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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第2章 VS魔王編
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野良猫(仮)は飼い主さんを探したい!

「柚月ちゃんお待たせ。王様に会うなんて日本じゃ考えられないから、緊張してしまうね。可笑しくはないかな」


 一昨日、異世界トリップ特典か何かは知らないが歌の力で悪魔を天使に生まれ変わらせると言う荒業を披露した佐藤さんの力によって国の危機は去った。


 だが、地方から急いで戻ってきた国王から事件の顛末を説明するために宮殿に来るよう呼び出されたのだ。

 絵本の中から飛び出してきたような、白亜のお城に入れるのは嬉しい。

 が、それ以上に王様と会うなんて胃が痛くなるようなイベントは勘弁してほしい。


 さすがに一国の王に会うのにシャツとデニムのショーパンではまずい。

 城について早々、佳乃子さんは侍女さん達に控室へと連れて行かれ、謁見用のドレスへと着替えさせられたのだった。


 そんな彼女の装いはアイスブルーのマーメイドドレスだ。夜空に浮かぶ星々をイメージしたという胸元を飾る三連のダイヤモンドのネックレスが眩しい。


「あらあら、天国から海の天使でも落っこちて来たのかと思ったら佳乃子さんだったのね。とても似合っているわ。誰にも見せたくないくらい」


「キャー、ありがとう! 柚月ちゃんは変わらないね。金で刺繍が施された白いリボンを首に巻いているくらいかしら。そのリボン随分とお気に入りなんだね」


「一応侍女さんにブラッシングはしてもらったから、いつもより毛並はいいはずよ」


「本当だ。触り心地いいね。モフモフだ―」


 なんて戯れている間に謁見の準備が整ったらしい。近衛騎士さんたちに案内されて謁見の間へと向かう。

 日本では王様に会うような身分じゃなかったから、何か粗相を仕出かしたりしないか心配である。あー、胃が痛い。


 神話の場面を描いた鮮やかな壁画が並び、見上げるほどに高い天井から垂れ下がった国花であるキンセンカをモチーフにしたのだと言う様々な色ガラスが輝くシャンデリアに照らされた巨大なホール。その一番奥の一段高い大理石の階段を登った先。黄金色がまぶしい半球状の玉座後陣、宝石で飾られた豪華な玉座にこの国の王は座っていた。



 容姿はあれだよ。トランプのキングを想像してごらん? まんまその通りだから。初対面の時はそれで思いっきり吹き出しそうになった。


 いや、笑ってはいけない場面であればあるほど何か笑いの沸点が低くなってしまうんだけど、その現象にそろそろ名前が欲しいよね。


 教えてもらった作法通りの礼をして、国王に促されるままに顔を上げる。


「急に呼び出してしまってすまなかったな。しかし、これは国の大事。それで、昼にレイラ宮で起こった事件の顛末について聞かせてもらえないだろうか」


 私達の護衛として事件の時も傍に居てくれた騎士さんが代表して説明をしてくれる。私の能力には驚いたようで少し瞳を大きくしていたが「太陽の獣ならその力も当然か」と納得していた。


 太陽を思わせる黄色い毛並に対する、チートで当然な認識何とかなりませんか。


「しかし、とうとう悪魔があの宮に現れたか。まぁ、いずれ来るとは思っていたが早かったな」


 一人で納得されても困るのだが。まぁ、確かにこの国は大国だし勇者も現れたから、早めに国ごと滅ぼしてしまえという魔王側の気持ちも分からなくはないが。


「魔王とはいったい何者なのか。長い話になるが聞いてくれるかの」


 そう言った王様の目線の先は、神話を描いた絵画の中では一番奥にある、私が今回回避した世界の終りのシナリオの一つである燃え盛る世界樹と、その根元で吠える黒い獅子の絵だった。


 世界を終わらせる闇の神の姿は、黒い毛並みに血のような赤い瞳のライオンさんの姿として神話では語られているからだろうね。

 その隣には黒髪の乙女の姿が描かれていた。実物よりも美しく、胸も大きく描いていただけてありがとうございます。

 いやー、猫の姿でトリップしてよかった。救世の乙女の皆様のイメージを裏切るところだったぜ。


 王様の話では、世界樹が枯れて燃え盛り世界の終りである【神々の黄昏】が始まったものの、異世界よりあらわれた黒髪の乙女(=私)が炎に身を投げ世界樹への生贄となることで、世界を再生させて救った。


 しかし、世界が一度終わるかもしれないという恐怖感がこの世界の生き物、そして神々に沸きだし、その不安感から生まれたのが魔王なのだという。

 そして、この世界にあふれている負の感情を糧に悪魔を作り出し、この世界を支配しようとたくらんでいるので、その陰謀を止めてほしいと神官長様から説明されていたのだが、真相は少し違った。


 救世の乙女のことを愛していた闇の神は、自分のせいで彼女を失ったことで荒れ狂い、再び世界が壊される危険に陥ったため神族が総出で攻撃し、隙をついて闇の神の父親であり最高神の呪術と救済を司る神が闇の神を封印し、その力を7つの聖なる入れ物に分けて封じたのだという。




 闇の神の力を封じた入れ物の一つがレイラ宮に収められ、この国を守る卵、真の姿はエメラルドをくり抜いて作られた盃に封じられている。

 闇の神は、封じられた力では目的を果たすことは出来ないので、配下の魔物や悪魔を操り自分の力を封じる入れ物を壊すと共に、魔王の封印を解いて、魔王と共に世界を滅ぼそうとしているのだと言う。魔王を抑えるために現れるだろう勇者に殺されるために。




「人間の未来は人間の手中にあるby佐藤!」


「いやそれ、ジャン・ポール・サルトルの名言! ってか、何でそんな罪悪感一杯の顔をしているの?」


 私のせいでこの世界が危機に陥っているなんてそれは言えないよね。


 救世の乙女は世界を救ったありがたい存在なのに、そのせいで世界が闇の神と魔王に攻撃されているとかそれは王様もすぐには真相を教えてくれないわけだ。機密事項だろうし。


 てか、飼い主さんが私のせいで封印されるとか本当に申し訳ない。

 1回目に私をこの世界に呼んだ女神様が、飼い主さんに私は生きているってちゃんと説明しているだろうからと安心して、告白の返事を聞きたくないとかなんて顔して会えばいいのか分からないという乙女思考で今まで飼い主さんに会いに行くのを避けていたけど、そんなことは言っていられない。これは飼い主さんが封じられた場所を探しに行かないといけないよね!(タイトル回収) 飼い主さーん、今助けに行くよー! あと、私生きているから世界を巻き込んだ自殺何てしようとしないで! 




 生きていて、とあの日に言ったはずなのに。日本の私の家に来て裏事情を説明してくれていたブーリさんが焦ったような顔をして、急に帰った理由というのはお兄さんであるリュイさんが封印されたという事件のせいだったのかな。


 まぁ、安心なのは今回の勇者は佳乃子さんだから彼女がリュイさんを殺す訳がないと信じられる事だ。


 うん、自分でしでかした不始末は自分で解決するのが筋というものだよね。佳乃子さんも私のせいで勇者なんてやるはめになったのなら、是非埋め合わせをしなければ。


 日本に帰ったら彼女が行きたいと言っていた、不思議の国のアリスモチーフのケーキバイキングに連れて行って誠心誠意謝罪しよう。


「神殿では、不便も多かろう。どうぞ我が城に滞在なさるがいい」


「お心遣い感謝致します」


 ん? 考え事していたせいで、反射で返事をしてしまったがここに住むの? 庶民には落ち着かないのだが。


 あー、でも、お城の図書館を使えるほうが情報収集はよりはかどるか。












 翌日。佳乃子さんは騎士さんたちとの合同訓練に出かけてしまったため、現在レイラ宮には私の他には侍女さんと護衛の騎士さんくらいしかいない。


 いや、この国の第2王女が突然訪れたとか言って皆さま慌てていたからお姫様もいらっしゃるのか。


 お城で働く人々の注意が私から逸れている今、やることは一つしかない。宮殿の中を探検し、飼い主さんの力が封じられているという聖杯の様子を探りつつ、図書館で飼い主さんが囚われている場所の情報を集めないと。


 首輪様がなくなってスマホを召喚できない今、グーグル先生で検索して一発解決何てチートな真似は出来ない。


 神の力の一部を封じ込めた聖杯が安置してある城のせいか、海上ハウスなこの城の造りは普通のお城と一線を画している。


 宮殿の建築様式は、高く上昇感の強い天井や石組みの尖塔アーチ、色彩豊かなステンドグラスのはめられた窓を見ていると地球に置いてのゴシック様式に近いが、壁や八角形の塔には魔物や魔術結社のシンボルの彫り物に覆われており、宮殿内にいくつもの秘密の扉や通路がある。さらに庭園には長い地下洞窟につながる草木や苔に覆われた入り口や地獄の階層をモデルにしたという螺旋を描いた深い井戸がある。


 RPGだったらここが魔王の城だよなと思わせるような一見廃墟じみた外装と異端の装飾で溢れた宮殿なのだ。まぁ、国の持ち物だけあって内装は王族の暮らす宮殿にも負けない豪華さだけどさ。


 赤やピンクのバラが咲き始めた手入れの行き届いた庭園の先、意味ありげに尻尾の先に炎が灯ったトカゲの姿をした火の精霊の像がある。一見分かりづらいがこの像の後ろに扉があり、そこを抜けるとイニシエーション(儀式を行う場)の泉と名付けられた場所に出る。


 周りが木々に囲まれた森のようになっているため、鼻孔をくすぐる潮の香りと宮殿の基礎に打ち付ける穏やかな波の音が聞こえなければここが海の上だなんて信じられない。


 この井戸の中、さらに奥、隠し扉の中に聖杯はあると伝説ではなっているけど、誰もその存在を見たことは無いのだよな。


 いくら異世界から来たイレギュラーだとしてもそう簡単に見つけることは出来ないよね。今日は探りを入れるだけだと一歩踏み出そうとして、背筋が凍り付きそうな強大な魔力の流れを感じる。


 弾かれたように、私は宮殿の建物に向けて走り出した。









 宮殿で一番高い塔の上には、こちらを見降ろすように一頭の獣がいた。


 血のように赤い肌と灰色の瞳をした人面を持ち、体は虎というその不吉な獣はニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。


 その途端、獣を倒そうと剣や杖を構えていた衛兵や神官たちが味方であるはずの城の仲間を攻撃し始めた。


 皆戸惑っているようで、必死に抗おうとしているが騎士さんたち同士で壮絶な切りあいが始まっていて中には怪我をしている人もいる。


 戦闘能力の低い侍女さん達に会ってしまったら危険だ。と、一体原因は何だと探る私にも「逃げろ!」という言葉と共に剣が振り下ろされる。間一髪避けたが、響いた風を切る音といい、当たっていたら確実に大けがをしていたな。


 原因は何だ。


 この宮殿に侵入して来た悪魔が操っているとしか思えないのだが、どうやって術を解けばいいのか。攻撃をかわしながら、操られている人たちに注意を向けていると、何やら赤く光る糸のようなものが一瞬見えては、空気に溶けるように消えていく。


 もしや。


 何かが分かりそうな時に、どこかが崩れるような音がして現実に引き戻される。

 味方同士で争い傷つけあう様を楽しそうに見ていた悪魔が戯れに風の魔法をぶつけ、宮殿と塔をつなぐ回廊の一つが崩れたのだ。鋭い悲鳴が響く。

 崩れた回廊の上、柱にしがみつくようにして身なりの良い少女が震えながら座り込んでいた。あれって、この国の第2王女? 早くしないと建物が崩れる。操っているのがあの赤い糸なら。


 考え込んでいるうちに再び私の前に影が落ち、ハッとした時には目の前に銀の刀身が迫っていた。思わず目をつぶるが、何かを弾くような音が辺りに響く。あれ、痛くない? 恐る恐る目を開ければ私を守るように青い星の波紋が刀身に散った美しい刀が浮かんでいた。


 あれは、かつて先祖である狐が授けてくれた佐藤家の家宝が取る形態の一つである流星刀さまだ! 私がエファさんに斬られた時にも来てくれたし、さすが、今回も来てくれるって信じてた!


 私は口に流星刀をくわえて跳躍する。刀が力を貸してくれたおかげで今ならハッキリ見える。

 悪魔から伸びたあの糸が皆に絡まり、操り人形のようにして互いに争わせているのが。流星刀は見えないものを切る刀。それは幽霊や妖怪、はたまた不運や悪縁も切れる。大元の糸を切れば途端に争いあっていた人々の動きが止まる。


「ありがとう、佐藤様。これで思う存分力が震えます。……よくも好きにしてくれたな!」


 何だろう。衛兵というよりヤのつく自由業とかいう言葉がピッタリな形相になっっているよ。彼らの手によって悪魔は容易く魔法陣が描かれた壺のなかに封じ込められていた。


 あの糸が無ければこんなあっさり片付く戦闘だったのね。て、今はそれどころじゃないわ。皆さんが悪魔の相手をしている間に私は王女様の元へと向かう。運悪く崩れかけ、瓦礫が落ち始めていた回廊の一番上にいる王女様に向けて私は前足を広げる。


 後ろ足で立って、ヘイカモン、この腕に飛びこんでおいでの図だ。


「おいで。ちゃんと受け止めますから」


「む、無理です! こ、こんな高いところから何て。私重いですから、猫ちゃんなんかに受け止められるはずがありません!」


 これでも馬鹿力なんで大丈夫なんだけど。ビルの3階分に匹敵する高さから、こっちに飛び降りるなんてそれは怖いよな。配慮が足りなかった。


「これは申し訳ありません。可愛らしいお姫様直々にこちらに来て頂くようお願いするのは無粋というものでしたね」


 私はフワリと飛び上がり、王女様の真横に飛び移ると、彼女が背に乗りやすいように地面に伏せた。

 うん、成長期が来て良かったよ。前の小猫サイズじゃ、どう頑張っても背中には乗せられなかっただろうから。


「どうぞ、お姫様。お迎えにあがりました」


「あ、ありがとうございます」


 背中に乗せてしっかり掴ってくれたことを確認してから、ひらりと塔の頂上に飛び移る。さすがに王女様のせて下に飛び降りるのはどうかと思うからね。同じ高さの所に調度よく塔の展望台があって良かった。再び地面に伏せて彼女を下ろすと少女はにっこりと微笑んだ。


 陽光に眩しく輝く真っ直ぐな白銀の髪に、ルビーを思わせる深紅の瞳。穢れを知らない白雪の様な透き通った肌に薔薇のようにあでやかな唇、ぎゅっと思わず抱きしめたくなるような華奢で魅惑的な腰のライン。


 一見すると無機質で美しい人形の様な顔には、微笑みが浮かんでいるために人間らしい温かみを感じる。何て綺麗な人なんだろう。私の飼い主さんもかなりの美貌を誇っていたが、その飼い主さんに負けていない。宝石が人の形を取ったらこうなるのではと思わせるような、触れることを躊躇わせる神聖な、うっとりとした、ため息が出るような美しさ。


「危ないところを助けて頂きありがとうございます。さすが、勇者様が連れていらっしゃる聖獣様だけありますね」


 心地よい鈴を転がしたような美声にうっとりしながら私は首を振る。


「いいえ、貴方を助けられて良かったです」


 あれ、王女様の頬に朱が差したのは何故だろう。あれ、このどこか熱っぽいまなざしは何だかとても見覚えがあるのだが。いや、気のせいだよね。


「ご挨拶が遅れました。私はこの国の第2王女エヴェリーナ・アリーヤ・アルフヘイムと申します。聖獣様、どうか私を貴方のお友達にしていただけませんが」





 この世界の古語で『光』を意味する名前を持つ、女神様が目の前に現れたかのような可憐な王女様にお友達になってなんて頼まれたら、返事はYESかはい、しかないよね。



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