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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第1章 異世界旅日記編
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聖夜のキャンドルライト

 しんしんと雪が降り始めた空を窓から眺めながら、随分遠くへ来たものだとしみじみ思う。少し前まで砂漠が広がる乾燥地帯にいたというのに、今はその正反対の氷と霧の皇国に来ている。


 ラグナログと呼ばれる皇帝が治めるこの国は、その居城の地下に国が危機に陥った時に目覚めるという巨人が眠っているという伝説があるらしい。国名って、あの世界樹が燃えてクライマックスを迎える北欧神話の『神々の黄昏』を思い出すけど偶然の一致だよね。


 ポピーをイメージして作られたホテルの部屋は全体が赤でまとめられているためか、外の寒々とした景色と比べより暖かい印象を受ける。ベッドカバーや壁紙には一面赤いポピーの花が描かれていて可愛らしい。絨毯や人を駄目にする柔らかさのソファは赤で、書き物机や棚は飴色だ。一つ一つの部屋がモチーフとなる花が違うなんて、他の部屋も見たくなっちゃうな。こうやってリピーターを増やすのだろうか?


 暖炉で温められた部屋で、のんびりくつろぎながらテーブルの上で時折ゆれるキャンドルの炎をボーっと眺めていると、知り合いと会ってくると夕方から外に出ていたリュイさんが部屋へと帰って来た。


「ただいま、佐藤さん」


 ギュッと私を抱き込みながらそのままソファに横になってしまう。仄かにかおる香りは甘いが今日はいつもと違ってオレンジを思わせる香りだ。誰かが香水で付けていたのが移ったのかな。でもどうせなら一緒にいて落ち着く彼には、鎮静作用を持つラベンダーの香りが合っていると思う。今度、お店で見かけたらこっそり買ってプレゼントしよう。


「佐藤さんも一緒に来れば良かったのに」


 不満げな声音と共に私の毛並に顔をうずめるリュイさんに苦笑する。友人との時間も大切にしなければだめだと、食事は首輪様に出してもらい渋る彼を送り出したのだが、寂しがりやなところがあるからやはり私も一緒の方が良かったようだ。


「寂しがりやだね、君は。そんなに私が恋しかったの?」


 人並みの羞恥心はある身としてはこの体制はそろそろきつい。適度にからかう事を言って慌てた彼に離れてもらおうと思ったのだが。


「もちろん。佐藤さんはそうではなかったの?」


 寂し気に瞳を潤ませる姿に、元女子高の王子様の胃は罪悪感でキリキリ痛む。


「一人の時間があるからこそ、共に過ごす有難みが分かるものですよ」


「そう……だね」


 やさしく毛並を撫でてくれる感触に目を細めながら私は続ける。


「この私を前にして、そんな悲しそうな顔をしていていいと思っているの? お望みならいくらでも甘やかしてあげましょうか。私の可愛い小鳥ちゃん」

 人には特上の優しさで接しなさいと言われて育ってきた身としては、悲しそうにされると弱い。慣れた王子様の台詞で提案すれば嬉しそうに擦り寄って来たのでまぁ、いいだろう。存分にアニマルセラピーかましてやるから覚悟しろ。


 だが、ここまで甘えてくるのも珍しいと何かあったのかとさりげなく聞いてみれば、友だちの家に遊びに行ったらやたら家の人にベタベタされて嫌だったそう。魔物は基本プライドが高く、高位であればあるほど自分が定めた主人以外に体を触らせることはしない。人のフリをしている身としては振りほどく訳にもいかなくて、知らずストレスが溜まっていたのかな。


 頑張ったのね、と盛大にアニマルセラピーを行った後、二つあるうちの一つのベッドで丸くなり、眠ろうとしたのだが、お土産があるんだったと飼い主さんがクッキーのたくさん入った袋をくれた。


 甘い物の誘惑には逆らえずチョコチップがたっぷり入ったサクサクのクッキーや、真ん中に赤いハートの模様が入った林檎の仄かな風味が美味しいクッキーや、香ばしいごま味のクッキーを食べてしまう。


 よし、残りは明日の楽しみだ。










「ゆうちゃん、お誕生日おめでとう!」

 蝋燭のゆれる仄かな暖かい光を眺めながら私は意を決してふーっと息を吹きかける。暗くなったのは一瞬のことで、お父さんが壁のスイッチを押してくれたからすぐに明るくなる。お母さんが嬉しそうにラッピングされたプレゼントの包みを押し付けてきた。


「あぁ、ついに俺のお姫様も17歳になってしまったのか。……変な男だったら秘密裏に」


「もう、弥桐(やぎり)ったら、そんな探偵から逃げようとして崖へと追い詰められた犯人みたいな顔しちゃだめよ。今日はゆうちゃんの誕生日なんだから笑顔で祝わないと」


「でも、月菜(るな)ちゃん。貴方の家は17歳の年に出会ってしまうんだろう。僕の可愛い可愛い宝物を奪う憎い奴に」


「そうだよ、だから私もこんなに素敵な旦那さんや私には勿体ないくらいの娘を授かったんだ。ゆうちゃんもきっと誰よりもあの子を幸せにしてくれるいい子を見つけてきてくれるよ。なにせ私の娘なんだからね!」


「でも、だからこそ心配だ。僕が言えた話じゃないけど、月菜ちゃんみたいにその男と関わってしまったせいで殺されたら……」


 お父さんは泣きそうな顔でお母さんを長い腕で抱きしめた。いつもの光景なので私は軽くスルーしてプレゼントの包みを開けていく。わぁ、お気に入りのバンドのライブのコンサートチケットじゃないか。お母さん、本当ありがとう。


「うん、何か本当トラウマ作ったみたいでごめんね。もう君の作ったショートケーキ以外は食べないから安心して」


 お母さんもやれやれと言った顔をしながら、お父さんの頭を優しく撫でる。そして小声でプレゼント気に入った? と聞いて来るので全力で頷いておく。


 佐藤家直系の人間は全員小説が一本書けそうなドラマチックな恋愛をする。しかもその運命の人とは17歳の時に出会うのだと。そして、その運命の人のために必ず1度は死ぬ。 


 我が両親の馴れ初めというのは、お母さんの通っていた高校にお父さんが転入してきて、そこから仲良くなり卒業式の時にお母さんが告白して交際が始まると言う少女漫画の定番な始まり方だ。

 しかし、そこからお父さんに惚れたと言うイタリアの貴族令嬢(正体は悪魔)が現れ、お父さんの家族を操って、婚約を受けなければお母さんを殺すと脅させ無理やりお父さんと婚約を結ばせたのだと言う。お父さんから別れを切り出され、お母さんは受け入れたもののそんな迫り方ではお父さんの心まで手に入れられなかった事に業を煮やし、お母さん大好物の苺のショートケーキを使ってお母さんを毒殺したのだ。

 だが、幽霊になったお母さんはそこで今までの出来事が怪しいと勘付き、人助けで財を築いて来た佐藤家の人脈をフル活用してお父さんを巡る陰謀に気づき、一路イタリアの貴族の城へと乗り込み、悪魔をやっつけて再びこの世に蘇り、お父さんと再び交際をスタートしたのだ。

 我が家は皆一度死から蘇ってるんだから、そろそろ新しい宗教を起こせそうだよね。


「ごめんね。……おいで、俺の可愛い子」


 落ち着いたのか、若干恥ずかしそうにしつつもこちらを見たお父さんが両腕を広げる。いや、娘の私から見てもカッコいいとは思うが、正直思春期の娘にハグはきついっす。動かない私にまずはお母さんが抱き着き、そこからお父さんが後ろから抱きしめる。


「私は君が大好きだよ。お誕生日おめでとう」


 いつの間に取ったのか、お父さんはプレゼントを手渡してくれた。中身は綺麗な雪景色の写真集。後で眺めて楽しもう。


 テーブルの上には私の大好物である隠し味にヨーグルトを入れたカレーやトマトやツナ、ゆで卵などを盛りつけたニース風のサラダに、ハニーローストチキン、イチゴがたっぷり載ったチョコレートケーキ。


 どれも美味しそうで食べるのが楽しみだ。今日は学校の友だちや幼馴染にもたくさん祝ってもらったし、私は幸せだな。











 目を開けると、自分の部屋のものでは無い天井に一瞬たじろくがすぐに思い出す。私は地球では無い別の世界にいたんだった。しかし、去年の誕生日の夢見るなんて、もうすぐ佐藤家の呪いな年齢である17歳はもう過ぎたはずなんだけどな。


 やはり、ジャンバラでの占いの結果が尾を引いているのかも。もうすぐ運命の2か月目だし。3月27日の18歳の誕生日は、私はこの地球とは異なる世界で迎えたから、死ななくて良かったーと一人祝杯を挙げていたというのに。運命からは逃れられないのかな。


「え、あ、どうしよう」


 うろたえたような飼い主さんの声に見れば、彼は慌てたようにタオルを差しだしてきた。あら、どうしたの? というところで妙に視界が滲んでいたが頬が濡れる感触に、自分が泣いていたのだと知る。


 おいおい、マジか。


 飼い主さんはガラス細工に触れるように繊細な手つきでそっと私の頭を撫でていたが、何かに気づいたような顔になると元の双頭の黒い鷲の姿へと戻って、巨大な羽毛布団で抱きしめてくれた。いつも私がアニマルセラピーだと騒いでいるからだろうか。


「おっはよーう。佐藤さんに兄さん。って、え、何、兄さん。卵でも温めてるの!?」


 今日も爽やかな王子様スマイルで部屋を訪ねて来たブーリさんが、ぎょっとした顔をする。


「ブーリ、どうしよう。佐藤さんが、泣いてて。お腹痛いの? 怖い夢でも見た? 具合悪い?」


「いや、兄さんが泣きそうな顔になってどうするのさ。佐藤さん、何かありましたか? うちの馬鹿兄貴が何か貴方の気に障ることでもしましたか」


 私に目線を合わせるようベッドの傍に腰かけると、幼子に話しかけるように優しくゆったりとしたトーンでブーリさんが問いかけてくれる。でも、その台詞と冷たい目線が一瞬リュイさんの方に行ったから彼の中ではリュイさんが私を泣かせたで決定しているようだ。


「あ、えっと、違うんです。ちょっと昔の夢を見て懐かしくなってしまって。泣いてしまうなんて自分でも驚きです」


 両親とも共働きで家を空けることも多かったから、家族と離れて寂しいなんて感情が私にあるとは思っていなかった。電話やメールだってスマホで友人たちや家族とやり取りしているし。


「昔ですか。どんな夢? 佐藤さんって僕たちに会うまではどんな暮らしをしていたのですか?」


「家族がいて友達がいる平穏な暮らしでしたよ。スキンシップ過多で娘の前でもイチャイチャする両親に呆れたり、でも、私を優しく育ててくれていざという時は頼れる両親だし。すぐに突拍子もない事始める幼馴染を現実に連れ戻したり、世話を焼いていたけど、心の機微には聡い子だから落ち込んでいる時は何も言わずに気晴らしにあれこれ連れて行ってくれたな。友達も優しい子達で人に恵まれていたと思います」


 同級生は今、大学生活を満喫しているころかな。季節の変わり目になるから、風邪とか引いてないといいけど。うちの両親もメールでは何も言わないけどきっと心配させているんだろうな。飼い主さんや今いる街並みの写真を送って元気だってこと伝えておこう。


「夢はその人達の出てくる夢だったのですか?」


「誕生日を祝ってもらう夢でした。夕食は私の大好きなカレーでね。そうそう隠し味にヨーグルトをくわえるとコクとまろやかさが出るんですよ。最後に茹でたブロッコリーとミニトマトを添えて、見た目も華やかになるとても美味しいカレーなんです。デザートは私の好きな苺のたっぷり載ったケーキで蝋燭を立てて吹き消すんだけど、大きくなると少し恥ずかしいんですよね」


「佐藤さんにも家族やご友人がいらしたんですね。ってそれはそうか。僕もお会いしたいです。今はどちらに」


「違う世界にいるから会えませんよ」


 私の言葉にしまったと言う顔をするブーリさんに、私は気にしていないと首を振る。そんな悲しそうな顔しなくても死別でもないし、連絡取れるから大丈夫よ。ブーリさんに抱っこされて撫でられていると、リュイさんが誰かへメールを打っているのが横目で見えた。


 少しして、妹がラグナログに住んでいるから冬至祭の休みを一緒に過ごそうと、この街に来ていたのだと言うミオさんが部屋を訪ねて来て、朝食がてらどこか行こうと私は街に連れ出される事になった。



 






 105mの市庁舎よりも高い建物が禁止されているこの街には高層ビルはなく、カラフルな色使いの家々が目に楽しい旧市街や数々のお城、人魚の像などがありおとぎ話の世界に入り込んだかのような錯覚を覚える。

 氷の教会とかホテルは見た目幻想的で綺麗だけど中に入るのは寒そうだね。可愛らしい人魚の像や運河に沿って赤や黄色、オレンジのカラフルな外観が楽しい木造倉庫街といった観光の定番コースを歩いていく。倉庫街はショップや工房、カフェが連なるオシャレなエリアになっているから見ているだけでも楽しい。


 ふと、化粧品や香水が並んだお店が目に留まり思わず足を止める。


「佐藤さんもここ気になる? 入ってみようか」


 ミオさんの言葉にうなずき、中に入ればピンクと白、そしてお花でまとめられた店内に女子力の極みのような店だなという阿呆な感想しか出てこない。花の香りがする香水のボトルにはそれぞれの花の装飾がガラス細工でされていて、正直瓶だけでも一級の芸術品になると思う。高級デパートの香水売り場に置いていそうな商品だね。


 清涼感のある甘い香りに見れば、紫色のリボンが巻かれた白い香水瓶が目に入った。目線に気づいたミオさんが香水を取ってくれる。やっぱり、ラベンダーか。説明がきをよく読み、値段を確認した私は一つ頷くと、香水瓶をレジへと持って行ったのだった。




 適当に入ったカフェでこの街の名物料理を頼む。シアタープレートと呼ばれるそれは、ラグナログ式のオープンサンドの食材がワンプレートに乗ったお得なメニューで、焼きたてのパンと共に頂くと美味しい。

 ミートボールにトマトとツナのようなソースが添えられたカリカリに焼いたベーコンに皮がカリッとしていて堪らない豚肉のローストに、タルタルソースがカレー風味なのにちょっとびっくりした白身魚のフライ、芽キャベツのサラダキュウリとオニオンが添えられたローストビーフと朝から大満足な一皿だった。


「ねぇ、ねぇ。今日は丁度この国の皇女様が視野を広げるために今まで海外でお勉強されていたけど、終わられて戻られたお祝いと18歳のお誕生日のお祝いもかねてお城で国民に向かって挨拶をされるんだって。佐藤さんも一緒に行こうよ!」


「それ絶対人多いですよね。まぁ、でも、話のタネにはなるか……」


 あまり気は進まないものの、ミオさんの輝く笑顔が見られて余は満足なので、彼女の腕に抱えられながら皇帝居城であるクロン城を目指す。お城の名前の意味は「冠」。橋でつながれ、海の上に立つ壮麗なゴシック様式の城を見るだけでも十分価値はありそう。


 そういえば、この地下に巨人は眠っているんだよな。冬の夜なんて寒くないんだろうか。温かくしてないと、風邪ひかないか心配だな。


 中庭では今か今かと皇女様の登場を待つ人々の熱気に包まれていた。国旗を持っている人も多い。イマイチ場違い感を感じつつ待っていると、お城のバルコニーに天使が舞い降りた。


 ふわふわとした綿菓子のような長い桜色の髪に蜂蜜の様に甘やかな黄金の瞳、ふっくらとした白い頬はバラ色に染まっていて、白いレースと宝石をふんだんに使って飾られたドレスを着た体は折れそうなほどに華奢だ。神様が自信をもってこれが人類最高の美です! と作り上げた人形だと言われても私は驚かなかっただろう。


「今日は、寒い中お集まりいただきありがとうございました」


 凛とした存在感のある美しい声音にこれが、皇女様かとため息が零れる。やはり、一般人とはオーラが違うわ。あれ、でもあの子何か命の水を求めて精霊国を尋ねた時に、黒い獣の傍で眠っていた少女にそっくりだ。さらに色彩は違えど、ミオさんによく似ている。


「あれ、私の妹なの。随分と人前でも堂々と出来るようになったわね。後で、プレゼントを持って行った時に褒めてあげよう」


 涼しい顔でミオさんがトンデモナイ爆弾を投げてきた。確かに妹さんがラグナログに居ると言っていたけど、まさかの皇女様! あ、でもミオさんも精霊の城の女王だよな。だから可笑しくないのか。私の混乱した顔を見てミオさんがクスクス笑う。


「私とキャロちゃんの得意魔法の性質によって、役割が割り振られたの。あの子は、封印や結界の魔法を得意とするから、世界樹を守護する役目を与えられたのよ」


「じゃ、あのお姫様の正体も精霊なのですか?」


「本性を見たら、きっと佐藤さんも驚くでしょうね」


 悪戯っぽい顔でミオさんがウィンクを寄越してきた。うーん、可愛い。


「あの子の時間が取れるようだったら、紹介するわね。キャロちゃんは動物好きだから、貴方に対してスキンシップが多いかもしれないけど、我慢してあげて。あの子なりの愛情表現なの」


 天使の様な美少女に抱っこされるのはむしろご褒美なので、全然オッケーです(真顔)


 演説を聞いて、人の波に押されるように城から出たその後は雑貨屋さんに行った。明日の冬至祭の夜、子どもにプレゼントをくれるという異世界版サンタクロースな水色の服を着たお爺さん妖精が、ちょこんと座っているのが可愛らしい木の丸太をモチーフにしたオルゴールが気に入り、ブーリさんが前に好きだと言っていたクラシック曲だったのでそれをお土産に買った。


 首輪様が際限なくお金出してくれるから懐が豊かなんだよね。金銭感覚が狂わないように気を付けたいけど、今日はいいか。いつもお世話になっているし、私がサンタクロースになってやろう。もう一つはミオさんが名残惜しそうに見ていた、春の花の意匠が可愛らしいガーネットのブローチをそっと購入して、ラッピングしてもらった。


 ミオさんと別れ、ホテルに戻った私をチェスに興じていたリュイさんとブーリさんが出迎えてくれる。何でもいいけど、ブーリさんは開始三分で「負けた!」と叫んでチェスの駒全部床にたたきつけてたけど、諦めるのはやすぎでは。近寄ればリュイさんが優しく微笑みながら私を膝に抱き上げてくれる。


「今日は楽しかった?」


「綺麗な街並みを見れて良かったです。可愛いお店もたくさんありました」


「そう、それは良かった」


 安心したような笑顔に、心配をかけていたんだなと申し訳なくなった。










 

 翌朝。

 サンタさんになる準備をするため私は置手紙を残して外に出た。

 ここでは、冬至祭(ユール)と呼ばれる一番夜が長い日に太陽の復活を祈る祭りが地球のクリスマスになる。緑や水色の服を着て白いつえを持った精霊がお手伝いの小人やトロールを引き連れて、子どもが眠った夜に枕元を訪れてプレゼントを届けるのだ。


 この日は教会にお祈りに行った後は家族でローストチキンやビーフシチュー、国ごとに違った冬至祭のお菓子(ケーキが多い)を囲って祝うのだ。地球のサンタクロースは赤い服だけどこっちは違うんだね。


 まぁ、サンタさんの格好が赤になったのはアメリカのコカ・コーラのクリスマス時期の宣伝で、サンタクロースに赤い服を着せたのが始まりだから、地球でも伝統的な衣装の色は赤ではないのだろうけど。小人さんと共にってことはトナカイさんがいないのが寂しいな。日付も12月22日がそれに当たるのは少し違和感があるかまぁ、郷に入りては郷に従えだ。今日の夜は頑張ろう。


 今日の夜用だろうお店に並ぶ骨付きチキンのハーブ蒸し焼きの美味しそうな香りや、フライドチキンの食欲をそそる香りにお腹を空かせつつ、ハムとチーズのサンドイッチとこの国名産のブルーベリーのジュースで昼食を済ませる。飼い主さんが祝おうと作ってくれるご馳走は一杯食べたいからね。


 この国ではベリーをふんだんに使ったタルトで祝うのが定番なのか、ケーキ屋さんには今日はそれしか並んでいなかった。子どもたちが嬉しそうにお母さんと買っていくのが微笑ましいね。


 世界で一番美しいとも言われるこの国の名所である美術館を見学し、その帰りの雑貨屋で素敵な物を見つけて思い付きで買って包装してもらった。ちょっと上品な気分になって、私はホテルへと帰って来た。

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