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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第3章 親族会議編
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白雨とコーヒー、花火空 

 翌日。今日はお友達と昼食を食べるからと、いつもの飼い主さんお手製のお弁当を泣く泣く断り、私はキャンパス内のサンドイッチやケーキが美味しいと評判のカフェに来ていた。我が大学内には中央に二階建てで明るく開放的なリーズナブルで品数も多い学食をメインとして他にもファーストフードのハンバーガーチェーンのお店やカフェがあって昼食の選択肢は大変広い。


 その中の一つ、農学部の演習林の傍にあり緑に囲まれたログハウス調のカフェは女の子で賑わっていた。まぁ、ボリュームで考えるなら男子は学食や近くの牛丼屋やラーメン屋に行くだろうからね。落ち着いた木のテーブルに着けば、窓からは池に咲く蓮の神秘的な姿が見える。陽の光を浴びて林は翡翠色に輝いていてとても綺麗だ。


 そんな中で私はよっちゃんと向かい合って昼食を食べていた。


 なお、頼んだメニューだが、私はパスタセットで、よっちゃんは月替わりのランチセットだ。今月のメインは夏野菜カレーのようでご飯と野菜を使ってウサギの姿が作られていて可愛らしい。

 ちなみに、月替わりのパスタは7月の今はレモンパスタのようだ。レモンの爽やかな酸味が、夏の暑さに疲れた身としてはさっぱりしていてとても美味しい。夏バテ対策にはいいかもね。

 飲み物のアイスティーの氷は花氷になっていて、氷の中にベリーやローズマリー、レモンが閉じ込められていてこちらも涼し気な見た目で可愛い。


「何か彼氏さんに隠れてこそこそ会うとか、自分が浮気相手にでもなった気分だ。罪悪感が凄い」


「ごめんね、よっちゃん。でもリュイさんにバレる訳にはいかないし」


「だよね。まぁ元は家が原因だし、責任もって対処するよ。あ、これいざという時には簡易的な結界が張れる力を持った鈴だから、安心のために持っておいて」


「ありがとう」


 夜桜は呪詛返しを最も得意とする家だから、こういう面では本当に頼りになる。


「はー、何でこんな親戚と術比べじみた事しないといけないんだ、面倒くさい。俺、この戦争が終わったら秋葉原のメイド喫茶に行くんだ。可愛い可愛いメイドさんに、ケチャップでオムライスに魔法かけてもらうんだ!」


「よっちゃん、その台詞は死亡フラグよ」


 だがしかし、私もメイドさんには会いたい。佳乃子さんも誘ったら来るかな?


「そうそう、カナちゃんにも今回の事を相談したら、親戚が申し訳ないって。目に余る振る舞いをするようだったら自分が相手をするから安心して家に来いってさ。直接謝りたいし、元気にしているかマナちゃんも心配しているから顔だけは見せにおいでって。カナちゃんもゆうちゃんの事を守るから俺だけよりも安心できるでしょ?」


 よっちゃんは基本両親のことを名前で呼ぶ。40代半ばに見えず、高校生でも通りそうな若々しく少女の様な可憐さを持つ茉菜さんはともかく、眼光鋭い強面な奏多さんに面と向かってカナちゃんという可愛らしい呼び方が出来るのは、実の息子くらいなものだろう。


「そんな、奏多さんたちのせいでは無いのだから気にしないように言っておいてね。私からもあとでメールしておく。本当良くしてもらって感謝しているって」


「まぁ、でも違反行為を犯している親戚を注意するのも、当主の仕事だからだいじょ……」


「偶然だね、こんな所で会うなんて」


 そこはかとなく冷たい響きがするような気がしないでもないが、大好きな飼い主さんの声に私はバッと声のする方を向く。リュイさんはアイスコーヒーが載ったトレイを手に持っていた。


「ここ、一緒に座ってもいい? それともやっぱり俺はいない方がいい?」


 ニコニコと笑っているのに妙な威圧感があるのは何故だろう。そんな事ないと自分の隣の椅子を引いてリュイさんが座れるようにしたところで、大きく音を立てながらよっちゃんが席を立った。な、何事!?


「あー、俺やぼ用思い出した! じゃあ、またね」


 いや、いくらリュイさんの前で話せない話をしていてこれ以上続けられないとはいえ、その離脱の仕方はいささか不自然ではないかとちょっと半目になる。一応バイバイを言おうと口を開きかけたところで背筋に悪寒が走る。気配を探ってその方向を見れば巨大なムカデがこちらに飛んでくるところだった。これ、蠱毒(こどく)!?


「わ、ごめ、すべった!」


 キャーという声に皆さんにもこの呪いの塊であるムカデが見えているのかと戦慄したが、すぐに違うのだと悟る。女の子の何人かは顔を赤らめつつ目を輝かせている。


 よっちゃんが思いっきり飼い主さんに倒れ掛かった勢いのまま抱き付いて、それをリュイさんが危なげなく受け止めて「大丈夫?」と顔を覗き込んでいる所だったのだ。何だろう。薔薇の花が咲き乱れている幻視をしたような。


「チンキリキャハ・ハラハラ・フヨランバ・ソワカ」


 よっちゃんが呪いを中止する真言を小さく呟いた途端、ムカデは粉々に砕け散った。あ、危なー。


「大丈夫だよ、ごめんね。助かった。じゃあ、またね。ゆうちゃん」


 何事も無かったかのように飼い主さんから離れ、手を振り去る従兄弟に私も手を振り返し飼い主さんを見れば、彼は難しい顔でじっとよっちゃんの後ろ姿を見ていた。あれ、これ、バレた。












 午後の授業を終えて飼い主さんと一緒に家に帰ったが、終始無言で気まずいことこの上なかった。玄関扉を閉めた途端、後ろから抱きしめられてよっしゃーと喜ぶ間もなく、私の姿は何故か異世界生活でなじみのある黄色い猫になって飼い主さんに抱っこされる。サイズは家猫ほど。


 苦しくないように気を使ってはいるが、逃がさないと言うような強引な抱っこの仕方に私は疑問符をいくつも浮かべる。珍しい。一体どうしたんだ。そのままソファに座った飼い主さんの膝の上な私は、彼の白くて長い指にひたすら毛並を撫でられるというご褒美な状態に追い込まれる。

 優しくて心地いいこの撫で方が大好きで、もっとと求めてすり寄ってしまう。単にアニマル成分が足りなかっただけかなと、リラックスして力を抜いたところで再び抱き上げられて、猫の耳に飼い主さんの唇が当てられる。


「佐藤さん、何か隠し事していませんか。答えるまで逃がさないから」


 耳元で聞くささやき声は凶器だと初めて知りました。やっぱり私に隠し事の才能はない様だ。どう言い訳しようか考える間にも「ねぇ、お願い。教えて」と飼い主さんからの吐息交じりのささやきボイス攻撃がきて思考がまとまらない。顔が勝手ににやけてしまう。いかん。


「何か危険な事に首を突っ込んでいるんじゃないの? 俺はそんなに頼りない?」


 ウルウルと泣き出しそうな顔での懇願をされると弱い。心に杭をいくつも打たれたような痛みが走って仕方がない。私は早々に白旗を上げた。作戦変更だ。まぁ、傍に居てもらった方が無事だと分かって私も安心できるしいいか。すまん、よっちゃん。


「いえ、ちょっと身内の恥な話なのでわ飼い主さんを巻き込むのは申し訳ないなと」


「そんなの、俺の家族の面倒に散々巻き込んでいるんだから、今度は俺が柚月さんの力になりたい。駄目かな?」


 再び飼い主さんの膝の上に戻った私は、彼に頭を撫でられながら彼の顔を見上げて、これまでの経緯を話す。


「なるほど、確かに人の身にとっては佐藤さんが扱う道具の力が魅力的なのかもしれないね」


 嫌々ながら納得したと言うようなリュイさんの言葉に私も頷く。


「最近、妙にこっちを探る様な変な生き物が纏わりついたり、攻撃してきたけどそれだったのか」


「え、リュイさん平気ですか! 何もされてない? 具合悪くなったとかない!?」


「大丈夫。不快だったから全部燃やした」


「あの、ところでそれっていつから?」


「んー、1ヵ月前くらいから?」


 のほほんとした顔で言い切るリュイさんに、ユグドラシル最強の闇の神の身を心配していたのは実は失礼だったのでは思い始める。というか、守るとか言いつつ実際は何も出来ていなかったなんて自分が悲しい。落ち込んでいると気にするなと言いたげに喉の辺りを撫でられる。ま、終わってしまった事は仕方がない。これから更に頑張ればいいんだ。


「なんで教えてくれなかったんですか?」


「狙いが俺なら別にいいかなって。貴方を怖がらせたくなかったし」


 何ともない口調に切なくなる。もっと自分を大事にしてほしい。


「ただ、呪術で出来た生き物から漂う魔力が夜桜君の物と似ていたから、ちょっと警戒していたんだ。俺が攻撃されるのはいいけど、佐藤さんが傷つくのは絶対に許せない。今日も二人だけでご飯食べていたからら本当に焦った」

 どうやら心配をかけていたらしい。親戚同士で術式の共有も有名な物はするから、呪術だけで誰がしたのかを見破るのは案外難しい。式神の扱いは夜桜が一番上手で情報収集用によっちゃんも式神飛ばしまくっているから、それで飼い主さんもよっちゃんの事を警戒してしまっていたのだろう。彼は大丈夫だよと言いながら飼い主さんのお腹にゴロゴロとすり寄れば、優しく頭を撫でられる。不安げな表情に本当に心配をかけていたんだな、と胸が締め付けられる痛みを覚える。


「この姿じゃ抱きしめられないから、人間に戻してくれませんか」


 彼の手が私の頭を撫でれば馴染んだ人の姿に戻る。彼の膝の上に向かい合うように座る形になって若干恥ずかしいが、彼より少し高くなった目線が新鮮だ。そのまま抱き着いて安心できるようにぎゅっと抱きしめるが、スマホの通知音にハッとして身を離したところで腕を掴まれた。 


「ねぇ、キスしてよ」


 熱い瞳が私を射抜く。私の中で妙なスイッチが入ったような音がした。そのまま飼い主さんの肩を押してソファの背もたれに追いやり肘でソファドンをしてから顔を寄せる。リュイさんの顔が一気に赤くなり、所在なく視線を彷徨わせる姿に堪らなくなる。


「キスしてやるよ」


 頬にあてた指を滑らせて頤を持ち上げ、私は目を閉じて唇を重ねた。雨音が響いている。









 『明日。花火大会。19時』というメモ書きのようなよっちゃんからのメッセージに私は首を傾げる。待ち合わせ場所は何処かと聞けば、『明日? そんな先の事は分からない』という謎にカッコつけて意味が分からない返事が返ってくる。ま、明日電話して今どこにいるか聞けばいいか。


 リュイさんに隠し事がバレたことも書いて送れば、『こうなる事は分かっていたよ』という言葉と共にやれやれと言った顔の犬のスタンプが送られて来た。どうやら全く期待されていなかったらしい。

『花火デート。彼氏としたら?』という返事も追加で来る。べつに一緒で構わないようだ。きな臭い出来事はあるが、リュイさんとの初めての花火大会デートに心が躍る。








 翌日。地上近く昇って来た三日月が赤い事に若干嫌な予感を覚えつつ、ノースリーブのオレンジ色のワンピースにお母さんに誕生日に買ってもらった星モチーフのネックレスを付けて私は飼い主さんと手を繋ぎながら屋台を見て回っていた。


 うーん、ソースの香りが食欲をそそるね。


 子どもたちのはしゃぐ声を微笑ましく思いながら、待ち合わせ一時間前に送られて来た今日の集合場所である神社の境内を目指す。 


「やっほー! やっほー! よく来てくれたね」


 灯篭に照らし出された石階段を登ればわ森の木々に守られるように佇むお社が見えてくる。この神社の社殿には極彩色で動物や神々の装飾が施されている珍しいもので目にも楽しい場所だ。どんな動物がいるか探してみると結構面白い。階段を登る前「人払いの結界がしてある」と飼い主さんが呟いていたが、その言葉通り境内には私たち以外誰もいない。


「こんばんは。貴方は随分と祭りを楽しんでいるみたいね」


 よっちゃんは黒の帯に灰色の浴衣という和装で、さすが京都の人だけあって良く似合っていた。ひょっとこのお面を頭の横にかけて、手にはわたがしや林檎飴、たこ焼きの入った袋を持っている。ただ遊びに来ただけ、とかじゃないよね?


「ゆうちゃん、ダメじゃない。折角の花火デートなんだから浴衣着ないと!」


「地上の華はいくらでもあるでしょ。私の浴衣姿とかどこに需要があるって言うんだ」


 お祭りだからと気合を入れて着飾った女の子たちの綺麗さ可憐さは、正直花火にも負けていないと思う。朝顔や撫子、百合が描かれた美しい浴衣をまとい、髪をアップにして白いうなじを見せる姿は色っぽくて目の保養だ。神社に来るまでにかなり堪能させてもらったがやはり浴衣は良い! ビバ、日本文化! 思わず零れそうになったヨダレを手の甲で拭っていると、「リュイ君は本当に恋人がゆうちゃんでいいのですか? 無理はしていませんよね?」と失礼なことを聞いていた。


「柚月さん以外は絶対に嫌です」


「菩薩か。菩薩がここにいる。あれ、ところで君たち何も買ってこなかったの? お腹空いてない? 焼き鳥食べる?」


 神社のベンチに置いてあった他の袋たちもやはりよっちゃんの物だったようで、焼き鳥のパックを差し出してくるが私は首を振って断った。


「それで、どうして今日は私たちを呼んだの?」


「八朔の術者がこの街に入った。どうせなら一気に片付けたいからね。花火の浄化の力を借りて、一矢報いようかと」

 低めのトーンでの声音に私たちに緊張が走る。確か八朔家は密教系の呪術を使うはず。飼い主さんの手に若干力が籠る。


「狙いはリュイ君だろうからね、ここに居てくれた方が、何かあった時対処しやすいし守りやすい」


「……夜桜君はどうしてそこまでしてくれるの?」


 飼い主さんの質問に、ポーチから式神やら呪符を取り出して整理していたよっちゃんが、虚を突かれたような顔をする。


「人が人を助けるのにのは当たり前でしょう」


「貴方の本来の役目は魔物を封じて人を守ることでしょう? 俺は人間じゃないから、本来は貴方の敵のはずだ」


「格好つけない本音を言わせていただくと、俺は恋人同士のイチャイチャを見るのが、三度の飯よりも好きなんですよね」


 来世は推しカップルを見守る壁になりたい! と叫ぶよっちゃんにリュイさんは冗談を言っていると思ったのか軽く頬を膨らませる。だがしかし、よっちゃんはどう見ても両片思いなじれったいカップルをくっつける事を至上の喜びとし、恋人同士のノロケ話を聞くのが大好きなのだ。

 そんな彼にせっつかれて飼い主さんとの馴れ初めを話したところよっちゃんの性癖に見事合致したらしく、全力で君たちの事は守るからねと固く握手をされてしまった。報酬は写真でお願いとも言われている。真実はいつも残酷なものだ。そんなんだから自分自身の恋愛は遅々として進まないのではないだろうか。


「先払いしておこうか」


 信じていない様子のリュイさんに、よっちゃんは絶対的な味方だと分かってもらうために、リュイさんの首に腕を回して引き寄せて頬にキスをした。瞬間スマホの連写の音が鳴り響く。


「ありがとう。これでしばらく生きていける。本当尊い。尊過ぎて見れない。後で写真見返す。うっ、胸が!」


「他のも送ってあげようか。飼い主さんの許可が取れたら」


「神様仏様柚月様、ありがとうございます。ありがとうございます」


 手を合わせて拝まないでほしい。あと、泣くな。

 と、そこですっきり晴れていたはずの夕暮れ空が急に掻き曇り、ゴロゴロと雷の音が聞こえ始めた。天気予報は晴れだったはずだけど。


「なるほど、花火大会自体を中止させるつもりか。やり口が汚いな」


 真面目モードに戻ったよっちゃんがコンビニの袋を投げてくる。


「怪物と戦う者は、その時自らも怪物にならぬよう気を付けなければならないby佐藤!」


「うわ、確かに日々悪霊と戦う身としては身につまされる思いだな。実際今回親戚の中に悪用している者もいるし。ゆうちゃんは良い事言うね」


「いや、ごめん。これニーチェの名言」


 キラキラとした尊敬の眼差しに良心がキリキリと痛む。日々「○○の名言!」というツッコミを入れてくれる佳乃子さんって本当に偉大だったのね。因みに、彼女は今回の花火大会で日奈さんとブーリさんのファーストキスを奪うと息巻いていたけど果たして成功するかな。是非、頑張ってほしい。


「天候を操る術ともう一つ、大威徳明王の調伏法が発動しかけているな」


 舌打ちとともに告げられるよっちゃんの言葉に私は昔八朔家の必殺技について奏多さんに教えてもらった時の記憶をたどる。大威徳明王は五大明王の一尊とされる密教の神だ。五大明王の中でとりわけ恐ろしい神であり、その調伏法は呪殺や男女を離反させることにも使われる。


「呪殺で用いれば、相手は口から血を吐いて死ぬのよね」


「異世界の神と密教の神の本気の殺し合いが展開されるなんて願い下げだから、邪魔するぞ。という訳で料理作って」


 は? 何を言い出すんだ。夏の熱さで頭がイカレたかと思いつつ袋を開けると出てきたのは、食べる前に一工夫が必要な駄菓子だった。食べた事ないけど美味しいのかなこれ。


「ゆうちゃんの料理は最終兵器でしょ」


「いくら私でもまぜるだけでそんな」


 軽い気持ちで混ぜていたが突然お菓子が光り出し、現れたのは恐竜に似た見上げるほどに巨大な黒い巨体でファンも多くこのたびハリウッド進出を果たした怪獣だった。おまけとばかりに何故か三体現れた兵馬俑が、仲良くゴジ〇の周りでタップダンスを踊っている。


「さすがゆうちゃん、期待を裏切らないね!」


 怪獣は頭上を見上げると大きく口を開けて空に広がった黒い雲を吸い込み始める。吸引力の変わらないただ一つの掃除機、怪獣。ゲップをして満足そうにお腹を摩る怪獣の頭上には、キラキラ輝く満天の星空が輝いていた。あ、花火が上がった。 

 金や赤、オレンジや紫、緑の美しい火の花が咲き乱れる光景に見惚れていると、唸り声を上げながら水牛が突進して来た。げ、明王様が来た。しかし、五月蠅いとばかりに怪獣が火を噴き、ひるんだ隙に兵馬俑が水牛を槍で刺し、水牛は泣きながら退散していった。いや、弱っ!


「呪詛返しが成功したから、向こうの術者もそれなりの痛手を負っただろう。しばらくは大人しくしているだろうね」


 ゴ○ラの好意で頭の上に乗せてもらい、かなり近くで花火を鑑賞しているとポツリとよっちゃんが零す。下では兵馬俑たちが蛍を追いかけて遊んでいて妙に微笑ましい。


「これで、諦めてくれるといいんだけどね」


 よっちゃんの言葉にうなずきつつ、リュイさんに抱きしめられながら見る花火は正直かなり乙な物である。色が変わる花火や向日葵や朝顔を思わせる花火に見とれていると、メッセージが来たので開けば佳乃子さんからだった。

 ミッションコンプリート! と浮かれきったハートだらけの内容に思わず苦笑が漏れる。次いで、送られた写真は白地に金魚の浴衣を着た佳乃子さんが、ブーリさんの肩に手を回して引き寄せ彼の髪にキスしてどや顔を決めている写真だった。続けて送られて来たもう一枚は今度は日奈さんの腰に手を回して首筋に唇を当てている。これは、また浮かれてるなー。似たような写真を前にジャンバラで貰ったけど、この時の写真はここまでじゃ無かったような。恋の力は凄い。


「ぐへへへへ、保存保存」


 そして、気持ちの悪い笑みを浮かべながら画像を保存している従兄弟の頭って、もしかしたら呪詛の影響とかじゃないよね、とちょっと心配になった花火大会の夜でした。

呪術関係の知識については、『図解 黒魔術』草野巧 新紀元社 2013 を参考にさせて頂きました。

次回は夏らしく水着回とリュイさんが嫉妬をするお話な予定です。


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