100年の
「勇者様、本日より貴方様のお世話係に任命されましたミオと申します。どうぞよろしくお願い申し上げます」
悪魔に遭遇するというゴタゴタを解決し、今は家になった宮殿に戻れば佳乃子さんと共に、私たち付きの侍女が深々と頭を下げて待っていた。
アルフヘイム王家に仕えるメイドが着る水色のワンピースに、白いフリル付きのエプロンはよく似合っていたが、気品溢れるこの美しい人が侍女なんてとても似合わない。
まさか、ここで再会することになるなんて。
「久しぶりです。ミオさん」
「佐藤さんが本当に死ぬとは思っていなかったけど、こうしてまた会えるとやはり安心しますね。100年は、とても長いわ」
深い青の瞳が印象的な美女の本名はミオゾティスと言い、神の宝物庫を守る精霊だ。ブーリさんの幼なじみでもある。
そんな彼女がまた何でここに。
「知り合い?」
疑問一杯の友人の声に、ミオさんがこれまでの事を簡潔に説明してくれた。
「それは、柚月ちゃんがお世話になったようでありがとうございます」
貴方は私のお母さんか。
「あの、また会えて嬉しいですけどお城を空けていて大丈夫なのですか? それに世話係何て」
「私は貴女方の護衛と言う大切な役割がありますから。まだ、佐藤さんを狙う危険は滅んではいないのです」
真剣な表情に私はゴクリと唾を飲む。確かに魔王は危険だろう。
「貴方を失った闇があんな風になると知った今、私たちはもう二度と貴方を失う訳には参りません」
「本当にご迷惑をかけて申し訳ありませんでした!」
土下座をかまして謝る事しか出来ない。もう少し考えて行動すべきだった。
「いいえ、私も貴方に会えて嬉しいですから。こちらの事情に巻き込まれる形になった星宮様には、何とお詫びしてよいか分かりませんが」
「私の事は気にしないで下さい。怒ってませんから!」
佳乃子さんが慌てて両手を振る。
「お優しいのですね。微力ながら、精一杯仕えさせて頂きますので、何なりとお申し付けください」
「本当に大丈夫です‼」
佳乃子さんが心底困った顔をするが、その気持ちはよく分かる。こんな天上界の威厳を湛えた可憐な美女に対して命令何か出来ない。
「いざとなったら、その剣もその身に代えて星宮様をお守りするでしょうし」
何処か冷たい瞳が、聖剣を見る。剣がこくこくと頷くように動いた。この剣は、インテリジェンスソードであるらしく、持ち主である佳乃子さんに至っては、日常会話から専門的な政事や戦術の講義までしてくれるらしい。
「本当、今度お二人を守れなかったら承知しないわよ」
低く囁かれた声がよく聞こえなかったので、首を傾げてミオさんに聞き直す。
「お腹空かれたでしょう。食事に致しませんか」
輝くような笑顔で言われたが、呟いていた内容絶対違うよね。聖剣さんが、震えているんだが。
「うわー、いつかやるとは思っていたけど、とうとうこの国の王女様たらしこんだか。で、結局最終的には一体何人規模のハーレムを築くつもりなの?」
「佳乃子さん、言っている意味が分からないのだけど」
食べながら、習慣となった今日の出来事を話せば彼女の方にも訓練中に突然巨大なトカゲの悪魔に襲われたのだという。
大丈夫かと心配したが、聖剣でバッタバッタと切り刻んだら何とかなったらしい。メンタルつえー。
ミオさんに淹れてもらった紅茶を飲みつつ、彼女も交えて今までの出来事を話していれば話題は尽きない。
ただ、幽霊のお兄さんのお話しをした時に泣きそうな表情をミオさんがしたのには戸惑った。精霊だから大丈夫だろうと勝手に思っていたが、お化け苦手だったのかな。日奈さんの正体は竜だけど。
ミオさんにあれこれ世話を焼かれつつ、夕食の鶏肉のソテー(卵とマヨネーズのソースで食べるなんて珍しい)、シャキシャキの野菜サラダにバターの香りが食欲をそそるフワフワのパンを食べ終え、お風呂に入ってまったりしつつベッドに横になったのだが眠れない。
なお、ミオさんは、何かあったらすぐに呼んでと言いおいて、自分のお城に転移魔法で一時的に戻っている。
窓からは世界に優しい光を投げかける銀色の三日月と、宝石箱をひっくり返したかのような煌めきを放つ星空が見える。飼い主さんの事が心配なせいか気が焦って眠れないし、ちょっと夜の散歩がてら天体観測でもしようかな。
こんな星空、私が住む都会じゃ中々見れない。お城の中から抜け出して、星空を見るなら丘の上が良いよねと普段の散歩で見つけていたスポットに向かう。
森の中に入れば、猫の目だから闇夜でも平気だが手を広げたお化けのように見える黒い木々が少し不気味だ。ちょっと早まったかなー、と思いつつ日本の歌を適当に歌いながら歩いていると背筋に寒気が走った。いやな予感がする。
羽音の響きに振り返れば巨大な蛾の大群がこちらに向かって飛んできていた。おーい、何か最近魔物やら悪魔に会いまくっている気がするのは気のせいかなー! この世界はいつからこんなに治安が悪くなったんだ! 1回目の時は魔物なんて飼い主さんとその弟さんくらいしか会ったこと無かったのにー!
あ、魔王が現れたからですね。分かりたくないです。
取りあえず、走ってはみるが蛾の方もスピードを上げて追ってくる。狙いは私なの!?
猫は食べても美味しくないですよー!(大泣き)
内心で滝の様な涙を流しながら走って逃げる。こうなったら、あまり使いたくないけどあの家宝を呼び出すしかないのかな。
決意を固めて、攻撃に転じるために足を止め振り返ろうとしたところで、うんざりとした様なため息が聞こえた。
「全く。自衛の手段もないのに真夜中に一人で出歩くなんて。……死にたいんですか?」
艶めいた低めの心地よい声。忘れもしない。体が勝手に熱くなる。懐かしくて泣きたい。
会いたいなとは、思っていたけどまさか向こうから現れて頂けるとは、正直凄く嬉しい。
顔を見たくて躊躇いなく振り向くと同時に、白い熱線が走り、蛾の大群が跡形もなく焼きつくされる。
「怪我はない?」
私はコクリと頷く。何で、ここに。待って、まだ心の準備が。
被っていたフードを下ろした彼の髪は、この世界では本来リュイさん以外は持たない漆黒。夜の天使とも言いたい、整いすぎていて怖いぐらいの美しい顔は以前とは変わらない。
しかし、以前にもまして表情がないために生きた人形と対峙しているような、近寄りづらい雰囲気がある。
あれ、封印されたとか王様から聞いたけど大丈夫だったの? 無事でよかった。
そんな飼い主さんの顔が辛そうに歪む。その表情でさえ魅了されそうなほど綺麗なのだが、飼い主さんには笑っていてほしいのでどうしたんだと、新アニマルセラピー(巨大猫バージョン)を披露しようと一歩踏み出したところで。
「死者の顔をして現れるなんて、悪趣味ですね」
鋭いナイフをのど元に押し当てられたかのような、冷たい声音にあれ、これ、私だと気づかれていないのか、と内心で戦慄した。
「ここで会ったが100年目ですね」
驚き過ぎて頓珍漢な答えを返してしまった。
いや、まぁ、小猫だったのが馬サイズになっちゃったし、しかも前回は銀色の瞳だったのが、鏡で見て気付いたが謎の魔法陣が刻みこまれた金の瞳という中二病全開なデザインに変化しているから、分からないのも仕方がないのか。
でも、ミオさんは私だと分かったよね。悲しい。
いや、100年も放っておいて傷付けた私に文句を言う権利なんて無い。
誰か、飼い主さんに私が佐藤柚月だと信じてもらう方法を教えてください。(血涙)
次回予告
「女の子に手をあげるという事の危険性を理解していない何て、本当に哀れですね」
「久しぶりね、太陽の獣様。生きていると信じていたわ」
「そんな野望は一切抱いたことがありません」
「今宵一晩だけでも夢を見させては頂けませんか」
「うわー、夜這いとは大胆だね」
次回 飼い主さんからのハニートラップとかただのご褒美だよね。あ、朝食は蜂蜜たっぷりのハニートーストでお願いします。




