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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第3章 親族会議編
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事情聴取

登場人物紹介によっちゃんの情報を追加しました。

「え、本当に何も覚えていないの?」


 どうも、人っ子一人いない日本家屋に閉じ込められましたが、リュイさんに救助されて無事現実世界に戻って来た佐藤です。途端に襲ってくるねっとりとした暑さとけたたましい蝉の声に眉根を寄せる。ただ今、我が家の家宝の力と自分たちの親類に妖の血を入れたくないとかいう理由で私の恋人を殺しかけた家の一つである百日紅(さるすべり)の当主とさぁ、喧嘩だと勢いこんで出て来たのだが、人形のように精気のごっそり抜けた表情に思わず肩を震わせた。


 えーと、百日紅さん大丈夫? 


 ただならぬ彼女の様子に、夜桜家の当主である奏多さんや従兄弟のよっちゃんが訝し気に彼女に近寄る。よっちゃんが肩を叩こうとした瞬間、糸が切れた人形のように彼女が倒れ込んだ。

 慌ててよっちゃんが百日紅さんを横抱きにして家の中に運ぶ。気をきかせた女中姿の式神が、屋敷の客間に敷いた布団に彼女を寝かせて様子を見守っていたのだが。


「あら、ここは……? どうして、夜桜のご当主様が……?」


「え、いや。今日から夜桜の家の定期会合だから今回は珍しく綾羽(あやは)様が出席なされたのではないですか。それで、私と話をしている時に急に倒れられて」


 あ、百日紅の当主って綾羽さんって名前だったな。そういえば。正直孤高の人って雰囲気だったから、会っても挨拶程度であまり親しく接した記憶が無いので忘れていた。そもそも、彼女は自身の異能のせいもあって人が大勢集まる場は嫌いだから会うのも数年ぶりだし。


「綾羽さん。お久しぶりです」


「あら、一琉(いちる)さん。すっかり大きくなられましたね。前にお会いした時は中学生でしたがすっかり大人のお顔になられて。もう大学生かしら?」


「今年入学いたしました。……貴方は先ほど、柚月さんに向かって禁術を使いましたね。神のご助力があって救い出せましたが、あの術は百日紅の秘術であり、本来なら彼女は一生現世と切り離された空間の中で彷徨い続けなければなりませんでした」


 え、あれってそんな怖い術だったの!? 飼い主さんマジありがとうとぎゅーっと彼の腕に自分の腕を絡めて抱き着いてみる。優しく私の頭を撫でてくれるが、リュイさんの目は何事かを探るように綾羽さんの方を向いている。











 んー、でもうちの家宝の力が欲しいなら私を閉じ込めたらだめだよね。あれは他家の人間には扱えないし。本末転倒していないか?


「婚約は解消するとはいえ、正式な発表をしていない今柚月さんはまだ私の婚約者です。その彼女に手を出すということは、百日紅は夜桜に反意があるとそう判断してよろしいか」


 底冷えするような低い声にいつものよっちゃんじゃない! と喉の奥で悲鳴を上げる。綾羽さんの顔面が蒼白になる。


「そんな、そのような事をしてはおりません!」


「しかし、貴方は私と話している時も、敵である妖の血を入れようなどと汚らわしいと、そうおっしゃっていたではありませんか」


 奏多さんの言葉に驚いたように彼女が瞳を大きくする。あれ、本当に覚えていないの?


「そんな。だって私は今まで百日紅の本邸の庭の手入れをしていて。それで、そうよ。確かラベンダーの良い香りがしてどこから匂っているのかしら? と思ったところで、気づいたら布団の上だったんですの。本当に、何が何だか分かりませんわ」


 んん? これが演技なら相当だがもう少しましな言い訳はすると思う。彼女は何かに操られるかしていたのではないかという疑念がむくむく湧いて来る。よっちゃんもそう思ったのかすっと目を細めた。

 と、そこで飼い主さんが動いた。綾羽さんの頬を両手で包むと瞳を覗きこむように目線を合わせる。赤い目は目立つからと、普段は茶色をしている彼の瞳が赤味を帯びた金へと染まる。


「なるほどね。……この度は私の親類が申し訳ありませんでした。百日紅さんには何の落ち度もなくただ操られ利用されていただけです。秘術を破ったショックで埋め込まれた呪いの糸が切れているので、後遺症等は無いでしょうが、本当に申し訳ありません」


 は、え、ちょっと佐藤さんは話について行けないけど、どういう事!?


「いいえ、いいえ。滅相もありません。貴方様は何処かの神とお見受けいたします。そのような尊きお方が人間に頭を下げる必要などございませんよ」


「私の愛する人は常に周りの人を大事に思って大切にする方です。……だから、俺は佐藤さんの周りの人も大事にしたい」


 リュイさんの中での私の評価の高さに思わず冷や汗が流れる。ごめんなさい。リュイさんに手を出した親戚をどう断罪しようか算段を立ててました。すみません。


「何時かは決着を付けないといけなかったんだよな。夜桜君、佐藤さんを少しお願いします。貴方なら周りの危険から佐藤さんを守れるでしょう。今までもそうしていた」


「それは、良いですけど。あの、リュイ君は何をする気? 俺この展開について行けないのですが」


 私も隣でブンブン首を縦に振る。彼は淡く微笑むと私の頭を撫でてその場から掻き消えた。え、うそー! 茫然とする私に夜桜君は顎に手を当てて難しい顔をする。







「大丈夫でしょうか。思い出したのですが、ラベンダーの香りがしたと思ったら、何処かから現れた黒いベールを被った女性がいらして。どうも、あの神様に並々ならぬ執着を抱いていらっしゃったわ。恋と呼ぶには生ぬるいような」


 綾羽さんの心配そうな言葉に私は顔面蒼白になる。もし、リュイさんがその女性の元に向かったのだとしたら。飛んで火に入る夏の虫じゃないかー!

 おい、あのベールを被った女がリュイさんを害するのは、世界を滅ぼす力を持つ彼を恐れて排除しようとしているからだと思っていたのに、まさかあの女もリュイさんを好きだなんて。思いもしなかったライバルの登場に驚くが、私の飼い主さんがピンチだと思わず立ち上がる。


「柚月さんはあの神様の事を愛してらっしゃるのね。あの方も、貴方の事をそれはそれは宝物のように愛していらっしゃるわ。いいお相手を見つけられたのですね」


 先ほどまでとは違う本当に祝福するような笑みに私はドギマギしてしまう。

 綾羽さんには人の心を読む力がある。そのせいで、勝手に流れて来る人の思考に自我が飲み込まれそうになるため人が多い場所には極力出てこない。だから、会合に出るのも本当に珍しいし彼女の負担が軽く済むよう普段私たちは少し離れて接しているのだ。


「綾羽さんは……私の恋人が人でなくても良いと。そう仰ってくれるのですか?」


「勿論。この世に好きになってはいけない人がいる何ておかしいじゃないですか。でも、柚月さんがそのような事をお聞きになるとは、私は貴方に対してとても酷い事を言っていたのね。本当にごめんなさい。どう償えばいいかしら?」


 真摯な口調に私は混乱してしまう。あれ、百日紅さんいい人。


「いえ、諸悪の根源が別にいるならその人に償って頂くので大丈夫です。私たちの仲を認めて下さるのなら、それで十分です」


「えぇ、百日紅の全ての力をもって貴方がたをサポートしていく事をお約束いたしますわ」


 すると、それまで成り行きを黙って見守っていたよっちゃんが口を開く。


「ねぇ、ゆうちゃん。こっちは俺が何とかするから、リュイ君に着いていた方が良いんじゃないかな。八朔(はっさく)も多分操られているのだろうから、解呪しておく」


「オーケー、任せたぜ相棒」


「あの女性はどうもあの神様の悲しむ顔を一番愛しているようです。だから、彼を傷つける真似をなさり、ボロボロになったところで自分だけに笑いかけてくれればいいと思っています。だから、今貴方が行くのは危険かと」


 心配そうな綾羽さんの言葉に私の頭が沸騰したように熱くなる。ほーう、そういうタイプね。


「……佐藤家にはあるんですよね、神殺しの武器」


 えーい、今こそ戦争じゃー! ユグドラシルに殴り込みじゃ!


 そこで、黙って傍で控えていた夜桜の式神が音もなくふすまに近づき開いた。そこには丁度お茶を持ってきた()()さんが驚いたような顔で立っていた。綾羽さんが持ってきたお茶でのどを潤す傍ら、私はこれまでの経緯を説明する。頑張ってとばかりに拳を握ると、次いで茉菜さんは私を優しく抱きしめてくれた。


「じゃあ、ちょっと行ってきますね。よっちゃん、お願い」


 と、言ったところで茉菜さんが何かに焦ったような顔をしてワシャワシャと手を振る。可愛いがその手は何を主張しているんだろうか。茉菜さんは滅多なことではしゃべらないのだ。


「ゆうちゃん、イギリスにいるルナちゃんから荷物が届いているみたいだよ。噴火の前に出されたから、ギリギリで間に合ったみたい」


 さすが、実の息子。表情から細かなニュアンスを読み取っていくスキルはさすがである。お母さんが私に何のプレゼントだろう。式神が持ってきた段ボールの箱には秋に良さそうなタータンチェックのワンピースにタイツ、ファーが付いたブーツだった。ワンピースの柄がさすがイギリスっぽい。あれ元はスコットランドの家の家紋なんだよね。こういうワンピースが欲しいと言ったことを覚えてくれていたらしく、素直に嬉しい。添えられていた手紙を読もうと触れた瞬間、手紙がラピスラズリをあしらった黒革のチョーカーに変わる。


「存分に殺ってこいという指令を受けたので頑張ります」


「本当に二人は親子だよね」


 遠い目をしたよっちゃんに私は首を傾げる。











 服装をワンピースから動きやすそうなパンツスタイルに着替えて、食料や着替え、スマホが入った皮のリュックを背負う。このチョーカーって首輪みたいだな、と猫目石の首輪を思い出して懐かしくなったラピスラズリのチョーカーも着けたところで準備完了だ。


 異世界へ人を飛ばすという術はさすがに彼一人の力では出来ないので、中庭にある一年中薄紅色の花を満開にさせる不思議な桜の霊力を借りて行う。


「無事に帰ってくるんだよ。こっちは任せろ」


「ありがとう、行ってきます」


 異世界の扉を開くという無茶な術を行使しても息切れ一つ起こさない従兄弟を頼もしく思いつつ、私は光の中へ足を踏み出した。

次回から舞台はユグドラシルに移ります。会いたくないあの神と再会します。

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