恋するポッキーゲーム
時系列がいつなのか不明な完全にお遊びなお話しです。
ポッキー&プリッツの日にちなみましたがプリッツは出てきません。プリッツよ、すまない。
【夕理さんと天使様の場合】
小学校からの帰り道、お菓子が食べたいなーとふらふらと通り沿いのお店に立ち寄ってみる。商品を物色していくなかで目立つ赤いパッケージに足を止める。今日の日付を思い出して、天啓を受けたかのように箱を手に取った。そうだ、家族の分も買っていこう。お小遣いでお菓子を買って、ほくほくとした気分で家に帰った。
リビングのテーブルにお菓子の箱を置き、付箋にメッセージを書いて貼り付けておいた。今日は私が一番に帰ったんだなーと思いながら、部屋にランドセルを置いて、お菓子の箱一つを手にもって家を出る。そんなに遅くなるつもりはないから、夕方に出かけても大丈夫だろう。
私は一人の人物を脳内に描きながら、ルンルン気分でその人がいる場所へ向かった。
「天使様ー、こんにちは!」
腰まで伸びた真っ直ぐな長い銀髪をした、本日も大層麗しい天使様に私は元気に挨拶した。
「だから俺は天使じゃないよ。こんな遅くに来ては危ないだろう」
眉をひそめられて若干怯む。11月に入って大分日は短くなってはいるけど、まだ17時前なのだからギリギリ大丈夫じゃないかな。それに、いざとなれば反撃の手段はいくらでもあるから、危ないのは不審者の方なんだけど。
「ごめんなさい。……あのね、11月11日はポッキー&プリッツの日だから一緒にお菓子を食べたかったのです。食べたらすぐ帰りますよ」
「別に、怒った訳じゃ。帰りは家まで送る」
「いいですよー。わざわざ悪いですし」
「家まで送る」
いいのかな、と思うものの家まで一緒に帰れてお話しできるのは素直に嬉しい。
「それで? 今日はその菓子を食べる日なのか?」
天使様の目線が私の手元のポッキーに移る。私はニンマリ笑って赤い箱を開けて、ポッキーの袋を取り出す。
「このお菓子を使ったゲームもあるんですよ! やってみませんか?」
ポッキーゲームのルールは簡単。二人が向かい合って端からポッキーを食べていき、先に口を離してしまった人が負けである。
ルールを説明してポッキーを口に咥えて、わくわくしながら天使様の方を見上げる。苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、やがて諦めたようにため息を吐くと、反対側のポッキーの端を咥えてくれた。
わ、近い。
至近距離で見ても歪みなど見つからない、神が精巧に作り上げた人形のような美貌がよく観察できる。ゲームで遊んでもらいながら構って貰えればいいなと思って提案したが、これは良い誤算だ。
雪のような長い銀の睫毛が伏せられ、白磁のような肌に影が落ちる。距離が近づくに連れて、彼のまとうフローラルな香りが強くなり、思考が霞みがかってくる。
私はポッキーを食べるのも忘れて天使様の顔を一心に見つめてしまう。ポッキーを食んで飲み込む、その魅惑的な淡い桜色の薄い唇の動きに、何故だか視線が向いてしまう。
もうすぐ唇が重なってしまうという、その近さで天使様の動きが止まり、小さな音が響き彼が離れていく。
「これは、俺の負けかな」
唇をぺろりと舐め、力の抜けた笑い顔を浮かべてすぐ、此方を心配そうに見つめてくる。何でそんな表情に?
「どうかしたのかな?」
私が固まったままなのがいけなかったのだろう。でも、あんなに近くで見たら。
「あぁ、やはりいつ見ても綺麗ですね」
背中に腕を回してこちらにぐっと引き寄せ、私が一番好きな藍色の地に金色が散った星空の瞳を覗きこむ。頬に手を当てて無意識に指でなぞりながら、灯りに煌めく瞳の色をうっとり見つめて、堪能していたのだが。
「す、すまない。もうそろそろ勘弁してくれないか」
頬を赤く染め、ぷるぷる震える姿に慌てて飛び退き、後ろで腕を組み良い子の顔の仮面を被る。天使様は天を仰いで目元を手で覆っていた。意外と照れ屋なんだよね。
天使様が落ち着いたところで残りのポッキーを勧めて、一緒にポッキーを食べて楽しい時間を過ごすことが出来たのでした。天使様もポッキー気に入ってくれたみたいだし、次遊びに行く時はオーソドックスなチョコ味だけでなく、イチゴ味のポッキーも持って行こうかな。
結論→天使様の顔が圧倒的に良い
【薺君と明陽さんの場合】
高校から帰宅すると、リビングにポッキーの箱が置いてあるのを見つけた。可愛らしいウサギの形の付箋には『ポッキーゲームにお使いください』と書いてある。この字は夕理さんだな。
箱の存在は無視して、着替えるために自分の部屋に向かえば、我が物顔でベッドに寝そべり、クッションを抱き込んで携帯ゲーム機で遊んでいるあーちゃんがいた。
いや、何故いる!?
「おかえり、薺さん」
「あぁ、ただいま」
まあ、来ているのを追い返すのもアレなので椅子にカバンを置いて、紺色のブレザーを脱ぎ、ネクタイをほどいてシャツのボタンを外していく。そこで、朝、布団の上に放っておいた部屋着のトレーナーが投げて寄越されるので、片手でキャッチする。着替えながら今日の夕飯は何を作ろうか考えていると、ゲームで遊びながらあーちゃんが話しかけてきた。
「ねー、下でポッキーもらって来たからポッキーゲームしてみない?」
「お前それ本気で言っているのか」
思わずトレーナーを着ようとした状態で動きを止めてしまう。気を取り直して、頭から服を被って着てからあーちゃんに向き直る。彼は至極真面目な顔だ。あーちゃんは異世界の神だから、ゲームの内容分かっているのか怪しいな。
「ゲームのルール知ってるの?」
「どっちが早くポッキーを食べられるかじゃないの?」
案の定。やっぱりか。これ見よがしに盛大なため息を吐いてやれば、彼が目に見えて焦り出す。
「あ、あれ? 違うの? じゃあどっちが多く食べられるか、とか?」
首をふり、ルールを説明してやれば彼がぽすんと枕に顔を埋めて沈没してしまう。男同士でやるようなゲームではないことがお察し頂けたのだろう。ベッドの淵に腰かけて、あーちゃんの手からポッキーの箱を奪い、袋を開ける。
「薺さんは誰かとしたことがあるの?」
低い声での質問に首を傾げながら、あると答える。
去年のポッキー&プリッツの日に友達同士のノリで購買でポッキーを買って、放課後遊んでみたのだが、余りの絵面の寒さにそうそうに正気に戻り、クラスの女子も交えたただのポッキーとプリッツ食べ比べパーティーになったのだ。
女の子同士なら可愛くて和むが、男同士とは。あの時はどうかしていたとしか思えない。
ポッキーを袋から取り出し、咥えたところでいきなり起きあがったあーちゃんに手を捕まれ、そのまま反対側のポッキーを齧られる。いや、俺は袋の中身全部食べるつもりなんてなかったから、わざわざ俺の食べかけを食べなくても貴方の分はあるよ。
「僕がいくらでも相手をするから、僕とだけ遊んでよ」
切なく響く掠れた囁き声に、俺はただ真剣な色を帯びる青藍の瞳を見つめることしか出来ない。残りのポッキーを噛んで飲み込んでから答える。
「金輪際誰ともポッキーゲームするつもりないんだけど」
「あぁ、そうか。このゲーム好きじゃないんだね。ごめん」
分かればよろしい。もう1本取り出したポッキーを食べながら、寒くなってきたから今日はおでんにしようかな、と脳内で献立を立てるのであった。
結論→明陽さんが嫉妬する
【柚月さんとリュイさんの場合】
仕事から家に戻り、なっちゃんお手製のおでんを堪能して、満足した気分でお風呂に向かい髪を拭きながらリビングに戻った。リュイさんはソファーに座って珍しくテレビを見ている。子ども達は自分の部屋に戻ったのかな。
エファさんが家に来ていただけでなく、なっちゃんが作った料理まで食べて帰って行ったことに機嫌を悪くしていたが、今は大分落ち着きを取り戻したようだ。良いことだ。
ぼすん、と隣に座ったところで、いつの間に用意したのかリュイさんがポッキーを咥えてこちらを見てくる。
君、そんな俗なゲームの存在を知っていたのか、と期待の籠ったまなざしを受けながら思う。でもなー、ゲームしてもしなくても最後の結末は変わらないと思うんだけど。
「んむぅっ!?」
ポッキーを彼の口から取って、ちゅうっと赤い唇に口付ける。唇に軽く歯を立てて噛みつけば、薄く口を開けてくれるのでぬるりと舌を滑りこませた。舌を絡め合ったり吸ったりして、満足して唇を離せば銀の糸が伸びる。
うーむ、子ども達には絶対見せられないな、この顔。トロンとした赤い瞳に目線を合わせて、ポッキーを一口口に含んで飲み込む。
あぁ、可愛い。食べてしまいたい。明日が休みだったらな~。それが悔しい。
「ごちそうさま、美味しかったよ」
「それは、良かった」
肩で息をしているリュイさんをにっこり笑って見ながら、口元にポッキーを持って行けば、彼は口を開いてポッキーを一口かじった。
結論→ポッキーゲーム(亜種)
次のお話しは、夕理さんの七五三の時のお話を予定しています。




