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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第1章 異世界旅日記編
18/170

罪の向こう 梅花の雫

軽度ですが、人体欠損系の残酷描写があります。苦手な方はご注意ください。

  春を代表する花が桜であるなら、春を告げる花は梅だろう。私は目の前に広がる赤や白の花の海を見ながらそう思った。







  私が今いる場所はここ。どこか日本を思わせる瑞穂国に滞在している。

 そして、この時期にここに来たら一度は見ておかないと駄目だという、有名な梅の名所を訪れているのだ。

 目の前に広がるのは、いっそ飲み込まれてしまいたいと思わせるほど美しい花の海。

 鼻孔をくすぐる香りに恍惚としたため息が漏れる。赤い花を満開にさせた枝に座り、のんびりと空の青と、空を旅する白い雲、そして凛として厳かに咲く赤を見ていたのだが、そこで可愛らしく飛び跳ねながら綺麗な黄緑色の羽をしたメジロが寄って来た。


「猫ちゃんは、何だか不思議な香りがするね。猫? 魔物? うーん、人間?」


 メジロの興味津々な声音に私は苦笑する。元人間の現猫です。魔物の香りは、私の飼い主候補が魔物だからだろうか。

 なーんてことを話しながら、お近づきの印に望むものを何でも出してくれる万能首輪に頼んで、パンを出してもらう。それを千切って、メジロの方に放ればさらに2、3羽が寄ってきて仲良くついばみ始める。


「ありがとう。そうそう、この梅園に来たならあそこのお店の焼き餅は是非食べた方が良いよ。あそこの店主は動物好きだから、猫な君が行けばきっとかけらをくれるよ。僕たちももらうし」


「ありがとう、リュイさんに頼んで買ってもらうわ」


「あー、貴方は飼い主がいるから売り上げに貢献した方がいいか。僕たちもあの店につぶれてもらっちゃ困るし」



 人間世界の情報に意外と明るいメジロと雑談していると、名前を呼ばれた。

 メジロは魔物の気配に怯えたように、口々に挨拶をして飛び去って行った。何か悪いことしたな。私の飼い主(仮)は、怖い魔物では無いのだけれど。


 私もメジロに向けて前足を振って、名を呼んできたリュイさんに向き直る。木の上にいるため、普段とは異なり、彼を見下ろす形になって何だか新鮮だ。


「おいで」


 そう言って腕を広げて来たので、私は躊躇なくその腕に飛び込む。


「佐藤さんは、梅は気に入った?」


 私を腕に抱っこしたリュイさんが、そう言って私の顔を覗き込む。


「色々な品種があって、見ていて楽しいです。さすが、この地方の名所だけありますね」


 2月の下旬とは言え、まだまだこの地域は寒い。雪がチラつく中で見える鮮やかな赤い花はとても綺麗でいいなと思う。

 とはいえ、寒いから夜には観光客が来ないためか、この梅園は夕方には閉演して施錠され、誰も入れなくなる。



 しんしんと雪が降る中で花をつけるその姿は花言葉の「忍耐」や「高潔」を体現していると言える。夜のライトアップの中で見たらより幽玄さが増して素敵だと思うんだけど。


 なんてことを話せば、ブーリさんが苦笑しながら教えてくれた。


「あー、それはですね。古代、このあたり一帯の村々を恐怖に陥れた妖が、神の命令によりこの地に降り立った戦士に倒され、この山に封印されたのです。しかし、倒された恨みからか瘴気をまき散らし始めた妖の霊を慰めるために梅の木を植えたところ、瘴気の発生が止まったそうです。ただ、そんな伝説の残る土地にあるせいか、この山は夜になると妖の霊が現れ人を襲うとかで、今でも午後四時以降の立ち入りは禁止されているそうです」


「解説ご苦労様です。よく分かりました」


 まさか怪談を聞くことになるとは。


「でも、本当に綺麗だね。この木なんか白と赤の花が一つの木に咲いている」


「あー、それは接ぎ木で作るみたいですよ。品種名は【思うがまま】。ピッタリですよね」


「ブーリ、詳しいな。ほら、佐藤さん、いい香りだよ」


 梅の甘い香りをかいでいるとグーッとお腹が鳴った。うわ、乙女にあるまじき失態。そういや時間的にそろそろおやつの時間だもんな。


「あ、ごめんなさい! 佐藤さん、お腹が空いていたんだね」


「この山の名物に美味しいお饅頭があるんですよ。お店はすぐ近くだから行きましょうか」


 魔物である彼らは食事をしないのだが、食事を取る存在である私がひもじい思いをしないように常に気遣ってくれている。

 おかげで三食の食事を与え忘れられることは無いのだが、食欲旺盛な私のお腹はそれだけでは足りなくて時々彼らを慌てさせてしまう。今のように。


「リュイさん、そんな顔真っ青にして走らなくても、これ位の空腹じゃ死にませんよ~!!」


 正直、異世界に来て一番命の危機を感じたのは今かもしれない。絶叫系の乗り物は大嫌いなんだよ! 



 でもって、メジロもおススメしてくれた茶屋について出されたお餅は餡子がたっぷり入ったアツアツの焼きたてだった。

 あれ、これ場所も相まって福岡名物梅が枝餅を思わせるな。名称は違うけど。こちらでは紅梅餅というらしい。

 餡子の甘さが上品で何とも美味しかったです。元人間な私は猫舌ではないので、出来立てでも平気でした。


「良かった、佐藤さんが笑ってる」


 安心したような小さなつぶやきに、もしかして、心配をかけていたのかと私はリュイさんの方を見やる。昨日と違い、感情を素直に伝える猫耳と尾はないから、基本表情の変わらない彼の心情を慮るのは難しい。


 本当は、今日は日本に帰る方法を探すためにこの街の図書館に行くつもりだった。国家機密もすっぱ抜いてくる我がスマホでの検索結果が0な時点でかなり絶望的だ。もしかしてスマホで網羅出来てないだけで書物には何かあるのでは、と希望を捨てずにそれらしき本を漁るのだが、未だ目ぼしい情報は見つからない。

 そんな日々で、彼らに気づかれないよう一人こっそり落ち込みつつ、地球の友人や家族とメールのやり取りをしていた。



 だが、私と一緒に行きたいところがあると、今日の朝誘いをかけてここまで連れて来てくれたリュイさんには、私が何かしらの理由で落ち込んでいるのが、バレていたのかもしれない。

 胸に暖かいものがこみあげてきて、私は泣きそうになる感情を誤魔化すように、残りのお餅にかぶりついた。





 お腹も落ち着いたところで、再び散策。あー、赤や白の花の海が青い空に映えて、この世の楽園だな。綺麗な景色を見られたことで、心がちょっと浮上する。それに、きれいな景色と共に。


「しかし、このような極上の宝石に囲まれると困ってしまいますね」


 両手に花とはこのことだろう。猫でなかったら、リュイさんに抱っこされ、ブーリさんにあれこれ構ってもらっているこの状況。暗殺されても文句は言えない。猫の姿でもお嬢さん方の羨まし気な目線が刺さる事刺さる事。


「宝石って。佐藤さんって唐突に恥ずかしい事言いますよね」


 思ったことを素直に口にしただけなのだが、何故か二人は照れているよう。この二人の容姿ならこれ位の賛辞慣れていそうだけど、そうでもないのかな。


 そこで、太陽が雲に阻まれ、辺りがうす暗くなる。私は思わずわが目を疑った。梅の花に重なるように人の姿が透けて映っていたのだ。着物姿の彼らはどう見てもこの時代の人では無い。藁で作られた昔の家もどこか幻のように透けて現れていた。


 これは、村? 


 過去に妖に襲われたという村なのかな。儚く透けた人々に目をやって驚く。この人たち、瞳の色が黒に近い。よく見ると藍色だけど、一瞬黒目にも見える。日本人としては懐かしい色彩に思わず泣きそうになる。顔立ちもモンゴロイド系だから余計に。


 再び太陽が現れ辺りを照らし出すともう幻の村の姿は無かった。


 ちょっとした不思議体験をしたがその後は何事もなく宿へと帰ってきた。それとなく二人に先ほどの出来事を聞いてみたが二人は何も見えなかったとのこと。良かった。

 うん、私はあの色が懐かしくて何も思わなかったがあれは本来見てはいけないものだから。両目がくりぬかれたように無かったよ。

 椿の丘で見た黒いベールの女とは違う禍々しさを感じた。






 夜。何となく眠れなくて起きていると唐突に私の顔を覗き込む少女が登場。夜這いとは中々大胆だね。木蓮のように、静かな愛らしさをたたえた少女だが、顔にぽっかり空いた二つの黒い穴に痛ましさを覚える。首輪様に頼んで、えいやと直してもらえば、そこには黒に近い濃紺の綺麗な瞳があった。


「あ、え、目が」


「そこで何をしているんだ」


 冷たい無機質な声に振り向けば、隣に寝ていたリュイさんが起きていて、私を庇うように抱き上げた。


「見たところもうこの世の者ではないようだが、佐藤さんに何の用だ。それにその色は」


「私たちの一族が最も黒に近い色彩を持つと思っていたけど、貴方の様な純粋な黒は、初めてお見かけするわね」


 ピリピリとした緊張感が漂う室内に何だか居たたまれなくなる。取りあえず、聞きたいことが。


「初めまして、可愛らしいお嬢さん。私の名前は佐藤です、どうぞよろしく。それで、今日はどういったご用件でここまで訪ねてきたのでしょうか?」


「みんなを助けてほしいのです。どうかお願い」


 梓、と名乗った少女は神話の時代とも呼ばれる古い時代の生まれだった。彼女の一族は、代々瞳の色が黒に近い紺として現れ、その魔力の高さから人々に畏れられ、行く先々で迫害にあっていた。梓さんの祖先は元居た国を捨てて海を越え、ついに人里離れた山奥の、今は梅林が広がるあの山にたどり着き、村を築いたそうだ。

 ようやく平和な生活が訪れるかと思われたが、彼女の村はこの国の主神と異なる神を信仰しており、主神の血を引く巫女が代々治めているこの瑞穂国では朝廷に反意があるのでは、と疑われてしまったらしい。魔力の強さに対する恐怖もあり、朝廷から派遣された神器を持つ軍に攻め入られ、全滅したのだと言う。遺体はその当時、死体を糧に花を咲かせるという伝説を持つ梅の下にうめられたのだという。

 この世界では桜ではなく梅なのね。あー、梅。埋め? 歴史は勝者のものだと言っても、現在広く知られている伝説と内容が違いすぎるだろう!




「私の両目も、黒にも見えて気味が悪いと抉られたの」



 黒髪黒目の日本人である佐藤さんは、黒に対する弾圧の激しさに言葉も出ない。

 そういえば、リュイさんも殺されかけるのは日常茶飯事だと言っていたな。私と会った時もその力を狙われて襲われていたし。

 本当に、黒髪黒目の元の人間姿ではなく、黄色い猫の姿でこの世界に来て良かったとホッとしてしまう、自分は汚い。わが身が一番大事なんだからしょうがないだろう。



「私が手助けできるなら何でも言ってください。貴方の村へ行きましょう」


「え、佐藤さん。彼女達の所に行くの?」


「私を頼ってくれたのなら、無下には出来ませんよ」


 危なくないか、攻撃されたりしないのかという心配をしてくるリュイさんと目線を合わせ、瞳を覗き込む。彼の生い立ち上、人に対する不信感が強いのは仕方がないけど。


「ここには他人はいない。これから出会う友がいるだけだby佐藤」


 それ、ウィリアム・イエーツの名言! という友人のツッコミは聞こえない。

 あの子、学校傍の公園で、沈丁花が白い花を満開にさせていたから記念に写真を撮ったら、私の後ろにその場にいなかったはずの血を流した青年が映っていたと言っていたけど、大丈夫かな。

 美形な人だと、血が付いていた方がかえって色っぽいよね、家宝にしようと宣っていたけど、近所の寺で写真をお焚き上げしてもらうことをおすすめする。

 まぁ、データで見たら、確かにイケメンだったけどさー。友人の鋼のメンタルっぷりにびっくりです。


「……そう思える優しさは貴方の長所だからね。分かりました。俺も一緒に行くよ」


 私一人で行くつもりだったのが本当付き合いがいいな。後でお礼をしなくては。








 再びの梅園。月明かりに照らし出された梅の林は幻想的な美しさを湛えていた。だが、私の目には梅の他にあるはずのない村の姿が透けて見えていた。


 道中、梓さんに事情を聴いたが何とも虫唾が走る話だったな。彼女達が殺されてしばらくたった後、世界は国盗り合戦の様相を呈した戦乱期に突入した。瑞穂国の人々は国が攻め込まれ支配されるのを防ぐため、国一つ滅ぼすほどの呪詛を発動させる魔法陣を組み立てることになった。呪詛には媒体となる魂が必要であり、その魂が怨みを抱えていればいるほど効力は増す。

 そこで、梓さん達に白羽の矢が立ち、以後彼らは天界に行くこともできず、いざというとき呪詛に力を注ぐための贄として、梅の木の根に囚われ続けているのだと言う。梅に降りた夜露が涙みたいだ。

 幽霊や呪詛がらみの事件の解決は、心霊現象の方が可哀想になるくらいホラークラッシャーな我が従兄弟の方が得意なのだが、彼は日本だ。諦めるしかない。


「私達は死後長い間天界に上らないと、体が蝕まれていき自我を保つことが難しくなっていきます。このまま我を失い、ただ私達を殺した彼らに使われ続ける運命だけは阻止したい」


 そして、この術を破れる可能性が高い私とリュイさんに協力を仰ぐため、梓さんの一族は最後の力を振り絞って魔法を発動させ、梓さんを呪詛の呪縛から解放したのだという。

 ここまで聞いておいて何とかしないのは人でなしだ。近くに会った梅の木の幹に手を当て、目を閉じ気配を探っていたリュイさんが呟いた。


「これは、呪詛事態は単純だけど罠が仕掛けられている。術式に登録された術者以外の魔力で破るとこの辺り一帯が反動で消滅する」


「何ですと! いや、でも、この術をかけた人は……」


「探ってはみたけど、とっくの昔に死んでいるよ」


「そんな。では、皆を助けることはできないってこと!」


 梓さんの目が潤み、涙があふれ出す。私は慰めるように彼女の腕に飛び込み頬に擦り寄った。


 と、そこで猫目石が存在を主張するように光り出す。そして、私の体も金色の優しい光に包まれる。これは、もしや私の願いに反応した首輪様がまたもや不思議な力で強引に解決しようとしてくれているのかも。体が透け始めたことにハッとして、私は目印になるものを残すため咄嗟に梓さんの腕を抜け出し紅梅の咲いた枝を一本折った。そのまま、リュイさんの腕に飛び込み、襟の内側に枝を刺しこむ。


「いとしさを 包みてぞやる 梅の花 にほひを留めよ 君が袂に」


 祈りを込めて呟いたと同時に私の姿が掻き消える。この和歌、古典で習ったのだが梅の姫と宰相の恋物語が素敵で、和歌の意味もロマンチックだから覚えていたんだよね。





 気づけば闇に満ちた空間によく分からない数字や文字の羅列が光って浮かび上がる、不可思議な場所に来ていた。これが、呪詛の術式の中なのかな。


 首輪から猫目石が浮かび上がり、金色の光を放つ。眩しさに目を閉じるが、光がやんだことにハッとして目を開ける。目の前には、刀身に青い星が散った剣があった。

 これ、佐藤家に代々伝わる流星刀にそっくりだけど、まさかね。


「これで、切ればいいって事? でも何処が問題の術なのか分からないよ」


 そう呟きもう一度術式に目を移したところで私は安堵の息を吐く。

 あ、これ、猿でも分かるわ。ご丁寧に問題の術式だけ、緑から赤に文字色が変わっていた。

 何て親切な首輪様だろう。有難さに心で拝んで、えいやと刀を構える。

 術式を切り刻めば、闇が硝子のように砕け散り白い光に包まれた。空間の奥、赤い梅の花が現れ、かぐわしい甘い香りを放つ。

 泣きそうな声が私を呼んでいる。意外と目印なくても大丈夫だったかな、と思いつつ私は梅の方に向かって一歩踏み出した。



 梅園に戻ると同時に体が抱き上げられ、毛並に顔をうずめられる感覚がする。


「良かった。佐藤さん、無事に戻ったのね!」


 満面の笑みを浮かべて喜んでくれる梓さんに、猫流の笑顔を返すが問題は。


「あ、えーと、ただいま?」


「……お帰りなさい。無事で良かった」


 リュイさんが意外と泣き虫なのはいつもの事なので、さして慌てずアニマルセラピーで慰める。危険はないか視線を巡らせれば、巨大な白鳥が舞い降りてきた。あれ、ブーリさんまでどうしたんだろう?


「兄さんに佐藤さんが危ないからすぐ来いって呼び出されたんですけど、その様子では大丈夫なようですね。良かったです」


「あ、ブーリさん。実は今かくかくしかじかな事が起きているのですが、何とかできます?」


「後は、解呪だけなのでしょう? それだけなら、ほら。兄さんちょっとは良いところ見せないと、佐藤さんに愛想つかされて捨てられるよ」


「それは嫌だ」


 お、一気に涙が引っ込んだね。リュイさんは私を梓さんに預けると元の巨大な双頭の鷲に姿を変えた。

 抑えていた魔力が辺りに漂い出したせいか、彼女がおびえるように一歩下がった。

 大丈夫だよ、と私は尻尾で梓さんの腕を優しく撫でる。


 二羽の美しい鳥が夜空に舞い上がり、白銀と暗紫色の光を梅の園に降り注がせながら夜空を飛び交う。

 不思議な、でもどこか懐かしい旋律の音楽が辺りを包みこむ。その音が鳴りやむと梅林は消えうせ、その代わりに着物を着た人々が立っていた。




 久しぶりに会えた村の仲間たちとの再会の喜びと自由を得た嬉しさからか、山はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。

 リュイさんとブーリさんは村人たちから真摯にお礼を言われて、何だか照れくさそうだ。


「佐藤さんが呪詛の術式の突破口を開いてくれたから出来たのですよ。お礼を言うなら私たちではなく、佐藤さんに対してでしょう」


 なんて、リュイさんが余計なことを言うから傍観者ポジションで無くなったではないか。やめろ、そんな尊敬に満ちた目で見ないでくれ。私は普通の猫だ。凄いのは首輪様だ。


 この中で唯一聖属性の魔法が使えるブーリさんが責任をもって村人たちを天界に送ってくれるそうだ。ありがとうございます。

 空へと続く光の道が出現し、お別れかなと少し寂しく思いながら梓さんを見上げれば何故かぎゅっと抱きしめられる。


「わー、やっぱり可愛い! モコモコだし、そのつぶらな瞳も愛らしい! もうお別れなのは悲しいわ。ねぇ、私佐藤さんと友達になりたいの。輪廻が巡ってまたこの世に戻ってきたら、その時は私とお友達になってくれる?」


 この世界にも、輪廻転生の思想はあったんだね。

「は、え、友達になるのは構わないよ。こちらこそ、よろしくお願いします」

 と、そこで人間姿に戻ったリュイさんが、私を梓さんから奪い取り抱きしめた。


「友達になるのはいいけど、佐藤さんを一番に愛して世話をするのは俺だから」


 飼い主としての責任感ということですね。分かります。


「リュイさんは佐藤さんのこと大好きみたいだけど、佐藤さんはどうなの?」


「勿論、食べてしまいたいくらいに愛おしいわ。私の可愛い小鳥ちゃん?」


 梓さんの悪戯っぽい表情と声のトーンに意図を察した私は、熱烈台詞返しだと目線を合わせ、頬に前足を当てて、心持ち低音でささやいた。

 向こうでは女子高の王子様やってたからね。本領発揮だ。すると、リュイさんは驚いたように瞳を大きくしたが、すぐに覚悟を決めたような顔になる。あれ、嫌な予感が。


「猫って肉食だったね。俺で良ければ我慢せずに食べていいよ」


「全力で遠慮します!」


 ブーリさんが後ろで大笑いしつつフォロー入れてくれたから何とかなったが、あれは本気の目だった。言葉の選び方には気を付けないと。




 その後遠慮したんだが、何故か梓さんたち一族の皆さんにお礼として、鳥のお腹部分にトルコ石が嵌ったお守りをもらった。

 アステカ人はこの石に、不老不死の永遠に若い時の神の姿をみたんだっけ。

 綺麗な青空をそのまま閉じ込めたような明るい空色の石を見ていると、こちらの気分も明るくなる。

 トルコ石は困難を代わりに受けてくれる、旅人の守護石という面も持つからくれたのかな。有難くいただいておこう。何だか、リュイさんの瞳の色とも似ているし。



 余談だが、幽霊バッチコイな従兄弟に新しい友達ゲットと、梓さんの写真と共にメッセージを送れば、受験勉強の癒しだ。亜麻色の髪の美少女最高。是非他の写真も恵んで!! といった荒ぶる内容が返ってきて、受験のストレスって大変なんだなと同情の眼差しを送っておいた。

 うん、我が従兄弟も男の子だねー。


登場人物の設定

友人⇒佐藤さんとは小学校からの付き合い。性別は女。「それ○○の名言!」とツッコミを入れてくれる人。恋人ゲットに命をかけているため、自分が気に入れば相手の生死や種族を問う気はない。相手の正体が幽霊だろうが、人外だろうか、宇宙人だろうがバッチコイ。惚れっぽく気に入ればすぐに相手に告白するため、現在ふられ人数は2桁に突入している。


従兄弟⇒京都在住の佐藤さんの従兄弟。性別は男。霊感が強めで、幼少期から悪霊が出ても物理で殴って泣かせればいいとおもっているため、心霊現象の方が可哀想になるホラークラッシャー。長い髪の女性が好みで、綺麗な髪をした人を見るとつい目で追ってしまう。


2人のお名前はいずれ本編で明かしていきます。

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