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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第2章 VS魔王編
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海で生まれた天使の翼

  皆さん、こんにちは。勇者になった友人と共に2度目の異世界に来てしまった佐藤です。

 この世界ではどうやら悪魔と呼ばれる知能の高い魔物が、突如その数を増やし、普通の魔物のようにただ本能で襲ってくるのではなく、人を操り、道具を集め、必要なら悪魔同士で協力し合い一番効率的な方法で街や小国を滅ぼそうとしているのだという。

 それに皆困っているこんな世界で木に封印されていた炎をまとった聖剣を軽率に抜いてしまった友人・星宮佳乃子は、その剣が悪魔を生み出す魔王を唯一殺せる武器だったせいで、教会から世界を危機に陥れる魔王を倒す勇者認定されてしまい、聖堂でもてなされています。


「悪魔というのは利用価値のある者にはまず小悪な本性はかくして美しい姿で現れて虜にし、自分から離れないようになるまで依存させてから利用する危険な存在です。聡明な勇者様ならその正体は悪魔だとすぐに見抜かれるでしょうが、どうかお気を付けください」


 そう神官長様は仰っていたが、私は友人が心配でならない。魔王を殺せる存在である佳乃子さんに絶対近づいてくるよね。セコム頑張らないと。


 ただでさえ美形に弱いし、万年恋人募集中の看板を掲げているあの子は、確実にハニートラップに引っかかる。利用されるならまだいいが、それで暗殺なんてされたらと思うと目も当てられない。友人に近づくイケメン滅びろ! 

 友人に付き合っている恋人がいればこんな心配はしなくて良かったのにな。


「ねぇ、日奈さんの事はどう思っているの?」


「え、好きだよ。私は一人っ子だからあんな優しいお兄さんって憧れだったんだよねー!」


 あー、これは駄目だと私は目元を抑えて唸る。恋人が欲しいと言っている割に鈍いんだからこの子は。


 まぁ、私も死ぬ段階になって初めて自分の気持ちに気が付いたから人の事言えないんだけどさ。


「だから、早く見つけたい。日奈さんが何処かへ消えたこのタイミングでこの世界に召喚されたなんて怪しいよね。そもそも、警察が総力を挙げて調べて、さらに柚月ちゃんが家の力を使って調べ上げたのに、何の情報も出なかったのも、日奈さんが別の世界から来た人間だったのなら説明がつく。地球ではドラゴンなんておとぎ話だったけど、この世界には実在するし」


 友人の目線に釣られるように窓の外を見れば、緑の鱗を太陽に煌めかせた竜が悠々と空を飛んでいた。


「柚月ちゃんも大切な人と別れて辛いのに申し訳ないけど、私は日奈さんを探したい。でも、柚月ちゃんがリュイさんに会えるように私も出来る限り手助けはするね」


「ありがとう」


 でも、ここ多分ユグドラシルじゃないからリュイさんには会えないと思う。あの世界だったら黒に忌避感があるはずなのに、神官の装束は黒一色の長衣だ。

 そもそも、黒髪の佳乃子さんを見て怖がらずに勇者だと崇めるのがオカシイ。だから、多分違う世界に来てしまったのだろう。

 神官さんに教えてもらったこの国の名前も、聞き覚えがなかったし。






 前回は小猫サイズでトリップしたのに何故か巨大な黄色い猫になってしまった私は、浄化の力を持つ太陽の力を宿した獣として神官さんたちに丁重に接してはもらえる。

 ただ、しょせん只の獣だと思われているので佳乃子さんとは違い基本は自由だ。


 だから、この状況を有効活用しない手はない。異世界の情報を知らないままでは、一方的に向こうに有利な情報だけ与えられて、利用されてしまう。知らないまま行動するのは戦場で目隠しをして戦う様なものだ。


 前回トリップした世界樹に守られた世界【ユグドラシル】では、ただの黄色い猫には利用価値などないし、すぐに優しい飼い主さんに巡り合えたからそんな心配なかったけど、今回は違う。


 それに、第一いくら魔王を唯一倒せる武器の主になったとはいえ地球出身の佳乃子さんに命を賭けてこの世界を救う義理はない。でも、あの子の性格から言って見ないフリは出来ないだろう。


 あと、前回【ユグドラシル】の危機を救うために焼身自殺を決めた私が止めるような事を言ってもブーメランになるだけだ。


 だから、私がすべきことはこの世界の常識について学び、魔王との確執について調べて、巨大猫のアニマルセラピーでも何でも使えるものは使って、出来る限り安全に血を見ることなく和解の方向に持ち込むこと。友人が日奈さんに会えるように手助けする事。そして、日本へと帰る方法を探す事だ。


「散歩に行ってきます」

 神官の一人に断わりを入れて、白い壁に青い屋根が並ぶ家々の町並みが美しい、ポセターノの街に出る。


 海を守護する神の名を取った街だけあって陽の光を浴びてキラキラと輝く青い海と段々畑になったレモン畑や青々とした緑の山々とのコントラストが美しい。遠くには黒々とした火山が見える。もう日差しにかすかに夏の香りがする。


 街路樹は5月の今は白い花を咲かせたオレンジの樹で、歩いているととてもいい香りがする。

 地球は3月だったが、世界を超えると2か月の時差があるらしくこちらは5月の初めなのだ。相変わらず、世界の壁の時差はダイナミックだ。


 石畳の街の広場では「歌う民の国」と呼ばれているだけあって、あちこちで楽器の音が聞こえてくる。歌声に心地よさを感じながら歩いて行けば、猫ちゃんはやはり愛らしいのか住人は挨拶をしてくれて、戯れにモフモフの毛並を撫でていったり、食べ物やおやつをくれる。


 猫ライフさいこー!


「よう、猫のお嬢ちゃん。昼時だからお腹空いてないか? 復活祭に向けた新メニューを作ってみたから良かったら食べていってくれ」


 教会の礼拝で会い、よく撫でてくれたりソーセージをくれるおじさんが私に気づいてちょいちょいと手招きしてくれる。貴方、食堂の店主だったのね。


 あれ、でも。復活祭ってキリスト教の行事だよね。異世界にもあるの?


 サンドイッチ売りや野菜を売る行商人の声が飛び交い、上を見上げれば普通に洗濯物が干してある生活感あふれる路地の中にその店はある。


 窓辺に飾られた花々が可愛いクリーム色の外観のお店に入れば、中は落ち着いた雰囲気で温もりのある木の家具で統一されていた。


「覚悟がおありなら、どうぞこの酒場の地下にお進みください」


 衣装が不満なのか、一切の無表情で出迎えてくれた猫耳メイドなウェイトレスさんに案内されて、内心首を傾げつつ地下へと続く階段を下りていく。

 重厚な木の扉を開けば先ほど私を呼んだおじさんが笑顔で出迎えてくれた。どうも、地下はバーになっているらしくお酒がたくさん並んでいて照明もうす暗く何だか大人な雰囲気だ。


 あ、ピアノがある。弾いてもいいのかな。


「いらっしゃい。さぁ、お腹が空いただろう。お食べ」


 出されたメニューは新鮮な野菜のサラダやハム、チーズが彩りよく盛りつけられた前菜とトマトソースのパスタだった。


「復活の象徴である卵を探しながら食べてくれ」


 前菜の方はピンクのウズラの卵が鎮座していたからすぐに見つかった。パスタの方はフォークでかき混ぜながら探して行けば5,6個のウズラの卵が見つかった。エッグハント、成功!


 街でやたら卵のモチーフの飾りを見たけど復活祭が近かったからなのか。

 でも、地球とは違い、出てくる動物は豊穣を象徴するウサギではなく猫のようで、猫の人形や猫耳パーカーを着たお嬢さんたちが街にあふれていて、大変に可愛らしかった。


「おじさん。復活祭って一体どういう行事なんですか?」


「あー、まぁ、猫ちゃんは普通知らないよな」


 そう言っておじさんはこの世界の伝説について語ってくれた。


 曰く、この世界は世界樹に守られているのだが、何千年か時がたつと世界樹の寿命が尽きて枯れ始め、その木の根に封じられたこの世に災いをもたらす闇の神の封印が解けてしまう。

 この世界を憎んでいる闇の神はこの世を滅ぼそうと世界樹に火をつけ、その火が世界全体に広がり、神も含めたこの世のあらゆる生き物を焼き尽くしそうとして世界が終わる【神々の黄昏】と呼ばれる、聖典に描かれた世界の終わりがつい100年前の12月23日に起こったのだが、運命の神が予言した通りに太陽の力を宿した黄色い獣が闇の神を宥めて、自分の身を生贄にして世界樹を復活させてこの世界を救ったのだと言う。

 12月23日はその獣に感謝を捧げるミサが行われるが、5月の今は神々の黄昏以降世界樹に初めて若葉が芽吹いて花が咲き、世界樹が完全に復活したことを祝して復活祭を行うのだと言う。

 まあ、元々は長い冬が終わり、再び命が満ちる春が来たことを祝う祭りだったのが変化しただけらしいが。太陽の獣が猫の姿をしていたために猫モチーフがこの時期は街にあふれるのだと言う。




 あれ、何かその伝説と世界の終わりを防いだエピソードなんかすっごく聞いたことがある。

 でも、何度も言うがここがユグドラシルなら黒は忌み色として嫌われ、黒を宿す生き物は迫害されていたはずだ。飼い主さんも魔法で髪色を変えていたし。

 でも、純日本人な佳乃子さんの黒髪黒目を見ても神官は何も言わなかったし、世界を救った聖女と同じ色をまとわれるとはさすが勇者様! と崇拝の色を増していたよな。この100年間で一体何があった。

 てか、そんなに時が経っていたの。じゃあ、私が前に会った人たちはほとんど亡くなっているのかもしれないな。寂しさが胸に迫る。



 でも、本当にここがユグドラシルなら魔王なんてもののせいで再び世界の危機に陥っているわけだから、結局炎に焼かれるというあの苦しみを味わった意味なんて無かったのかとちょっとささくれた気分になってしまう。


 たった100年しかもたないのか。


 でも、それならまた飼い主さんに会えるのかな。神様なんだから、100年くらいは生きているだろうし。お別れしなくて良くなったのならかなり嬉しい。会いたいなぁとは思うものの、途端に自分がした告白を思い出して体温が上がる。

 うん、やっぱりもう少し覚悟ができるまで会わないでおこう。女神様かブーリさんが私は生きているとちゃんと説明しているだろうから、心配はさせてないし大丈夫だよね。


「どうだ。うまかったか」


「はい。シンプルなトマトソースなのに後引く美味しさでペロリと食べちゃいました。卵を探すのも宝さがしみたいで楽しかったです」


「そうか。それは良かった。……あ、もう1時か。そろそろだな」


 店主の言葉に首を傾げるが、壁の時計が1時の鐘を打った瞬間、後ろの木の扉が複数の手でノックされているような音を響かせ始めた。

 壁のどこかの貴婦人の絵が動いて、こちらに笑顔を向けてくる。天井から釣り下がったランプが揺れ始め、よくあるホラー映画の一場面が頭をよぎる。

 悲鳴を上げた方がいいかな?


「いやー、この地下があまりに幽霊が出そうだ何だと客に言われるからそれならと、魔法で1時間に1回ポルターガイスト現象が起こるように設定しているんだ。楽しんでくれたかい?」


 これ、アトラクションだったの?








「見て見てー! 柚月ちゃん。これ、ステファンさんから貰ったの。似合うかな?」


 あまり長い時間外に出ると捜索隊が出されてしまうので、情報収集がてら町の人と話してから教会に戻れば、ピンク色の猫耳パーカーを着た元気な友人が迎えてくれました。


 ステファンさんはこの国の騎士団から派遣されて来た勇者専用の護衛の騎士さんだ。いつも陰に潜んで気配を消しているため、私は密かに忍者さんと呼んでいる。


「とっても可愛らしい猫さんね。思わず食べてしまいたいくらい」


「きゃー、ありがとう! 柚月ちゃんとも一緒に着たかったな」


 現在進行形で猫そのものなんだけど、これじゃダメ? 流行の双子コーデとかいうものがしたかったのかしら?


「太陽の獣様もお戻りですね。丁度良うございました」

 サンタクロースを思わせる立派な髭と、柔和な雰囲気をお持ちの神官長さまがこちらにゆっくりと歩いて来た。

 後ろに神官の方々が付いているので某ドラマの総回診のシーンが頭をよぎって最初見たときはつい笑ってしまった。猫だから許されたけど。


「魔王を倒すうえで是非お力をお借りしたい優秀な魔術師殿がいてな。普段その方は町外れの森の奥に住んでおり優れた知恵を持つことから【樫の木の賢者】と呼ばれているのです」


 わーお、ファンタジーな単語に佳乃子は目をギラつかせている。賢者さん怯えないといいけど。


「その方が勇者様と獣様に会いたいとおっしゃられたので、急ではございますがお出かけの支度をお願いできますか」


「樫の木の賢者を尋ねればいいの? どんな格好をして行こう」


 佳乃子は不安そうに女性の神官さんを見るが、復活祭の時期に猫モチーフの服を着るのは当たり前で礼を失する事にはならないのでそのままでいいとのこと。マジか。


 賢者さんが男性か女性かは知らないが、その人も猫モチーフの服着ていたら、萌えーって呟けばいいのかな。







 明るい日差しの中を歩いて行けば、鮮やかな青い海の上に建つ黄褐色の石を積み上げて造られた八角形のお城が見えて来た。


 王宮の一つであるその城は、王様との謁見という勇者モノにありがちな胃の痛くなるイベントを行うさいに、いずれ行かなければならない場所だ。

 今は地方の様子を見に行かれていてお城にはおられないので、王様が戻られ次第謁見の運びになる。 


 なお、このお城も樫の木の賢者の魔法によって作られいるそうだ。

 城の内部には魔法の卵が収められていてこの卵が割れたときに、火山が噴火しこの国は火砕流に飲み込まれるだろうという伝説があるのだって。

 なんでそんな割れやすい卵に国の命運が掛かっているんだ。


 今日は暑いからと、お城の近くにあるレモンジュース売りの屋台でジュースを買ってもらってのどを潤していると、唐突に悲鳴が巻き起こった。


 見るとお城の上空に黒い鳥が現れた。お腹の部分は真っ赤な舌がちらりと見えて、ヨダレを垂らした大きな人の口になっている。


「悪魔がこんな街中に!」


 え、待って。あれがそうなの。魔王の魔力からこう言った動物に近い姿をして人語を解する悪魔が現れて国を襲うようになったという話も王様から聞いていたけど、本当に会う事になるとは。


 あれ、でも美しい姿をしているはずじゃ。いや、あれはハニトラ用か。スパイはできればセクシーなお姉さん希望です。お近づきになりたい。


「あの城に入られたらまずいぞ!」


 防御の結界は貼ってあるけど、それも攻撃で破られてしまいそう。

 君は雷を落とすのが上手なフレンズなんだね。神官さんが悪魔を鎮めるためにフルートを奏で始め、呪縛の歌が周りに響き始めるが、私はその歌に明確な違和感を覚えた。違う。


「私がギターを弾こうか。佳乃子さんはエッグハントをしておいで」


「了解。これは勇者の腕の見せ所だよね! 完璧に卵を守ってみせるよ」


 聖剣は普段剣の形のブローチに姿を変えているから今も彼女は身に着けている。それに、佳乃子さんには護衛の騎士さんや神官さんも付くから大丈夫だよね。

 いざとなったら最強な我が家の家宝を召喚すればいい。


「音楽には、獰猛な野獣をなだめ、岩を柔らかくし、こぶだらけのオークの木を曲げることのできる魅力があるBy佐藤!」


「いやそれ、ウィリアム・コングリーブの名言!」


 そんな友人のツッコミなど聞こえない。

 路上で演奏していたお姉さんからアコースティックギターを借り受けて、チューニングをする。私はギターまで弾けるスーパーなお猫様なのだ。惚れてくれていいんだよ?


 取りあえず時間を稼ぎたいと精神統一をしながら、何を歌うか考える。目の前の海が綺麗だからそうだな、空に憧れた深海生物の歌でも歌おうか。


 歌う最中、PVの綺麗さと儚さも、泣きそうな歌手の声も思い起こされてなんだか泣けてくる。

 周りのざわめきにふと見れば魔物が天使に生まれ変わっていた。は?


 禍々しい黒い鳥は優しい青い光に包まれ、次の瞬間白い翼を陽光に煌めかせた美しい金髪の天使に姿を変える。こちらに向かってはにかむように微笑むと、翼をはためかせて空へと昇って消えて行った。


「すごい。これが、太陽の獣の浄化の力」


「柚月ちゃん、勇者役やっぱり譲ろうか。私村娘になって異世界の男捕まえてくるから」


「貴方幽霊のお兄さんはどうした」


 正体は赤い鱗の竜だったけどさ。


「え? ただのお友達だけど?」


 神官さんたちが畏怖の眼差しを向けてくるけど、ただ単に幼少期はアイドルをめざし、高校で芸術科目は音楽を専攻している、趣味で弾き語りをしているだけの人だから浄化とか知らないよ。どうしてこうなった!?


 あ、お肉やらお菓子やら貢ごうとしないで、拝まないで。佐藤さん、お地蔵さまじゃない。

 

次回予告

「可愛らしいお姫様直々にこちらに来て頂くようお願いするのは無粋というものでしたね」

「勇者様、本日より貴方様のお世話係に任命されましたミオと申します。どうぞよろしくお願い申し上げます」

「魔王とは一体何者なのか。長い話になるが聞いてほしい」

「いいえ、貴方を助けられて良かったです」

「死者の顔をして現れるなんて悪趣味ですね」

次回 〇急募〇 私が佐藤柚月(本物)だと飼い主さんに信じてもらう方法

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