表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第2章 VS魔王編
41/170

二度目の異世界

 公園で遺体が発見された事件は大々的なニュースとなり、平和な街は報道陣が訪れる落ち着かない雰囲気に変わった。


 人々は近所に殺人犯が居るのではないかと恐々噂していたが、捜査に進展がなく、遺体の身元も分からないのでは、次第に報道される頻度も減ってくる。

 クリスマスや年の瀬が迫る、どこか心が浮き足立つような活気の中で、いつしか人々の口から話題に上ることはなくなった。

 とはいえ、それはあくまで世間の反応であって、その遺体の持ち主である幽霊と現在進行形で同居している友人がいる身としては、忘れられない。





 クリスマス当日。佳乃子さんから幽霊のお兄さんをナンパした、と浮かれきったメッセージと共にお兄さんと一緒にカフェで苺タルトを食べている写真が送られて来て、懐かしさで思わず笑ってしまう。

 これを1回目に見た時は、私はユグドラシルの瑞穂国に居たんだよね。

 遠い昔の出来事のようで、気を抜くと靄がかかったようにあの日の光景を思い出せなくなってしまう。

 リュイさんの顔が頭に浮かんで胸が痛くなった。会いたいな。




 感傷に浸っても時は止まってくれない。共通テストでは、謎の野菜の精霊に苦しめられたが、無事に第一志望の大学に挑戦しても良いのではないかと言う点数を取れた。

 私は息抜きで友人と共に前回訪れた喫茶店に来ていた。甘い物が好きなのだと言う幽霊のお兄さんも一緒である。奇異に思われないように半個室のような席を確保して挨拶する。


「明けましておめでとうございます。お元気でしたか」


 何だかんだで会うのは、遺体を見つけたあの日以来になる。


「明けましておめでとう。まぁ、元気と言えば元気かな。佳乃子ちゃんの家の方にも本当に良くして頂いているから。佐藤さんも、今は追い込みの時期ですよね。こんなときに無理かもしれませんが、あまり無理はしないで欲しいな」


 心配そうな顔に私はニッコリ笑顔を返す。ここまで来たら、後は体調を整えて試験本番に実力を発揮出来るように調整するべきだと思っているから、大丈夫なんだけどね。


 オレンジ風味の紅茶のムースを食べながら、他愛ない話に興じる。彼はとても聞き上手で話すのが楽しい人だった。恨みを買うような性格だとは思えないんだけどな。

 ふーふーしながらお汁粉を食べていた友人は、他の人のケーキの味が気になるのか話ながらも視線をチラチラとテーブルに向けている。


「これ、美味しいよ」


 友人の元にケーキを押しやろうとした私に先んじて、お兄さんが自分のショートケーキを一口分すくうと、佳乃子さんの口元に持っていった。これは、あーんの図では無いだろうか。

 佳乃子さんがお兄さんの手元を凝視して固まる。ん? と首を傾げたお兄さんだが次の瞬間熟れたトマトのように白磁の肌を朱に染めた。幽霊も照れると顔が赤くなるんだな。初めて知った。


「ご、ごめん。妹によくしていたからつい癖で。女性に対してすべきではなかったね」


 佳乃子さんの目がすっと細まる。それに顔を青白くさせると、もう一度謝ってフォークを下ろそうとしたお兄さんの手を掴み、そのままケーキを食べた。


「貴方が私にも食べさせたいと思ってくれるなんて嬉しいよ。確かにこのケーキは美味しい」


 可憐な笑顔を浮かべてお礼を言う友人に、貴方そんな芸当出来たんだと感心してしまう。あれ、でもこれって。


「間接キス?」


 私の言葉に今度こそ羞恥が限界を突破したのか、「ごめんなさい!」と謝ると勢い良く席を立って店から走り出てしまった。あらら。


「女の子を何人も侍らせていても違和感無いような美形なのに、意外とウブなんだね」


 友人よ、その評価はいささか失礼では無いだろうか。追いかけたほうが良いかと悩んだが、かえって拗れそうなのでスイーツを楽しみながら彼が戻ってくるのを待つことにした。気になることも有るし。


 30分後、恥ずかしそうな顔で戻ってきたお兄さんを何でも無い顔で出迎える。


「さっき、妹って言ってたけど貴方の御家族のことで何か思い出したのですか?」


 私の質問にお兄さんがハッとした顔になる。次いで記憶の蓋を開けるように視線を宙にさ迷わせた。


「忘れてたけど、確かに僕には妹が二人いた。性格は正反対だけど、根っこの部分は責任感が強くて面倒見が良い所がよく似ていた。父はいないけど母がいて、いつも優しく僕らを見守っていてくれていたんだ」


 彼が浮かべる優しい表情に、良い家族だったのだと思う。何とか家族の居場所が分かると良いんだけど。


「名前は思い出せる?」


 友人の質問に、彼は眉ねを寄せる。


「忘れな草に歌?  うーん、駄目だ。形にならない」


 謎の単語が出てきたな。家族で呼び合うあだ名みたいなものかな。お母さんもお父さんに対して「私の可愛い黒ゴマちゃん♡」とかフザケて呼ぶもんな。


「あ、でも、母が。そうだ、僕のことを日奈(にいな)と呼んでいた」


 お兄さん、意外と可愛いお名前だった。でも、名前が分かったなら大きな進歩だ。珍しい名前だから、失踪者の名前でも探しやすい。


 収穫にホクホクしながらケーキを食べ終え少し雑談してからお店を出た

 。余談だが、名前が分かったからとここぞとばかりにお兄さんの名前を呼びかけ続けた佳乃子さんに、最終的に恥ずかしくなり耐えきれなくなったのか、お兄さんがテーブルに突っ伏してしまう事件もあった。

 機嫌を取るために、佳乃子さんがフルーツタルトを追加注文していたのが面白かった。







 人には特上の優しさで接しなさい、という家訓を胸に日々過ごしている佐藤家は人助けで財を成す家でもある。

 佐藤の人間に救われたという人もまた恩を忘れない律儀な人たちなので、何か困ったことがあれば協力してくれる味方が多い。

 それは、何の助けにもなれないような子どもである私に対しても平等に手を貸してくれる。なんて有難いことだ。


 だから、私は情報収集に強い人たちにお兄さんの特徴と名前を話して行方不明者のデータの中に合致する人がいないかどうか探してもらった。

 しかし、今のところそれらしき情報は出てこない。警察も探しているんだからそんなにうまく行くはずがないかとため息を吐く。


 そんな中でも日々は穏やかに過ぎていく。共通テストが終わってしまえば3年生は自由登校期間に入るので、週一回の登校日以外には家で勉強していても構わない。

 いくら暖冬で今年はまだ雪が降っていないと言っても、吹く風は冷たいので、これ幸いと私は家に籠ってひたすら二次試験対策の問題集や参考書と睨めっこしていた。


 得意科目で勝負できるのは有難いけど、私が狙っている大学は難しいから油断していていい訳じゃない。

 こうなると、いつも遊んでいるようにしか見えないのに試験は満点以外取ったことが無い友人の頭の構造が羨ましくなる。


 登校日以外で久しぶりに外に出たのは、バレンタインを明後日に控えた冬の午後だった。

 グレーのダッフルコートを羽織り、ギンガムテェックのマフラーにクリスマスにプレゼントでもらった手袋を付けて、完全防備で外に出るが、風が吹けば芯から凍えるような寒さだ。

 後悔しかけたが、私はお父さんのためにバレンタインチョコを用意するという使命があるため、家に引き返すわけにはいかない。

 もう一人、絶対にあげたい人もいるけど会う方法も分からないから、考えないように首をふった。







 バレンタインを間近に控えているだけあって、デパートのチョコレート売り場は中々の賑わいだ。

 お父さんはお酒も好きだからこのビール入りのチョコレートはどうだろう。

 いや、ここは名前からしてちょっと大人な雰囲気がするラム酒入り? いやでも。考えながらチョコレートの海をキョロキョロしていると、あるパッケージに吸い寄せられるように足を止めた。


 黒地に銀の箔押しで雄々しいライオンの姿が浮かび上がっている。何処かリュイさんを思い起こさせせるその箱に、たまらず手が伸びてライオンの姿を指でなぞる。


「あれー、柚月ちゃんだー! おじさん宛のチョコ買いに来たの?」


 身近で聞こえた友人の声に慌ててパッケージから手を離す。


「あ、うん、そうなの。佳乃子さんもお父様宛のチョコレートを買いに来たのかしら?」


「うん。後、今年は日奈さんにもあげようかなって。日頃お世話になっているし」


 割とうっかりというかがさつな所がある友人は、朝日奈さんに起こしてもらったり、忘れ物を届けて貰うのは序の口だ。

 更には長い髪も櫛でとかしはするものの伸ばしっ放しで、髪型を変えるなんてことはしていなかったのだが。

 日奈さんが来てからは編み込みをしたりと割と凝った髪型で現れる事が多くなった。

 日奈さんが慣れた手つきで色々としてくれるらしく、いつもなら真っ直ぐな髪が今日はフワフワと巻いてあり、赤いリボンを飾ったポニーテールになっていて何とも可愛らしい。

 もしかして、妹さんにもしてあげていたのかもしれない。いいお兄ちゃんだったんだろうな。


「ねぇ、さすがにマフラーとか贈ってしまったら嫌な気持ちにさせるかな。さっき、お店の中をぶらぶらしていたら綺麗な藍色のマフラーを見つけたんだけど」


 マフラーは恋人に贈る品でもあるからなぁ。知り合ってそんなに長い訳じゃないから、相手にとっては重いかもしれない。

 でも、あれ、もしかしたら佳乃子さんは本気で日奈さんの事が気になり始めているのかな。だったら友人として応援を。


「あの傷が痛々しすぎていい加減こっちの情緒が限界なんだよね。見てるこっちが泣きたくなる」


「分かる。今すぐ包帯巻いてやりたくなる。よし、マフラー買おう」


 恋なんて甘酸っぱい物ではなくもっと現実的な課題だった。正直それは私も思っていた。見ているこっちも痛くなるような錯覚を覚える。だから、なるべく首の傷は見ないように目を反らしているのだが、どうしてもふいに目に入ることはある。一緒に暮らしている友人はなおの事だろう。よかった。友人にも普通の感覚があったんだね!


「でも、マフラー何て露骨すぎないかな。私が医者だったら縫合してあげるんだけど。そうだ、やっぱり医学部受験しよう!」


「でも、医学部って6年間じゃなかったかな」


「じゃあ、やっぱりマフラーが現実的か」


 無い知恵を絞って考えた結果、「まだまだ寒い日は続くし、貴方に似合いそうだから」とでも言って贈れば、重くもないし角が立たないのではないかという結論に至った。

 チョコレートコーナーで父へのチョコと自分用にあのライオンのパッケージのチョコを購入し、友人と共にマフラーが置いてある店に向かった。

 特に何の問題も無くマフラーも買い、(手触りがよくて温かいという自分でも欲しくなるような良い品だった)休憩がてらフードコートに入ってオレンジジュースを飲む。

 お店の中は暖房が効いているから、冷たい飲み物の方が嬉しい。


「さっき、凄く愛おしそうな顔でチョコ見ていたけど誰にあげるの? やっぱり夜桜(よざくら)君?」


 唐突に出て来た従兄弟兼婚約者の名前に私は思わずむせる。

 いや、よっちゃんとは佐藤家の呪いを回避するためだけに結んだ名ばかりの婚約だから、お互いに恋愛感情なんてないよ。チョコレートを贈った事もない。

 あー、そうだ。私に好きな人が出来たし呪いももう終わったのだから婚約解消の話もしないといけなかったな。すっかり忘れていた。思い出させてくれてありがとう、友人。何てことをアワアワと話す。


「柚月ちゃんが好きになるならきっと素敵な人なんだろうね。もう告白はしたの?」


「したよ。でも返事は聞かなかった。聞かなくても分かるよ。私は彼をひどく傷つけてしまったから、きっと彼は私の事が嫌いだ」


「勝手に自己完結するのは良くない気がするけど。でもそうか、佐藤の呪いが終わったって事は」


 気づかわし気な視線に私はいつも通りの笑顔を返す。死んだことについては後悔してない。後悔は、彼に直接謝れないこと、向こうのお友達にお別れが言えなかった事だけだ。


「どんな人なの? 良ければ聞かせてほしいな」 


 話せばリュイさんに会いたくなるから、なるべく思い出したくなんて無かったけど、そうしているうちに自分の中から彼の存在が無くなりそうで怖いと思う日もあった。まだ、あの日々の記憶は誰にも開けられない記憶の箱には入れたくない。だから、いいタイミングだったんだろう。どうせ、前に一度話したことだ。私は佳乃子さんの家に遊びに行ってもいいか尋ねた。











 3月1日。まだ後期試験は残っているものの、取りあえず第一志望の大学の2次試験が終わった開放感に浸る。


 おつかいを頼まれたから、夕食の食材を買うためにスーパーに行ったら友人とお兄さんに会った。こちらも仲良く買い物らしい。夫婦かな。彼はあの藍色のマフラーを付けてくれていた。バレンタインに会った時に見てはいるけど、似合っていて良かった。


 まぁ、1回目に異世界でその話を聞いたときには喜んでくれていたから、今回も大丈夫だろうとは思っていたけど、本当に付けていてくれるとは。


「ねぇ、ねぇ。明後日ひな祭りでしょう。ケーキ焼くから家に遊びにおいでよ。お雛様たちも柚月ちゃんに会いたいって言っているし」

 一緒に日食も見ようと誘われて二つ返事でOKする。


 そういえば、ニュースでやっていたが明後日は珍しいことにここで皆既日食が見えるんだよな。黒い太陽を是非とも拝みたい。


 そんな訳でひな祭り当日。お気に入りの桃色のニットワンピースを着て、日本家屋の古いお屋敷である佳乃子さんの家を訪れたのだが。


「お嬢様はただ今ケーキの仕上げをなさっていますので、こちらで少々お待ちください」と言うお手つだいさんに、勝手知ったる他人の家だからと自分でお手伝いさんに言われた部屋に向かい、銀粉で飾られた襖を開けたところで目まいがした。









「はい、柚月ちゃんの分のレンズ」


 佳乃子さんに日食を見るためのレンズを渡されたところで、はっと意識が戻る。


 あー、そうか。今日だったね。あの時、神官の手によってエルドラードで光の神への生贄にされかけた私は、どうやら意識だけ日本に戻っていたらしい。


 あの時は意味がよく分からなかったが、あの時佳乃子さん達が言っていたことにようやく合点がいく。


「外に行こうよー!」


 テンション高くピョンピョン跳ねまわる友人に手を引かれて庭に出る。


 昼なのに空が暗い。何だか不気味だなと思いながら空を見上げようとして、背筋が泡立つような恐怖を覚える。


「幸せな時間は終わりだね。帰らないと」


 振り返れば、いつも穏やかに笑っていたお兄さんは人形のような無表情だった。なまじ顔が整っているだけあって妙な迫力がある。冷たい美しさ。

 茶色の髪の毛先が風になびく。爛々と光って見える橙色の瞳の瞳孔が縦に裂けた。人とは異なる爬虫類の様な瞳に思わず一歩後ろに下がる。お兄さんは悲し気に笑った。


「大丈夫。僕は君たちを傷つけたりしない」


 怯えさせないようにかゆっくりと近づいて来る彼に、佳乃子さんの反応を伺えば不思議そうな顔をしていた。ここで、恐怖を覚えないところが本当に大物だと思う。


「もしかして、記憶が戻ったの?」


 佳乃子さんが聞けば、彼は頷いた。わー、それはおめでとう。


「ホワイトデーに渡そうとしたんだけど、もうお別れだから」


 なんだか私が邪魔者のような気がして、怖がってないならいいかと佳乃子さんを前に押しやり、私は後ろに下がる。

 ここは、星宮家のテリトリーだ。万が一の時は雛人形を筆頭とした彼女の護衛が動くだろうから大丈夫だろう。私は木だ。空気だ。消えろ、存在感。


 意図を察した佳乃子さんがお兄さんに駆け寄ると、見慣れた陽だまりのような笑顔を佳乃子さんに向ける。でも、不思議と泣いているような気がした。


「ありがとう、どうか幸せにね」


 お兄さんは包みを佳乃子さんに握らせると、腰に腕を回して引き寄せる。そのまま、彼女の額に口づけを落とした。

 うおー、マジか。やるな! 突然の出来事に固まる佳乃子さんを一瞥すると、彼は後ろに下がった。


 次の瞬間、そこには見事な赤い鱗を持つ美しい竜がいた。嘘だろ。本当に人間じゃなかったのか。うわー、神話の存在が目の前に! と地味に興奮してしまう。コウモリの様な大きな翼を力強く羽ばたかせると、彼は何処かへと飛んでいってしまった。


 何か、白昼夢を見た気分だ。








 しばらく、二人してボーっと空を見上げていたがふと思い出したかのように佳乃子さんがプレゼントの包みを開けた。中身は、腕時計だった。

 文字盤には薄青の地に白抜きされた鹿と星がデザインされた美しい時計だ。幽霊なのにどうやって用意したんだろうと言うツッコミは無しカナ。

 でも、確か腕時計の贈り物には別れの意味があるんだよね。彼は何処かでこうなる事を予見していたのかもしれない。


「これ以上ないくらい佳乃子さんにピッタリの品だね。よくこのデザインを見つけたな」


 苗字に関連した星モチーフの品はよく見かけるけど、鹿は中々ないよね。大人っぽいデザインだけど、黙っていれば清廉な妖精の様な美少女である佳乃子さんによく合っていた。

 鹿の子ではあまりにもそのままだからと、佳乃子という字をあてられたという話を友人からは聞いていたけど、お兄さんも知っていたんだね。

 佳乃子さんのご両親の出会いが、観光で訪れた奈良公園で鹿に餌をあげている所で出会って意気投合したというもので、それにあやかってこの名が付いたらしい。


 ぎゅっと腕時計を胸に抱いた佳乃子さんが、何かを決意したように顔を上げた。


「よし、私日奈さんを探す! 折角仲良くなれたのにこれでお別れ何て嫌だから」


「探すって、一体何処を?」


「それは分からないけど。取りあえず赤い竜の伝説が残るウェールズあたりからかなぁ」


 友人の行動力はいつも凄いけど、今回ばかりは自信が無さそうだ。でも、瞳に宿る強い意志から、ここで止めても確実に飛行機に乗って探しに行くだろうな、と諦めにも似た気持ちがわき上がる。



 そんな時だった。足元には謎の魔法円、ワクワクで顔を輝かせる鋼の心臓の友人、そして巻き込まれる私。嘘だろ。



 ファンタジーはあれで終わりじゃなかったんですか、ブーリさーん!(血涙)





 目を開けると、深い森の中に立っていた。太陽の光に透けて葉が翡翠色にキラキラと輝いている。綺麗だな。


「あれ、柚月ちゃんはどこに!? というかここ何処、富士の樹海!?」


「いや、私貴方の隣にいるけど」


 キョロキョロ見渡して気づく。何か妙に目線が高いな。


「え、その声。うわ、柚月ちゃんったら立派になって。お母さん嬉しいよ!」


「いや、私は貴方から生まれた覚えはない」


 嬉しそうに抱き着いて来る佳乃子さんが下に見えるし、ちらちら見える黄色い毛並。

 うん、認めよう。私またモフモフになっているね。前回小猫サイズだったのになんでこんな大きくなっているの!? 遅れて来た成長期か何かなの!? これ、余裕で人を乗せられるよ。


「でも、本当ここ何処だろうね? とりあえず、人を探したいな」


 明るい光が差す方に歩こうとしたところで、ふと巨大な樫の木に突き刺さった剣を見つけてしまった。あ、佳乃子さんが目を輝かせた。


「アーサー王に私はなる!」


 ま、どうせ抜ける訳ないよねと呆れた眼差しで見ていたが、何の抵抗もなく木の幹から抜け、刀身に王冠を被った白鳥の姿が刻まれ、炎をまとった美しい剣が佳乃子さんの手中に収まった。

 背後で木の葉がすれる音がしてハッと振り向くと、数人の男女がこちらを驚いたように見やっていた。



 神官みたいな白い服をきた人々は口々に「成功だ」「これで世界は救われる」「あの魔王ももはやこれまで」と口々に喜んでいる。今度はRPGかな。この後王様に世界を救う旅に出ろとか命令されるんだろ。ダンジョンとかに挑んで宝箱見つけたり、伝説の剣をもって仲間と共に魔王軍と戦うんでしょ。分かります。私の役職は村人Aでお願いします。


「え、待って。これ現実。どうしよう、昨日徹夜でゲームしたから寝ちゃったのか」


 後期試験を控えた受験生にあるまじき台詞を放つ佳乃子さんに、髭を生やした一見するとサンタクロースにも見える老神官が恭しく剣を持ちながら近づいて来た。そのまま膝まづき、「どうかこの剣で我らを滅ぼす魔王を倒して頂きたい」と佳乃子さんに告げる。


「勇者様におかれましてはこのように強き力を宿す太陽の獣を従えるとはさすがで御座いますな。あぁ、やはり天におわす神々は我らを見捨ててはいなかった。樫の木に封じられしその剣のみが魔王を殺すことが出来るのです。どうか我らをお救いください」


 何、世界の危機って流行っているの。世界、軽率に終わろうとしないで。その展開は地雷です。


「愛だけが敵を友人に変えられる唯一の力だBy佐藤」


「いやそれ、ルーサー・キング牧師の名言!」


 戦いたくはないので全力で仲良くなる方向に行こうと思います。リュイさんに訓練されたアニマルセラピーのエキスパートを舐めないでほしい。我がモフみに落ちるがいい!


 ところで、佳乃子さん。万年彼氏募集中を公言しているためか、魔王様美形だったらいいな。是非お近づきにと狩人の目になっているけど、異世界で彼氏ゲットを目指すつもりか。

 未だかつて、魔王を彼氏にしようと企む勇者とか存在したのかな(遠い目)


「いや、あんた日奈さんはどうするの?」


「え、日奈さんはお友達だから彼氏じゃないよ?」


 お兄さん、貴方は泣いていい。我が友人は可愛いのに何故か彼氏が出来ない理由の一端を見た気がした。

佐藤さんが贈り物の意味に詳しいのは、前回冬至祭で偽サンタをした時に、ブーリさんに香水の贈り物の意味を教えてもらい、他の品にも何か意味があるのかと調べたからです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ