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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第2章 VS魔王編
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ユグドラシルの最高神

「へー、貴方が柚月ちゃんの言っていた飼い主さんか。柚月ちゃんがお世話になっていたみたいでありがとうございます」


 飼い主さんからの可愛らしいキスに思考が停止した私を、殴って正気に戻してくれた佳乃子さんが、リュイさんに天使の様な笑顔を向けて挨拶する。


 君は私のお母さんか。


 あと、私の理性を戻すためとはいえ、思いっきり後頭部を殴られるのはマジで痛かったです。私は壊れた電化製品じゃないのよ。


 飼い主さんは、私の叩かれた頭を優しく撫でつつ佳乃子さんにお辞儀を返した。


「星宮さんとは初めましてですね。俺の方こそ、いつも佐藤さんには迷惑ばかりかけているから、こちらがお礼を言わなければいけないのです。本当にいつもごめんなさい」


「いや、大丈夫! 迷惑だなんて思ったことは一度もありません! まぁ、さすがに昨日は驚きましたけど」


「本当にごめん。よりにもよって佐藤さんに対してあんな事。それに、貴方の事が分からない何て。使えない従魔で本当にごめんなさい」


 飼い主さんの纏うオーラが凄まじく重くて暗い。周りに火の玉が飛んでいないのが不思議なくらいだ。


 いやまぁ、大きさや瞳の色も声も変わって完全に別猫になっているから気づかれなかったことはそこまで気にしていないのだけど。こうして分かってもらえて、また飼い主さんに全力で甘えられるだけで私は幸せである。


 ただ、飼い主さんはそうは思えないらしく悲壮な顔つきでこちらを見上げてくる。


 うん、上目遣いとかホント可愛い。アーモンド形の綺麗な瞳から、またもや大粒の涙があふれてくる。


「こんな、どうしようもない使い魔をどうかお仕置きしてください。貴方が望むことは何でもするので、お願いだから嫌いにならないで」


 パードゥン? 喉の奥から絞り出すような悲痛な叫びと震える体に何をそんなに怖がっているんだと、頭の中で理解が追いつかなくてぐるぐると思考が渦を巻く。


 とりあえず、佳乃子さんの「お前普段この人に対してどんな接し方しているんだ」というような冷たい視線が刺さりに刺さって痛いです。


「許すも何も最初から怒ってはいませんよ」


 出来る限りの優しい声で言ってみるものの、あまり効果はない様だ。うーん、どうしよう。


「まぁ、ここにいつまでもいる訳にはいかないし、君たちは話し合いが必要なんじゃないかな。今日は聖杯ぶっ壊すのは止めて、一旦外に出ない?」


 私たちの姿を見て何かを悟ったのか佳乃子さんが優しい笑みで提案してくる。その案に乗ったと頷こうとしたところで、ぎゅっとリュイさんが私に抱き付く力が強くなった。


「あの、佐藤さんは何で魔王の力が封印されている【人魚の涙】や【聖杯】を壊そうとしているの? やっぱり、あの子の方が好きになったの? もう俺はいらない?」


 え、待って。聖杯に彼の魔力が封印されているんじゃないの。佳乃子さんもどういう事だと言う視線を向けてくる。頭の上に盛大なクエスチョンマークが見えるな。


「俺の事は嫌いでもいいから、どうかその剣に囚われたブーリの封印だけは解いてもらえませんか。俺にとっては大切な弟だから」


 リュイさんの視線は真っ直ぐに佳乃子さんが持つ聖剣へと向けられる。


 お前、こんな所にいたのか。


 剣に刻まれた王冠をかぶった白鳥何て姿はよく考えたらまんまブーリさんの本性そのままじゃないか。私ったら何で気づかないんだと、自分の頭をポカポカ殴ってみる。馬鹿でごめんなさい。


 なるほど、リュイさんがハニートラップ仕掛けて来た目的は、ブーリさんが封印された聖剣を奪うことだったのか。


 勇者である佳乃子さんは、神殿から提供された悪魔よけのアイテムがあるから、迂闊に近づけばお城の魔術師にバレてしまう。佳乃子さん自身も、急に自分に近寄ってくるイケメンなんて警戒するだろう。


 いや、うーん、するかなぁ。日奈さんは、完全に友達だと思っている彼女なら、誘われたら嬉々として交際を申し込んで、そのままデートに引っ張っていきそうだ。イケメン大好きだからね。


 まぁ、でも、普通に考えたらただの猫として大してマークされていないが、佳乃子さんとは仲が良い私を懐柔して聖剣を取って来させようとしたのかも。


 本当、仕事を増やしてごめんなさい。


 情報は鵜呑みにするんじゃなくて、きちんと裏を取るのが大事だって、情報Aの授業で学んでいたのに!


「え、このしゃべる剣って中に弟さんが封印されていたから色々話しかけて来たのか。納得だわ」


 佳乃子さんの言葉に現実に引き戻される。そうだ、反省会は後にして今はブーリさんの封印をどうやって解くか考えないと。


 まぁ、毎度おなじみのあの家宝に頑張ってもらえば何とか。


 と、思ったところでリュイさんの身体が透け始めた。今日は割と長くこちらに居られたみたいだが、やはりそろそろ限界らしい。ブーリさんの封印を解いたら彼も助けないと!


「佐藤さんが、危ない時にすぐには駆けつけられないと思うから、俺の代わりとしてこれを持っていて」


 そう言って渡されたのは懐かしい物だった。真珠貝を彫って作った花を模したトップが付いたペンダント。その時は相手が本来の姿に戻った飼い主さんだと知らずに、世界樹の下で出会えた記念に私が贈ったものだ。ずっと服の下に身に着けてくれていたらしい。


 持ち主に合わせて鎖の長さは変わるらしく問題なく私の首にかけることが出来た。


「それ、気に入っているので貴方が元の世界に帰るときはちゃんと返してくださいね」


 何処か寂しそうというか、悲しそうに飼い主さんはそう呟く。あれ、何で別れるの前提? と思ったところで、彼がさっき私に零した不安を思い出す。


 時間がないと、私は彼の顔に頬をよせ、耳元でそっと囁いた。


「明日の夜もおいで。貴方の不安が無くなるまでドロドロに甘やかしてあげるから。ベッドの上で」


 飼い主さんの顔が火が点いたように真っ赤になって私の方がビックリしてしまう。王子モードが多少出たせい? そのまま彼の姿が空気に溶けるように消えた。


 さーて、明日は久しぶりのアニマルセラピー頑張らないとな。私の飼い主さんは夜は眠い人だから、アニマルセラピーしながらそのまま眠れるようにお布団の上がいいよね。お城の寝具だけあってすっごく柔らかくて雲の上で寝ているみたいに寝心地が良いし。










「暇つぶしにこの国の国語辞典を見ていたら、面白いことが分かったよ」


 もう1回情報収集をする必要に駆られた私たちは、王様を拝み倒し、更にリーナ様の協力も得て魔王や闇の神との戦いの歴史や、聖剣についての情報が載っている本を集めた禁書の棚を漁る許可を得た。


 ブーリさんの封印を解く方法も載っていると良いんだけど。本と睨めっこをしていたのだが、魔王討伐の話は冒険小説を読んでいるみたいで面白かった。


 佳乃子さんの先代にあたる勇者も女性で、ここアルフヘイムの第1王女だった。運命神と光の神の加護を受けた強い魔力の持ち主だったようで、最終的には本来の姿に戻った魔王の首を聖剣で掻き切って倒し、封印したらしい。魔王は不死の怪物だから封印することでしか倒せない。


 しかし、挿絵に出て来る聖剣は人面が付いた黄金の剣で、佳乃子さんが持っている剣とは似ても似つかない。まぁ、ブーリさんがこの剣に封印されたことで剣の形状が変わったのかもしれない。


 と、いうように私は真面目に情報を漁っていたが、本来理論より行動派で本を読むことがあまり得意ではない佳乃子さんは、眺めるのが楽しくて好きだと言う国語辞典を本を読むのに飽きるとパラパラとめくっていた。


 まぁ、適度な休憩は大事だろうし、辞典の知識も役に立つだろうから何も言わないけどさ。


「国語辞典には、よくある定番の名前とかも載っていて、名前の意味も書かれているの。だから、ここで知り合った人の名前ももしかしたら載っているかもしれないと、辞書で引いてみたんだけどね」


 おもむろに付箋を付けたページを見せて来る。


 ミオゾティス 意味⇒忘れな草  キャロライン 意味⇒歌


「この言葉何処かで聞かなかったかな?」


 すごく聞き覚えがある。思い出すのは年明けに行ったあの喫茶店での出来事だ。


「あ、幽霊のお兄さんがきょうだいが居る事を思い出した時に呟いていた言葉だよね!」


「彼は妹が二人いると言っていた。そして名前を思い出そうとして出た言葉がこれだ。日奈さんの事を何か知っているのかもしれないね」


 私は頷き、すぐにミオさんとキャロ様に確認しようと席を立った。魔王の姿を描いた挿絵にはあの日見た美しき赤い竜の姿が描かれていた。










 落ち着いて話すには、甘いお菓子と温かいお茶が必要だと厨房のコックさんに頼んで用意してもらったお茶会セットを携えて、私はミオさんとキャロ様を部屋に呼び出した。


 紅茶が良い香りを部屋に満たす。


 今日のお茶請けのケーキは薔薇のジャムを練り込んだムースケーキである。飾りには、薔薇の花を模った林檎のワイン漬けが載っていて大層オシャレである。勿論、味も一級品で上品な甘さで、薔薇の良い香りが鼻に抜けて薔薇そのものを食べている様な気分になる。さすが、お城で雇われたパティシエだ。


「この世界では赤い竜は破壊の象徴なのです」


 ケーキを堪能し、空気が緩んだところでミオさんが切り出した。


「北半球に位置する国々は闇の神を封印した世界樹がある事でどちらかと言えば闇の神を忌避する傾向が強いです。しかし、ここアルフヘイムが属する南半球の国々は魔王の度々侵攻に晒されたために、黒よりも赤を忌避する傾向が強いのです」


「だから、眠り続ける闇の神よりも数百年ごとに襲い掛かってくる魔王の方が実際の被害が出るから脅威だったの。こっちでは救世の乙女が黒髪だったこともあって、黒に関する忌避感が薄れるのも早かった。だから、黒は忌み色という感情は年配の人には多少残っているけど北の国々ほどではないわ。星宮さんは、こっちに呼ばれて良かったわね」


 なるほどね。100年経って黒を忌避する世代が死んで全て入れ替わったから、黒に対しての差別意識が変わったのかなと思っていたけど、こちら側にはより接近した恐怖があったからなのか。


「そして、その魔王は私たちの兄なんですよ」


 やっぱりそうだったのか。でも私たちと話すときは穏やかで優しくて、とても国を滅ぼそうとする魔王には見えなかったけどな。魔王としての記憶が無かったからだろうか。


「兄は母のこの世界を怨み憎む気持ちを糧に生まれて来たので、私たちと違って父親がいないのです。そして、その生まれの特殊さが関係してか数百年ごとに街や国を破壊してまわる魔王としての役目を持っていました。普段はとても優しくて、私たちの事を可愛がってくださるのですよ? でもその時が来たら……」


 ミオさんが辛そうに言葉を切った。妹2人を溺愛していたのだろうということは、佳乃子さんへの接し方を見ているので想像がつく。二重人格か何かなのかな。


「え、なら、私は日奈さんを倒すためにこの世界に呼ばれたの?」


 佳乃子さんが青い顔で尋ねる。彼女は今回の勇者だから順当にいけばそうなる。キャロ様が重々しく頷いた。よし、こうなったら!


「やっぱり当初の予定通りトモダチ作戦か、アニマルセラピー作戦で行くしかないね」


「うん、日奈さんを斬るなんて私には出来ないもの」


「良かった。そう言ってもらえるなら嬉しいわ」


 キャロ様が安心したように微笑んだ。まぁ、いくら不死とは言っても自分の兄が殺されるのは見たくないよね。


「ところで、貴方達から兄さんの気配がするんだけど、一体何処で知り合ったの?」


「それ、気になっていたわ。貴方達にかけられていた兄の守護魔法の気配を追って、この城に来たんだけど。特に星宮さんは、日本で暮らしていたのでは」


 私達は顔を見合わせて、これまでの事を説明した。


「それは、兄がお世話になったようで。ありがとうございます」


「いいえ、私のほうがお世話をかけていますから気にしないで下さい」


 深々と頭を下げるミオさん達に、佳乃子さんは慌ててわたわたと首を振る。

「首の傷は前回の勇者に付けられた傷と一致するわね。まさか、記憶を無くしていたなんて」


「地球に居たのなら、探しても見つからなかった訳よね」


 やれやれとした顔でキャロ様がティーカップを手に取った。


「貴方方は私たちを優しいと評していたけど本当は違うのよ」


 ミオさんがヒヤリとした声音で言う。


「私は優しくないです。だって、兄さんの行方を探したくて近づいたのですから」


「そして、勇者が兄を滅ぼすのを止めるために仲間のフリをしていたの」


 申し訳なさそうな二人に私たちは揃って首を振る。気持ちはとても分かるので二人を責める気持ちは一切ない。ただ。


「お二人も日奈さんが何処にいるか分からないのですか?」


「兄は前回の勇者に倒されてから消息を絶ってしまったのよ。もしかしたら、役目が嫌になったのかもしれませんね」


 そうだったら、まだ良いのにという口ぶりでミオさんが答えた。その顔には抑えようのない不安が色濃く出ていた。






 魔王には友だちとして接する事に決めたものの、表向きは魔王は滅ぼすと言う作戦で物事は進行していく。いよいよ魔王の討伐に向けた旅に出発する日程が決まった。出発は1週間後。


 それでもって、今日は魔王討伐の旅に出るに先立って魔術を司るこの世界の最高神から加護を頂くため、朝から大聖堂に来ていた。


 最初に出会った一見するとサンタクロースにも見える神官長の案内で、天まで届くような高い鐘楼と、天使や聖人の像が今にも動き出しそうなリアルさで彫り込まれた美しい聖堂の中へと入る。最初に目に飛び込んでくる、宝石で飾られた巨大な黄金の時計は通常の時計とは違い「Ⅰ」は夕暮れのミサが始まる時刻を示し、逆回転する針は日没までの残り時間を表しているのだと言う。その知識がないと心霊現象みたいで怖いな。


 聖堂内は、天井を支える柱で三廊式に分けられており、床や壁は色大理石で幾何学模様に飾られている。天井を見上げれば死後に魂が天国か地獄のどちらに行くのか振り分けられる審判の様子が描かれた美しいモザイク画があって思わず見とれてしまう。綺麗だ。


 祭壇の前に今回の旅のメンバーが整列し、教えられた作法通りに礼をする。呪歌があたりに響き、朗々とした祈りの儀式が始まる。フワリと聖堂内に清々しい風が吹き渡り私の毛並を揺らす。


 パイプオルガンの荘厳な音色が耳に心地いい。私たちを祝福するかのようにわずかに金の光を帯びた白い花びらが私たちに向かって降り零れてくる。花びらは体に当たるとすっと溶けるように消えた。


 ポカポカと何やら暖かいものが体の内側から湧き上がってきてひどく心地いい。これが、祝福かと何だか温泉にゆったりと浸かっているような気持ちよさが全身を包んで癒される。


「以上で儀式は終わりです。どうぞ楽にされてください」


 神官の方の言葉にホッと息を吐き顔を上げたところで、バサバサという力強い羽音が聞こえてきてそして。会うのが非常に気まずい顔が見えた。


「へー、あの炎に焼かれて生きていた何てやっぱり異世界から来た生き物はしぶといんだね。その大きさが君の本来の姿なのかな」


 虹色の翼を優雅にはためかせた、威風堂々とした覇気をまとった黄金の獅子は音もなく聖堂の床に着地した。


 私と佳乃子さん以外の皆は一斉に光の獅子に向かって深く頭を下げる。中には感激で涙を流す人までいる。


 そりゃ、この人は一応世界を救済する役目を持った光の神で、神話上一番人気が高い神だもんね。定期的にこの世界に現れては、世界が悪に支配されないように戦っているのだと言う一見するとヒーローなのだ。


 とはいえ、リュイさんの実の兄ではある者の彼は何処かリュイさんを憎んでいるような節があるし、本来の神話では彼がリュイさんを殺す役目を持っている。飼い主さんの敵は私の敵だとキッと睨みつける。前回最後は思いっきり剣で刺されたし。


「あはは。僕に対してそんな露骨に嫌そうな顔向けてくるのホント君ぐらいだよ」


 ふっと力の抜けた笑みを向けられる。何でこの人がここに。


「ねぇ、柚月ちゃんの知り合い?」


 佳乃子さんは軽く私の肩を叩き、小声で尋ねてくる。答えようと口を開く前に、彼は人の姿を取ると魅力的な笑みを浮かべて佳乃子さんに右手を差し出した。


「初めまして、異世界より来られし勇者のお嬢さん。僕はこの世界を守護する役目を持った神だ。どうぞ、エファと呼んでください。以後、お見知りおきを」


 エファさんは佳乃子さんの手をとるとそっとキスを落とした。人間姿は金髪碧眼の絵本から出てきたような正統派な王子様の容姿だから、様になっている。


 イケメン好きな佳乃子さんはさぞや喜んでいるだろうと心配になって見てみれば、何やら親の仇かのような冷たい目線を向けている。


「ふーん、なるほど。あんたがねぇ」


 地の底から響き渡る様な声にエファさんのギョッとしたような顔をするが、私も同じような顔をしている自信がある。


 佳乃子さんがここまで人に敵意を向けるところなんて、幼馴染で長い付き合いな私でも見たことがない。


 ふと、彼女の手が腰に帯びた聖剣に軽く触れているのを見てブーリさんがエファさんと私の因縁について教えたのかなと妙な納得感を覚える。


「勇者様、なりません。エファ様に対してそのように無礼な」


 神官さんたちが必死に注意するが、聞こえていないかのように佳乃子さんはじろじろと不躾にエファさんを見やる。


「うわ、初対面でここまで嫌われるなんて。主従は似るんだね。なるほど、佐藤さんが愚弟の申し出を断り続けていたのは他に主が居たからなのか」


「柚月ちゃんとは友達だから、主従の契約何て結んでいませんよ」


 むっとしたような顔とトーンで佳乃子さんが言葉を返す。「あ、そうなの」と彼はさして興味が無さそうに応えると私に視線を向けた。宝石のタンザナイトを思わせるこの深い青藍の瞳だけは、綺麗だからつい見入ってしまうんだよね。ずるい。


「でも、元は君たちが僕に用があったんじゃないの? 樫の木の賢者を尋ねようとしていたでしょう?」


 懐かしい単語に私は瞳を大きくする。賢者さんを尋ねる前に悪魔が宮殿を襲撃するという事件が立て続けにあってそれどころでは無かったから、結局会いに行けてなかったんだけどまさか。


「樫の木の賢者は僕の地上での別名だからね。まぁ、でも丁度良かった。僕も君に用事があったんだ。父さんが佐藤さんと話をしたがっている。別室に来てくれる?」


 嫌だと言うが拒否権は無いらしくそのまま転移の魔法で何処か小さな部屋へと連れて行かれる。エファさんの言う父さんってこの世界の最高神だよな。何だろう、こうなったら飼い主さんの扱いに対する文句や地球から誘拐された恨みでもぶつけてやろうかな。


 そうして、祭壇に目をやった私は思わずポカーンと口を開けた。


 大小二段重ねにした丸い餅の上には、オレンジ色の立派なダイダイが鎮座している。


 どこをどう見ても正月に日本中の家に飾られる鏡餅にしか見えないそれを手で示し、エファさんは「父さんだ」と何でもない顔で紹介してくる。鏡餅は年神様が訪れたときの依代で神様の魂が宿るとされているが、異世界ではまんま神様らしい。


 ユグドラシルの最高神は鏡餅。


 そう言えば、飼い主であるリュイさんの本名は夜柚と言って名前に漢字が当てはめられているよね。この世界を造り出した私のご先祖様が、日本の神だった事が影響しているのかな。


「よく来てくださった。異世界より来たりし火怜の子孫よ。その魔法円を宿した瞳はあの方と同じだな」


 あ、この中二病みたいな瞳のデザインって火怜さん譲りだったんだ。


 でも、彼女にはたまに会うけどこんな瞳してたかな。普通にとび色の目をしていたけど、あれは地球仕様だったのかもしれない。


「何かお話があるようですが」


「そなたは、闇の神を知っているな。あやつは儂の息子ではあるが本来生まれてきてはいけない子だった。親の責任として本来は冥府に返さねばならんがどうにもあやつの力は強い。神族総出でもってしても封印するのがやっとだった」


 鏡餅の言葉が私の心にぐさぐさ刺さる。実の親に生まれない方がよかったなんて思われて過ごすとか、リュイさんはどれだけ傷ついただろうか。


「あやつはこの世界は壊す。だから闇の神を生かしておいてはいけない。殺せ。殺すのだ」

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