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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第3章 親族会議編
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夏風、ピアノを弾く

第3章始まります。

佐藤さんの格好良さが伝わる話を最後まで書けるよう、精進していきます。よろしくお願いいたします。

ブックマークや評価などもしていただき、ありがとうございます。

 大学生になって3か月が経とうとする7月半ば。私はお昼の喧騒も過ぎ去った学食で、佳乃子さんと対戦ゲームに興じていた。


 しかし、もうすぐ前期の授業が終わるのは感慨深い。サークルの先輩も大学生活はあっという間に過ぎ去るとおっしゃっていたが、本当にその通りだ。


 当初、異世界の神様である私の恋人のリュイさんとその弟で佳乃子さんの恋人であるブーリさんが、同じ大学に通うなんて大丈夫なのかと心配していたが、ユグドラシルでも人のふりをして旅をしていただけあり、今ではすんなり大学に馴染み友達を作っていた。心配する方が失礼だったね。全くさすがでございます。

 ちなみに所属する学部は、佳乃子さんは工学部で、ブーリさんは社会学部。そして、私とリュイさんは文学部だ。


「うわ、柚月ちゃん。そこで魔法打ってくるとかズルくない!?」


「勝てば官軍負ければ賊軍よ、佳乃子さん」


 さーて、次は趣向を変えてモンスターを一狩りいこうかなんて思っていると食堂が俄かに騒がしくなった。時計を見れば3限目の授業が丁度終了したようだ。今日は3限で授業が終わるらしいから、そろそろ来るかなとブーリさんを探していると先にリュイさんが目に入る。


 リュイさんは大学で出来た友達と連れ立ってやって来た。なお、彼の瞳の色は目立つので学校ではありふれた茶色に変えている。

 一人がパソコンを開いて、その周りに集まって座ったのでおそらく授業のグループ課題をするのだろう。

 まぁ、元々待ち合わせしたわけでは無いし、出来れば一緒に帰れないかな程度の軽―い気持ちで待っていたので問題ない。むしろ、一匹狼気質な彼に友達が出来て、仲良くしている光景を見るのは、正直涙が出るくらい嬉しい。あぁ、世界は今日も素晴らしい。


 一見するとクールでとっつきにくい印象を受けるリュイさんだが、その実懐に入れた人間にはとても甘いのだ。友達の一人が風邪をひいて熱を出している事に本人が気づくより先に気づいて、自分も授業を休んでその友達を家まで送っていき、おかゆを作って薬を飲ませ、冷蔵庫に林檎のすりおろしやらスポーツドリンクやらを詰めて帰っていく位には面倒見がいい。その一件から友達グループでの密かなあだ名が「お母さん」になっているみたいだと、笑いながらブーリさんが教えてくれたが本当にその通りだと思う。


「星宮さん、お待たせしてすみません。あ、佐藤さんも一緒に居てくれてたんですね。ありがとうございます」


 爽やかな美声に振り返れば、急いできたのか少し息を切らしたブーリさんが立っていた。人形のように整った美貌は今日も健在だ。こちらも、日本だと白い髪に緑の瞳という色彩はとても目立つので、無難な栗色に変えていて新鮮だ。はじめのうちは見慣れなかったな。


「ううん、大丈夫。じゃあ、帰ろうか。柚月ちゃんはどうする? リュイさん待ってから帰る?」


「いや、ちょっと買いたい本があるから連絡入れて先に帰るよ。待たせていると思ったらリュイさんも焦るだろうし」


「じゃあ、僕らと一緒に帰りますか?」


 付き合いたてのラブラブカップルと一緒に帰るとか私の胃が死ぬイベントなのでやめてくれ。「あちこち寄りたいところがあるから」と曖昧な微笑みを浮かべてお断りさせてもらった。ふと視線を感じて見れば、リュイさんの透き通った茶色の瞳がこちらを見ていた。この色も宝石に例えるならシェリー酒の色をした最高級のトパーズの様で美しいけど、やはり私は彼本来の瞳の色のほうが好きだな。


 課題に集中してください。そんな意味も込めて軽く手を振れば、いつものように可愛らしいふんわりとした笑みを返してくれるだろうと思っていたのに。ふいに分厚い本を持った彼の友人の一人が聞きたいことがあったのか、リュイさんの肩を叩いた。

 あ、タイミング悪かったな、と振りかけていた手を下ろす。その時、リュイさんは顔は友人の方に向け、目だけでこちらを見て目線を合わせるとふっと口角を上げた。何だ。その色気がある笑い方は。その笑顔をうっかり見てしまった周囲も顔を赤くして騒めきだす。一部男子もいることが恐ろしい。


「あちゃー」


 ブーリさんが小さく呟いて両目を手で覆うが、私も同じ気持ちである。とうの本人は何事も無かったかのように落ち着いた声音で、課題のポイントを丁寧に教えているのだから性質が悪い。


「ねぇねぇ、やっぱり格好いいよね」


「いいなぁ、私もあんな笑顔向けられたーい!」


 女の子たちがキャーキャー言うのは微笑ましいし、その気持ちはよく分かるとガッツリ握手をしたい気分なのだが問題は。


「なぁ、あの黒髪の子色っぽくないか?」


「あー、文学部の王子だって女子が騒いでいたけどやばいな。あれなら抱ける」


「イケるな確かに。今の笑みたまんないな。恋人いるのかな」


 何てことをのたまうそこの男ども。リュイさんは私のモノだ。特に抱けるとか抜かす阿呆は誰だ。特定して闇討ちしてやろうかとちょっと殺気を飛ばしていると、落ち着けとばかりに佳乃子さんとブーリさんに頭を撫でられる。い、癒されるなんて思ってないからね!





 佳乃子さんたちと別れて外に出ればむあっとした熱気が一気に襲ってくる。五月蠅い位の蝉しぐれがそれに拍車をかけている気がする。何も一番暑い時間帯に帰らなくてもいいかと私は方針転換をして、ツタが絡まるクラシックなレンガ造りの建物である教育学部棟に向かった。

 幼児教育コースや音楽コースがあるこの学部の建物には、自由に弾けるピアノ室があるのだ。小学生から高校までピアノを習っていた身としては、久しぶりに弾きたくなる。窓からさわさわと風に揺れる緑の景色が見える一室で、私はグランドピアノに向き合う。


 曲はそうだな。ピアノが素敵な爽やかな夏の曲にしようか。


 弾いていて楽しんだよなこの曲、と思いながら自己流のアレンジで曲を弾いていると、コンコンとノックの音が響いた。何だろう。小声だけど歌っていた声が五月蠅かったかな。恐々扉を開ければ見知った顔が現れた。


「あ、よっちゃんじゃん! どうしたの?」


「声の感じからして、もしかしたらゆうちゃんかなと思ったんだけど、本当にそうだったとは。相変わらず歌上手だね」


 現れたのは、私の従兄弟の夜桜一琉(よざくらいちる)ことよっちゃんだった。出身が京都だから長期休みの時くらいしか会わなかったんだけど、今回よっちゃんが同じ大学の理学部に進学したことで、割と多い頻度で会えるようになったのだ。

 大学デビューなのか髪を茶色に染めて、ピアスも開けるというオラついた雰囲気になったが、如何せん目元がおっとりしていて優しいので似合わない。本人の雰囲気もふわふわしているし。


「ま、それだけじゃなくて、俺より先に気味の悪いお客さんが居たみたいだから注意しようかと」


 目線の先に振り返れば先ほどまでなかったはずなのに、ピアノの上に男の生首が置かれていてこちらを恨めしそうに見ていた。どこからか読経の低い声が聞こえてくる。いや、丑三つ時には大分早いよ! らんらんと目を光らせて奇声を上げながらこちらに生首が飛んでくるので、応戦しようと一歩踏み出すがその前に肩を押されて、よっちゃんの後ろに下がらされる。


「誰が民間人を襲っていいって言ったの」


 生首の頬を平手打ちしてそのまま地面に叩きつけると、一切の躊躇なく生首を踏みつけた。

 「ごめんなさい、許して、ぎゃー!」と悲痛な叫びをこぼす生首を、一切の慈悲のない冷めた目で見つめながら、ぐりぐりと踏んでいく。

 よっちゃんの実家はその筋では有名な霊能力者の家系だ。桜は神が宿る神聖な樹木とされており、それを苗字に冠するよっちゃんの家系は昔から神社や寺と関係が深かった。また桜の散り際の儚さから死を連想させるのか、死者の声を聞くことができる一族だとされている。だから本人も霊を払う能力を持ち、心霊現象が可哀想になるくらいの活躍を見せる。幽霊って殴って倒せるものだったのね。


 何とか彼の思考を生首虐待から反らそうと、私は簡単な質問を投げかける。


「どうしたの? 授業はもう終わりかな?」


「あと5限があるから今は空き時間。下を歩いていたらピアノの音が聞こえたんだけど、悪い気が混じってたから心配になってきてみたんだ。もう悪さするんじゃないぞ」


「もう2度としません。本当にすみませんでした。人間怖い!」


 と泣きながら生首が飛んでいく。普通は逆じゃないのかしら?


「でも、久しぶりにゆうちゃんのピアノが聞けてよかったかな」


 もっと弾いて、とお願いされれば断れないので、何曲か弾いて行けば彼は心地よさそうに目を閉じた。頼むから立ったままここで寝るなよ、と驚かせようとベートーベンの「運命」を大音量で弾いてやる。ビクっと肩を震わせて恨めしそうに見られるが知ったことか。


「ほら、もうすぐ授業の時間じゃないのかな?」


「ふえ、あ、ホントだ。ありがとう。今日は良いものが聞けて良かったよ」


 それは何よりだ。そこでスマホが鳴ってメッセージを知らせてくる。リュイさんからだ。まだ学校に残っていたら一緒に帰ろうという内容で、喜び勇んで返信を打つ。やった!


「ねぇ、ゆうちゃんに恋人が出来たって聞いたんだけど、本当?」


「だから、婚約は解消したんだよ。本当に今までありがとう」


 一応親戚関係であり、お互い一般の人には理解が難しい秘密を抱えている家同士という事もあり、幼少期にもし成人して好きな人が居なかった場合には結婚するという取り決めがあったのだ。

 しかし、私に恋人が出来た為に、夜桜には父を通して正式に婚約解消のお願いをしたのだ。そして、それは承諾されたはずだが。


「ま、必要ならば夜桜の親戚縁者の皆様方には、私からもお話ししてお許しを頂きましょう。丁度夏休みに親戚が集まるから、その時にでも親戚全体に言えばいいんじゃないかな。今年は夜桜家が幹事だから場所は京都になるんだよね」


「いや、あの、君の恋人さんは人間じゃないよね?」


 だったらどうなんだ、と見返せば困ったような微笑みが返ってくる。


「家はさ、日本に害をなす怨霊を鎮める役割もあるからどうしたって佐藤家の持つ家宝の力は魅力的なんだよね。だから、一部の親戚連中はこの婚約を白紙に戻したくない。そして、もしゆうちゃんに恋人ができたと知ったら」


「佐藤家の家宝は佐藤家の血筋の者にしか扱えない。なら、相手と別れさせようと動き出すかもしれないってこと?」


「それならまだいいけど、人外さんには戸籍がないからね。そして家は退魔が専門だ。調伏するための道具や能力者はいくらでも揃っている。最悪、君を餌に君の恋人を捕えて使役しようとするかもね。貴方の恋人は随分と強大な力を秘めているようだから、戦力としてとても魅力的だ。囲いこもうとする事は十分に考えられるよ。そして佐藤の家宝の力も手にする為に、予定通り俺との婚約は進める」


 虫酸が走るような思惑に嫌悪感から顔をしかめる。そんなこと、許せる訳がない。


「行かないって選択肢はダメかな。いや、そういえば、夜桜家の次期当主を選ぶ選挙もあるんだっけか。誰か行かないとか」


「皆面倒くさがってやらないからね。一応当代最強が選ばれることになるから俺で確定なのかな。ま、とにかく来るなら恋人さんの身辺警護してから行った方がいいよ」


 心底面倒くさそうにため息を吐く。良家の跡取りも大変だと同情の目線を送れば、彼は苦笑して軽く手を振りピアノ室を出て行った。

 リュイさんの正体は神様だから攻撃されても大丈夫だとは思うけど、念のため警戒しておこう。












 翌日。リュイさんと向かいあって三時のおやつがてら学食で夏みかんゼリーを頬張りながら、明日の憲法学の小テストの勉強をしていると、昨日ぶりなよっちゃんが能天気に手を振って近寄って来た。


「こんにちはー! あ、ごめん。今は邪魔かな?」


「え、いや大丈夫」


「初めまして、ゆうちゃんの従兄弟の夜桜一琉といいます。よろしくお願いします」


 ぺこりとよっちゃんがお辞儀をすれば、リュイさんも会釈を返した。


「で、どうしたの?」


「いや、一般教養の社会学で一緒だったでしょう。来週の小テストの範囲がどこまでだったか教えてもらおうと思って」


 私が椅子を引けば、さっと隣に座り教科書の該当のページを開くが、テーブルの下で膝に乗せていた手に何か紙がぶつかる。手紙?


「今年の夏の集まりの詳細が出たからね。手紙を渡しておこうかと思って」


 リュイさんに聞こえないよう耳打ちされた台詞に固まる。毎年お盆時期に夜桜家の親せき縁者が集まる会合がそれぞれの家の持ち回りで開かれるのだが、今年は京都の夜桜家が担当なんだよな。ちなみに去年は百日紅家が担当で場所は宮城県の松島、その前は一色家で場所はドイツだった。佐藤家の親戚の方々は日本だけに留まってくれないので、担当によっては海外旅行をすることになる。

 会合と言っても堅苦しくもない親戚の集まりなので、普段なら遊び気分で行けるのに。正直夜桜本家に行くのは小学生以来なので京都観光もしたかったのに。久しぶりに他の従兄弟に会えるのも楽しみだったのに、今は激しく行きたくない。


「親戚の中にも目ざとい者は彼の存在を知っている。気を付けて。絶対に家に連れてきちゃだめだからね」


 耳打ちされた台詞に頷きながら、小テストの範囲を教えてあげていると、ふいに私の足に誰かの足が絡む。弾かれるように犯人を見れば、何でもない顔でリュイさんがゼリーを食べつつ、その実悪戯っぽく私の両足を割って自分の足を絡めてくる。おい待て、そのテクニックはどこで覚えて来たんだ。


「ありがとう、助かっちゃった。じゃあまた火曜日にね!」


 風のように去って行ったよっちゃんに手を振って私も勉強を再開するが、会合の事と、リュイさんの悪戯がエッチ過ぎてちっとも内容が頭に入らない。あー、誰もいなかったら、今すぐあの魅惑的な唇に(検閲済)










「うわ、雨降りだしたね」


 煩悩に頭が占拠され、これはいけないと残りは家でやることにして帰路につけば、ポツリポツリと雨が降り出してきた。

 一応念のため折り畳み傘は鞄に入れてあるので傘を開いて差し出せば、リュイさんが傘を持ってこちらに差し掛けてくれる。うわ、今気づいたがこれって相合傘じゃん。多少気分が高揚したところでスマホが鳴る。誰だろう。


「おいマテ。何でエファさんが私のラインを知っているんだ」


 様子を知りたいからまた遊びに行ってもいいかという内容だったが、なぜ連絡先を知っている! 神様怖い! という感情しか出てこない。


「佐藤さんがエファのこと苦手なら、俺からもう接触しないように言っておこうか」


 まあ、確かに自分も殺されかけた相手だからあまり会いたくはないが、彼とはリュイさんを守るという目的で繋がった共犯者だから、繋がりは切れない。


「敵を許せ、ただしその名を忘れるなBy佐藤」


 いやそれ、ジョン・F・ケネディの名言! という友人のツッコミは聞こえない。

 佳乃子さんは家のお雛様にも彼氏ができた報告をしたようだが、お雛様には人身売買は犯罪だと言われて、お内裏様に大笑いされていたけど信じてもらえたのかな。五人囃子と三人官女はお祝いの舞を披露してくれたらしいが。あと、右大臣と左大臣は佳乃子さんを本当に守れるか試すため、夜中に奇襲をかけられたと日奈さんとブーリさんが言っていたから、何だかんだで彼女は愛されているよね。


「佐藤さんは強いね。……エファのさ、本名は明陽(あけひ)って言うんだよね」


「あら、かわいらしいお名前で」


 やっぱり漢字の名前があったのか。


「私に教えてもいいんですか?」


「いいんじゃない。何かエファに嫌なことされたら、その名前呼んで止まれと命令するといいよ」


 何か割と神様の名前を手に入れるって重要なことらしいなと戦慄する。そこで、リュイさんの方を見て彼の肩がぐっしょりと雨に濡れているのが目に入った。あ、私を濡らさないようにしていたからか。


「あ、すみません。もっとこっちに入ってきてください。風邪ひいちゃう」


「え、あ、気付かなかった」


「いや、そんな事ありますか」


「だって、柚月さんの近くにいられるのが嬉しかったから、分からなかった」


 そう言ってふんわりと優しい笑みを向けるリュイさんに、私は心臓がギュッと苦しくなった。だから、こういう時だけ名前で呼ぶのはずるくないか! 


 守りたい、この笑顔! と、思わず抱き着いてすり寄りながら、夜桜家の誰かが放ったのだろう偵察用の式神を流星刀で粉々に切り刻む。

 うん、何があっても私が守るから安心してね。


次回は楽しい夏祭りの裏で繰り広げられる親族との争い、その前哨戦のお話しです。

なお、リュイさんを狙う男は佐藤さんが物理的に排除します。

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