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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第2章 VS魔王編
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傷つける裏切りの枝

 一瞬心配になったが、よく考えればあの場には世界最強の魔力を持つリュイさんを筆頭に、愛の神と魔王が味方として付いているのだから友人の身の安全は大丈夫だろう。むしろ、オーバーキルか?


 しかし、鏡餅がゆらゆらと宙を飛ぶ光景って。最高神ってもっと格好いいものだと思っていたんだけどな、と零れそうになる笑いを耐えるために唇を噛んで俯く。


 プルプルと震える体に、ショックを受けていると勘違いされたのか、エファさんが一瞬顔を歪めた。

 だから、悪役なら最後まで悪役らしくしておいてくれ。どうしたらいいか分からなくなるだろう。


「面倒だな。ここで倒しておかないと大陸中が焦土になる」


 ブーリさんの言葉に冷や汗が流れる。そんな危険なモンスターを軽率に召喚するんじゃない!

 大蛇が炎を吐いたが、ブーリさんの張った結界に防がれる。おー、さすがー、と思ったところで鏡餅が加勢した為に結界が壊される。危ない! と叫んだところで元の竜の姿に戻った日奈さんが守るように前に立ちふさがってくれたので、皆には怪我は無かった。良かったけど、日奈さん大丈夫かな?


「ごめんね! 痛む?」


 攻撃が止んだところで、佳乃子さんがオロオロと鱗を撫でる。


「これ位の攻撃なら平気だよ。でも、まさかミズガルズが出て来るとはね」


 警戒したような声音に、気になってスマホで検索してみると、このミズガルズは、神の怒りの代弁者とも呼ばれ天災の代名詞にされている伝説の生き物らしい。

 地上の生き物が欲を出して神の許容できない罪を犯した際に、天罰として世界を荒らして回るのだ。

 しかし、今まで1回も出現したことが無いので、実際は子どもへのしつけの為に使われる悪魔のような位置づけらしい。でも、本当に実在したんだね。


 因みに、このミズガルズは不死身であり、唯一殺せる武器はレーヴァティンという剣しかないらしいが、何処にあるのか本当に実在するのか不明な剣らしい。

 え、それ、まずくない。一気に冷や汗が出る。


 今度は鏡餅が光のビームを放ってくるが、リュイさんが闇の膜で包んでそれごと消し去る。それを見て焦ったようにダイダイの色が青に変わり、葉っぱが忙しなく揺れる。


「お、お主の大切な者の元には光がおる。お主も儂と同じ絶望を味わうが良い!」


 苦し紛れに放たれた鏡餅の言葉に、画面越しでも空気が凍りつくのを感じた。真っ青な顔でブーリさんと日奈さんがチラチラとリュイさんを見る。


「邪魔だな」


 ポツリとリュイさんが呟いた瞬間、連続的な雷が大蛇と鏡餅に落とされる。悲鳴を上げてのたうち回る蛇の尾が鏡餅に命中し、鏡餅は思いっきり地面に叩きつけられる。嘘だろ。これが、最高神とかこの世界大丈夫か(2回目)


「あぁ、蛇を相手にするならこちらのほうが良かったか」


 何の色も宿さない瞳は、一瞬だけ地面に落ちてピクリとも動かなくなった鏡餅に向けられる。だが、すぐに視線は大蛇へと移る。


 瞬間、夏の街に見上げるほどに巨大な氷山が出現した。氷は大蛇の身体を覆い尽くして完全にその動きを止める。


「あとは、分かっているよね。……日奈?」


「いや、もう僕がトドメを差さなくても」


「日奈?」


 リュイさんが目線を向けると、魔王はビクリと体を震わせてから、こくこくと頷き、刀身に呪文が刻まれた美しい剣へと変わった。剣には雷が纏わりついている。


「あいつ、レーヴァティンでしか倒せないのですよね。すみません、星宮さん。俺が力を奪ったから、これでとどめを刺してもらえますか?」


「僕は人の手にしか扱えないからね。怪我はさせないから安心して」


「は、はい!」


 佳乃子さんがおっかなびっくりと言った雰囲気で剣を手にする。あれ、でもなんか勇者の本領発揮で格好いいぞ。






「魔剣を手にする勇者なんて初めてじゃないかな」


 日奈を手懐けるとは、勇者に選ばれるだけはあるのかと感心したようにエファさんが呟く。そんな時だった。


「あら、貴方だけでその猫を殺すと言うの? お楽しみには私も混ぜてちょうだいな」


 聞き覚えのある冷たいが、艶のある色っぽい声に見れば黒いローブを被った女がいた。この人もエファさんの仲間だったのか。


「あー、そうだね。でも君には実態が無いだろう? 君が手を下したいと言うのなら僕の身体を使うと良い」


 エファさんは甘く微笑むと、女性の身体に腕を回して引き寄せた。途端、女性が空気に溶けるように消える。エファさんの中に入ったのか? 彼が私に目線を向けると、私に対して魔法が発動して、見慣れた黄色い猫ではなく人間の姿に戻っていた。


「抵抗、してくれてもいいんだよ」


 出来るものならやってみろ、という冷たい目を見て火が点いた私は再び流星刀を召喚して構える。無力化しようと、跳躍して刀を一気に振り下ろす。


「足りないな。それじゃあ、僕を殺せない」


 着地したところで、いつの間にか傍に居たエファさんに流星刀の柄を捕まれる。体が硬直する。確実に切ったはずなのに何の反応もなく普通に動けるなんて、やっぱりこの神強い! 別の家宝を呼ぼうとしたところでエファさんが刀を動かし、一気に自分の胸を貫いた。


 断末魔のような女の悲鳴が辺りに響く。何が起こったのか分からずに、私はただ茫然とエファさんを見やる。苦し気に彼が顔を歪めた。吐く息が荒い。胸元がどんどん赤い血で染まっていく。


 は、え、何で。


「ずっと、この時を待っていた」


「何故だ! お前まさか。 何故、愛情は消したはずなのに!」


 女の叫びに彼は冷えきった無表情で告げた。


「俺を見くびったのが、お前の敗因だな。……今も昔も僕にとっては愛しい弟に変わりはない」


 え、最初から何か仕組んでいたってことなのか。

 もしかして、彼が色々こちらを苛立たせるような事をしていたのは、自分と一緒にこの女を殺させるため。つまり、わざと何だろうか。もし、そうなのだとしたら。彼は愛しい弟だと言っていたから、この女がリュイさんとブーリさんの真の敵だという事になる。飼い猫(仮)としては見過ごしてはおけない! でも、あれ? ということは。


「最良の人間のすることは全て善と言うわけではない。ならば、最悪の人間がすることがすべて悪と言うことなどあるだろうかby佐藤!」


 いやそれ、ウィルキー・コリンズの名言! という友人のツッコミは聞こえない。

 水晶玉には、大蛇を一刀両断にした友人の姿が映っていた。大蛇の身体は一瞬光に包まれると、ガラスが砕け散るような音と共に光の粒となって空へと昇る。


 友人が頑張ったのだから、私も意地を見せないとね。


 とはいえ。一番面倒くさいパターンだ。憎めなくなっちゃうよ。本当に仕方がないな。


「今、楽にしてあげますよ」


 剣を掴みなおして、魔力を通す。ぐっと力を込めてさらに深く突き刺せば、ごふっと唇から血が垂れる。


 でも、その顔は何処か安心したような、息が止まるほどに綺麗な笑みを浮かべていた。


「夜柚をよろしく」


 力尽きたのか、目を閉じて地面に倒れ込んでしまう。いや、死なせないから。彼の体の中にいる女めがけて流星刀の力を行使する。

 流星刀は元々精神を切る刀だから、物理的に相手を傷つけることは無い。

 ただ今回は、エファさんが自分でこの刀を使ってしまったから所有者の危機だと思って、刀が過剰防衛モードになり、結果大けがをさせてしまったのだろう。

 なお、流星刀は本来敵の精神を切る為の刀なので、実はこの傷、ただそう見えるだけであり、実際は体に傷がついてなどいない。

 しかし、リアルな痛みの感触と血の映像を見せるため、相手は勝手に助からないと思いこみ、結果本当に死んでしまうのだ。


 確かな手ごたえに私はニンマリ笑って、女の身体を切り刻んだ。ん? 何か今、エファさんに掛けられていた精神干渉の術まで間違えて切ってしまったようだけど、まぁ、碌なモノじゃないだろうからいいか。さて、トドメだと、息を吐いたところで、女はなけなしの魔力を行使してエファさんの中から逃げ出した。あ、こら、待て! まぁ、でもあれだけダメージを与えたら早々に復活はしないだろうな。


 さて次は、と私はエファさんに掛かっている流星刀の術を解除した。地面に転がしておくのは「人には特上の優しさで接しなさい」という家訓の元に育ったなけなしの良心が痛むので、座って膝に彼の頭を載せる。

 膝枕をするのが、可愛い女じゃなくて申し訳ないが、我慢してくれ。


 早く起きないかなーと思っていると、可愛らしい猫の鳴き声が聞こえた。あれ、なんでここにメルさんが。日奈さん達と一緒に居るはずでは?


 白猫のメルさんはトコトコとこちらに近寄ってくると、エファさんの顔の前で足を止めた。そっと、前足をエファさんの頬に押しあてる。赤い瞳に浮かぶ感情は驚くほど人間臭かった。何となく声をかけるのも憚られて、私はそっとメルさんの挙動を見守る。


 猫の身体から回復魔法が放たれる。異世界の猫って魔法使えるんだ。道理で私が驚かれない訳だと戦慄していると、エファさんが身じろきした。安心したようにメルさんが息を吐く。その仕草も何だか人に見えて来る。メルさんは、私に向かって可愛らしく鳴くと、私が差し出した手にすり寄りその場から掻き消えた。後は任せた、と言われたような気がする。


「ん。ここは···」


 瞬間、ハッとした顔になりエファさんが飛び起きた。


「おはよう。さっきはよくも人を殺人犯にしようとしてくれたね」


「何で。僕が嫌いになった筈だろう。何故殺さない?」


 睨まれても、正直怖くない。だって今私は怒っているのだから。エファさんの目線が流星刀に向いた為、反射でその柄を握る。


「それに、その剣は。そうか、あのルビーから作った剣ではなかったから僕は死ななかったのか」


「ルビーの剣って?」


「星祭りの時に貰ってない? あの剣なら僕ごとあいつを殺せたはずなのに。まぁ、大分力を削ったようだからしばらくは来ないだろうけど」


 ルビーの剣ってあの女神様から貰った剣だよな。流星刀と姿が似ているけど、あの剣には明確な殺傷能力があるから個人的に怖くて使えないんだよね。殺人は絶対ダメな国で育った日本人にそんな危険物持たせてんじゃないよ。


 あと、なんで私はエファさんに責めるような目で見られないといけないんだ。


「次はちゃんと殺してね。でももうこの手は使えないな」


「何度同じ状況になっても私は君を殺せないよ」


 驚いたような青藍の瞳がこちらに向く。いや、何故そこで意外がるのだ。


「嬉しかったんですよ。やっぱり君が優しい人だって分かったから。だから、殺さない」


 それに、せっかくリュイさんの味方をしてくれる仲間が増えたのに、それを殺すなんて愚かな真似が出来る訳がない。こっちはあの女の正体も知らないのに。


「優しいのはどっちなのかな。止めてよね。これ以上甘い毒を与えられたら、君に助けて欲しくなる」


「良いじゃないですか。私だって夜柚君の事が大好きです。彼の敵は私の敵でもあります。だから、貴方は私に引け目を感じる必要はない。好きなだけ私を利用しろ」


 君は悪役が向いてないんだよ、と笑えば不機嫌そうに頬を膨らませた。その顔が、拗ねたときのリュイさんによく似ていて、やはり血を分けた兄弟なのだと思う。


「まずいな、そろそろ乗り込んできそうだ。話はまた今度ね」


 エファさんが私の頭を一撫でする。気づくと私は瓦屋根の続く街に戻っていた。姿はまたもや巨大な黄色い猫に変わっている。嘆息していると、暖かい腕にぎゅっと抱きしめられた。


「佐藤さん、良かった! エファと一緒だったみたいだけど大丈夫? まぁ、エファは俺以外を傷つけたりは普通しないけど」


 と、言いつつ心配そうに私が怪我していないか丁寧に調べられる。微妙にくすぐったい。皆は大丈夫かなと視線を反らせば、ブーリさんが元の白鳥姿に戻って鏡餅を持ち上げると、空の彼方に放り投げているところをバッチリ見てしまった。

 仮にも最高神なはずだけど、まぁ、いいか。見なかったことにして友人は大丈夫かと、彼女の姿を探して視線を彷徨わせれば、佳乃子さんの手から剣が離れて人の姿を取ったところが見える。


「日奈さん、剣の姿にもなれるんですね。お陰で蛇さんやっつけられたよ。ありがとう」


「僕は別に何もしてませんよ。ほとんど夜柚が八つ当たり気味に倒していただけだし」


「ううん、貴方と一緒だったから心強かった」


 そう言って、にっこり笑う佳乃子さんに、一瞬日奈さんが呆けたような表情を見せる。気を取り直す為にか咳払いをして、日菜さんが言葉を返す。


「そう。剣として誰かの力になるのは初めてだったけど、貴方の力になれたのなら良かったかな」


「へー、じゃあ、私が日奈さんの初めてもらっちゃったんだね。それは、嬉しいな」


 口角を上げて、蠱惑的な笑みを浮かべる佳乃子さんに日奈さんの顔が一気に赤くなる。あの、天然小悪魔が!


「日奈?」


「大丈夫、僕は何も変なことは考えていないから!」


 地味に笑っていない笑顔のブーリさんが怖いのと、珍しく慌てている日奈さんが面白い。


「ねぇ、俺の事も見てよ」


 耳元で囁かれる、掠れたような声の切ない懇願に背筋がゾクリと震える。リュイさんの方に目線を向けるが、その拗ねたような目は駄目だ。私の中の獣が荒ぶってしまうだろ! 脳内で滝行をして何とか心を冷静に保とうとしているのに、私の愛しい恋人はすっと目を細めると、自分の唇を指で一撫でし、次いで猫な私の口元を誘うようにゆっくりとなぞり始めた。

 刺激的な行為に、ただでさえ細い理性の糸がプツンと切れる。


 キスが欲しいのかなと、頭では予想を立てるが、口元にある白くて長い指をパクリと口に含んで、飴玉よろしく舐めしゃぶっていく。


「は、え、柚月さん……!?」


 私の反応に戸惑っているせいか、珍しく名前呼びなのに気をよくして、指を舌で舐め上げればリュイさんの身体が震える。


「んくっ!  おねがい……。やめて」


 あー、うん。これ以上は人目もあるし駄目だね。別に泣かせたい訳ではないので、震えた声と涙のにじむ目元をみて私は口から指を離した。

 全く、そんな露骨にホッとした顔見せるなら、気安く私の理性とチキンレースしようとしないでほしい。

 私はお詫びの意味を込めて、軽く彼にキスをした。

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