにしながら、近所の神社まで歩いてむかう。

 今日は日曜日だから、お参りに来ている人も多くて、晴れ着姿の女の子や男の子を見れて眼福だ。お賽銭をお賽銭箱に入れて、鐘を鳴らして祈る。

 その後は、社殿の中に入って神主さんに祝詞をあげてもらう。人のお家に上がらせてもらうのは緊張するね。ところで、この神社の神様は私を見た瞬間、高速で頭を下げて消えちゃったんだけど、私はそんなに怖いのかな。しつけが出来た良い子だよ?


 折角来たので広い境内を見てまわる。たい焼き屋さんやくじ引き屋さん、フルーツ飴屋さんなど参道には屋台が立ち並んでいる。ハムエッグ味のたい焼きを買ってもらってご機嫌だ。美味しい。境内の木々も紅葉が進んでいて、緑からオレンジへ、そして赤や黄色に移り変わるグラデーションがなんとも美しい。紅葉(もみじ)の錦絵だ。日の光を浴びて大イチョウの葉が金色に煌めいている。

 思わず足をとめて見上げていると、もっと近くで見えるようにかお父さんにひょいと抱き上げられる。視界が黄色で埋め尽くされて、感嘆の吐息を溢す。綺麗だなー。


「お父さんの瞳も秋を閉じ込めたみたいで綺麗ねー」


 不思議と周りに人が居ないため、お父さんの瞳の色が茶色から本来の色に戻っている。目の前には赤みを帯びた美しい金色の瞳が見える。秋の日に照らし出された紅葉した葉の美しさを、そのまま閉じ込めたみたいだ。


「夕理さんの瞳の方が綺麗だよ」


 まぶたにキスをされて嬉しくてキャッキャッと手を叩いていると、お守りやお神酒を見ていたお母さんが「あっちで千歳飴配ってるよー‼」とニコニコしながら教えてくれた。なんだと。私はお父さんの腕から飛び降りると、千歳飴をゲットするため走り出した。


 そして、無事に鶴と亀の絵が描かれた袋に入った千歳飴を手に入れたのだが、千歳飴って、魔法で固めたらチャンバラごっこに使えそうな形状しているよね。


 両親と手を繋いで帰ろうとしたが、そこで私の作り出した神域に侵入者が来た気配を覚える。


「ちょっと皆にも着物見せて来るねー」


 両親の驚く声を無視して手を振りほどき、神域の中に潜り込んだ。

 夜の闇が辺りを支配する。






 




 私の治める神域は常に夜だ。朝は永遠に来ない。

 東屋と日本家屋が点在する森を追いたてられるように歩いていく。月も星もない、黒い幕を張り付けたような夜空が天上を覆うが、小走りで移動することに困難はない。地上が明るいからだ。森の木々は常に赤や紫、水色に緑と色を変えながら光輝き、足元に生える可愛らしいキノコが小道を照らし出す。地上に刺さった巨岩には、光の花や蝶が舞い、毎秒季節が移り変っていき日本の四季の美しい風景を映し出す。


 侵入者は何処だ。私の神域の守り手と会ってしまったら大変だ。そこで、金属が打ち合うような音が聞こえてきて、音の方向に向かって走り出す。神域の防衛を任せている兵馬俑の一体が、槍を構えて銀髪の男に襲いかかろうとするのを目の当たりにして、私は紅白の千歳飴に硬化魔法を施すと戦いの真ん中に割って入った。

 兵馬俑の槍を受け止め、もう片方で応戦しようとした男の剣を受け止める。


 ふ、7歳にして二刀流を習得してしまったぜ。自分の才能が怖い。


「夕理様! どうしてここに」


「危険です! お下がりください」


 兵馬俑の言葉は曖昧に微笑んでから、男に向き直る。顔を見て絶句する。その途端、霧が晴れたように封じられた記憶が戻ってくる。彼は、れ以上応戦する気はないようで、あの日見た北斗七星が刻まれた剣を手から消した。


「この方は私の大切な人です。傷つけてはなりません」


「ややっ。そうであったか。それは失礼仕り申した」


 兵馬俑が跪いて首を垂れる。


「いや、禁足地に勝手に入った俺も悪い。申し訳ありませんでした」


 兵馬俑が私の即席武器である千歳飴が甘いお菓子だという事を知って、羨ましそうに見て来たため魔法を解いて全部あげれば、嬉しそうに両手で持って舐め始めた。剣とか受け止めているんだけどいいのかな。

 とりあえず座りましょうか、と新たにベンチを作り出して座るように勧めてみる。


「久しぶりですね。天使様」


「やっぱり思い出してしまったんだね。まずいな。でも、夕理ちゃんも元気そうで良かった」


 私と再会して嫌そうな雰囲気が無いことに安堵する。


「ここは、夢の世界のように美しい場所だな」


 誉められて内心照れる。神域は、神様がそれぞれ持っている私的な空間で、力が強い者ほど広い空間を支配している。それぞれ持ち主の個性や能力が反映されるので、似た光景はあっても1つとして同じ場所はない。


「あの、ここは何処なんだ? 俺は街の中を歩いていたはずなんだが」


 たまに神域に迷いこんでしまう人がいるのだと噂に聞いて知っていたが、まさか本当にあるなんて。危うく天使様を神隠ししてしまうところだった。


「私の神域です。大丈夫、主である私なら元の場所に返すことが出来ますから。安心してください」


「神域……?」


 不思議そうに言葉を繰り返した後に、天使様は瞳を大きくする。


「では、貴方はこの国の名のある神なのか。これは、大変なご無礼を」


「いえ、神の血を引いているだけなので敬って頂く必要はありませんよ。天使様」


「俺は天使じゃない」


「では、氷雨(ひさめ)様とお呼びしましょうか」


 なんで、その名前を。と驚いていたがやっぱり壱春さんが言っていた人は彼で間違いないらしい。


「俺の名を呼ぶのは貴方が危ない」


「では、今まで通り天使様で」


「なんでそうなる。そもそも俺の方が貴方に対して丁寧な口を聞くべきなんだよね」


「そんな寂しいことしないでください」


 うつむけば慰めるように頭を撫でられた。折角整えた髪型が乱れないように配慮してくれるのが嬉しい。

 天使様の夜空を写し取ったような綺麗な瞳を眺めてふと気づく。どこか陰りがあるような。


「何かありましたか?」


「え? いや、なんでもないよ。ごめんね」


 誤魔化すような笑みはいらない。でも、ただの子どもに相談しても無意味だという気持ちも分かる。なら、子どもの私には癒すくらいしか出来ない。彼の両手を掴んで私の頬に持っていく。


「もちもち屋さんですよー。貴方にふわふわあったかな癒しをお届けでーす」


 お母さんやお父さんは勿論、冬歌さんや近所の人も疲れたときは私の頬を揉んで癒されているのだから、天使様もきっと大丈夫なはず!


「もちもち」


 しばらく私の頬をふにふに触っていたが、急にがばりと暖かい両腕に抱きしめられてしまう。不快ではなかったから大人しくしておく。むしろ心地いい。


「すまない。大人なのに甘えてしまった。気を使わせたようで悪かったね」


 我に返ったようで、恥ずかしそうにしながら謝ってくる。謝罪の言葉は聞きたくなくて私は首を振った。


「今日の格好は素敵だね。日本の伝統衣装なのかな」


「七五三のお祝いなので綺麗な格好してるんです。天使様に会えて良かった」


 褒めて、とばかりに天使様の前に立って着物を見せびらかせばふんわりとした笑みを浮かべる。


「いつもはチャーミングで素敵だけど、そちらの装いは大人びていて綺麗だね。そちらも大変良くお似合いです」


 思った以上にストレートに誉められてびっくりしてしまう。顔が熱い。きっと頬は紅葉に負けないくらい真っ赤に染まってしまっている。心臓がドキドキ高鳴り、とても体によくないのにどうしようもなく嬉しい。その理由を、今は知りたくなかった。


 本当は、色とりどりに光る鯉が泳ぐ池に小舟を浮かべて遊ぶことも考えたけど、それよりベンチに座っておしゃべりする方が何倍も楽しそうだ。

 しばらく話をしたあと、遅くなっては大変と天使様を元の場所に送る。もう会わない方がいいと思っているみたいだけど、私は会いたいから会いに行こう。

 ところで、天使様はなんでギリシャの小島に居たんだろう。今は観光のオフシーズンだと思うんだけと。





 神域から家の玄関に出て、「ただいまー」と声をかければ待ち構えていたお母さんに部屋に連れて行かれ、着物を脱がされてスミレ色のワンピースに着替えさせられる。


「皆はゆーちゃんの着物姿なんて言ってた?」


「素敵って、よく似合ってるって言ってくれたよ!」


「うんうん、それは良かったねー」


 リビングに入れば食事の準備が出来ていた。美味しそうな香りにお腹がグーと鳴ってしまう。それをお兄ちゃんに笑われてなんだがとっても恥ずかしかったから、足を踏んでやった。


 手を洗って席につき、いただきますをする。


 玉子焼きやレタス、シーチキンにカニカマ、鮭やまぐろ、ハマチなど豪華な具材が手巻きずしの具になるのを今か今かと待っている。好きな具材を巻いて食べれば、お口が素敵なハーモニーを奏で出す。

 三つ葉やウズラの卵、しいたけが入った和風な味付けのミートローフもとても美味しい。汁物も欲しかったのでかき玉汁は大変有難い。体があったまる。


 美味しいご飯、今度は天使様と食べたいな。次はいつ会えるだろうか。


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