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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第1章 異世界旅日記編
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綺麗な綺麗な白い鳥さん。貴方の名前は何ですか。

「全く無茶をなさいますね」


 人通りのない何処か忘れ去れたような町の一角の空き地に私を優しく下ろすと、白鳥が呆れたように呟いた。



 この声って。すごく聞き覚えがある。あんぐりと口を開けながら見ていると白鳥が光に包まれてシルエットが小さくなっていく。

 光が消えて現れた少女の姿に私は驚きで目をみはった。




 新雪を思わせる綺麗な白い髪に、長い睫が縁どる大きな翡翠(ひすい)色の瞳。桜色の唇は不満げに結ばれているが、絶世の、と形容してもいいような美少女。

 少女はシャングリラの駅で別れた時と同じ、複雑な紋様が刺繍された青いワンピースを身に纏っている。




 この場にいるはずのないフユカさんの姿に私の頭の中が疑問符で占められる。


「は、え、フユカさん。何で、白鳥? 白鳥の湖? フユカさんってお姫様だったのですか!?」


「私は一言も人間だとは申し上げておりませんよ。正体は白い鳥の姿を持つ魔物です。お姫様ではないので貴方の期待には応えられそうにないですね。でも、貴方が探している彼だって私と同じ魔物ですよ。そうは言っても私がやっぱり怖いですか?」


 何処か諦めたような悲しそうな目をされて、恩人にそんな顔をさせてしまう何て罪悪感で胃が痛くなりそうだ。


 私は全力で首を振って、怖くないことを証明するためフユカさんの足元に擦り寄った。


 彼女は淡い笑みを浮かべると、私の頭を撫でながら話し始めた。



「ここは、廃街になったあの地区とは反対側に当たるシャングリラの外れの地域。港が近くて貿易の拠点にもなっているから商人や観光客も多いエリアになります。だから、旅の人間が迷い込んでも目立たない場所ではありますね」


 建物が崩れ落ちたりはしていない、活気あるシャングリラの街がここでは見られるのかもしれない。


「あの男、佐藤さんを虫一匹殺すような気安さで亡きものにするつもりでしたよ。大真面目に飼い猫になる事をその場で断らなくて、敵の懐に入って様子を見ながら反撃のチャンスを伺っても良かったのではありませんか」


「私にそんなスパイ映画さながらの腹芸は無理です!」


 中の人が一般的な女子高生である猫に、一体何を求めているんだ!


「猫の感情を読むのは人間には難しいと思いますよ。あの男は愛猫家じゃなさそうですからなおさら尻尾の動き何かで感情を読むのは厳しいでしょう」


 でも、正直シアンさんとは一緒に居たくないからな。って終わった事よりも!


「フユカさん、助けてくれてありがとうございます。お礼も満足に出来てない状態で申し訳ないのですが、実はリュイさんが大変な状態だってことが分かったんです!」


 かくかくしかじか、と火曜日のサスペンスな出来事を話せばフユカさんは考え込むように口元に手を当てた。


「あの子にとってはかすり傷程度の出来事だから、大丈夫ですよ」


 私を安心させようとしているのか、本当にそうなのか私には判断が付かない。

 でも、彼女の動揺のかけらもない泰然とした態度のお陰で、焦燥感やリュイさんが死ぬかもしれないという恐怖感が少し和らいでくる。



「しかし、自身の欲のために魔物を操ろう何て身の程を知らない人間だな。人の欲と言うのは良い方向に働けばこちらが驚くような技術を見せてくれるから、何が起こるか分からないからくり箱のようで楽しんだけどね」


 氷を思わせる冷たい笑みを浮かべ、独り言のように呟かれたフユカさんの言葉に、私は背筋が寒くなる。



 魔物なフユカさんが怒った場合あの皇帝とシアンさんは自業自得だと思うけど、この地域の被害は一体どれほどになるのだろう。関係ない人が被害を受ける数はどれほど。



 リュイさんを傷つけた相手は許せないからそれ相応の罰を受けて欲しいけど罪もない人が傷つくのは嫌だし、そんな事をフユカさんにはさせたくない。いざという時は止めないと。出来るか分からないけど。



 シリアスに思い悩んでいたのに、私の空気を読まない腹が盛大に鳴り響いた。ちょっと、待って! 今それどころじゃないでしょう! と言いたいが、腹の虫は収まってくれない。

 フユカさんが思わずと言ったように笑い出した。人形みたいな顔だが楽しそうに笑うと、快い鈴の音のような声と共に愛らしすぎるくらいの表情になる。


 天使だってこの可愛さには敵わない。


 思わずガン見していると、お腹が空いたという催促だと思われたようで、彼女の腕に抱き上げられる。


「近くに美味しいレストランがあるので行きましょうか」


「え、そんなことしている場合じゃないですよね! 早くリュイさんを助けないと。私なら大丈夫ですから!」


「リュイを殺せるような力の持ち主はこの世界にほんの一握りしかいない。まして操ろう何て相手の方が返り討ちにされますよ。貴方を預かっている身で佐藤さんを飢えさせていたと発覚したら、私が焼き鳥にされます。どうか、私の命を惜しんでくれるならご飯を食べに行きましょう」


 美少女に涙ながらに懇願されてNOは言えない。っていうか、そんなにか。リュイさん見た目は温厚そうだけど実は怖いのかな。


 ガタガタ震える彼女に了承の意思を伝えれば、花が咲くような笑顔を向けられてその眩しさにサングラスが欲しくなった。

 あ、首輪様がこちらの意向を読んで猫用サングラス出してくれた。本当に優秀だな、この子。






 ブーゲンビリアの花が咲き誇り、ランタンが辺りを照らす古都シャングリラ。

 建物はアジア風なのに街中に西洋風の壮麗なステンドグラスを持つ教会やいくつもの尖塔が立ち並んだ壮麗な白亜の城があり、貿易都市らしく文化がよく混ざり合っている。

 ピンクの教会って見た目派手だけど、意外と街に溶け込んでいるのがまた面白い。

 あの教会は何の神様を信仰しているのかな。さすがにキリスト教ではないはず。



 街行く人々の花や動物、カラフルな水玉模様など様々な印象的なデザインが目を引く民族衣装の美しさに胸を打たれる。

 街の入り口にあたる門は龍や鳳凰の姿が極彩色で描かれた壮麗な朱色の門で、その豪華さに圧倒される。

 夜になり、店や家の軒先に飾られた蓮の形をしたランタンが極彩色の美しい明かりを川面に投げかけていて、幻想的な息をのむ。




 レストランは中華風の古いお屋敷と言った佇まいで、建物に細かい彫刻が施されていて見ているだけでも楽しい。個室に案内されて何だかお嬢様になった気分。何が美味しいのかも分からないので注文もフユカさんにしてもらう。





 出て来たのは、香辛料の香りが食欲を刺激するバターチキンカレーと野菜たっぷりのサラダだった。カレーにはお肉がゴロゴロ入っていて、家では作らないスープカレーのような見た目をしている。この世界にもあったご飯と共に頬張れば、まろやかで奥深い味わいと共に後からスパイスの辛さがくる。辛い。けど、美味しい。

 病みつきになりそうなお味についついガッツいてしまえば、フユカさんに微笑まし気な目を向けられる。

 サラダも新鮮で、シャキシャキの野菜と掛かっているドレッシングが美味しい。このドレッシングお店で売っていたりしないかな。



「金蘭の魔術師だというあの男に会った時の事をもう少し詳しく話してもらえますか」


 お茶を飲んで人心地ついた私にフユカさんが尋ねる。え、でも、壁に耳あり障子に目ありというからここで話しても大丈夫かな。


「盗聴防止の結界を張りましたから誰にもここの会話を聞くことは出来ません」


 私の心配の理由を悟ったのか、フユカさんがちょっと得意げな笑みを浮かべて教えてくれる。じゃあ、大丈夫かなと覚えている範囲で会話の内容を初対面の時から再現して聞かせる。すると、フユカさんが難しい顔で口元に手を当てて考え込み始めた。



「手を切り落とされても致命傷になりようがない。それ位の怪我ならすぐに再生するはずだからよく考えればその時点でシアンを無力化していてもおかしくないのに何故放っている。リュイはどんな相手でも無駄に慈悲をかける性格だから、敵であろうと傷つけたくないとかいう甘い理由かと思っていたけど、金蘭の追っ手である男が佐藤さんに狙いを変えた現状でリュイが現れない理由が分かりませんね。あの子は貴方の事をかなり気に入っている。優先順位は佐藤さんの方が上だから貴方に狙いを定めた段階で攻撃を躊躇わないと思うのですが」




 フユカさんの言葉に胸騒ぎを覚える。自由を奪われるような状態に追いやられているんだろうか。



 シアンさんは確信をもってリュイさんがシャングリラに居ると言いきっていたし、彼を探す事より私の首輪に興味を持っていた。それは、もうすでに彼を手に入れていたから来る言動ではないのだろうか。



 そこで、スマホがメールの着信を告げた。ポケットからスマホを取り出し、画面を見たフユカさんは、メッセージの相手を知ってちょっと驚いたような顔になった。


「キャロからか。珍しい。何かすごく嫌な予感がする」


 初めて聞く名前だが、彼女のお友達の名前かな。メッセージを開きたく無さそうだが、覚悟を決めたような顔でフユカさんはメールを読み始める。



 ふーと盛大なため息を吐くと、目を閉じて考え込むような表情になった。


「あの魔王より魔王らしい魔力持ちのはずなんだけどな。本当に苛々するくらい人に甘いんだから」


 目を開けると、宝石よりも綺麗な深みのあるエメラルドが部屋の照明に煌めいて私を見た。


「貴方にお願いがあります」


 はい、何でしょう。死ぬこと以外ならどんな依頼でもお受けいたしますよ。


カフェで食べたカレーが美味しかったのでついつい食事のシーンを追加しました。家では出せないお味で美味しかったです。

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