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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第1章 異世界旅日記編
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異世界で、生け贄になったり魔物の飼い主候補になったり、オレンジデーを布教したりしていますが、私は今日も元気です。

 エルドラードにおいて、私が神様の花畑を再生させるための生け贄に捧げられそうになった事件から、2ヶ月以上が経ちました。



 皆さん、こんにちは。相変わらず黄色い猫をしている佐藤です。季節は、春からすっかり夏の気候に変わり明日は夏至を迎えます。



 さて、この2ヶ月で私が何をしていたかというと、まず速攻でエルドラードを出ました。


 私を生け贄に捧げようとしたガイドだが、実は、王都の神殿を預かり神の声を聞いて神託を下す、私が見たあの仮面の神官の弟子にあたり、あの海辺の遺跡の祭儀を任されていたそうだ。一般的な格好していると分からないな。


 黒の魔物を生け贄に捧げるように、神託が下された後に別の神が新たに海の神殿に黄色の獣が現れるため、それが犠牲の獣になると、預言を出しそれを受けて彼は私を狙ったのだ。

 様子を伺うために王都に残っていたブーリさんはその預言を知り、心配して駆けつけてくれたのだ。



 なお、レオさんが、宣言通り真実を公表したことで政治が大混乱し、長く続いていた王政が倒され共和制に変わったのだ。

 詳しいことは知らないが、何か上層部の腐敗とかも多くて、不満が陰で燻っていたらしい。

 理想郷とまで言われていた国なのに、一度崩れると随分呆気ないものである。これから、この国がどうなるのかは分からないが是非頑張ってほしい。そして、その、混乱に乗じて私達は国を出た。



 なお、再会したときのリュイさんの嘆きようは凄まじかった。絶望が色濃く映る青の瞳が痛ましいが、同時にそれが恐ろしくて目が合った瞬間思わず彼から離れてしまった。


 それがいけなかった。


 ひたすら、私に向かって謝りながら目から大粒の涙がぽろぽろ零れるのだ。しかし、表情を歪めるのではなく、全て無だった。人形が涙を流しているみたいで、ガラス玉のような瞳には何も写していない。


 こんな泣きかたをする人を初めて見た。これは、由々しき事態だと私はすぐ様リュイさんにすり寄り、アニマルセラピーを開始した。


「役立たずでごめんね。どう償えばいいのかな」


 私が望めば、喜んで命さえもためらわずに差し出しそうだ。そんな、背筋が寒くなる予感にかられる。


「私が勝手に貴方から離れた事が悪いのです。リュイさんが、責任を感じる必要はないです」


「そうそう。今回は自分の信者を抑えきれなかった光の神が責任取るべき案件だからね。兄さんは、何でも自分が悪いと思いがちだけど、そうやって謝る方が佐藤さんは、困るんじゃないかな」


 傍で見ていたブーリさんが私の頭を軽く撫でながら言う。お、ナイスフォロー!


「そうです。謝罪より私は別の言葉が欲しいです」


 リュイさんの目が私の目を捕らえる。


「大好きだよ。佐藤さんが無事で良かった」


  今、凄い爆弾が落とされた気がする。私は、貴方にお帰りなさいと言われたかったんだけどなー。(白目)







「光の神が居るから、邪魔してきたの」


 リュイさんの膝の上で、彼の指にのど元をくすぐる様に撫でられていると、唐突に低い声が上から降ってきた。


「僕はまだ死にたくないからね。世界が壊し尽くされても生きている自信なんて、僕にはないよ」


 リュイさんとレオさんが争うと、そんなに凄まじいことになるのか。本当にあの時ブーリさんが迎えに来てくれて良かったのかもしれない。ん? 待てよ。


「レオさんって光の神様何ですか?」


「レオ? あいつそんな偽名を名乗っていたんですね。そうですよ、貴方が仲良くしていた黄金の獅子は、世界を破壊する力を持つ闇の神と対立しこの世界を救済する役目を持つ者。故に闇の神の造り出した魔物と敵対する」


 だから、誰に対しても基本穏やかに接するブーリさんがレオさんと話している時は、ピリピリした雰囲気を纏っていたのか。闇の神と同じ色をしたリュイさんとは、更に相性が悪いのかもしれない。


「因みに、あの人は基本エファって呼ばれています」


 そうなんだ。次にもし会うことがあったらその名で呼んで驚かせてみようか。


「でも、まさか黄色を宿す生き物を殺すと言う禁忌を犯すとは思いませんでした。貴方は安全だと無意識に油断していたようです。次が無いよう気を付けますね」


「本当に怖い思いさせてごめんね」


 黄色にも何か意味があるのかと尋ねれば、リュイさんが説明してくれた。


 この世界、黄色は闇の神を滅ぼす光の神を現す色であり、地上の生き物がその色を宿すことは、大変稀であり縁起の良い存在なのだという。


 そして、神話において闇の神の封印が解けて目覚めたとき、黄色の獣が闇の神を倒すため光の神と共に闘うとされているため、傷つけることはあってはならないとされているのだ。


 なるほど、私がこの世界で普段異常に可愛がられていたのは、私が黄色を宿していたという理由もあったらしい。


 あと、ただの猫に神様を倒す戦闘力はないから、神話で言われている獣は私じゃないと思う。







 エルドラードを出て次に訪れたのは、その国とは別の大陸にある大公が治める小国だ。深い森に点在する石造りの古城と、清らかな水を湛えて悠々と流れる大河が印象的な、童話の様な景色が広がる美しい国だ。


「おはよう、佐藤さん。今日も良い天気だよ」


 今いるホテルはキッチン付きのアパートタイプの部屋であり、暮らすように旅ができると言うコンセプトのお部屋である。だから、自分は食事を取らないのに実は家事万能で料理上手なリュイさんが、毎食手作りの美味しい料理を作ってくれる。

 そして、私はこの1ヶ月ほど外に出ていない。今は、4月の半ばで花盛りの季節。是非とも散歩がしたいのに、私が死にかけたことがリュイさんにはことのほか衝撃だったようで、外は危険だからと出してもらえなくなったのだ。


 いつまでも、このままじゃ駄目だよね。


「おはようございます。あれ、ブーリさんは?」


「明け方近くまで起きて映画を見ていたみたいだから、まだ寝ているよ。先に食べてようか」


 今朝は、カリカリに焼いたベーコン入りのパンケーキにサラダだった。コケモモのジャムを付けて食べるらしい。今日も美味しい。


 ブーリさんが起きてないのは好都合だ。彼も以外と過保護で安全が確認できるまでは、と外に出ては駄目と言ってくる。二人がかりで説得されれば勝ち目はない。


 でも、リュイさんだけなら彼は私に甘いから私の本気のお願いは拒めない。いつまでもこの部屋に閉じ込められていたら、互いの精神衛生上良くない。


「リュイさん、外はお花が綺麗に咲いていて綺麗ですよ。貴方と一緒に見たいから、私とデートをしてください」


 朝食を終えてお皿を洗ったリュイさんがソファーに座ったので、これはチャンスだと私は彼の膝の上にのり上目遣いで見つめて頼んでみた。リュイさんは口元を手で覆うと目線を反らす。


「俺で良ければ喜んで」


 意外と簡単に連れ出せました。そんなにチョロくて大丈夫か。私が1人で外に出ることが彼のトラウマを刺激するだけで、一緒に外に出るのは平気なようだ。

 こうやって、少しずつ外に出て慣れさせていけば、いずれ1人で外に出る許可も貰えるかもしれない。




 彼に抱っこされて、街に出る。久しぶりに外の空気を吸ったが、ぽかぽかの日差しが心地いい。リュイさんも何だか嬉しそうだ。私に付き合って彼も閉じ込められているようなものだったもんな。元がインドア派な私は平気だが、本当に申し訳ないことをしてしまった。


 雑貨屋さんや活気ある市場を見たあと、レンガ造りの可愛らしい家々が立ち並ぶ路地を抜けて行く。そこで、私のスマホが光ったので確認すれば友人からだった。


 2ヶ月の時差があるため、向こうは今日がバレンタインだ。無事に友人は幽霊のお兄さんにチョコレートとマフラーを渡せたらしい。

 はにかみ笑顔で紺色のマフラーを巻いたお兄さんの写真が送られてきた。こうしていると、前回の和装と違い白いセーターにジャケットを合わせて、下はジーンズという現代的な服装も相まって普通の若者にしか見えない。モデルさんか何かみたいにべらぼうに顔が良いけどね。


「ベストショット撮れたよ。この笑顔を直視して押し倒さなかった私の理性を誉めてほしい」

 という友人のコメントに、次に会う場所が留置所の面会室じゃありませんように、と本気で祈った。


 でも、そうか。14日か。ふと、目線を上げればケーキ屋さんが目にはいる。扉に貼られた新作のケーキの写真を見てこれも何かの縁だと、私はリュイさんに声をかける。


「すみません、5分だけここで待っていてください」


 リュイさんの腕から降りてケーキ屋さんに向かい私はケーキを注文した。リュイさんがわずか2分でお店に飛び込んで来たときには、ラッピングと会計が終わっていた。店員さんの早業が凄い。


「何か欲しいものがあるなら、言ってくれれば買うのに」


「貴方に買って貰うのでは意味がないので。もうブーリさんは起きた頃かな」


 疑問符を浮かべるリュイさんに帰宅を促し、ホテルの部屋に戻ればブーリさんはソファーに座ってコーヒー片手に新聞を読んでいた。


「お帰りなさい。お出かけしていたんですね」


「ただいま。今日は二人に贈り物を買ったんです」


 慎重に箱を開けてテーブルの上に取り出したのは、オレンジのタルトだ。


 今日4月14日は、日本ではオレンジデーにあたる。この日は果物のオレンジかオレンジ色の品物を大切な相手に贈り、絆を深めるのだ。

 日頃の感謝とこの前のことのお詫びとして受け取ってほしいと言えば、嬉しさと悔しさと苛立ちが混じったような複雑な表情をされた。魔法の気配と共に二人の手には、品物が握られる。


「じゃあ、僕からの贈り物も受け取って貰えますよね」


「俺だって、貴方には感謝しているよ。いつも傍に居てくれてありがとう」


 ブーリさんがオレンジ色の花で纏められた花束を差しだしてくる。


「これはチューリップ何ですけど、品種名がオレンジプリンセスと言います。可愛らしい貴方にぴったりだと思うので、受け取ってください」


 さすが、魔物。息をすう様に甘い言葉を囁いてくるなと感心してしまう。お礼を言って受け取る。


 八重咲きの濃いオレンジ色のチューリップは一見すると別の種類の花にしか見えない。華やかで綺麗。


 でも、そう言った甘い微笑みと台詞はただの猫ではなく恋人に言うべきだと私は思うのだけどな。


 そこで、何やら部屋の温度が下がった気がして私は周囲を見やる。


「うわ、兄さんそんな睨まないでよ! 僕はとる気なんかないから! 可愛いとは思っているけど!」


「なら、佐藤さんを口説かないでください。……佐藤さん、俺からはこれ。着けてくれたら嬉しいな」


 リュイさんからは、赤いカルセドニーがはめ込まれた、三日月のチャームがついたオレンジ色のリボンだった。


「あの、これ高い品ではありませんか。受け取れませんよ」


「幽霊達から貰ったトルコ石は付けているのに、何で俺からのだと駄目なの」


 その拗ねた様な顔は駄目だ。何でも言うことを聞いて甘やかしたくなるだろう。何で私は、浮気を咎められる旦那の様な気分になっているのだろう。私はお礼を言って受け取るしかなかった。




 カルセドニーは石英の微小な結晶が集まって出来た石だ。地球だとカルセドニーのお守りは、夜に出現する悪霊や幻覚を追い払い悲しみを消す力があると言われている。だから、家族と離れて暮らしている私の事を思って、この石を選んでくれたのかもしれない。


 首輪の下にリボン結んでもらってそのままクルリと周れば、飾りが揺れる。


「ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」


 そんなこんなで、オレンジデーのプレゼント交換は幕を閉じた。


 日本に帰る方法は分からないまま、日々は穏やかに過ぎていく。

 そして、季節は新緑まぶしい5月を過ぎ、バラが美しく咲き誇る6月を迎えた。

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