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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第1章 異世界旅日記編
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異世界版はじめてのおつかい

「よく当たる、占いが出来る知りあいがいるのです」


 メールの相手はそんな占い師からだったらしい。


 フユカさんは言葉を探すように、口を開いたり閉じたりしていたが、やがて言いにくそうに話しだした。


「リュイの手首を切り落としたのは、おそらくは金蘭の皇帝に代々伝わる宝剣だそうです。退魔の力を宿したその剣によって負った傷は治りませんし、切られた人の魔力を封じてしまう能力があるそうです。あの男は、ただの魔術師ではないのかもしれませんね」


 怪我が治らないって、下手をすれば出血多量で死んでしまうのでは!?


「じゃあ、リュイさんは怪我をしたままという事ですか。大変だ、探さないと。でも、怪我を治すことは出来ないのですよね? どうしよう」


「一つだけ方法があります。今在るこの世界を創りだした創造神を祀る神域があります。そこは特殊な結界で守られているため、選ばれた者しか入れませんが、佐藤さんならただの猫ですし、結界から弾かれない可能性が高いです。その神域の奥には、どんな傷も癒す魔法を秘めた宝石があるのです」


 リュイさんの怪我を治すためには、魔物ではないただの猫な私が聖域に行き、癒しの力を宿した宝石を回収するしかない。



 異世界版はじめてのおつかいは、中々にファンタジーな内容だ。結界に弾かれないことを祈るしかない。


 大丈夫、今の私は可愛い猫だ。愛嬌には自信がある。


「分かりました。なら、早く神域に行きましょう」


「早く神域に行きたいのですが、あの場所って世界中をあちこち動き回るので見つけるのが大変なのですよね。今、キャロが、例の占い師が場所を探ってくれていますから、歯がゆいですが彼女からの連絡を待ちましょう」


 神域が移動するとかさすが異世界。リュイさんは大丈夫かなと、にわかに湧き上がって来た心配と焦燥感で、食べたカレーを吐き出してしまいそうだ。


「まぁ、夜に神域を訪れるのはマナー違反でもありますから、創造神の心証を悪くしないためにも良かったかもしれませんね」


 緑の瞳に心配の色を宿したフユカさんは、私をそっと膝に載せた。心ここにあらずと言った雰囲気でひたすらに私の毛並を撫でている。

 少しでも私の存在が慰めになればいいと、私は彼女が満足するまで、膝から動くことはなかった。









 早朝。やっと朝日が昇り始めたうす青い世界の中を、私はフユカさんの背に乗って飛んでいた。



 キャロさんは無事に神域の場所を掴んでくれたのだ。シャングリラからそこまで離れた場所ではなくて良かったぜ。


「気を付けてくださいね」


「大丈夫。危ない事はしませんから」


 私は花柄のリュックに、フユカさんから受け取った水筒と昼食のサンドイッチを入れて、意気揚々と聖域に向かって駆け出した。


 只の猫はやはり排除の対象では無かったようであっさりと神域には入れた。



 無数のレンガ造りの塔が草木に埋もれ、残っている神域に私はそっと足を踏み入れた。お邪魔します。

 よく見れば、遺跡の所々には女神の彫刻や石像の彫像が建っていた。どの顔も微笑んでいて見ていると有難い気分になる。


 遠くを見れば、寒いからか白い蒸気のような煙が木々から吐き出され、それが石像たちの背後で形を変えながら動いていた。神様の表情も、煙の濃淡のためか少しずつ変化しているように思える。



 レンガで組まれた宮殿の様な建物や、綺麗に咲いた花々を堪能しつつ歩くが、一向に罠らしきものはない。


 神域に咲く、白い可憐な花を咲かせた(ぎん)木犀(もくせい)のいい匂いに自然と口角が上がる。私の家にも金木犀と一緒に咲いていたっけ。懐かしい。微かに残る優しい香りが飼い主さんを思い出させる。熱は出ていないかな。怪我は大丈夫ですか。早く、会いたいな。



 この場所で一番高い塔へと入り、草が生い茂りさらさらと風に揺れる朽ちた石段を登っていく。すると、通せんぼをするように巨大な白い亀が現れた。




「我はチャーミー。この聖域を守る者。ここを通りたければ我の問いに答えよ」


 え、まさかの知力が試される感じ? 名前はこの国の言葉で花を意味する可愛らしいもののためか、彼女は頭に花飾りを付けていて何とも可憐だ。


「朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足で歩き、声は一つで最も足が多い時に最も弱い者は何か?」


 何か聞いたことがある問題だな。主にギリシャな神話に出て来る、スフィンクスなお姉さんが出してくる問題だったはず。


「答えは人間ですね」


 若干、カンニングをしてしまったような気分になるが、内心を悟られぬよう涼しい顔をキープして答える。


「正解だ。どうぞここを通るがいい」


 意外とあっさりチャーミーさんは空気に溶けるように消え去った。

 私は何もない空間にお辞儀をし、石段を登っていく。建物の頂上は見晴らしが良く、遠くには緑が深い森が広がっているのが見える。

 でも、お宝が入ってそうな箱は見えないな。腹は減っては戦は出来ぬ、と私はお弁当を広げた。



 具材がたっぷり入ったサンドイッチが2個とデザートの苺が入っている。スモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチは、挟まれたたっぷりのレタスとニンジングラッセの甘さに、スモークサーモンの塩気とチーズのまろやかさが、絶妙なハーモニーを奏でてとても美味しい。口開かないってくらいに具材たっぷりで大きいが満足感がすごい。お次はローストビーフがたっぷり入ったサンドイッチ、と意気揚々と手を伸ばしたところで視線を感じて顔を上げる。




 虹色の翼を持つ威風堂々とした黄金の獅子が、こちらをじっと見つめていた。



 ライオンが現れた、どうする? 

 ▶たたかう

 にげる

 はなしかける

 アイテム(おべんとう)をつかう


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