神様のメロディー
毎日暑いので涼しくなりたくて今回はホラー風味です。ただし、全く怖くない出来になりました。いつかリベンジしたいです。ホラー難しい。
和風建築に似つかわしくないラベンダーの香りが辺りを包み込む。
誰もいなくなった寂しく薄暗い夜桜邸に私を首をかしげる。今まで奏多さんたちが居たよね? 蝉の声さえも聞こえない。生き物の気配がない静まり返った世界に私は背筋に寒気を覚えた。リュイさんはどこだと後ろを振り返っても誰もいない。屋敷の外から出ようと一歩踏み出すが透明な壁のようなものに遮られて行けない。変な場所に閉じ込められてしまったな。面倒くさい。
仕方がないので屋敷の中に入って「誰かいませんかー」と叫んでみるが応答がない。そのまま木の廊下を歩いていき、適当に襖を開ければ神棚の祭られた部屋に出た。何となく目線を上げれば神様を守る侍従の人形が動き出し、こちらに矢を射かけてくる。さすが護衛だ。殺意が高い。
咄嗟に佐藤家の家宝を召喚しようとするが、手ごたえがない。家宝が呼べないという初めての経験に一瞬頭が真っ白になるが、反射で矢を避けるとそのまま襖をしめた。
うーむ、これはもうリュイさんたちが何とかしてくれるまで待つか。夜桜は解呪のスペシャリストだし、リュイさんだって異世界の闇の神である。私は彼らに嫌われてはいないだろうから、きっと私が想像もつかない方法で助けてくれるはずだ。家宝もない今一般人にこの不可思議現象の解決は無理です。
何か出るためのヒントはないかと探しに邸内を歩き回るが、人っ子一人いない薄暗いだけの家だ。適当に目についた部屋を開ければ畳の部屋に壊れた仏壇や位牌、誰か分からない遺影が散乱していた。何事か人のざわめきのような物が聞こえてくる。打ち捨てられたようになった位牌が独りでに立ち上がり隊列を組み始めたところで、私はそっと襖をしめた。うん、見なかったことにしよう。
廊下を歩いていると、今度は赤子の泣き声が聞こえてきた。ふーむ、元気の良いことだ。廊下の真ん中に置かれた白木の箱の中から聞こえてくる。まるで棺のようだ、と言う不吉な想像を首を振って追い払う。何だか箱を開けないといけないような気になって、何かに誘導されるように蓋を開ける。中には顔を真っ赤にしながら泣きわめく裸の赤子が入っていた。お母さんは一体何処に行ってしまったんだ。泣いている赤子を放っておくのも忍びなくて、赤子を恐々と抱き上げる。あやすように身体を揺らして背中を軽くたたく。
赤ちゃんとの接し方なんて家庭科での知識しか無いんだが、これで大丈夫か。
赤子は相変わらず泣き続ける。こんなに涙を流していたら脱水症状におちいるのではないだろうか。台所にミルクと哺乳瓶が有ればいいんだけど。と、そこで赤子の首がごとりと落ちて床に転がる。生暖かい血の感触に思考が追い付かない。首だけになってもまだ赤子は泣き続ける。今着ている白地の向日葵柄のワンピースが流れる血で赤く染まる。お気に入りだったのに残念だ。私は胴体を箱に寝かせて、赤子の首を持ち上げて身体と一緒に入れると手を合わせて目を閉じた。泣き声がだんだん小さくなりやがて止まった。目を開けると赤子は穏やかな表情を浮かべて眠る。そっと頭をなでる。
「おやすみなさい、良い夢を」
立ち上がって屋敷の奥に向かう。ふと、見れば服に着いていた血は消えていた。振り返ればそこに白木の箱はなかった。
ここが、本来の夜桜家であれば私に貸された部屋にあたる場所を見つけた。興味を引かれて障子戸をあければ、中は一面の赤だった。鼻腔をくすぐるむせかえる鉄臭い香りに顔が歪む。真ん中には血を滴らせた日本刀が畳に突き刺さっている。部屋の奥に置かれた黒い漆塗りの机の上には一輪だけ花瓶に生けられた白菊があった。そこで、刀が独りでに畳から抜けて此方に飛んでくる。避けるが逃しはしないとばかりにくるりと向きを変えて此方に向かってくる。
そこで、小さなあみぐるみが飛び出して来て小さな手で刀を折った。あみぐるみつえー。刀は空気に溶けるように消え去る。私を助けてくれたのは、エファさんがくれたあの牛のあみぐるみだった。
「ありがとう」
君は命の恩人だ! と抱き締めようとしたところであみぐるみが青い炎に包まれ消えた。牛さーん、君のカッコいい姿は忘れないよー‼ 牛さんを弔う鎮魂歌を歌って私は再び歩き出した。
次に出た部屋は庭に面した開放的なお部屋だった。畳のいい香りが満ちて、眼前には輝くばかりの白砂に、短く刈り込まれ美しいピンク色の花を咲かせるサツキが見える。こんな時じゃなかったらゆっくり羊羹でもつまみながら眺めていたような景色だ。
ふと、柱によっちゃんが練習がてら弾いていたのかもしれないギターが立てかけてあった。そういえば、ユグドラシルにいたときには、歌の力で敵を倒すことが出来ていたよな。あの能力は日本でも有効なのだろうか。
えーい、物は試しだ。最近ギターで弾けるようになってきたバンドの新曲を弾こう。
2番に入ろうかと言うところで、空間がビリリと引き裂かれるような音に私はびっくりしてギターの演奏を止める。威風堂々とした黒いライオンの、そのホッとする赤色を見たらダメだった。
「無事で良かった」
心底安心したようなリュイさんの声音に胸が締め付けられる。思わずすがり付くように大きな身体に抱きつく。
自分が思うより心細かったんだな、いつもと逆だと思いながら私はリュイさんの黒に顔を埋めて、安心する柔らかな毛並みを堪能したのだった。
次回は親戚さんに事情聴取します。




