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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第2章 VS魔王編
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プリムラ・シネンシス

「お断りします。私は夜柚君の事が大好きですから。彼はとても優しい人ですよ。世界を滅ぼす力だけを恐れて彼の本質を見ていない貴方に夜柚君の親を名乗る資格はない」


「殺せ。殺さないといけない。それがお主を呼んだ理由だ。拒否は許さない」


「何故私が貴方の言う事を聞かないといけないんですか」


「お主ならあやつも抵抗しない。闇の神を殺すのだ」


 言葉が通じない。何だか頭痛がしてきた。壊れたカセットテープみたいに、闇の神を殺せという言葉しか繰り返さなくなった鏡餅に、私はうんざりとした視線を向ける。


 五月蠅いな。お汁粉にして食ってやろーか。


 そもそも、我が家の家訓は「人には特上の優しさで接しなさい」で、その教えを聞き続けて育った身としてはその考えに頷けない。


 埒が明かないと、これ以上鏡餅から放たれる呪詛の様な言葉を聞いていたくなくてクルリと背を向けたのだが、そこでエファさんに後ろから抱き着かれそのまま別の部屋に転移してしまった。


 はい? 


 ボスンとベッドの上に落ちた私の上にエファさんが圧し掛かってくる。地味に重い。そのまま無遠慮に毛並を撫でられて、不快感から背筋に寒気が走る。


「まぁ、毛並は綺麗だし勇気がある子だなとは思うよ。でも、どうしてそこまであいつが入れ込むのかは分からないな」


 特に興味も無さそうな冷めた目なのに、私を離してはくれない。何だ、どういう状況だ、これ。


「ねぇ、ところで君と一緒に来た勇者って何者なの。こちらの意に添わぬことはしないように召喚術式の中にこちらに有利なパペットになる魔法を仕込んでいたのに効いてないみたいだけど」


 は、今何て言ったこの馬鹿ライオン! 佳乃子さんに魔術が効かない理由に若干の心当たりはあるがそれを答えてやる義理はない。もう、君なんかお友達じゃないよ! ふむ。私の家宝でお仕置きしようか何て思っていると。


「ま、今となってはどーでもいいか。さーてと、愚弟が大事にしているものなら、僕の手で傷つけたらどんな反応をするのかな」


 嗜虐的な声音に私は身の危険を感じる。仲が良かったころと性格が違い過ぎないか。可愛い君は何処に行ってしまったんだ。佐藤さん、悲しい。


 頭を撫でていた手がゆっくりと滑り降り、何か呪文を唱えたと思ったら、私の姿は馴染んだ黒髪黒目の少女の姿に戻っていた。


 エファさんの手が私の首にかかる。まだ、力は籠められてないけど何かまずい気がする。


「貴方と私は友達ですか? 気安く触らないでください。不愉快です」


 いや、この返答は可笑しいな。ちょっと、冷静になろう、私。


「この状況でもまだそんな強がり言えるの。男と女では力が違うからほら、簡単に抑え込める」


 片手で私の両腕を一まとめにしてベッドのシーツに縫い付けると、何処か狂気をまとった青藍の瞳が私を見下ろす。


「何でこんな事を?」


「うーん、大切な人をあいつに殺された復讐かな? まぁ、復讐心は父さんの方が強いんだろうけど。あー、その黒髪あいつと同じだから本当に気分が悪い」


 大切な人を殺された? 優しい性格をした飼い主さんが理由もなく誰かを害するとは思えないし、何があったんだろうと次の質問を考えあぐねている間に、徐々に首を絞める手の力が強くなっていく。片手とはいえ、苦しい。何で、ここまで嫌われたかな。正直、悲しい。


 突破口を考えるためにエファさんの顔を見て私は息をのむ。


「何で、君が泣くんだよ」


 泣きたいのはこっちだ。手首を抑える手を振り払い、彼の目元の雫を指ですくいとる。ハッとした顔をして首に掛かった手が緩む。


「うそ、何故。僕は、佐藤さんの事なんて……」


 エファさんも予想外だったのか、かなり狼狽している。


 このチャンスを逃すわけにはいかない。よし、流星刀を召喚しよう。イケメンだから何しても許される何て思い上がるなよ。


 召喚しようとしたところで、私が首にかけていたペンダントが眩い光を放ち、エファさんを思いっきり吹き飛ばした。


 壁にたたきつけられたせいか、エファさんが激しくせき込む。その体にはいつの間にか無数の切り傷が出来ていた。


「忌々しい。あいつの守りか」


 舌打ちをしてよろよろと立ち上がった彼の青い瞳はこちらに対する怒りで燃えているかのような光を宿していた。私は縋るようにぎゅっとペンダントを手に握りこむ。私はあきらめが悪いんだ。


「未来は運命と共にある。現在は私たち自身のものだBy佐藤!」


「それ、アーサー・コナン・ドイルの名言! 私の大切な友人に手を出そうなんていい度胸してるじゃないの」


 バーンと大きく扉が開き、聖剣を引っ提げた私の幼馴染は目が笑っていない笑顔で部屋の中に入って来た。すらりと聖剣を鞘から抜くと、佳乃子さんは私に目線を向ける。


「わぁ、可愛い女の子の姿に戻っていたんだね。やっぱりそっちが私は落ち着くし好きだな。あぁ、それでこの剣の中の人が暴れたいみたいだから封印解こうか」


 私は頷き、家宝の青い星紋が刀身に散った流星刀を構える。聖剣と流星刀の刀身を触れ合わせれば、刀から青い星が浮かび上がり聖剣へと光が降り注ぐ。光が辺りに満ちて、佳乃子さんが反射的に剣から手を離せばそれは徐々に王冠をかぶった美しい白鳥の姿を取っていく。


「よぉ、くそ兄貴。よくも僕を剣に閉じ込めてくれたね。それに佐藤さんに対して何てことしているんだ! ……無事で済むと思うなよ」


 超絶おこなブーリさんが登場しました。え、聖剣に閉じ込めた犯人ってこの光の神だったの。


 ほーう。なるほどね。エファさんの青藍の瞳が驚愕の光を宿す。


「え、嘘、ブーリ君が僕に怒っている?」


「今度は貴方が復讐される側になっているっていつ気付くのかな。とりあえずさ」


 不愉快だからちょっと帰ってくれる?


 詳細は省くがいつも温厚な人を怒らせてはいけない事を私は学習した。どうしよう、ちょっとエファさんに同情しちゃう。エファさんをお家にお帰り! した後、人型をとった彼は妙にスッキリとした爽やかな笑顔で私たちに向き直った。


 いつまでも、ベッドの上に座っている訳にはいかないなと、再度スカートを整えて直してから立ち上がろうとすれば、ポケットに重みが。


 テレレレッテレーン! 佐藤さんはスマホを手に入れた! 


 そう言えば召喚される際にスマホはワンピースのポケットに入れていたな。エファさんも一つはいい仕事をするではないか。


「初めまして。僕の名前はブーリ、この度は兄が迷惑をかけたようで本当に申し訳ありません。この償いはいずれ必ず」


 真摯な口調で謝罪するブーリさんに私はブンブン首を振る。隣の佳乃子さんを見れば、微動だにせずに頬を赤く染めてブーリさんをじっと見つめていた。


 あ、またか。


 確かに彼はきらきらとした美しい白銀の髪に、古代の森を思わせる深いエメラルドグリーンの瞳をした、粉雪の精霊かはたまたダイヤモンドの化身かとも言いたい美しい容姿の持ち主だから、それは佳乃子さんも見惚れちゃうよね。


 なんて一人うんうん納得しているとブーリさんはすっと片膝をついて佳乃子さんの手をとり、その手の甲にちゅっとキスを落とした。


 うわー、お姫様に忠誠を誓う騎士の図って感じで様になるなぁ。この挨拶の光景を見るのは本日2度目だが美形兄弟だけあって本当に映画みたいで目の保養だ。

 これで、私の飼い主さんもしてくれたら鼻血が出ちゃうな。佳乃子さんも黙っていれば可憐な椿の花がよく似合う古風な美少女だし。


 長い睫ごしに、潤んだ緑の瞳が佳乃子さんを射抜く。


「封印から解いてくれてありがとう。……でも、僕は貴方になら囚われてもいい。どうか私を好きになってくれませんか?」


 あれ、その台詞はどこかで聞いたような。あ! 前に赤べこちゃんとブーリさんと綺麗な満月を眺めていて、そこから日本では愛しているを「月が綺麗ですね」と表現するのだと言う話を私がしたのだ。それから何故か自分なら「愛している」という言葉をどう相手に伝えるかという話になって、それでブーリさんが言った台詞が今の言葉だ。自由を愛する彼らしい愛の言葉だと思っていたのだが。


 え、まさか。佳乃子さんにもついに春が! ブーリさんったらいつの間に佳乃子さんを好きになったんだろう。


 いや、彼女はとてもいい子だからさすが、見る目があるな。だが、待てよ。日奈さんの事はどうなるんだろう。


 私は壁だ、柱だ、消えろ存在感と念じながら息をひそめて先の展開を見守っていると佳乃子さんが動いた。突然手を引っ張られて立ち上がらされたせいで、バランスを崩しかけたブーリさんの腰に手を回して倒れないようにしてそのまま抱きしめる。何その高等テクニック。


「もうとっくに好きだけど?」


 耳元で低く囁く声音にブーリさんの顔が真っ赤に染まる。普段飄々とした雰囲気を崩さない人の本気の照れって美味しいな。


「しまった。何か、柚月ちゃんが乗り移ったかのような振る舞いをしてしまった自分が怖い」


「どういう意味よ、それ」


「あの、なら」


 期待を込めた緑の瞳に、佳乃子さんは困ったような表情を浮かべる。


「友だちとしてなら好きだけど、この感情が貴方と同じ恋情なのかはまだ分かりません。だから、返事は少し待ってもらえますか」


 彼氏が欲しい欲しいと常々言っていた佳乃子さんなら即答でお付き合いしましょう! と答えると思ったが以外だ。

 これは、ひょっとして。

 ブーリさんには強力なライバルがいることを後で教えてあげよう。


「構いませんよ、僕も急に伝えてしまったので。貴方の心が答えを出すまで、何もしないので安心してください。……あぁ、そろそろ戻らないといけませんね」


 ブーリさんがそう呟き、名残惜しそうに佳乃子さんの体を離す。


 それから、私の人間姿はほかの人には馴染みがないからと、何やらブーリさんに魔法をかけられて黄色い猫の姿にされてしまう。最近、こっちの姿でも妙に落ち着くようになってしまったなぁ。彼はまた夜に、という言葉を残して私たちを転移魔法で元居た聖堂に送ってくれた。神官さんたちには何の用だったのかとしつこく聞かれたがあいまいに微笑んで、ちょっとした神託を受けたという言葉だけ返しておく。


 そして、その後は何事もなく夜を迎えたのだが。宣言通り、お城にある私たちの部屋のリビングに遊びに来たブーリさんにまた人間姿に戻してもらう。彼は可憐なピンクの花が可愛らしいプリムラの花束の贈り物をもってきていた。あ、これ本気で佳乃子さんを口説くつもりかな。


 久しぶりに人の姿で夕食後のお茶を楽しんでいると、空間が震える気配がした。誰か来る。


「やぁ、兄さん。久しぶり」


「ブーリ、良かった。無事に出られたんだね」


 リュイさんは、ほとんどタックルするかのような勢いでソファから立ち上がって両腕を広げたブーリさんの腕に飛び込み、頬をすり寄せる。

 飼い主さんは普段クールだけど、好きな人には愛情表現豊かなんだよな。

 いや、イケメン同士の触れ合いって本当に目の保養だよね。癒される。その気持ちはとてもよく分かるのだが。


「佳乃子さん、取りあえず鼻血を拭きましょうか」


 無言で鼻血を垂らす幼馴染に、私はティッシュの箱を投げつけるのだった。いや、怖いわ。


プリムラ全般の花言葉は「あなた無しでは生きられない」です。このお話から、恋愛要素が強くなっていく予定です。


次回予告

「魔王って言うのはね、この世界には必要なシステムの一つなんですよ」

「あの子は俺と違って人が好きだから、現世の中にとっくに紛れているよ」

「ほら、力を抜いて。甘やかしてあげるって言ったでしょう?」

「冬に歌と書いて冬歌と言います」

「白い紫陽花の花園何て幻想的だね!」

〇次回〇 囚われのお姫様を助け出すのも勇者の大切なお仕事です。という訳で佳乃子さん、お城ごとぶっ壊してあげようね。

今月は次回から毎週土曜日夕方18時に更新していきます。次の更新は6日です。




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