牡丹に猫、オレンジの記憶
ブーリさんからもらった白いバラを物置部屋から見つけ出した花瓶に生ける。それから、課題を確認するためにソファに放置していたカバンを開ければ、そこには無いはずのオレンジのリボンが入っていた。
食いしん坊な私への贈り物は大抵お菓子だったから、飼い主さんからのプレゼントで手元にあるのは、もうこのオレンジのリボンしかない。
人間に戻ったし、スマホで撮っていたはずの写真のデータも消失し、万能首輪も無くなったから、私に異世界で過ごした日々が本当にあったのだと教えてくれるものはもう飼い主さんがくれたこのリボンしかない。
一人の部屋で、なめらかな肌触りのリボンを撫でながら、私は遠くの存在になってしまった彼のことを思い起こしていた。
本当に、慰謝料っていくら払うべきなのだろう。私は金銭の喪失で済むけど、相手には消えない傷を作ってしまった。本当に申し訳ない。
翌日。私にとっては、一年ぶりになる高校も無事に終わった。昨日ノートや教科書を見直して復習しておいて良かった。
高校の内容はとっくの昔に全部終わっているから、授業内容は大学入試対策が主になる。そのため、基礎を思い出していなかったら授業についていけないところだった。
久々に頭をフル回転して疲れた私は、帰ったらクッキーでも頬張ろうと思いながら玄関の扉を開けた。
玄関に、男の人のものである革靴が揃えて置いてあるのを見て、一瞬動きを止める。お父さんったら、本当いきなり帰ってくるよね。仕事で日本のみならず世界中を飛び回っている父と会うのは久しぶりだ。まぁ、私自身一年間異世界に行っていたから余計にそう思う。
リビングに繋がる扉を開ければ、奥のキッチンでエプロンをつけた父が夕食の支度をしていた。
我が家では、お父さんが一番料理上手なので父が休みで帰ってくると三食のご飯の準備とお弁当は父の担当になる。
「ただいま、お父さん。今日のご飯何?」
「美味しい物。先に手を洗っておいで」
お父さんは私を振り返ると何故か小首を傾げた。しかし、すぐにキャベツの千切り作業に戻ってしまったので、私も特に気にせず洗面所に向かう。
リビングに戻ってソファーに座ってテレビをつける。夕方のニュースを眺めていると、部屋に味噌汁の良い香りが漂い始めた。
「今回は何処に出張だったの。お土産はー?」
「月菜ちゃんが帰ったら一緒に渡す。今回はギリシャ」
何かを油で揚げる音が聞こえてくる。私はソファーに身を沈めるように身体を預け直した。
「何かあった?」
静かな声に思わず姿勢を正す。異世界でのあれこれは聞かれたくなかったから、いつも通りを意識して振る舞っていたのに何故分かるんだ。
でも、どーせいつかは言わないといけないのだから、仕方ない。
「あぁ。運命に出会ったよ」
軽い口調を意識して言えば、背後で派手にお皿を割る音がした。
「え、あ、ごめん」
相当混乱しているのだろう。お父さんはすぐにしゃがむとお皿だった破片を拾い集めようとする。危ないな。手を切ったらどうするんだ。それに、そもそもこの場に私が居るのだからそんな事をしなくていいのに。やっぱり冷静な判断が出来ていない。
中空に見慣れたラピスラズリをあしらった黒革のチョーカーが出現する。それが光を帯びて、青い花が絡んだ美しい弓に姿を変える。
「怪我はしてなーい?」
「大丈夫。悪いけど箒とチリトリ……」
いらないよ。勿体ないし。私の手にある物を見てお父さんはハッとした顔になると割れた皿から離れた。白銀の矢をつがえて皿に向かって矢を放つ。破片の一つに突き刺さった瞬間、時間が巻き戻ったかのように皿が元通りに変わる。結果を見て、私は弓矢を元のチョーカーに戻す。
「うちのご先祖様は本当に便利なものを残してくれたよねー」
「便利さの域を超えている気がするけど。柚月ちゃん、さっきの話の続きはお父さんの覚悟が出来てからにしてくれるかな。お母さんも聞きたいだろうし」
お父さんの久方ぶりに見る真剣な顔に私はコクコク頷き、夕食が出来るまで制服から着替えて今日の課題を部屋でする事にした。
仕事から帰って来たお母さんに呼ばれて、私は一階のリビングに降りる。テーブルに並んだおかずのメインは今日はメンチカツかな?
「えへへー、久しぶりの弥桐の作ったご飯だわー。あー、今日も生きていて良かった」
「月菜ちゃんは大げさだな」
呆れたようにため息を吐きながら、お父さんがご飯と味噌汁をよそって私の前に置いてくれる。私はせめてと、箸だけは食器棚から取ってテーブルに並べる。
「いただきます。うーん、ホントお店が開けそうなぐらい美味しい。さすが、天才!」
フライングしておかずに手を着けたお母さんが目を輝かせる。私も挨拶をしてメンチカツだと思うおかずを口に入れる。
あ、予想通り。さっくりと揚がったジューシーなメンチカツはキャベツもたっぷり入っていて美味しい。思わず笑顔になってしまう。
ご飯もお代わりして、食後のお茶の時間になった時にお父さんが覚悟を決めたような顔でこっちを見た。ついにか。
「今回はギリシャに行ったからお土産があるんだ」
あ、最初はそれですか。渡された紺色の包装紙の中身はオリーブオイルが入った石鹸だった。いい香り。
一方、お母さんのはと言うと自然石をあしらった金のブレスレットだった。ギリシャは金や銀のアクセサリーが人気だから日本よりも価格は安いらしい。贈り物にブレスレット。うん、相変わらずお熱いことで。
その、空色の自然石を見て、私はチクリと胸が痛む。リュイさんの瞳を思い出してしまうな。
浮かない顔をした私を見て、お父さんが慌てだす。
「柚月ちゃんもブレスレットが良かったのか。ごめん、普段付けないから候補に入れていなかった」
「え? いいや、違うよ。石鹸嬉しいよ。ありがとう」
「弥桐、アクセサリーの贈り物何て彼氏に貰うものなんだから、ゆうちゃんに送るのは野暮ってものだよ。君の選択は正しい」
「かれし」
あ、今度はお父さんがダメージを受けた。
「引っ越すか」
いや、どうしてそうなるの。妙にスッキリした顔をこっちに向けないで。
「この街に住むの飽きちゃったの?」
お母さんもそこで頓珍漢な答えを返さないで。一年の半分以上は海外にいるお父さんがそもそもこの街に飽きるとか無いと思う。
「だって、この街を離れて奴に会わないようにしないと柚月ちゃんが死んじゃう」
「え、嘘。ついに彼氏が出来たの!? おめでとう、ゆうちゃん!」
私は二人の勘違いを正すために、この一年の異世界での生活の出来事を話した。メールではすでに説明した内容をもう一度話せばいいだけだから、話の組み立ては楽だ。
でも、今初めて話す自分の死と彼に対する告白の話題では躊躇してしまう。恥ずかしくてキスしたところはボカして伝えた。
しかし、実は日本でリュイさんと会っていたなんてびっくりだな。あと、友だちだと思っていた光の神に最後刺されたのが地味にショックだ。散々、リュイさんが好きだと言っていたから今度こそ完全に敵認定をされてしまったのかも。次に会う時は気を付けよう。
「そう、よく頑張ったのね」
お母さんは私を抱きしめると、優しく頭を撫でてくれた。
「何も柚月ちゃんが犠牲にならなくていいだろうに。それに、そもそも娘の一人も守れないような相手になんか」
お父さんが黒いオーラを纏ってブツブツ言っているのが地味に怖い。
「でも、柚月ちゃんは猫の姿も取れるのね。きっと可愛いんだろうな。私もユグドラシルに行ったら猫の姿を取れるのかしら」
母よ、興味があるのはそこなのか。でも、狐を祖先に持つ人間が猫の姿を取るのは妙だよね。
もしかしたら、人によってもう一つの姿となる動物は違うのかもしれない。
「でも、世界が離れてしまったのなら寂しいわね。恋人同士になったばかりなのでしょう」
「え、あー、告白をしただけだから。恋人って訳では無いんだ。それに多分リュイさんは私の事は好きにならないよ」
「柚月ちゃんからの告白を断るとかどんだけ失礼な奴なんだ。やはり、三枚おろしに」
「貴方、柚月ちゃんとの交際には反対していたんじゃなかったの」
お母さんの呆れたようなつぶやきに私もコクコク頷く。
「娘が告白を断るのはいいけど、相手がゆうちゃんのことをフるのは許せないというところかな。男親の心は複雑ね」
「当然だろう。娘を傷つけるなんて死んで償ってもらう」
何でうちの親はこうも物騒なんだ、と思わず遠い目になる私なのでした。
リュイさんにお父さんが迷惑かけるところだったから、世界に隔たりがあって良かったかもしれない。
ユグドラシルで世界の終わりを経験したのが夢だったかのように、日々は穏やかに過ぎていく。
大学入試に向けて勉強したり、高校生活最後の球技大会を満喫しているうちに、日本に戻って1カ月が過ぎようとしていた。世間はもうすぐクリスマスで、街を歩いているとキラキラとした電飾や心が楽しくなるようなクリスマスソングで溢れている。
お父さんは今年は珍しくクリスマスの時期にお休みが取れたようで、当日のメニューはこれでいいかな? と確認のメールが来た。今年のメインはローストビーフか。楽しみだな。
「ねぇ、ねぇ。柚月ちゃん! 駅の近くに新しいカフェがオープンしたんだって! この時期限定のブッシュ・ド・ノエルがおいしそうだよ。他にもクリスマスのスイーツがあるし、食べに行こうよ!」
放課後、鞄に教科書をしまってさぁ、帰ろうと席を立ったのだが。ピョンピョン跳ねながら、よく「それ○○の名言!」というツッコミを私にくれる友人がやってきた。相変わらず、元気だ。
「佳乃子さんったら、もうすぐ試験が始まるのに大丈夫なの?」
「受験生だって息抜きは大事だよ。何ならケーキ食べながら勉強したらいいんじゃない」
「オープンしたてのお店は混んでいるだろうから、勉強で長時間居座るのは迷惑だよ」
それもそっか、と眉を下げてしょんぼりする姿に、ムクムクと罪悪感が湧いて来る。これだから、美少女って奴は。
人には特上の優しさで接しなさい、という我が家の家訓の文言が脳内を占める。
「ケーキ、食べたら真っ直ぐ帰るよ」
「やったー! お互い違うの頼んでシェアしようね!」
柴犬の様な愛らしい笑顔に私は完全敗北を悟ったのだった。
カフェは盛況だったが、平日だったためかそんなに待つことも無く席に座れた。
クリスマスツリーを模した抹茶パフェにするか、それともトナカイモチーフのチョコレートケーキにするかと一瞬悩んだが、佳乃子さんがブッシュ・ド・ノエルにするなら味を変えた方が良いだろうと抹茶パフェに決めた。
可愛らしい花がいたるところに飾られ、庭園の中で食事をしている気分になる。素敵なお店だな。
運ばれて来たスイーツも美味しくて、受験が終わったら絶対打ち上げに来ようと、私は友人と固く誓い合ったのだった。
駅に向かう近道として噴水のある大きな公園を歩いたところで、私は目の前の光景に思わず足を止めた。
この木って。
季節外れに白い花を満開にさせた沈丁花の木に、知らず背筋が寒くなる。
「うわー、珍しいね。今年は暖冬だからかな。でも、お花綺麗だ―」
スマホを取り出し、写真を撮ろうとした佳乃子さんを私は止める。今、この木を撮ったら絶対に心霊写真になるよ! しかし、佳乃子さんは盛大なため息を吐いた。
「まぁ、確かに夕暮れ時の薄闇の中だし、狂い咲きの木なんて何処か不気味だけど、別に悪い気配はしないから大丈夫だよ」
でも、貴方のいる足元には白骨死体もあるんだよ。
あ、でもあのお兄さん優しい人だったし仲良くしていたみたいだから、案外平気かもしれないがまだ心の準備ってものが出来ていない。
まさか、沈丁花があったのはよく通学路に使っていたこの公園だったなんて。
「はーい、撮るよー」
思考の海に沈んでいると、腰に腕が回って引き寄せられる。友人の顔が近くなりスマホが向けられる。パシャリという音に私は反射で浮かべた笑顔を消す。
「かーのーこーさーんー」
「きゃー、何か柚月ちゃん怖いよー。もう、そんな心配しなくても、この公園は別に心霊スポットって訳じゃないから大丈夫だよ」
そう言って、スマホを操作し撮った写真を確認した佳乃子さんの動きが止まる。画面を凝視して固まっていたと思った瞬間、勢いよく背後の木を振り返った。あー、やっぱり映っていましたか。
「カッコイイー! やったー、イケメンの写真ゲット! 今日の私はついてる!」
頬を染めてキラキラと瞳を輝かせる友人に、写真を確認した私は、やっぱりこの子の感性って何処かズレているよなーと嘆息する。いくら顔が整っていても、血まみれの青年が月の無い夜の闇を纏ったような目で写り込んでいたら普通怖いと思うけど。
目を凝らして木の周りを探してみるが、スマホのカメラ越しでも肉眼でも写真に写り込んだお兄さんを見つけることは出来なかった。
骨が見えるくらいあそこまですっぱり首を切るとなると、やっぱり殺人事件の被害者なのかな。
ってことは、この街に完全犯罪をやらかした殺人鬼がいるってこと!? おー、怖!
私の通う高校は、今年で創立110年目を数える、県内でも中々に古い歴史を持つ公立の女子校だったりする。
そして、学校の建物が建つ場所は久遠寺ヶ丘と呼ばれ、校歌の歌詞にも歌われる古い地名だ。久遠寺と言う言葉通り高校の隣にはさらに歴史の古い寺があり、教室の窓からは青い海や街並みの他に眼下に広がる墓地を見ることが出来る。
生徒たちが登校する朝の時間にはよく久遠寺の住職が掃除をしており、優しいお爺さんな彼とは三年も通っているとそこそこ親しい知り合いになる。
中には、恋や進路の悩みを住職が出してくれる和菓子をつまみながら相談に訪れる生徒もいるくらいだ。
で、まぁ、何が言いたいのかと言うと成仏できていない幽霊となった人物がいるという相談事は、十分お寺に持ち込む相談として適していると思う。
と、いう訳で翌日の放課後。折角ゲットしたイケメンの写真なんだから家宝にするんだ―とごねる友人を説き伏せて、高校の隣にある寺を友人と共に訪れた。写真は昨日のうちに佳乃子さんにプリントアウトしてもらいスマホに入っている元データはしっかり消去した。友人には鬼を見るような眼で見られたが、大丈夫。私の記憶の通りに事が動けばこの後写真のお焚き上げの最中に絶対お兄さんは現れる。
住職はいつもの陽だまりのような落ち着く笑顔で出迎えてくれた。彼には私たちより少し年上のお孫さんがいるので、孫を見るような目なのだろう。早速、お茶とお菓子を持ってきてくれようとする住職を止めて、写真と共に昨日の出来事を話せば住職は真剣な目で写真を見た。
「なるほど、なるほど。道に迷いし者がおるのならこれは私たちの領分じゃのう」
お小遣いから捻出したお布施を渡して、お焚き上げを依頼しようとしたがお布施は丁重に断られた。孫と同じ年代の子からは受け取れないらしい。
いや、面倒なことを依頼するから受け取って頂かないと罪悪感がすごいんだけど。本当にいいんですか。そうですか。
そしてお寺の庭でお経をあげてもらって、祈りを捧げていると、過去の友人からのメールの通りに、微妙に向こうの景色が透けて見える幽霊のお兄さんが登場した。
「かっこいい……」
血まみれの人を見て言う反応はそれか。友人に向ける気持ちが和尚さんと一致した瞬間だった。
お兄さんまで、夕暮れた空を思わせる綺麗なオレンジ色の瞳に戸惑いの光を宿しているが、怖がられなかったのが嬉しかったのかふにゃりとした笑顔を向けた。途端に友人が胸を抑える。うんうん、今の攻撃は凄かったね。
「僕は殺されました。どうか遺体を見つけて欲しい」
ほらー、やっぱりこの街に殺人鬼がいるんだー! と内心涙目になる。
事の重大さを悟った和尚さんは、知り合いだという刑事さんに連絡を取ってくれた。
そして。刑事さんと合流したところで、スコップを和尚さんの車に積み込み、4人で例の公園に行ってみた。
警察の力で少しの間公園を封鎖し、夕暮れ空に妖しい光を帯びる沈丁花の下を慎重に掘っていく。
結論から言うと、遺体は無事に発見できました。刑事さんが血相を変えて応援の連絡を入れる。
彼も半信半疑だったのだろうが、実際に遺体が出たら後は警察の領分になる。心理面を大層心配されてカウンセラーを紹介されたが私たちは丁重に断った。
確かに、火葬場で見るような真白の骨とは違い、まだ土に還りきれていない赤い肉片がついた骨は中々に生々しかったが、それがトラウマになるほど私たちは可愛い性格をしていない。「後は大人に任せて君たちは帰りなさい」と言う刑事さんの言葉に頷き家へと向かう帰り道。
気配を感じて振り返れば、茶色の髪が日に透けて金にも見える髪と、オレンジの瞳を持つ麗しい青年が立っていた。
何だろう。血も見慣れてくれると、白い肌に映えるような独特の美と言うか艶めかしい。ぞくりとした色気の様なものを感じる。
あ、私にリョナ趣味はないからね。念のため。
「僕を見つけてくれてありがとうございました」
お兄さんは深々とこちらに向かって頭を下げた。穏やかな見た目の通り礼儀正しい人なのかもしれない。
「いえいえ、あの私は佐藤柚月といいます。こっちの長い黒髪の子は星宮佳乃子です。お兄さんのお名前は?」
お兄さんの記憶から犯人を割り出して、我が家の家宝の力でも何でも使って殺人鬼を捕まえないと不安過ぎて夜しか眠れない! 自己中心的な性格ですが、何か?
「それが、分からないんだ。記憶が無くて。何でここに居るのか、自分は誰なのか。そもそもここは何処なのか。でも、漠然と自分は誰かに殺されたという印象はあるから、僕を殺した誰かがあの木の下に埋められたのだと思います」
自分は殺されたのだと言う重い秘密を彼は何処か他人ごとのように淡々と話す。幽霊なせいか元からの性格なのかは分からないが存在が希薄というか、今にも消えてしまいそうな儚げな雰囲気だ。
でも、どこか迷子の子どものように瞳を揺らめかせる。
「寂しいなら一緒に家に帰りますか。うちの家族は全員霊感があるから貴方を無視したり何かしませんよ」
口元に手を当てて何かを考え込んでいた友人がポンッと手を打った。
まぁ、佳乃子さんの家族ならのほほんと受け入れそうな度量はあるけど。お兄さんも驚いたように瞳を大きくした。
「迷惑……でしょう。自分は誰かの恨みを買う様な人間ですよ」
「んー、でも私は貴方は優しい人だと思いますよ。ここで会ったのも何かの縁だし、お友達になりましょう」
おう、友人が初対面の異性に向かっていきなり恋人になってくださいと言わないなんて珍しい。大人になったんだねと感慨深くて泣きそうだ。
「木の下の寂しい場所に貴方を残していく方が気になります。私のためを思うなら一緒にどうぞ」
沈丁花は公園の奥まった場所だったから夜は人通りも無いだろうからね。
何だかんだと説き伏せて、お兄さんのお持ち帰りに成功した佳乃子さんは私に向かってにやりとした笑顔を向けた。
どうしよう、お兄さんの身を護るためには家に来てもらった方が良かったかな。でも、記憶通りだと。うん、馬に蹴られるのは嫌だから見守っておこう。




