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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第1章 異世界旅日記編
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花束、秋に亡霊

 リュイさんの視線に釣られて思わず後ろを振り返ってしまったが、誰もいない。私たち以外の生き物の気配と言えば、うろちょろ砂漠を走るトカゲくらいだ。


 首を傾げつつ彼に向き直るがいつもと違ってこちらに近寄ってこようとしない。瞳は潤んでいて、やはり何かに怯えているようだ。何だ。何が怖いんだ。私がやっつけたるぞー! と決意を込めて猫の爪をにょっきり出せば「ひっ」と小さく息をのむ音が聞こえた。


「ご、ごめん。やっぱり怖いよね。大丈夫、俺は貴方の事は凄く大事だから、殺したりなんてしない」


 は、え? 何のお話。意味が分からなくて思わず一歩を踏み出せば、リュイさんが俯いた。全身がカタカタと震えている。まさかと思いたいが、彼の恐怖の原因が私だったら大泣きだぞ。


「普段はちゃんと抑えられる。こんなに凶暴な欲望にかられる事なんて無い。でも、狼たちが貴方を殺そうとしているのを見たら」


 私はまた一歩近づく。優しく彼の名を呼べば俯いていた顔を上げる。


「佐藤さんにあんな姿見せたく何かなかった」


「ごめんなさい、私が勝手に離れたりなんかしたから」


 学習しない猫で本当にすみません。ふるふるとリュイさんが首を振る。


「俺は貴方を傷つけたりしない。お願いだから嫌わないで」


「好きだよ、今もこれからも」


 全く何を怖がっているかと思ったらそんな事かーと私は思わず笑ってしまう。いや、リュイさん的にはシリアスな問題なんだろうけどね。狼の群れに襲われて内心ここで死ぬかもしれないと恐怖に駆られていた私にとって、彼は救世主だ。感謝こそすれ恐れたりなんかしない。

 そもそも、日本でだって住宅街に現れて人に危害を加える熊なんかは猟銃で駆除をされているのだから、熊に対して可哀想とは思うものの、殺した猟師さんたちに対して何かを思うことは無い。


「助けてくれて、ありがとうございます」


 我慢できずに私は大きく後ろ足で踏み出し、彼に向かって跳躍した。









 白い砂漠から街に戻って、死者の祭りを見学する。夜の墓地は至る所にランタンが灯されていて、幻想的な雰囲気を醸し出していた。


 墓地を囲う森は秋の紅葉に彩られていて、真っ赤に染まった椛がライトアップされて、風に揺れている様は幽玄だがどこか異界に連れて行かれそうな恐ろしさがある。墓石を守るように天使や聖人の像があり、芸術性の高さに驚いてしまう。目の保養。


 死者を守る青い花であるヤグルマギクや、紫のポンポンみたいな花が可愛いアリウムやオレンジ色のマリーゴールドを集めた花束を持って、人々はランタンの照らし出す墓地に集まって来た。

 そう言えば、地球ではアリウムの花言葉は「深い悲しみ」でアリウムの花の姿が悲しみに佇む人の姿を連想させるためこの花言葉になったらしい。墓前に供えるには、ぴったりの花だ。

 花を供えて、愛し気に墓石を撫でる人の傍には空気に透けた人がじっと立っていた。その眼差しはひどく優しい。墓に語り掛ける人に楽し気に相槌を打つ人や、頭を撫でたり肩を抱いたりしている人は総じて夜の闇に溶けそうに透けていた。あの、お墓の下に眠っている人たちだろう。愛する人や家族の死後の安寧を祈る人々の傍で、死者もまた生者の幸福を祈っている。愛する人を思う気持ちは生者も死者も変わらない。


 目頭が熱くなってきてそっと視線を反らす。誤魔化すように、墓地の入り口の売店で買った秋の味覚であるキノコがたっぷり入ったスープをすする。夜は冷えるから、この温もりが心地いい。


「チョコパイも売っていましたから、良ければどうぞ」


 私の感傷に気づいたのか、ブーリさんが甘いお菓子を差しだしてくれる。有難く頂く。生地にもチョコレートが練り込まれたサクサクのパイ生地と、まだ温かいチョコソースがどろりと溶けて仄かな甘みがとても美味しい。やはり、美味しいお菓子を食べると元気になるね。


「佐藤さんは、俺が悪の象徴である闇の魔法を使っても本当に怖くなかった?」

 小さく呟かれたリュイさんの言葉に、隣でカプチーノを飲んでいたブーリさんが盛大にむせる。あんなにアニマルセラピーをしたのにまだ不安だったのか。


「超自然の悪の源が存在すると考える必要はありません。人間だけでも十分、あらゆる悪事を働くことができますからby佐藤!」


 いやそれ、ジョーゼフ·コンラットの名言! と言う友人のツッコミは聞こえない。

 あの子、花火大会に従兄弟と幽霊のお兄さんと行ったはいいけど、『両手に花とはこの事だぜ!』というメッセージと共に、白地に金魚の浴衣を着て輝いた笑顔で二人を両脇に侍らせて、手を繋いでいる写真を送ってきていた。

 友人が暴走した様で本当にすみませんと画面越しに頭を下げることしか出来なかったが、二人とも本当によく人間が出来ているよね。まぁ、従兄弟は頭にひょっとこのお面を付けて焼き鳥や林檎飴を手に持って、完全にお祭りを楽しんでいる人の格好だったから、お祭りの屋台飯を食べられれば後はどうでも良かったのかもしれない。


「君が安心するまで何度でも言うけど、私は貴方が優しいって知っているから、闇の力を使うのが貴方なら怖くはないよ。君が好き」


 この世界で恐れられている最凶の神と同じ系統の魔法を私の前で使ったから、怖がられて自分から逃げられると思ったのかもしれない。私と離れたくないと思ってくれるなんて、初対面の頃と違い、随分と仲良くなれたものだなと嬉しくなる。


 私はリュイさんの事は友人として好きだし大切だ。だから、日本に帰る方法が見つかるまで傍に居たいし仲良くしたい。日本に帰っても出来れば友だちで居たい。そしてあわよくば、彼の結婚式で友人代表としてスピーチしたいし、愛の歌を一曲捧げて弾き語ってあげたい。魔物にも結婚式をする文化があるのかは謎だが。

 でも、リュイさんはかなりレベルの高いイケメンだから、白いタキシードなんて絶対に似合うよね。その様子を拝みたい。彼が選ぶ花嫁さんは、きっと誰よりも綺麗で優しい素敵な人なんだろう。だから、友人として精一杯応援したい。


 妄想で、リュイさんと仮の花嫁さんの指輪をはめる儀式を想像したところで、私は何故かもやっとした気持ちになった。何これ、胸やけ。食べ過ぎた? 

 思考が結婚式から逸れると胸のモヤモヤが無くなる。何だろう、これ。私は自分のよく分からない心情に内心で首を傾げながら、花の香りがする紅茶を飲んだ。

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