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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第1章 異世界旅日記編
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星祭りと騎士様ごっこ

 7月の行事といえば日本人であれば七夕を思い出す人も多いだろう。天の川を挟んで引き離された織姫と彦星が7月7日の夜、年に一度だけ会う事を許されたという中国の伝説が発祥となった行事に似たものが、まさか魔法や魔物がいることが当たり前のファンタジーな異世界にもあるとは思わなかった。


 初めましての人もそうでない人もこんにちは。私の名前は佐藤。地球では女子高生をしていましたが、何故か魔法が科学並みに浸透している異世界に黄色い毛並の猫姿でトリップしてしまいました。幸い私が望んだ物を何でも出してくれ、言語の翻訳まで行ってくれる猫目石がはまった万能首輪のおかげで都会育ちのもやしっ子でも異世界を余裕で生き抜けている。


 それに、家族や友人と離れていても孤独感や寂寥感を覚えることはないのは、スマホで連絡が取れるという事ももちろんあるだろうが、一緒にこの世界を旅しているこの世界で出来た友人と、世話好きな優しい飼い主さん(仮)の存在が大きいだろう。


 飼い主(仮)であるリュイさんは、普段は銀髪に水色の瞳をしているが、本来は黒い髪をしている。この世界では、自身の身に宿る魔力の量が身体的特徴として現れ、魔力が強ければ強いほど黒に近い色彩が現れるのだが、漆黒は世界を滅ぼそうと企む闇の神以外に持つ者は存在しなかった。リュイさんが生まれるまでは。人は強い力を持つ者を恐れる。彼の正体が人とは違う魔物だったこともあり、彼は周りの恐怖心を煽らぬよう人に化け、色彩を偽って暮らしている。強い力のために権力者に狙われるか殺されかけることも多々あるため一所に留まれず、ずっと旅を続けているのだそう。


 旅のメンバーには、リュイさんの弟であるブーリさんもいる。こちらは白い髪に緑の瞳という派手な色彩であり、本来の姿は王冠をかぶった白鳥の姿をしていて、こちらも強大な魔力を持つ魔物だ。





 私達は現在、アトランティス大陸の中央にあるフロレンティア王国の首都・アルビレオに来ている。本当は夏至祭を見終わったら次の国に行く予定だったのだが、夏至祭から二週間後に今度は新市街をメイン会場にした星祭りという日本の七夕に似た行事が盛大に行われる。それまで見てからこの国をでてもいいんじゃないと、ミオさんに言われたからだ。美しい女性に涙目でおねだりされて断れる者はいない。


 フロレンティアと言う国は政策として、観光業の他にも文化発展に関係し、人の思いを豊かにする重要要素としてお菓子を置いており、周辺国に領土を狙われ続けた苦難の歴史から国家戦略としても利用し、外交の切り札としてお菓子を使っている稀有な国だ。

 そのせいか、総じて食のレベルが高く芸術品の様な味も一級のお菓子が手頃な値段で買えるある意味甘い物好きには天国のような国なのだ。

 街並みも石畳の道が伸び、花で飾られた可愛らしいパステルカラーの家が立ち並ぶメルヘンな国で、私は大変気に入っている。だから、もう一つの目的のためにもゆっくり出来るのは嬉しい。





 7月9日。星祭り最終日のメインイベントの一つである花で飾られた山車と、宇宙と神話をモチーフにした華やかな衣装を身にまとった人々の踊りが魅力的なパレードを、リュイさんの腕に抱っこされながら見ていると、綺麗なオレンジ色のバラがこちらに飛んできた。

 パレードの最中に山車を綺麗に飾る花を観客に投げる花の合戦が名物何だっけ。リュイさんが見事にキャッチしてバラを私の口元に寄せてくれる。「絆」や「信頼」の花言葉を持つオレンジ色のバラは見ているだけで元気になれるね。いい香り。


「佐藤さん、屋台で美味しそうな食べ物買ってきたから良ければどうぞ。お腹空いたでしょう?」


 香りを堪能していると、屋台巡りに行っていたミオさんとブーリさんが手を振りながらこちらにやって来た。ミオさんは、今日はお祭りということもあって金糸で星座の縫い取りをした藍色のベルベットのワンピースを着ており、いつもの2割増しで可憐なお姫様感をかもし出している。


 今日の貴方もこのバラの花より美しいですね(真顔)


 そこで、おやと思いリュイさんの腕からミオさんの腕へと飛び移り頬に前足をあて、そっとこちらを向かせる。


「あら、先ほどは無かったデージーの髪飾りを付けているね。大変よくお似合いです」

「きゃー、ありがとう。佐藤さん。ブーリ君に買ってもらったのよ!」


 おぉ、喜んでいる笑顔が眩しいぜ。いい仕事したなとブーリさんにアイコンタクトすれば何かを悟ったような笑顔を返された。解せぬ。

 そういえば、神話には求婚のために彗星の神が星を地上に下ろし、その星がデージーの花に変わったという伝説があるためか、星祭りではやたらデージーモチーフの雑貨やアクセサリーが売られているんだっけ。日本だとカスミソウの白が七夕の空に現れる天の川のようだと言う理由で、七夕の日の花はカスミソウなのだけど、そこは違うのね。


 魔物な旅のメンバーは、私とミオさん以外食事の必要が無いので彼女と二人でわいわい言いながら、屋台飯を食べていく。木のテーブルが並んだイートインスペースでご飯を頬張る。

 牛肉ととろりとしたホワイトソースの星型コロッケやバターの風味やこってりとしたチーズのソースがマッチしているムール貝のグラタン、牛肉の赤ワイン煮を堪能し、締めのデザートとして、星型のメロンとスイカの飾りつけが可愛いゼリーと底にはビスケットの生地を敷き、チョコレートと抹茶のムースを重ね合わせ、上には天の川をあしらった金粉が乗ったお上品で美味しいお菓子を堪能してようやく腹の虫がおさまった。


「星祭りは夜が幻想的で一番綺麗ですから、昼間はこれに参加してみませんか。何だか面白そうな匂いがしますよ」


 屋台巡りの最中に渡されたのだと言うチラシをワクワク顔でブーリさんが取り出した。騎士体験か。確かこの国は、元々魔物討伐や盗賊の取り締まりをしていたとある騎士団が悪しき魔物を倒し、その魔物が支配していたこの土地を手に入れ建国した歴史があるから騎士はとても人気があるんだよね。

 因みに名称はチョコレート騎士団という何とも美味しそうなものだ。この国も実はチョコレート菓子が一番有名だったりする。


 煽り文句は、君も美しい姫を悪徳貴族の魔の手から救って勇気ある騎士の仲間入りをしようというものだった。これ、警察のお仕事じゃないの。何か、時代劇でよく見るストーリーだ。


「へー、面白そうですね。物は試しで予約して見ましょうか」


 食っちゃ寝生活でちょっと体重も気になるので、ダイエットもかねてやってみようかと私は早速スマホを取り出し、チラシに載っている電話番号に連絡して予約を取る。

 この世界、何故かスマホやパソコンが普及した情報社会なんだよね。王道ファンタジー世界にスマホってと最初はちょっと遠い目になったが、今は便利さに感謝して拝んでいる。


 予約が取れて、スマホを首輪様に頼んで別空間にしまってもらったところで、何やら腰に剣を下げた騎士様二人が現れ、両側からブーリさんの腕をとって立たせるとその場から掻き消えた。


「ブ、ブーリ君が誘拐された―!」


「え、ちょ、騎士体験ってそういう事!?」


 いや、確かにブーリさんは美人ではあるけど。ここは、ミオさんが誘拐されるのがセオリーでは。そこで、リュイさんと共に助けに行って彼の格好いい所を見せて二人の仲をより深める算段だったのに。私はまだ、彼女にリュイさんの主人になってもらうことを諦めていない。


 スマホを見ればブーリさんの居場所がメールされて来たので、取りあえず助けに向かうことにする。


「リュイさんも一緒に行きますか?」


「いや、俺は行きたいところがあるから遠慮しておく。楽しんでおいで」


 空に輝く黄金の月でさえ敵わないような麗しい微笑みを浮かべて、断り文句を口にした後の彼の目線の先は、美味しいお菓子屋さんが集まる商業地区だった。リュイさん、甘い物大好きだもんね。

 弟を救いに行く旅で特にロマンスが生まれる訳がないので、何の私はコクリと頷き、参加すると言うミオさんの腕に飛び込んだ。前足を振って、リュイさんと別れた。


 私達はホテルの窓からも見えていた海に浮かぶ大聖堂であるベネデッタへと向かう。地球で言うモン・サン・ミッシェルによく似た建物で、世界遺産制度があれば速攻で登録されていた歴史と格式のある教会がよく協力してくれたと思う。


 星祭り期間中で、観光客にも一般公開されているからこんなイベントもオッケーになったのかな。


 沖合に浮かぶ小島に作られた修道院であるベネデッタは、海から吹き付ける暖かく湿った風の生み出す霧に包まれ、幻想的な雰囲気を醸し出していた。海に囲まれ、水面にゴシック様式の建築美を映し出す様に思わずスマホで写真をパチリと撮る。手漕ぎボートの傍で待っていたスタッフに大聖堂まで連れて行ってもらい、楽々海に囲まれた修道院に潜入する。 


 今の私は、日本人という事で隠密行動に適した黒い頭巾で顔を隠し、黒装束を身にまとった忍者猫スタイルになっている。大変可愛らしいとミオさんやスタッフさんに好評だったのでご機嫌だ。猫って何着ても可愛いからいいよね。元の人間姿じゃ出来ない事も出来る。

 

 ブーリさんの気配を辿り、礼拝堂の天井裏に忍び込んで中を覗き込めば、豪奢な衣装をまとった偉そうな貴族がふんぞり返って椅子に座っていた。さっきブーリさんを誘拐した騎士の一人が貴族に恭しく木箱を差し出しているところだった。


「黄金色のお菓子でございます。どうぞお受け取り下さい」


「うむ、お主も悪よのぉ~」


「ご領主様ほどでは」


 異世界にも時代劇の悪代官と悪徳商人のテンプレ会話文化があるんですね。(真顔2回目)


「む、何奴! そこにいるのは分かっておるぞ!」


 と、傍らにあった槍で天井をつつかれたので、私とミオさんは顔を見合わせ、さっとステンドグラスが穏やかな光を投げかける石造りの礼拝堂に降り立った。


「ブーリさんを返してもらいます!」

 貴族に体当たりを仕掛ければ、「ぎゃー、やられた―!」とわざとらしい悲鳴を上げて倒れ込む。ミオさんの方を見れば、立てかけてあった剣を手に取り、あっさりと騎士二人を相手取り打倒しているところだった。 


「悪かった。あの青年は返すから命だけは助けてほしい」


 と、異世界にもあるのねという綺麗な土下座をかます悪役3人に頷けば、以上で体験は終了になります。ありがとうございました。と丁寧な言葉を返され、良ければお菓子をどうぞと紺碧の海と遠くにアルビレオの街並みが見えるお部屋に案内される。サービス、いいな!


 ブーリさんはといえば、何故か部屋の中でタペストリーを織っていた。 


「ちょっと待っていてくださいね。聖属性の僕が織るタペストリーを是非今年の星祭りで神にささげたいと頼まれてしまったので。お菓子でも食べてゆっくりしていてください」



 星祭りは年に一度この星に訪れる彗星を神格化したもので、その彗星とこの星を守護する神の一柱は恋人同士なのだが、彗星はこの世界と宇宙の秩序を守る神なので、危機に瀕している人々を救えるよう常に旅をしていて、彗星がこの星に近づく7月9日の一夜にしか会う事が出来ない。

 その彗星が今年も無事に訪れたことを祝い、出来れば聖属性をもつ人が織りあげたタペストリーを彗星の神にささげる儀式の中で、奉納し、また、この星から旅立つときに地上の災厄も一緒に運び去ってもらうことを願うのだ。

 白を宿す生き物は皆聖属性をもつため、今回はブーリさんに白羽の矢が立ったのだという。実は、頼まれるのは初めてでは無かったようで、見事な手並みで私達が抹茶パフェとチョコレートボンボンを頬張っている間に織りあげてしまった。馬に乗った騎士とアルビレオ王家が住む宮殿と広大な森の図柄は精巧で綺麗だ。手先が器用なのが自慢だとは言っていたが、これほどとは。




「白にも意味があったんですね」


「白はこの世界では聖なる色とされ、白を宿す生き物は神が遣わした神の愛し子として神聖視されるんですよ。魔物が持つには不似合いな色ですよね」


 ブーリさんは複雑そうな表情でため息を吐いた。

 修道士の方々にタペストリーを手渡し、さぁ、帰ろうかというところで何故か武装した騎士たちに周りを取り囲まれる。あれ、騎士体験はもう終わったはずでは? ブーリさんはミオさんを背に庇いながら後ろに一歩下がった。


「すみませんが、まだ、貴方方を返すわけには参りません。邪魔をされてしまいそうですからね」


 ブーリ様は白を宿した方ですし、良ければこの修道院で共に神に感謝をささげ、与えられた力を人へと返す仕事をいたしましょう、とにこやかに但し目が笑っていない表情で告げられる。


「ねぇ、兄さんになにをしたの?」


 絶対零度の声音に背筋が震える。ブーリさんはすっと目を細めた。


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