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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第1章 異世界旅日記編
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世界の果ての精霊の城

 騎士さんと細かい部分の取り決めをしてその場で別れてから、私は追加注文したアイスティーを飲んで人心地ついた。


 なお、命の水を手に入れる旅の護衛として騎士団の精鋭を派遣すると言われたものの、私は丁重にお断りした。全く持って信用出来ない相手と旅何て胃に穴が空いてしまう。只でさえ危険な旅なのに、後ろからの攻撃も警戒しないといけなくなるとか嫌すぎる。


「あの馬鹿たちのせいで、佐藤さんがこの街に対して悪感情しか持たないで次の場所に行くのが嫌だったから、リュイさんに頼みこんでやっともう少しこの街にいてもらえる事になったのに、こんなことになる何て。今度こそ嫌われてしまう。本当は素敵な街なのに」


「大丈夫ですよ。この街はとても美しいしご飯も美味しいし、何より貴方のような素敵な女性にお会い出来たのですから、私はこの街が好きですよ」


 私を利用しようとする人たちばかりじゃなくて、何の見返りも期待せず私を可愛がって親切にしてくれる人たちにもたくさん会った。だから、お返しがしたい。


 ミオさんは、私の言葉を難しい顔で聞いていた。私の決断に不満を覚えているのがありありと伝わってくる。どう説明しようかと思ったところで、艶やかな低い声が聞こえてきた。


「ねぇ、何であんな酷い扱いされておいてその相手を助けようとしているの。佐藤さんが命を懸ける価値もないと思うけど」


 黄金を溶かしこんだような髪と、宝石の様に綺麗な瞳を持つ一見王子様のような美しい青年の正体は。


「お久しぶりです。エファさん」


「名前。何故。あぁ、ブーリ君が教えたのかな。そしたら僕の正体も」


「光の神様がどうしてここに?」


 世界を滅ぼそうとする闇の神と敵対する光を司る黄金の獅子だ。呆然とする程に美しい人が突然この場に現れたのに、不自然なほど周りは誰もこちらを見ていなかった。魔法でも使っているのかな。


「佐藤さんが人間に傷付けられたのを見たから。今は大丈夫そうだけど痛かったでしょう?」


 心配そうな瞳が私を見る。何処から見ていたんだろう。ちょっと背筋が寒くなった。


「やはり、街ごと焼いてしまおうかな」


 その時の事を思い出して顔をしかめたら、エファさんが本気のトーンで恐ろしいことを呟き出した。待て待て待て。温厚で優しいライオンさんは何処にいった。


「貴方にそんな事させるわけにはいきませんから! 私はちっとも気にしていません。お気持ちだけで結構です!」


 実際、首輪様に庇ってもらったから怪我もしていないんだよね。むしろ、リュイさんのほうが大怪我をしていた。


「君は相手に良いように利用されるだけで良いの。優しさは美徳だけど過ぎれば身を滅ぼすよ」


「人生はその気になってさせられた愚かな行為の連続以外の何ものだろうかby佐藤!」


 いやそれ、ジョージ·バーナード·ショーの名言! と言う友人のツッコミは聞こえない。

 あの子新しく開園したテーマパークに家族で遊びに行って、ショーに出ていた王子様役の人に一目惚れしたとか言っていたけど、どうなったのかな。

 なお、観覧車で幽霊のお兄さんと一緒と撮った写真が心霊写真ではなくどうみてもデート写真だったから、案外彼女の王子様はすぐ隣に居るのではと思ってしまう。

 ただ、警察が行方不明者のデータベースを洗っているらしいが、未だに身元が特定できないのが気になるが。


「私はトンデモナイ臆病者だから、誰かの苦しみを知っているのに見ないフリは出来ませんよ」


 恩返しの気持ちがあるのは本当だが、動機の大部分は自分可愛さに彼女を救おうとしている。


 王女様なんだから、その訃報は間違いなく全世界のニュースになるだろう。私への扱いに対して神様が怒って、そのせいで王女様が亡くなったと分かってしまったら、私はもう笑えなくなる。私が彼女を間接的に殺したも同然だ。暗い気持ちでこの先を生きて行かないといけなくなるくらいなら、むしろ貴方を助けさせてください、と土下座も辞さない覚悟だ。


 まだ不満げな顔をしているエファさんに抱っこしてとばかりに飛びついた。優しい腕が、恐々と私を抱きかかえる。初対面の頃のリュイさんの触り方を思い出す。


 綺麗な青藍の瞳を覗きこみながら、私は彼の頬に前足に手を当てる。


「私のために怒って下さるのはとても嬉しいです。でも、私は誰かの涙を笑って見れない。だから、ごめんなさい。方法があるなら、私は王女様を助けたいです」


「命の水が湧く井戸の守護者は不老不死だ。倒せる相手ではない。これほど危険な旅はこの世が始まってから一度もなかったんだよ。世界の果ての井戸はここからはるか遠く離れた小島にある、世界の果ての丘に建つ精霊の住む城の中庭にある。その城はとてつもなく高い壁に囲まれ、鋭い剣を持った見張りの兵士が立っている。さらに城の壁の通路には恐ろしい猛獣たちが唸り声をあげながらうろついている。このような恐ろしい守護者たちを潜り抜け、井戸へとたどり着いたものはいないんだ」


 考え直せとばかりの真剣な顔でエファさんが私を見る。でも、私の決意は変わらないから黙って見つめ返した。彼が盛大なため息を吐く。


「なら、僕も行く」


「え、でも危ないのでしょう」


「自分の面倒くらい自分で見れます。貴方一人を世界の果ての井戸に行かせる訳にはいかない」


 それ以外の決定は認めないとばかりの顔に、何故か隣のミオさんが笑いを堪えるような顔をしていた。


「なら、私も優しい王子様のために全力を尽くしましょう。かすり傷一つ負わせずにお守りしますから、安心してくださいね」


 何かあっても、この首輪様が敵を蹴散らしてくれるはずだ。(他力本願3)

 あ、でも彼は光の神だから猫の護衛は必要ないか。神様相手に何て大口をたたいてしまったんだ、怒っていないかなと見れば何故か彼は顔を真っ赤にしていた。


「は、え、僕は優しくない。お人よしのバカは貴方でしょ。何で、自分を傷つけた奴の娘何かわざわざ助けに。もう、バカ、優しい、カッコイイ、好き、このお人よし!」


 何故か、ペチペチ叩かれているが攻撃力0で全く痛くない。あと、それ悪口か。半分以上褒め言葉な気がする。全く可愛い人だな~。


「でも、貴方が佐藤さんと一緒に行くのはちょっとマズイんじゃないでしょうか。この子の飼い主の逆鱗に触れてしまうわ」


「あー、そうだね、なら」


「だから、私が一緒に行きます。どうせ近々お家にご招待しようと思っていたからそれが早まるだけですし」


「いいの。君だって結構あの人間たちに怒っていただろう」


「佐藤さんはこんな復讐をされても喜ばないようですからね。ま、彼らにとってはこの経験が良い薬になったんじゃないかしら」


 何、どういう事と首を傾げているとミオさんがそれはそれは神々しい笑みを浮かべて言った。


「私はミオゾティス。忘れな草の精霊で隠された神の宝を守る番人。命の水は、私が住む城の井戸に湧いているのよ。どうぞ、私の家に遊びにいらして」


 あのブーリさんの幼なじみが只の人間の訳がありませんでしたね。凄い精霊さんだったとは、驚きだが頼もしい。










 エファさんに、一緒に行けないなら代わりにこれを着て、とこの国の騎士服をモデルにしたお洋服を着せられ何故か撮影会が始まってしまった。何と、この服は彼の手作りらしい。


「何で騎士の格好何ですか?」


「僕の正体を知っていても守ると言ってくれるような、格好良い猫さんにはぴったりじゃないか」


「本当にエファ様って意外と乙女でいらっしゃいますよね」


 しみじみ言うミオさんの言葉に思わず頷きそうになった。手先が器用ってレベルじゃないぞ。お店が開けそう。


 写真撮影に満足したらしく、エファさんはすっと立ち上がると私達を浜辺へと案内した。灰色の空とどこまでも続く青い海を眺めていると、エファさんは花が咲いているサンザシを引き抜いて海へと投げた。それはすぐに立派な船へと変わっていく。


「この船に乗ればはるか遠く離れた小島まで連れて行ってくれるだろう。だが、島についてもまだまだ城はとおい。本当に大丈夫?」


「問題ありませんよ。ありがとうございます」


「私が一緒に行くんだもの。近道しますよ」


「余計な心配だったね」


 エファさんにお礼を言って早速船に乗り込み出発。一時間ほど海を行けば前方にエメラルドを思わせる緑に輝く美しい島が見えてきた。


「あまり時間をかけるとリュイさんが心配なさりますわ。ここはショートカットで参りましょう」


 島に降りてすぐ、ミオさんは悪戯っぽい笑顔でそう言うと一本の木に近寄った。


「これが、妖精の住む国へと通じる扉になる木よ。人間たちには内緒にしてね」


 白い花を満開に咲かせた林檎の木にミオさんが魔力を込める。木は白銀に輝き、次の瞬間私たちは白や赤、オレンジや黄色などの美しいバラが咲き乱れ、清らかな水をたたえた運河が街中を縫うように走る煉瓦造りの街並みの中に立っていた。


「お城はこっちよ」


 バラの良い香りが辺りに満ちる美しい場所に思わず見とれてしまうが、ミオさんには見慣れた光景なのかさっさと歩き出す。緑の丘を登っていけば、そこには太陽の光に輝く宝石を散りばめたこの世のものとは思えない美しいお城があった。


 武装した兵士や、恐ろしい唸り声や叫び声を上げる獣の姿も見える。ミオさんと一緒じゃなかったら怖すぎて回れ右をして帰っていたかもしれない。


「今私がこの城に戻ったのがバレたら、祝賀会が最低でも10日間は続くと思うから、今回は皆を眠らせてしまいましょう。おもてなしが出来なくてごめんなさいね」


「いえいえ、大丈夫です。気にしないでください」


「また、ゆっくりとここに遊びに来てちょうだい。案内したい場所がたくさんあるの」


  スーッと息を吸い込むとそっと歌い始めた。心地よい旋律に身を任せていれば不思議なことが起こり始めた。剣が兵士の手から落ち、兵士も地面に倒れていく。そして先ほどまで響いていた恐ろしい唸り声が途切れたかと思うと、獣たちは壁の上に凍り付いたように固まっていた。


 死のような眠りが城全体を覆いつくす。


「さすがミオさんです‼」


「ありがとう、さぁ、行きましょう」


  魔法が解ける前にと急いで城の中に入れば、そこには見たことも無いほどに美しい庭園が広がっていた。思わず息をのむ。守護者が目覚めないうちにと中庭の井戸に近寄り、首輪様に頼んで出した小びんの中に水を汲む。

 一仕事終わったとほっとして、ミオさんの方に向き直ったところで視界に映る景色が変わった。








 どこまでも広がる遠浅の海は澄んでいて、空の青さをそのまま写し取ったような綺麗な青だ。遠くを見れば空と海が混じり合いそうだ。

 鏡のような海面には、黒髪の少女の姿が写っていた。人間の『私』は、猫な私が着ていた騎士団の制服を着ていた。

 紋章が刺繍された大きな白い襟が印象的な茶色のジャケットは、金色のボタンと相まって、かっちりとしていて上品な雰囲気だ。猫の時とは違い、ぴったりとした白のズボンに足元はブーツが追加されていた。

 内心、騎士団の制服は格好よくて着てみたかったから素直に嬉しい。その場でくるりと回ってニコニコしてしまうが、さてここは何処だろう。生き物の気配を感じない。圧倒的な静寂が辺りを包み込む。この静けさに慣れないから、心に不安が込み上げてくる。


 後ろを振り返れば、大きな岩の洞窟がぽっかり口を開けていた。このままこの海に居ても仕方がないし、誘われるように洞窟に向けて一歩踏み出した。


 暗い洞窟を抜けると、赤いポピーやホクシャの花が咲き乱れる緑の野原に出た。空を行く白い雲が野辺に影を落とす。のどかな風景にお弁当を持って来なかった事を若干後悔しつつ歩いていると、岩の影から斧を持った小人が飛び出してきた。瞳に浮かぶのは、明確な殺意。被っている毛糸の帽子は黒ずんだ赤で、このまま抵抗しなかったら私の血が、新たに鮮やかな赤であの帽子を染めるのかもしれない。


 そんなのは嫌だ。私は殺される為に生きている訳じゃない。


 今はチョーカーの様になっている首輪様に着いている、女神様にもらったルビーが輝く。私の手には剣の刃に赤い星紋が散った美しい刀が握られていた。星が妖しい光を放ち、斧を躊躇いなく振り下ろそうとしていた小人の動きが止まる。魅入られた様に剣を見る小人を訝しく思いながらも、剣で小人の身体を斬れば、小人は黒いもやに変わり空気に溶ける様に消え去った。



 ルビーの力って凄いと思っていると、役目は終わったとばかりに剣も消え去った。気を取り直して先へ進むと、草原の真ん中に金色の光を帯びた力強い生命力を感じさせる大きな木があった。もっと近くで見たくて足を踏み出したところでふと気付く。


 木の幹に寄りかかって、桜色の髪をした人形の様に美しい少女が眠っていた。この顔、ミオさんにどこか似ている。そして、少女の傍らにはこちらも丸くなって気持ち良さそうに眠っている獅子がいた。リュイさん以来久しぶりに見る黒い毛並み。背中には折り畳まれた銀の翼があるから、この獣も普通の獅子ではない。何故か恐怖心は覚えず、それよりもこの獅子に対して抗いがたい引力を感じる。傍によってしゃがみこみ、風にそやそやと揺れる黒の毛並みと安らかな寝顔を見つめる。


 長く見つめてしまったが、唐突にもう時間がない事を悟る。獅子の額にキスを一つ落とすと、首輪様に頼んでこの高貴な獅子に似合いそうな銀のリボンを出現させ、前足の、人間だったら手首に当たりそうな部分にそっと結んだ。








 そこで、視界に映る景色があの井戸に代わる。黄色い猫の手には命の水が入った小瓶が握られている。元の場所に戻った?


「どうしたの、佐藤さん?」


「あ、すみません。ちょっとボーっとしていました」


「封印に綻びが。そろそろ我慢出来なくなっているみたいね」


 ミオさんが何か言ったような気がしたが、吹いてきた風の音にかき消されて聞こえなかった。

 ダイヤモンドや真珠でキラキラ輝く城の外壁を横目で見つつ、堂々と門から城を出て一分後。後ろから獣の声が聞こえてきたから、城にかけられた眠りの魔法が解けたのだろう。


 帰りも近道を通り、船に乗ってフロレンティアの浜辺に着けば、そこにはエファさんが待っていた。しまった。彼へのお土産を買っていない。


「おかえり。無事に命の水を手に入れたようだね」 


 エファさんのご厚意で、命の水をフロレンティアの城に持って行くのはエファさんが引き受けてくれることになった。あの王様には会いたくなかったから正直助かる。




 翌日。ミオさんからお姫様の病気が治ったことを知らされて私はほっと胸を撫で下ろしたのだが、王様から巻き上げたという多額の慰謝料も手渡して来て、今度は胃が痛くなった。

 こんな量の札束、生まれて初めて見た。





今回の物語のモチーフは、アイルランドの昔話である『世界の果ての井戸』です。童話が好きなのでいつかガッツリ童話モチーフのファンタジーも書いてみたいです。

因みに、佐藤さんたちに対する慰謝料は、命の水を届けたエファさんが王様を脅しつけてせしめて来たものです。彼はこの国の王と関わった聖職者を許していないので、彼らは後に自業自得な不運に見舞われることになります。


執筆に際して、以下の本を参考させて頂きました。ありがとうございました。


『子どもに語るアイルランドの昔話』  渡辺洋子 茨木啓子 編訳 こぐま社 (1999)

あと、エファさんの趣味は手芸です。お洋服やぬいぐるみ何かをよく作っています。ミオさんもエファさんお手製のうさぎやクマのぬいぐるみを誕生日にもらっています。

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