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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第2章 VS魔王編
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お雑煮は丸餅派? 角餅派?

佐藤さん家での飲み会話。真ん中あたりでちょっとした百合成分(女の子同士のイチャイチャ)が有りますので、苦手な方はご注意ください。

 3月下旬。無事に第一志望の大学に佳乃子さんと共に合格し、春から大学生になることが決まった私は大学近くのアパートに引っ越し、一人暮らしを始める事になった。今は新居のアパートの一室で荷物整理の真っ最中だ。


 昨日のうちに引っ越し業者さんと家族に手伝ってもらって、大きな家具は部屋に取り付けたので、後は細々とした荷物の整理だけだ。黒いライオンの小さなぬいぐるみ姿で着いて来ていたリュイさんも、今は人型を取って荷物の整理を手伝ってくれている。


 ユグドラシルで忙しいんじゃないかとそれとなく尋ねてみたが、「もう終わった」の一言で片づけられ、女の子の一人暮らしは物騒だからと、いつの間にか同居が決まっていた。


 いざという時は佐藤家の家宝が不審者を蹴散らすから、大丈夫なんだけど。


 でもまぁ、心配してくれるのは嬉しいし、ユグドラシルでの生活の時はいつも同じ部屋で寝ていたから、別にいいけどさ。


 そんな事を考えつつ手を動かし、後は本の整理だけだからちょっとお茶でも淹れて休憩しようかなと思い始めて来たときに、玄関のチャイムが鳴った。


 おんやぁ、誰だ。


 リュイさんは玄関先を見つめて冷たい笑みを浮かべた。何だろう、部屋の室温が下がったような。思わず両腕をさすっているうちに、飼い主さんがすたすたと歩いて玄関扉を開けてしまった。え、ちょっと待って!


「何の用ですか、エファ」


 え、何でエファさんが日本に来ているの?





「いや、久しぶりだしおしゃべりでもどうかなーって?」


 リュイさんから放たれる明確な殺気に、顔を引きつらせながらエファさんが答える。


「俺はお前と話す気はない」


 そして、扉を閉めようとするリュイさんに慌てて扉を抑えてエファさんが抵抗する。あ、リュイさんが舌打ちした。


「実の兄に向けて酷くないか。まぁ、今までのこと考えたらしょうがないけどさ。お詫びも込めて引っ越しって大変だって聞いたから、片付けの手伝いに来たんだよ」


「いらない。余計な気を使わないでくれ。大体誰にこの事を」


 一触即発の雰囲気に私はハラハラする。そこで第三者の声が割って入った。


「あらあら、エファ様はもう先に来ていたのですね。ふふ、お久しぶりです。柚月様、リュイ様。お元気そうで何よりです」


 小鳥の歌のように心地よく響く美しい声の方を見れば白い髪をした天使がおりました。綺麗な赤い瞳は、いたずらが成功したかのような楽し気なきらめきを放つ。


 アルフヘイムの第2王女がどうしてここに。


 疑問符が飛び交いつつも、また会えて嬉しいので私はにっこり笑って出迎える。


 今日はいつも見ていたようなフリルや宝石を上品にあしらったドレスではなく、日本の街を歩いていても浮かないような、スプリングコートを上から羽織り、グレーのジャンパースカートを着ていた。

 とはいえ、遠目にもいい生地を使ったものだと言うのが分かる。さすがお姫様。


「リーナさんとは友達なんだ。普段は文通してるんだけど、佐藤さんが今引っ越しや進学の準備で忙しそうで心配だって言ってたから、じゃあ手伝いに行こうって話になったんだ」


 ねー。と笑ってうなずき合う二人にリュイさんが米神あたりを手で押さえる。気持ちは分かるよ。神様ってそんな気軽に文通出来る相手なの!? 道理でブーリさんを紹介した時もリーナ様が普段の態度を崩さない訳だ。






 リュイさんがお茶の準備をしている間に、お客様を丸テーブルに案内する。クッションはギリギリで足りそうだ。


 まぁ、フワフワのカーペットの上だから大丈夫だと思うけど、リーナ様には床に直接座る文化は馴染みがないだろうからどうだろう。若干心配だったが特に何も言われず、ジャンパースカートの上に羽織っていたスプリングコートを脱ぐのでコートを預かる。 


 しかし、一人暮らしの部屋だからこの人数で集まるとちょっと狭く感じるな。ま、仕方ない。


「お待たせしました」


 紅茶のティーカップと、ティーポットやミルクと砂糖を乗せたお盆を運んできた飼い主さんから受け取ろうとしたが、クリームパンお願いできると言われたので冷蔵庫に向かう。


 駅前の美味しいと評判のパン屋さんのクリームパンだから買うの大変なのにいつの間に買っていたんだろう。5個入りの一袋を買っていたようで、数が足りてよかったとホッとしながら人数分お皿に盛って部屋に運ぶ。


 紅茶を淹れていた飼い主さんが、丁寧に皆の前にカップを置いていく。何だろう、執事か何かのようだ。


「クリームパン持ってきたよ」


「ありがとう、佐藤さん。はい、冷めないうちに紅茶をどうぞ」


 リュイさんは私からお皿を受け取ると、私の分であろう紅茶を手で示した。場所は、リーナ様とリュイさんの間か。リーナ様はクリームパンを早速食べていた。目が輝いているから相当に美味しかったのだろう。クリームパンで有名な店だから気に入って貰えてよかった。


 リーナ様の隣に座ればじゃれつくように私の腕に両腕を回してしなだれかかって来た。あれ、こんなスキンシップ過多の人だったかなと思いつつもクリームパンを一口かじる。フワフワのパンと口いっぱいに広がる新鮮な牛乳で作られたミルクのコクを感じる、ほどよい甘さのクリームの頬が落ちてしまいそうだ。


「貴方、佐藤さんに近すぎはしませんか?」


「だって久しぶりに会えたんですもの。これ位良いじゃありませんか。リュイ様はいつも会えるんだから、今日くらい私に譲ってくださいな」


「手紙にも書いてあったけど、リーナさんは本当に佐藤さんが好きなんだね」


 え、そうなの? それは、嬉しい。


「そんなにくっついたら、佐藤さんの迷惑になるでしょう」


「え、柚月様は私のことお嫌い?」


 天使のように愛らしい美少女が、傷ついたような表情を必死で隠しながら上目遣いにこちらを見てくる。


「そんな訳ないでしょう。私はリーナ様のこと大好きですよ。今日は遊びに来てくれてありがとうございます。とても嬉しい」


「ありがとう。私も好きです」


 頬に柔らかい感触がして思わずリーナ様の方を見れば、絡んでいた腕が離れ真っ赤になった頬を押さえながら「柚月様とキスしちゃったー」と嬉しそうに揺れていらっしゃった。そんな可愛い反応をされるとなー。


「あらあら、そんなに嬉しそうな顔をされるとこちらも理性を失くしてしまいそうだわ」


 リーナ様の長い髪に指を絡めて軽く梳きながら、林檎色の瞳を覗きこむ。うーん、やっぱりこの瞳の色見覚えがあるんだよな。どこだっけ。考えていると後方でガシャンという大きな音がして慌てて振り返る。


「ごめん」


 リュイさんがカップを割ってしまった音だったようだ。魔法でカップが再生し、零れた紅茶は元通りカップに収まる。魔法って便利。


 どこかショックというか焦燥を浮かべたような表情に、さすがに彼氏のいる身でいくら頬キスだし、女の子相手とはいえまずかったかなと、つい高校の頃までの癖で対応してしまった事を申し訳なく思っていると彼の姿がぶれる。魔力の集まる気配にハッとしていると飼い主さんの姿が美しい女性に変化していた。


「佐藤さんはどちらかと言うと女性が好きみたいだから、練習してみたんだけどどうですか?」


 恥じらうように白い頬をバラ色に染め、こちらを伺うように見やる澄んだ切れ長の瞳は懐かしい空色をしていた。

 烏の濡れ羽色をしたさらりとした真っ直ぐな長い黒髪に、いつもより小さく華奢になった体。私よりボリュームがあるお胸に若干悲しくなったが、抱きしめられる体の柔らかさに思わず癒される。

 あ、何か花の様ないい香りがする。リンドウの花を思わせるような、控えめながらも凛とした美しさをもつ女性の姿に、思わず感嘆のため息が漏れる。


「うわー、リュイさん綺麗ですよ。素敵すぎてびっくりです」


「こっちの方が好き?」


 そう言ってすりすりと私の肩に頭を摺り寄せて甘えてくるのは大変に可愛らしいが、抱きしめる腕の強さから何かを不安がっているような。


 あの、私の恋愛対象は貴方だけなんだけどな。


「好きですよ。でも、それは夜柚くんだから。貴方であれば男でも女でも人間じゃなくても、鳥でもライオンでも愛しているわ」


 リュイさんの顔が一気に赤くなる。そのまま姿が再びぶれて馴染んだ青年の姿に戻る。


 エファさんは「どれだけ必死なんだ」と肩を震わせて大笑いしていたが、直後に痛そうに顔をしかめて身体を震わせた。聞こえた音的に飼い主さんが蹴り飛ばしたのかもしれない。


「それで、結局エファたちはどうしてここに来たの?」


 リュイさんがちょっと不機嫌そうなむすっとした表情で嫌々ながら一瞬エファさんの方を見た。それ、とても気になっていたので私もエファさんの方を見る。青藍の瞳と目があった。


「あー、ちょっと季節外れだけど餅食べないかなって」


 そういって唐突にこの場に鏡餅が登場。あれ、すごく見た事があるんだけどこれって。


「ユグドラシルの最高神がどうしてここに!?」


「あー、依代を変える時期か」


「そう。神が抜けた後の餅を食べると無病息災、健康長寿が得られるから是非どうぞ」


 鏡餅なあの神は1年に1回のペースで新しい鏡餅へと移り住むらしい。という事は。


「最高神の本来の姿は餅ではないのですか?」


「違うよ。本性は光の玉だったかな。人型も昔は取っていたけど、母さんが死んでからは専ら鏡餅の中に引きこもっている。この餅、食べるとご利益は凄まじいので、どうぞ佐藤さんが食べてください。君には出来るだけ長く生きて欲しい」


 切実な思いを秘めた声音に私はハッとする。死すべき人間と永遠に近い時を生きる神。その寿命の差はどうしても埋められない。いつかきっと私はリュイさんをおいて逝く。


 彼の手が腰に回って抱き寄せられる。言いたくても言えない「いかないで」が聞こえた気がして胸が熱くなる。


 いつか来る別れの日まで、せめて後悔しないように私は彼に好きを伝え続けよう。それしか、私に出来ることはないのかな。















 最高神の抜け殻な鏡餅で飼い主さんが作ってくれたお雑煮は、大層美味しかった。すまし汁に丸餅で具材は他にほうれん草と鶏肉、かまぼこが入る佐藤家のお雑煮だった。飼い主さんはいつの間に家のレシピを覚えたのだろう。


 そういえば、お雑煮のお餅って地域によって丸餅か角餅かに分かれるし味付けも違うんだよね。いつか、他の地域のお雑煮も食べてみたい。


 大人組な三人は、リーナ様が持ってきたお酒をいつの間にか酌み交わしあっていた。私ももう少し大きかったら参加できるのにと思いながら、未成年な柚月さんは一人ウーロン茶を飲む。


 リュイさんが作ってくれた酒のつまみらしき、焼きアボカドや茄子の煮びたし、ハニーソースが掛かったから揚げなどのおかずも美味しい。あー、早く20歳になりたい。


「そういえば、プロポーズを受け入れて貰ったんだって? 結婚式はいつ挙げるの?」


「決まっていない。そもそも、佐藤さんはまだ学生だぞ」


「それもそうか。でも油断していたら誰かに取られてしまうかもしれないよ」


「いや、私はリュイさん以外と付き合うつもりはないので、無用な忠告です」


 私がキッパリ言うと、リュイさんが嬉しそうに抱き着いてきた。何て尊いんだ。守りたい、この笑顔。


「ふふ、結婚と言えばリュイ様。勇者様から聞いたのですが、日本にはこんな問答があるそうですよ」


 リーナ様はにやにやとした笑みを浮かべてリュイさんに近づくと、リュイさんの耳に何事か囁く。ちらちらとこちらを見るリュイさんに何だか嫌な予感がしてくる。気のせいだと、いいな。






 珍しくリュイさんが酒に酔って寝落ちしてしまったので、毛布をかけて寝かせておく。リーナ様は、地球の歌番組に興味津々らしくエファさんと一緒にテレビを楽しそうに見ていた。私はそれに軽く微笑んでお皿を重ねて、流しに持って行く。袖をまくって、スポンジに洗剤を付けたところで声が掛かった。


「手伝うよ」


「別にいいんですよ、リーナ様と一緒にテレビを見ていても」


「貴方は僕たちの使用人じゃないんだから、佐藤さんだけに片付けをさせる訳にはいかない。まぁ、リーナさんは生粋のお姫様だから、家事を頼むのは向かないだろうけど」


 うん、私もリーナ様に何かをさせようとは思わない。洗い終わったお皿を渡してエファさんに拭いてもらう。


「佐藤さんに斬られたことで、僕にかけられていた魔法の糸が切れた事には気づいてる?」


「あー、何か切ったなとは思いましたが、具体的にかけられていた魔法の内容までは分かりません」


「あの後、よくよく自分を探っていたら君に切られたとき、僕にかけられていた精神干渉の呪いも破壊されていて、その残滓だけを見つけることが出来た」


 今日もその事を確かめたくて彼を部屋に入れたから、二人で話せる時間が出来たのは有難い。そうじゃなかったら、家宝の力で追い出していた。


「弟が生まれたことは本当に嬉しかったんだ。母さんがいない今、小さい弟は僕が守らないと、と思って接していたんだよ。あの母さんの色をそのまま映した瞳も大好きだった。でも、ある時を境に彼のことが憎くてたまらなくなって、自分の大切な者を守るためには彼を殺さないといけないという声が、頭を流れるようになった。本当は傷つけたく何か無かったのに傷つけるようになった」


 悲しみと後悔を背負った罪人のような表情に、私は息をのむ。


「だからさ、本当は君に殺されたかったんだ。そうされなければ、僕は止まれないから。でも、佐藤さんが罪悪感なく殺せるように憎しみを煽っていたのに上手くいかなかったね」


「えーっと、何度も言うけど私は殺人犯にはなりたくないので、貴方を殺すつもりは最初からありませんでしたよ」


「あー、うん、そうだよね。だからこうして僕が望んだ形とはちょっと違うけど僕を止めてくれた君には感謝しているし幸せになってほしい。そして、今まで良い兄では無かった分、せめてあいつを不幸にしたいと望む奴は始末しておきたかったんだよね」


 不幸にしたいと思うって、え、何。やっぱり、あの黒いローブを着た女だろうか。それがエファさんに魔術をかけた可能性があるってこと?


「光の神として生まれた僕に対して完全に思考を操る魔法をかけることは出来ない。離れていれば術の影響が弱って少しはまともに物を考えられるようになる。そこで考えたんだ。態とディースに協力したフリをしてとりつかせ、逃げられないように僕ごとあの神剣に貫かせて死のうと思っていた」


 黒いローブの女はディースと言うらしい。ってか、女神様から頂いたあの剣って神様も殺せるような凄いスペックの剣だったのね。神々の黄昏の時も、ディースは私の事も闇の神と共にいるという点で邪魔だと思っており、私を誘拐したら絶対に自分で殺すために来るだろうと踏んであの計画を実行したらしい。


 とはいえ、何か理由があってなのかいつまで待っても来ないし、計画と違って私を助けにリュイさんが来てしまったから作戦を変更して、少しでもリュイさんの敵を減らすために自殺しようと思ったらしい。


「世界樹の生贄は僕を放り込めばいいと思って、あんなに敵愾心を煽っていたのに二人して自分の身を犠牲にしようとしているんだもんな。相手が優しすぎることに怒りたくなったのはあれが初めてだよ。貴方が生きていてくれて良かった」


 泣きそうな顔するんじゃないよ。罪悪感が酷くなるだろう。


「日本に居るあいつに手を出さないとも限らないからさ、気を付けといて」


「気を付けるって。あの、私は何をしたら」


「夜柚のこと、ずっと好きでいてほしい」


 真剣な声音で告げられた言葉に私も居住まいを正す。呪いによって愛情を歪められた彼が言うと重い台詞だ。私も覚悟を決めよう。大丈夫。そんな事言われるまでもない。


「大丈夫。ずっと愛していますよ」


 私の返答に、エファさんがふっと優しい笑みを浮かべた。


「でも、貴方が死んだら真相は誰も分からない訳で、リュイさんが苦しみ続けるのは変わらないのでは?」


「僕達とは違う正義を執行している日奈君にも、精神干渉は効かない。それに冬歌君と何より佐藤さんがついているなら大丈夫だよ。だから、後は任せようと密かに情報を日奈君には流していたんだけど、まさか物理的に排除しようとするとはね。日奈君には悪いことしたな。星宮さんにはお礼しないと」


 いや、ちょっと待て。佳乃子さんには感謝してるのかい。私の表情を見て、エファさんが慌てて言葉を紡ぐ。


「あ、勿論、日奈君の事では佐藤さんにも感謝しているよ。そうなると、君には借りがたくさんあるな。佐藤さんの望む事なら、何でもするよ」


「いえ、違います。感謝してる相手に対してよく傀儡にする魔法なんてかけたなと思いまして」


 私の怒りに反応して現れた流星刀がアップを始めた。エファさんの顔がひきつる。


「いや、あれは嘘なんだ。星宮さんには何もしていない。ごめんね。あぁ言えば僕を殺してくれるかなって」


 てへっと笑われても可愛くないです。でも、それが嘘で良かった。


「で、ディースさんとは一体どのような方なのですか?」


「全ての生き物の運命を定める運命神で、母さんとは仲が良い幼なじみだったらしい」


 リュイさんが、世界を滅ぼす闇の神だと予言した神か。だから、世界が破壊されないように執拗に襲ってきた訳か。


 リュイさんをよく見ていれば、理不尽に世界を破壊する存在じゃないと分かるはずだけどな。











 結局昨日は夜遅くに2人はユグドラシルへと帰っていった。

 私は今日は佳乃子さんと映画の予定だったから、午後から怖いと話題のホラー映画を堪能し、お気に入りのカフェの新作である苺タルトの美味しさに感動しながら、明後日からの大学生活に思いをはせながらお喋りに興じたのだった。


 そのなかで、佳乃子さんからブーリさんと日奈さんの両方とお付き合いをすることになったと告げられた。いつの間に日奈さんは彼女に告白をしていたのだろう? 


 どちらも好きで選べないからとダメ元で提案したところ、日奈さんとブーリさんは元々仲が良い従兄弟同士だから特に揉めずにこの交際の形態になったようだ。3人できちんと話し合って決めたのなら、私は祝福するだけだ。ご祝儀はいくら包むべきかな。結婚式には呼んでね。


「でも、まさかハーレムを築くのは佳乃子さんの方だったとはねー」


「ま、私の魅力を理解するのは人類にはまだ早かったってことだよ!」


 どや顔が何かムカついたので、軽く叩いておいた。


 それから春物のお洋服を見て、思わず惹かれて買ってしまったワンピースをリュイさんに見せたらどんな反応をするかなと楽しみにしながら帰路に着いたのだが。


 玄関を開けてすぐの居間でリュイさんが出迎えてくれたのはいい。ホワイトデーに贈った紺色のエプロンもよく似合っていてカッコイイ。それは良い。

 でも、何で恥ずかしそうに頬を染めながら待っているの?


「お帰りなさい。ご飯にする? お風呂にする? それとも、俺?」


 突然の新婚三択に、昨日リーナ様が飼い主さんに囁いていたのはこれだったのかと私は思わず天を仰いだ。リーナ様ったら何て知識を教えてしまうんだ。


「ねぇ、その質問の意味本当に分かっているの?」


 心持ち低めの声で問いかけてみる。彼の身体が微かに震えた。


「今日は貴方の好きなオムライスを夕食に用意しているし、先にお風呂に入りたかったらもう湧いているからいつでも入れるよ。そして……俺は柚月さんの物だから貴方の好きにしてくれていいんだよ」


 こういう時だけ名前で呼んでくるのは本当にずるいと思う。誘う様な色気をまとった表情で、彼はエプロンを脱ぐと椅子の背にかけた。人間である私は彼といられる時間は少ない。量が足りないなら質で補うしかないよね、と私は誰にしているのか分からない言い訳をして彼を傍らのソファに押し倒した。


 ワンピースよ、すまないがお披露目はもう少し待ってくれ。皺になるかな? 後でアイロンかけよう。


 嬉しそうにしながらも、押し倒されて盛大に疑問符を浮かべている彼に微笑みかければ、可愛らしい笑みを返してくれる。

 でも、さすがにこの体勢は恥ずかしいのか、やんわりと私の下から抜け出ようとする飼い主さんを逃がしたくなくて、私は彼の弱点を突くことにした。


 頭を撫でながら唇を重ねてそのまま舌を絡ませる。リュイさんは私に頭を撫でられながらキスされるのが大好きだ。読み通り瞳が蕩けて身体の力が抜けていく。


 どこまで許されるのかなという好奇心で太ももをなであげ、シャツのボタンを2、3個外したところで飼い主さんに手を掴まれた。ふむ、成程ここか。


「え、な、何で、こんな」


「3つ目の質問の意味なんだと思っています?」


「さ、最近引っ越しの準備や来客で佐藤さんにあまり構ってもらってなかったから、抱きしめて欲しいと思って、ひゃあ!」


 あ、帰ってきてすぐだから手が冷たかったかな。それは申し訳ない。困惑だけで嫌がっている雰囲気はしないから、何処まで許されるのかを探る行為はもう少し続けてみる。


 シャツの裾から手を入れれば、一見華奢で細く見えるのに綺麗に割れた腹筋の感触がして驚いてしまう。あれー、筋トレしているの見た事なかったんだけどな。


 まぁ、四六時中一緒にいる訳じゃないからきっとどこかでしてたんだろうな。触っていた手を抜けば、飼い主さんが露骨にホッとした顔をした。やばい、寒かったかな。ごめんね。でも、ここでちょっと大事な事なので聞いておきたい。


「ふーん、夜柚くんは相手から何をされるのか分かっていないのに、こんなに許しちゃうんだね。他の人にもされてないか心配になっちゃうな」


「貴方以外は嫌ですよ。佐藤さん以外にこんなことされたら消します」


 真顔での本気のトーンに思わず背筋が寒くなるのと同時に、許されている特別感で嬉しくなる。


 リュイさんの上からどいて、念のためエアコンの温度を1度上げ、その後は彼の望み通り満足するまで抱きしめて頭を撫でてあげるセラピーに徹したのであった。




 鋼の理性って何処で買えますか? 言い値で買い取りますよ。




 ちなみに、翌日の入学式の新入生総代がまさかのブーリさんだったり、その話をしたらリュイさんまで大学に同級生として何食わぬ顔で通うようになって、1年生には双璧の美をなす王子様がいると話題になるのだが、それはまた別のお話。

やっと、飼い主さんの女性バージョンを出せたので、満足です。

ところでエファさんとリーナさんは、この場に馴染み過ぎじゃあないだろうか?

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