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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第1章 異世界旅日記編
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猫サンタとオーロラの夜

 草木も眠る丑三つ時。


 真っ赤なサンタケープを羽織り、プレゼントの入った袋を持ったどこからどう見てもサンタクロースのコスプレをした猫にしかみえない格好で、早速飼い主さんの枕元にプレゼントをそっと置く。


 鳥の魔物のせいか夜暗くなると眠くなってしまう飼い主さんは置きやすいが、白鳥なのに宵っ張りな弟ブーリさんが難関だな。兄弟なのにそこは違うんだね。


 先にミオさんのお家に行ってプレゼントを抜き足差し足忍び足で置き、いざ、ラスボスへ。


 耳をそばだててみるが物音ひとつしない。これはいけるか。ピッキングまで嗜む首輪様の有難い能力で中に入り、そっとプレゼントを置こうとしたところで、背後から冷えた殺気を感じた気がした。思わず首輪のルビーに命じて、女神様がくれた刀を召喚しそうになる。


 振り返って耳を澄ますが、穏やかな寝息とバクバク五月蠅い自分の心臓の音しか聞こえない。気のせいか。緊張しすぎて神経過敏になっていたらしい。


 さっさとプレゼントを置いて、さぁ、次の目的地へ。








 昨日ぶりな青い尖塔が印象的な壮麗なお城の中に足を踏み入れる。玄関からすでにガラス細工で作られた豪華なシャンデリアが釣り下がり、磨き抜かれた床に映っていた。


 奥行きが広く、床が一面市松模様になり王家の絵画コレクションが展示されたミニ美術館とも言うべき「騎士の間」を通り抜け、廊下の隠し扉を抜ければ照明の少ない寒々とした石造りの廊下に出た。


 何で、お城に来たかと言うと昨日皇女様のお誕生日に私は何もプレゼントを持ってこなかったからだ。


 ミオちゃんと合同という事になったけど、私はマグカップのお代を払っていない。これは由々しき事態だし、私もあの綺麗で可愛い皇女様のご尊顔と演説を聞き、さらに前にはリュイさんの危機を救う有難いお告げを頂いたのだからその分の対価を払いたいし、貢ぎたい。

 よって、私は今日いや日付変わったから昨日か。雑貨屋で可愛らしいクマのぬいぐるみを買ったのでそちらをプレゼントしようと思うのだ。

 さすがに部屋に入るのはまずいから、ハッキングまで嗜むグーグル先生に調べてもらった皇女様の部屋の前にプレゼントの包みとカードを添えておく。よっしゃ、ミッションコンプリート! 


 さぁ、帰ろうとお城の庭園に出たところで穏やかだが大きな声に呼び止められた。


「おや、可愛らしい猫さん。月夜の散歩かな」


「こんばんは、皇女様の誕生日プレゼントを置きに来たのです」


 剣を持った、見上げるほど大きな巨人は微笑ましそうに目を細めた。この人が伝説の。うーん、鎧とかしか付けてないから寒そうだよな。私は首輪様に巨大な緑のマフラーを出してもらった。


「夜は冷えますから。冬至祭おめでとう。貴方にプレゼントです」


「おやおや、ありがとう。では、お礼に今日のパーティの残りだがどうぞ」


 そう言って手渡されたケーキは珍しく柚子が飾られたチョコレートタルトだった。私の名前の果物だから妙な親近感が。

 ケーキのサイズは普通だったので、持ち帰るわけにはいかないと満天の星を眺めながらその場で食べた。

 濃厚なチョコレートの甘みと、柚子の甘酸っぱい爽やかな味が寒さで疲れた体に染みる。


「おや、今夜は運がいいな。聖なる夜を祝福しているようだ」


 赤や緑の光のカーテンが天上を覆い尽くす。オーロラ何て初めて見た。天のカーテンが様々な動きを見せる、その幻想的な宇宙のショーに私はしばし見惚れる。


「お嬢さん、儂が目覚めたという事はこの国に危機が訪れるという事だ。悪いことは言わないから逃げなさい」


 そう言えばこの巨人、普段は地下で眠ってるんだよね。この国の危機に目覚めて、敵と戦うと言われているけど何か起きるのか。


 お礼を言って城からホテルに帰り、ベッドに潜り込む。ぐるぐるとまだ起こっていない危機について考えていたが、疲れていたのかいつしか眠りについていた。


 







 淡く金を帯びた緑色に光る木の下に私はいつの間にか立っていた。

 周りを見渡すも、見上げても上が見えないほどに大きな力強さを感じさせる木以外に何も見えない。後は穏やかな風が吹く草原だけだ。

 あれ、ここは昼なんだね。空が青い。


「何者でしょうか、世界樹に近づくとは」


 低く艶やかな声に見れば、木の枝から音もなく黒い獅子が目の前に降りて来た。

 うわー、銀の翼が生えている事以外は、ニュースで見た突然変異でしか生まれないと言う珍しい黒いライオンさんじゃないか。

 うおー、実物マジ美しい。威風堂々としたかっこよさ。素敵だ。前回精霊国で会った時は寝ていらっしゃったため、瞳の色は見れなかったが、赤味を帯びた金色という珍しい瞳の色がとても綺麗だ。


 前足には、あの日結んだ銀色のリボンが変わらずあって、思わずニコニコしてしまう。


「すみません。邪魔するつもりじゃなかったんだけど私も気づいたらこんな場所にいて。これって世界樹って言うんですか?」


 某ゲームと北欧神話が頭を駆け巡る。ブーリさんに聞いていたから、実在するとは思っていたけど、やっぱりあったぞ。


「そうです。世界を支えている樹でこれが枯れると世界の終わりが始まると言われます。そして最後は炎に包まれてその火で世界を焼き尽くし滅ぼされる。そしてその灰からまた新たな世界が生まれてくるそうです。まぁ、どうせ滅んで消えてしまう僕たちに新たなる世界など関係ありませんが」


「貴方はこの木の守護者さんか何かなの?」


 ライオンさんはふっと悲しそうな、そして自嘲した笑みを浮かべると首を振った。


「いいえ、僕はこの木に封印された身ですから。守護者は別にいます。貴方もいずれ会うことになるでしょうね」


 封印されたって、何があったんだ。でも、それにしては自由に動けているけど。


「しかし、不思議です。本来なら僕は眠りについていてこうして貴方とお話なんて出来ないのに。それに怖がらずに普通に話していただけるとは」


 あ、はにかんだ。カッコイイ獅子なのに何か可愛いぞ。この人も黒を宿した生き物だから怖がられてしまうのかな。

 飼い主さんを思い出して、私はそっとすり寄った。


「まぁ、もうすぐ封印が解けるからでしょうね。そうだ、遊びに来て頂けたのならお茶でもいかがですか?」


「え、いや、それは」


 勝手に尋ねてきておいてそこまで気を使ってもらう訳には、というところで獅子が小猫化した。


「やはり、僕と一緒にお茶をするのはお嫌ですか」


 なんだろう。やっぱり私の飼い主さんを思い出す。

 私は慌てて是非お茶したいです! と元気なお返事をした。遠慮するのが失礼だよね!

 突如現れたテーブルにはいい香りのする紅茶と洋ナシのタルトが置いてあった。

 何か悪いので首輪様に頼んでお菓子を追加しようかと思ったところでふと思い出す。

 私の格好はサンタのままで袋も持っている。その中に昨日何故買ったか分からないし、包装してもらってハッと気づいて渡す相手を考え始めた贈り物があるのだが、これはもう、ライオンさんに渡せと言う天の声に違いない。

 深緑の包装紙で包まれた箱を慎重に開けてプラチナの鎖を取り出す。そして、フロレンティアで買ったあの真珠貝で作られたペンダントトップを組み合わせれば。中々素敵じゃないですか。


「冬至祭、おめでとう。貴方の願いが叶いますように」


 獅子さんが固まった。えっと、どうしたと彼の目の前で前足を振れば、ようやくフリーズ状態が溶けた。


「え、僕が頂いてしまってもよろしいのでしょうか?」


「勿論。はい、どうぞ」


 そこまで甘いデザインじゃないから男の子でも大丈夫だと思うけど。黒い獅子さん多分雄よね? 持ち主に合わせて鎖の長さは変わるらしく、簡単に獅子さんの首にペンダントがかけられた。


「プレゼント……。また、貰える何て。ありがとう、大切にします」


 いや、そんな感激されるほどじゃないから。声震えてる。


「そうか、今日は冬至祭なのですね」


「正しくは昨日かな。もう深夜だから日付変わったし」


「では、僕からも贈り物を」


「何もいらない。今の私に必要なのは思い出だけだ。それは持っているBy佐藤」


 いやそれ、星新一の名言! という友人のツッコミは聞こえない。

 あの子恋人が欲しいとフィンランドのサンタクロース村に国際郵便出していたけど、その返事サンタさん困ってないといいんだけどな。

 恋愛相談ならイタリアのヴェローナにいるジュリエットに手紙を書いた方が、良いアドバイスを貰えたのでは。あ、でもあの人心中エンドだったわ。


「欲がないですね。僕に何も願いを言わない人は初めてです。……世界中の人が皆貴方みたいだったら、俺もこの世界を愛せたかもしれないのに」


 小さく呟かれた台詞が気になる。格好つけて言ったが、寒かっただろうか。


「あぁ、もう世界に朝が来ますね。貴方の元居た場所にお送りしましょう」


 雑談しながら美味しいケーキを頬張っていたが最後の一口を食べたところで、獅子さんがそう言った。そして光に包まれ、さよならを言う前に私はホテルの部屋で目を覚ました。


 夢? にしては妙にリアルだ。お茶で温まった体はぽかぽかだし。いや、この熱は暖炉と布団によって生み出されたのか?


 そういえば、星祭りの夜に会ったこの世界の神は私がこの世界から日本に戻るには使命を果たさなければならないと。そして、いずれ会うあの子をよろしくと言っていたがそれがあの獅子さん? いや、獅子さんがいずれ世界樹の守護者に会うと言っていたからそっちかな。分からない。


 というか、私の死亡フラグになる相手は誰なんだ。あー、問題が多すぎる! 頭を抱えていると、部屋の扉がいきなり開かれた。


「おはようございます、佐藤さん。贈り物ありがとうございます!」


 突然の大声に布団にもぐって寝ていたリュイさんがビクッと体を震わせて飛び起き、恨めしそうに扉の方を見やった。時計を見れば朝の六時半。

 まぁ、どっちみち朝食の時間が始まるけど未だ眠いと思いながら訪問者を見やれば、ブーリさんが昨夜贈ったプレゼントの箱とともに訪ねてきた。何故バレた。


「いやー、昨日部屋に侵入者が来たかと思って攻撃しそうになったので、部屋に忍び込むのはこれ以降やめてくださいね。でも、贈り物は嬉しかったです。ありがとうございます」


「あ、やっぱり昨日の殺気は気のせいじゃなかったのですね」


 リュイさんも枕もとの包みに気付いたようでそっと手に取る。


「これは?」


「貴方に似合いそうな香りだったので。着けてくださると嬉しいです」


 プレゼントを開けると彼は驚いたように瞳を大きくしたが、すぐに幸せそうに顔をほころばせた。この笑顔、永久凍土も溶け出して大地に花が咲き乱れそうだな。いいモノ見れた。


「ありがとう。俺がもらってしまっていいのかな」


 贈り物をもらった反応がどっかの黒いライオンさんと一緒だね。


「リュイさんに買ってきたのだから当然でしょう。いつもありがとうございます」


「うわー、佐藤さんって意外と熱烈ですよね」


 ブーリさんの小さく呟いた台詞の意味が気になるが、私の飼い主さんがとても嬉しそうに背景に花まで大量に出しているのだからまぁ、いいだろう。余は満足じゃ。


 と思ったところで、ブーリさんに小さく「香水の贈り物の意味は相手を独占したい。魔物が主にしたい相手からもらえる贈り物としてはとても嬉しいですよね」と囁いてきた。おい、マジか。贈り物に意味とかあるの。


 魔物は力が強ければ強いほど主に対する忠誠心と愛が重いとはスマホ先生も言っていたけど、主人に束縛されるの好きとは知らなかったよ。


 どう、言い訳をしようかと頭をひねっていると、今度は焦ったような顔をしたミオさんが部屋に入ってきた。えっと、何事?


「大変よ! 世界樹が。……世界樹が枯れ始めたの!」


 炎に包まれた世界で、遠く一匹の黒い獅子が吠える光景が見えたような気がした。


GWにどこにも行けないので執筆がはかどりました。妄想で旅をするしかない現状が悲しいですが、少しでも佐藤さん達と一緒に旅をしている気分になって下されば幸いです。

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