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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第3章 親族会議編
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番外編③ 三月は赤い珊瑚の守りを   前編

 黒い獅子が、月明かりに照らし出された森の中を駆け抜けて行く。お化けが手を広げているかの様に見える黒い木々の間をすり抜け、巨大な岩が天に向けてそびえ立つ奇岩地帯に出る。そこで獅子は足を止めると、何かを探すように岩に視線を向ける。ふと、何かを見つけた様に視線が固定された。

 次の瞬間、銃から放たれた弾丸のように駆け出し一気に跳躍して、岩をかけ上がって行く。

 人には到底たどり着けない、険しい岩場の頂上にひっそりと咲く一輪の花。そね花の前で足を止めた獅子は存在を確かめるように花に顔を寄せた。その花は月明かりに照らし出されて、七色の光を放ちこの世のものとは思えぬ美しさだ。


「やっと見つけた」


 獅子は、夜の化身とも言える美しい男に姿を変えると、そっと花を摘み取った。枯れないように魔法をかけると、丁寧にハンカチに花を包んでカバンにしまう。


「どうせなら、これもあげよう」


 独り呟くと、カバンから鋭い銀色のナイフを取り出し、腕を捲って躊躇いなく白い肌にナイフを滑らせた。













 こんにちは。皆様、如何お過ごしでしょうか。どうも、佐藤です。運命神と最高神と戦う夏休みwith未来の息子というとんでもない事件から一年半が経ちました。私も明日には20歳の誕生日を迎えます。これでようやくリュイさんと一緒にお酒が楽しめるから嬉しい。


 ここ最近の変化と言えば、正式によっちゃんとの婚約は解消してリュイさんが私の婚約者になったり、前世はリュイさん達のお母様であるリーナ様が事件の後に訪ねて来られて、流星刀と星祭りのさいに頂いたルビーの剣を習合して、パワーアップした家宝を作り出したり、(薺くんが持っていた赤や青の星が煌めく宇宙そのものの様な剣の正体はこれだったのか)佳乃子さんがユグドラシルで結婚式を挙げて、つい先日女の子を妊娠しているのが発覚して、大学を休学することになったくらいだ。予定日は9月らしい。なお、この女の子の父親はブーリさんだ。さすが、愛の神だけあって手が早い。やり手だ。


 ま、それくらいの変化で別段平和に時は過ぎている。そして、私はただいま大学が春休みと言うこともあり、リュイさんと二人っきりで旅行に行く準備をしている真っ最中だ。明日からの旅行は、行き先は秘密のミステリーツアーである。ただ、ドレス用のワンピースを1着準備する事と言われた。なお、パスポートは不要だそうなので、場所は海外ではないということは分かる。


  ドレスは、まあ、私に対する彼の溺愛ぶりを考えたら20の誕生日なんてそれこそ神の威信にかけて祝ってくるだろうから、想定の範囲内だ。やっぱり胃薬も荷物に入れておこう。












  翌日。天気は快晴。私はリュイさんと一緒に博多港へとやって来た。


「えっと、船に乗るんですか?」


「変な所には連れていかないから。この時期に行くならいい場所見つけたんだ」


  もらった乗船券に書かれた地名を元にスマホで調べて見れば、神道発祥の地とも言われる神の島ともされる場所だった。とはいえ、観光に行くのは別に問題ない。観光のハイシーズンは夏らしくクリアブルーの綺麗な海で海水浴を楽しむのがお決まりのコースのようだ。とはいえ、春の今は神社を巡るツアーかな。

  赤い色が若干派手めな高速船で1時間。緑豊かな島に私は降り立った。


「まずはホテルに荷物を置こうか」


  タクシーで連れて行かれたホテルもまた豪華だった。白亜の一見すると宮殿のようにも見える。ホテルの裏にはプライベートビーチもある。これ、リゾートホテルだよね。チェックインを済ませて入った部屋もオーシャンビューでとても広々としていた。ベッドふかふかだー。


 ホテルの周辺には、縄文時代の遺跡があった。海を見下ろす丘の上に広がる、再現されたかつての村の建物や博物館を見学すれば時刻はすっかり夕方になった。


「夕食はドレスコードがあるんだよね」


  ホテルに戻るとリュイさんはさらりと言った。そんな格式のあるホテル初めて泊まるわ。と、言うわけで私も用意していたリトルブラックドレスに着替える。首もとにはお母さんから借りてきた一粒パールのネックレスをつける。そして、ま、こんな時にしかつけられないから、前にリュイさんが私にプロポーズしてくれた時にくれた黄金の葉の髪飾りをつけて完成。普段こんな格好をしないから、鏡の前でおかしくはないかチェックするが何だか不思議な気分だ。


  先に着替えて部屋の前で待っていてくれていたリュイさんのところに向かう。


「お待たせしました」


「いいえ。普段から柚月さんは綺麗だけと今日はとりわけ美しいね。よく似合ってる。その髪飾りも着けてくれるなんて嬉しいな」


  そうは言うが正直花のような笑みを浮かべて答える、フォーマルスーツを着たリュイさんの美しさこそ目がつぶれるようだ。天が威信をかけて造り上げた至高の芸術品。完全に私は彼の添え物ですね。分かります。

 そんなことを今更気にするようでは彼の婚約者などやってはいけないので、私はにこりと微笑み彼の腕に自分の腕を絡めた。








 夕食の会場となるホテルの最上階は、シャンデリアが煌めく豪華な空間だった。ピアノの生演奏が心地よく響く。会場に入れば、それまで和やかに談笑する声が響いていたのに、一気に静まりかえってしまう。男女関係なく視線がリュイさんに向かう。人間には到底手には入らない永遠に眺めていたいような美貌の主が現れたらそれは見たくなるよね、と納得してしまう。

 しかし、リュイさんは私が見られていると勘違いしたのか、一瞬眉を潜めると私を庇うように前に出た。


 いや、私なんて誰も見ないからね。


 食べる動きまで皆さん止まっている。こんな事を気にしていたら彼と出かけられないので、リュイさんが引いてくれた椅子に座る。彼が座ったところで魔法が解けたように皆さんが動きだした。お騒がせしてすみません。


  このホテルは、専属のパティシエが振る舞うスイーツも売りのひとつらしい。本日めでたく誕生日を迎えた私は、フルコースのディナーを楽しんだ後にホールのチョコレートケーキでお祝いされた。


「左手を出して」


 そっと手を出すと優しく手をとられて、薬指にするりと指輪がはめられる。前に夜こっそりとリュイさんが私の指のサイズを紐を使って測っていたけど、ここでか。

   血のように濃い赤い珊瑚を囲うように周りをダイヤモンドが取り囲んでいる。なんて綺麗なんだ。珊瑚を使っているのは私の誕生石だからかな。一目で分かる高級品だ。


「お誕生日おめでとう。生まれてきて、私と出会ってくれてありがとう」


 彼があまりにも儚く綺麗に笑うから息が止まる。固まった私を見てリュイさんが眉尻を下げ、申し訳なさそうな顔をする。


「気に入らない? 貴方の好みの宝石を聞いて選べば良かったな。今からでも変えて」


「とても気に入りました! ありがとうございます! もう返しませんから」


  私は素早く拳を握って、指輪を取り返されないように膝に手を置いて深々と頭を下げる。えへへ、嬉しい贈り物を頂いてしまったな。


  でもって、誕生日ケーキである。薔薇の花と可愛らしいピンクのマカロン、華やかな飴細工で飾られたケーキは、それひとつが芸術品のようだ。スタッフの方が切り分けてくれたケーキもなかなかに美味しいが、私には少し甘すぎるかもしれない。


  甘いもの大好きなリュイさんは、周囲に花でも飛んでいるような幻覚が見えそうな幸せそうな笑みを浮かべてケーキを食べていた。


「可愛いな」


  あ、思わず感想が口をついて出た。


「ふふ、お花で飾ってあるなんてこのケーキ可愛いよね。あー、美味しい」 


  か   わ   い   い   の   は   お   前   だ   !


  そう叫びたいのを何とか堪えて、私は自分の分のケーキを頬張った。










 翌日。今日の予定は海上クルーズと神社巡りということで、私は朝から張り切っていた。花の刺繍が施されたブラウスに桜色のカーディガンを羽織り、膝丈のスカートを着る。髪はどうしようか。ドレッサーの前にすわり、髪を丁寧に梳きながら考える。

 1年前から伸ばし初めた髪は今では肩よりも長くなっている。オレンジデーの時にもらったリボンで、ハーフアップにでもしようかな。


「俺がヘアアレンジしてみてもいい?」


 遠慮がちにかかる声に勢いよく振り返る。え、出来るの? 好奇心を刺激されて全力でこくこく頷く。私からリボンを受けとると丁寧な手つきで、私の髪にリボンを編み込んで三つあみにしていく。迷いなくあっという間に綺麗に仕上がった。本当に何でも出来るんだな。三つあみの根元部分に美しい虹色の花を飾って完成。


「ありがとう。この花はどうしたんですか?」


「綺麗だったから貴方にあげたくて摘んできた。枯れないように魔法がかかっているから、ずっと楽しめるよ」


「ありがとうございます! 嬉しいです」


 やべー、また贈り物が増えたぞ。二人の記念日の時のプレゼントは奮発して返そう。家庭教師のバイトを頑張らねば。


 ご機嫌に鼻唄を歌いながら準備を整え、手を繋いで外に出たはいいが、黒い影がいきなり飛びかかってきた。空の彼方に飛んで行く影の手には虹色の花がある。思わず頭を触るが一向に花に触れない。


 ど、泥棒だー‼

後編は近いうちに投稿します。

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