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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第3章 親族会議編
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真夏の最終戦争

軽くBL要素が香ります。苦手な方はご注意ください。どうしてこうなった。

 眼鏡を外してポケットにしまった薺くんの瞳は、緑を帯びた金に染まっていた。寒気を覚えるほどの美しい容姿に思わず息をのむ。孔雀石のブレスレットが何処か流星刀に似た刀剣にかわるが、黒い刀身には赤や青、金色の星紋が煌めいていて宇宙そのものを写し取ったようで綺麗だ。そのまま、エファさんの前に何の恐れも抱いていないかのように歩いていく。

 あれ、戦闘に慣れてないはずじゃ。大丈夫かとブーリさんを見るが涼しい顔だ。


「え? 誰? 危ないから離れて」


「大丈夫だから、任せてね」


 慈愛のこもった麗しい微笑み頂きました! どんな絶望的な状況でも超自然的な力でハッピーエンドに変えてしまうような、機械仕掛けの神のごとき安心感がある。


「悪いやつみーんな始末するから」


 笑みを浮かべて地面を蹴ると一瞬で魔物に肉薄し、手に握られていた剣で一気に切って倒す。


「まずは一匹」


 きゃー、薺さまー! と思わずペンライトを振って応援したくなるほど圧倒的な戦力だった。攻撃を避けて一振りで魔物を行動不能にしていく薺くんをサポートするように、ブーリさんが銃口を魔物に向けて撃っていく。君、拳銃使う系神様だったの。狙いを定めて引き金を引けば、音もなく魔物の姿が崩壊して灰になり、何処かから漏れて吹いた風に運ばれていく。えげつない。


「な、何故このようなただの人間の小僧にやられて。まさか、儂よりこんな者たちが上だというのか」


 驚愕を受けたような鏡餅に薺くんが呆れた目を一瞬向けた。しかし、すぐに宙返りして特攻してきた魔物を避けると、一刀両断で切り捨てた。こちらに向かって魔法攻撃してくる魔物もいたが、私達を守るように展開された水晶の盾に跳ね返され、自分の魔法で自滅していた。盾すげー。


 あっという間にこの場にいた魔物の群れはすべて倒された。


 なお、エファさんに至ってはちらちらと薺くんの方を見ると、赤く染まった両頬を手で覆い「素敵。王子様みたい……」と呟いていた。 


 いや、乙女か! 


 それにむっとしたようにリュイさんが頬を膨らませると「佐藤さんこそ世界の闇を照らす太陽だけど」と言ってのける。いや、対抗しなくていいから。今日の私何もしていないし。どうしよう、もう何処から突っ込んでいいのか分からなくなってきた。











「何で異世界から来たような奴に邪魔をされねば」


 遠い目をしていると、鏡餅からの怨嗟の声にハッとなる。氷のナイフがエファさんの胸元に向かって投げつけられる。動こうとしたところで、それより早く黒が視界をかすめる。魔王様が佳乃子さんに見せないようにその目を覆った。


「怪我してない?」


「それは、君でしょう。なんで庇って」


 深々と薺くんの背にナイフが突き刺さる。そのまま崩れ落ちた薺くんのからだを抱きかかえるようにして、一緒にエファさんが座り込む。


「貴方に死んでほしくなかったから」


 ごほっと咳き込むと大量の血が口から吐き出される。目的を達したナイフは溶けて、地面に水溜まりを作る。


「あーちゃんは、綺麗、だね。本当に、格好いい、、よ。あれ? なんでそんな、表情して、、いるの?」


 愛しくて堪らないというようにエファさんの頬をなぞる。え、お二人かなり親しいご関係なの⁉ 今、そんな話をしている場合じゃないよね!? 動こうとした身体をブーリさんに止められて、何故だとその顔を見れば無言で首を振られた。


「ねー、笑ってよ。そう、その顔大好きなんだー。あれ、何で隠しちゃうの? あー、好きだよ。可愛い。ずっと見ていたいな」


 砂糖を煮詰めた上に蜂蜜を大量に混ぜたどろどろに甘い声だ。こんな状況でなかったら居たたまれなかった。笑って、と言われたからか。エファさんは私でさえ息が止まりそうな、凄絶な美しい笑みを浮かべた。死に逝く者の最期の願いを叶える、神の慈愛あふれる表情。エファさんの心が泣いているように感じるのは、気のせいではないはずだ。まさか、光の神様に恋人がいたとは知らなかったな。

 エファさんの頬を撫でていた薺くんの手が落ちる。慌てたようにエファさんが呼びかけるが、反応がない。目蓋は固く閉じられたままで、顔色は紙のように白い。


「さて、今回はどれくらいかな」


 やけに呑気なブーリさんの言葉に反応はそれでいいのかと、ちょっと心の距離が開いた気がした。


「邪魔な虫が死んだか。そら、お前も追いたければ追え」


 鏡餅が巨大な虎を呼び出した。そのまま大きな口を開けて二人に迫るが、エファさんはぎゅっと薺さんを抱き締めるとその場を動こうとしない。まじか。今度こそ動こうとしたところで、聞き覚えのないドスのきいた声が響いた。


「てめー、何人の大事なもんに手を出しているんだ」


 薺くんの刀が独りでに動きだし、虎を切りつける。虎は怯んだように一歩下がった。待って。今の今まで死にそうだったよね、貴方!?


「ちょっとごめんね」


「あ、あの、大丈夫?」


 にっこり笑った薺くんだが、虎には正反対の冷たい目を向ける。庇うようにエファさんの前に出て戻ってきた星の剣を掴むと、ためらいなく一気に自分の首を剣で切り裂いた。次の瞬間、虎の首がすぱっと切られたように落ち、吹き出した血が薺さんを真っ赤に染め上げる。切ったはずの薺くんの首には傷一つない。

 血を浴びながらにたーと目が笑っていない笑顔を浮かべた薺くんは、鏡餅に向かって剣の切っ先を向ける。


「次はお前の番だ」


 いや、ホラーかな? そのまま一歩踏み出した薺くんをかわいらしい声が止めた。


「薺さん、ごめんなさいね。貴方の手を汚す価値もないような男よ。ここは私に任せて」


「え、メルさん?」


 現れた白猫は、その姿が陽炎のようにぶれ、大人の姿をとった。


「え、母さん?」


「雪歌、雪歌なのか! 会いたかった」


 背筋が凍るような赤みを帯びた金の瞳をした凄絶な美貌の主は、え、リュイさんのお母様!? 冥界から戻ってきたの!?


「私はちっとも会いたくなかったわ、この裏切り者!」


 飛びついてきた鏡餅に強烈なビンタをお見舞いすると、地面に落ちた鏡餅をぐりぐりと踏みつける。え、何が起こっているの。


「何、夜柚くんに不当な怒りぶつけているのよ! 私この子をお願いねって言ったわよね! それなのに、そこは母を失って泣くこの子を慰めるとこだろーが!! 何剣で切り付けとるんじゃ。お前が死ねばよかったんじゃ!」

 だんっと勢いつけて踏みつけると、次いで申し訳なさそうにこちらを見て雪歌さんはこちらに土下座した。


「本当にこんな夫を選んでしまってごめんなさいね。息子たちに申し訳が立たなさすぎる」


 プルプル震えて泣きながら何度も頭を下げる雪歌さんに、慌ててリュイさんとエファさんとブーリさんが駆け寄った。


「悪いのは、ああなった父親ですから。母上が責任を感じる必要はありませんよ」


「いや、俺が母さんを殺したのは客観的な事実だから仕方ない」


「仕方なくなんてないの。夜柚くんは私の大事な宝物よ。勿論、明陽くんも冬歌くんもね」


 そこで憎悪のこもった眼を再び鏡餅に向けると思いっきり蹴り上げた。わー、鏡餅がボールのようだ。


「なに子供たちの命までねらってるのよ。お前なんて大嫌いだ。もう二度と近づかないで!」


「あの、雪歌さんはメルさんだったんですか?」


 落ち着いてもらおうと質問を挟んでみる。


「え、あー、メルは私の転生した姿なのです。ちなみに、猫の姿は仮の姿で今の名前はエヴェリーナと言います。今まで記憶が曖昧で前世の姿にもなれなかったけど、運命神の持つ魔力が弱まったことで、こうして記憶と力を取り戻したの」


 まさかの正体。え、メルさんがリーナ様でそれで前世がリュイさん達のお母様。何かこんがらがってきた。鏡餅をお空の彼方に放った後私たちはピラミッドの外に出た。


「これ、あのバカの名義のカードだからお詫びになるか分からないけど、好きなもの買ってください」


 何故かブラックカードを雪歌さんに渡された。この世界にもあるんだ。











「この姿では初めてですね。佐藤さん、星宮さん。私はこの子たちの母親である雪歌(せつか)といいます。疲れている所を申し訳ないのだけれど、あと少しだけお話しさせてくださいね」


「よ、よろしくお願いします」


 二人で綺麗に頭を下げる。お母様が何の御用だろう。


「お二人にはあちらの事情に巻き込んでしまって本当にごめんなさいね。でも、最善の選択を常にしてくれたこと本当に感謝しています」


 向こうの世界で得た私が歌を歌うことでのぞむ効果が引き出せるという謎の能力は雪歌さんの加護によるものだったらしい。こちらの安全のためにせめてものと力を振り絞ったが、一度死んでいる身なのでこれ以上の手助けができなかったと謝られてしまい慌てて首を振る。あんなチート能力くれるとはさすがあのチートしかいない三兄弟のお母様だ。そう言えば雪歌さんは芸術の神だから音楽を基にする能力だったのかな。


「貴方たちには迷惑ばかりかけている身で申し訳ないのですが、一つだけお願いがあるのです」


 凛とした綺麗な赤い目がこちらを射抜く。自然と背筋が伸びた。


「どうか、冬歌くんと夜柚くんの傍に出来るだけいてあげて。ほら、あの子たちは色々と特殊だから貴方たちも嫌な思いはするかもしれないけど。それに、普通の幸せは望めないかもしれない。でもそれでも、愛を嫌っていたあの子たちが、初めて心から好きになったのが星宮さんと佐藤さんなのです。だから、お願い」


 そんな事言われるまでもない。


「人生の課題で愛の課題ほど個人の幸福に緊密に結びついたものはないBy佐藤!」


「いやそれ、アルフレッド・アドラーの名言! 大丈夫ですよ、雪歌様。私に人を愛することがどんなに楽しいか教えてくれた冬歌くんのことは全力で守るし、彼に嫌だといわれるまで別れるつもりはありませんから」


「大好きな人から愛を返してもらえること。それ以上の幸せはありませんよ。もし、夜柚くんを泣かせるような人がいたら私がぶっ飛ばしますから安心してください。私はきっと死ぬまで夜柚くんのことが好きですよ」


「まあ、これはお母さんがお二人と結婚したいくらいです」


 いや、一応貴方には鏡餅がいるのでは。

 









 城の者が心配するからと、雪歌様が戻られた後色々動いてお腹が空いたので、今日の功労者である薺くんを労う意味も込めて午後はご馳走を振る舞った。

 料理を作ったのは、リュイさんと日奈さんと佳乃子さんだから味は美味しいこと間違いない。サーモンや、マグロ、カンパチやイカ等の豪華な具材が巻かれたのり巻きや、ステーキに豚肉の味噌やき、トマトハンバーグにエビフライ、カジキのバジルソースにトマトとアボカドのサラダやサーモンと香味野菜の生春巻とところ狭しと料理が並ぶ。デザートは日奈さんお手製のマンゴーのショートケーキである。この短時間でよくこれだけの料理が出来るものだ。


「ほら、あーちゃんこれ好きだろう」


 薺くんは当たり前のようにエファさんの隣に座ると、サラダにドレッシングをかけてやったり好きそうなおかずを取ってやったりと甲斐甲斐しく世話を焼いていた。


「いや、君とは今日が初対面だよね。確かにそれ好きだけど」


 盛大に疑問符を飛ばしているが、エファさんの顔はどう見ても嬉しそうに崩れている。あ、ブーリさんが軽く小突いた。


「そうか、今は違うんだっけ。つい癖で。嫌だったならごめん」


「嫌じゃない、嫌じゃあないんだ」


 真面目な顔で謝って離れようとする薺さんの服を掴んで、エファさんが引き留める。え、初対面なの? 本当に?


 和やかに食事会は進み、料理も粗方片付いたところで、ブーリさんが薺くんを元の場所に送ると言うので、お見送りをする。


「薺くんも、是非また遊びに来てね。もう会えないのは寂しいから」


「でも、どうせ未来で会えるよ。父さん、母さん」


 え、薺くんってリュイさんと私の息子だったの? 取りあえずなんかエファさんといい感じだったけど、私あの光の神が義理の息子になるのは絶対やな嫌なのだが。でも、薺くんが好いているなら仕方ない。応援しよう。

 いや、それよりも、この彼の造形美は喜ぶべきでは。私の遺伝子が邪魔せずにとてもいい仕事をしている。父親も敵わないほどに美しい。あり得ない。こんなイケメンな息子が将来生まれるのは単純に嬉しい。


「あと、妹もいるよ。あ、俺が17歳の呪いが終わったから次はあの子の番なのか」


 薺くんが盛大に顔をしかめる。そうか、子どもが二人か。妹ちゃんの方もリュイさんに似てくれたらいいな。でないと、恨まれそうだ。なんてことをぐるぐると考え込む私を笑って、薺くんはハグしてくれた。そのままブーリさんの背に乗って帰る。

 高校生だと言っていたから、エファさんを庇ったことで薺くんの分の佐藤の呪いは終わったのか。なら、薺くんについては安心だな。

 可愛い子どもたちと愛しい夫と過ごす未来は、きっと幸せに満ちているのだろう。私は青空に向かってにこりと笑みを浮かべた。





これにて、本編は一応完結です。拙い割りに長い物語に今までお付き合い頂きありがとうございます。番外編として、後日談や薺さん視点でおくる未来の話を書き次第また順次投稿していく予定ですので、良ければお付き合いください。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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