森の王からの言祝ぎを
『野良猫』連載3年目になります。いつも読んで下さりありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。
「お帰り、あーちゃん。森の精霊王の様子はどうだった?」
宿泊場所として提供されている館に戻ると、お兄ちゃんが待ち構えていたように出迎えてきた。やはり気になってたか。後ろでは花楓君と菖蒲さんも椅子に座りながら聞き耳を立てている。
「結論から言えば森の精霊王は無事に目覚めたよ。今はフィオさんが傍に着いている」
「そうか。良かった」
お兄ちゃんがホッとしたように表情を緩めた。菖蒲さんも嬉しそうだ。
「ただ、森の王が目覚めない理由は世界樹に魔力供給したからじゃなかった。呪いによるものだ」
明陽さんの言葉に周りの空気がピンっと張りつめた。菖蒲さんは顔を青くする。それまでこれといった反応を見せなかった白木さんは、顔をうつ向かせた。
「そんな、まさか。世界の根幹をなす精霊王の一柱が眠り込むほどの呪いをかけられる相手だなんて、そんなの誰が……」
「精霊王を呪うことが可能な相手がいるじゃありませんか。作り物だろうと神は神です。特に真生はこの世界を壊したいと思っていましたから」
白木さんはやるせない表情を浮かべると顔を背けた。
「まだ白木様のお姉様が犯人だと決まったわけではありませんよ」
私は白木さんの傍に行くと、その肩を慰めるように撫でる。
「そうですね。でも、こういった呪を得意とする誰かに命じてやらせた可能性もあります。姉は機械仕掛けの神々の女王ですから」
鴻池さんってすごい立場の方だったんだな。確かに天使様を部下として従えてはいたけど。まさか他にも部下になる神様がいるのかな。
本音を言えば、森の精霊王様に呪いをかけたのが鴻池さんであれば悩む必要もないし楽で良いと思っている。お兄ちゃんを傷つけられて、愛良さんを連れ去られた復讐もしなければならないから、罪悪感なしに始末することが出来る。でも、鴻池さんは白木さんのお姉さんだ。だから、なんというかやりにくいんだよね。お友達の心に傷を負わせるわけにはいかない。
「精霊王にかけられた呪いん術式化してみたけど、見覚えはあったりしない?」
それまで黙って話の流れを見守っていた明陽さんが口を開いた。瞬間、空中に数式や記号混じりの呪文の羅列が浮かび上がる。菖蒲さんと白木さんは真剣な顔で呪いの術式を読み解いていく。
「精神活動を停止させて、強制的に意識を眠りの中に封じ込める呪いね。なんてえげつない」
「魔術を構成する式の癖といい、これほど高度な精神干渉の魔法を維持し続けられる神といえば。……私は氷雨しか思いつきませんね」
急に出てきた天使様の名前に、心臓が嫌な音を立てる。お兄ちゃんが気遣わしげに私の頭を撫でた。
「私は平気です、お兄様。もし、天使様が呪いをかけた犯人だとしても贔屓はしませんよ。神は正しくあらねばならない」
「夕理さん……」
お兄ちゃんはなんとも言えない顔をした。
でも事実だ。天使様を信じたい気持ちはあるから出来れば戦いたくないけど、どうしようもない時があるのを知っている。私に魔力の宿る髪で作ったブローチを渡すくらいだ。天使様も私と本心から敵対する気はないように思える。そこを上手くつけばもしかしたら、誰も傷つけずに済むかもしれない。何か八方丸く収まる方法があるといいんだけど。
愛良さんを誘拐した目的が、本当にこの星のためなのかも分からない。もっと情報が必要だ。衝動的に動きすぎた。
お父さんがここに来てくれて良かった。いざという時には私の魔力の封印を解いてもらおう。その方がまだ出来ることは沢山ある。
世界樹を蘇らせ、森の精霊王様の呪いを解いた私たちはこの森の妖精さんたちにとってのヒーローになってしまった。エルフの皆様が丁寧に接してくださるため、なんだか身分不相応な王族思考が芽生えてしまいそうだ。いけない。いけない。
優しくしてもらえるのは嬉しいから、好意は喜んで受けとるけどね! 振る舞われるごはんが今日も美味しい!
森の精霊王様の容態が気になるのと、ちょっとした情報収集のためあれから2日この森に滞在していた。とはいえ、この森は神域かつ世界樹の存在は秘匿するため外との交流は皆無といっていいようだ。なので、目ぼしい情報はなかった。
森の精霊王様のほうは、明陽さんが定期的に様子を診ているが、今のところ順調に回復しているようで安心した。特に後遺症などもないらしい。良いことだ。
私は今、フィオ様と連れだって森の精霊王様のいる屋敷に向かう途中だ。ちゃんとお見舞い用にお父さんと共同で破邪の力を宿らせた花で作った花束も持参した。お部屋に飾って頂ければ、もし万が一また呪いがかけられたとしても弾くことが可能なはずだ。
「ありがとうございます。こんなお花までご用意して頂いて」
「私が気になるから勝手に用意しただけです。だから、ただ受け取ってもらったほうが嬉しいです」
「本当にありがとうございます。夕理様はお優しいのですね」
真っ直ぐに敬意を向けられると照れてしまう。私は黙って首を振った。
「お父様、夕理様がお見舞いに来てくださいましたよ」
フィオ様が木の扉をノックする。
「え、分かった。すぐ開けますね」
扉が開いて、柔らかな笑みを浮かべた精霊王様が出迎えてくれた。前回よりも格段に元気になった姿に嬉しくなる。
「あ、あの。これお見舞いのお花です! 良ければお部屋に飾ってください」
「わざわざありがとうございます。綺麗な花ですね。それにこれは魔除けの魔法が施されている」
「この花ならまたもし呪いをかけられたとしても、弾くことが出来ます。だからもう大丈夫です」
「ありがとうございます。大切にします」
花束ちゃんと受け取ってもらってホッとした。部屋に招き入れられてそこにいた人物に目を見開いた。
「明陽様もいらしていたのですか」
「うん。まぁ、今日の定期検診がてらお菓子をご馳走になっていたね」
光の神様の優雅なティータイムは、それはもう美しかった。そんな気品溢れる感じでクッキー食べられるものなの。目がー! 目がー! と叫びたいくらいだ。あ、でもサクランボを使ったケーキもある。美味しそう。
「夕理様の分もすぐお持ちいたしますね」
止める間もなくフィオ様が部屋を出ていった。だが、ちょっとケーキは食べてみたかったので正直有難い。
「ごめんなさい。お邪魔じゃなかったですか?」
「ただ世間話していただけだから大丈夫。夕理さんもお座りよ」
明陽さんが椅子を私の前まで魔法で引き寄せてくれた。自分の家みたいにしているけど良いのだろうか。ごめんなさい。この方生粋の神様だから遠慮とかないんです。
「本来であれば私の方からお礼に伺わなければならないのに、ご足労をおかけして申し訳ありません。それにこのようなお花まで頂いてしまって。なんとお礼をしたら良いか……」
「あの、私は別に何もしてないのでお礼なら明陽さんにしてください」
私は慌てて手をブンブン前でふる。
「いや、僕は夕理さんが助けたいと思わなければ動かなかった。だから礼なら夕理さんに言って」
どこまでも真顔だと私には照れ隠しの嘘だと分かるが、精霊王様は本気で取ったようだ。視線がこちらに集中して非常に居たたまれなくなる。
「夕理様に至っては世界樹も蘇らせて頂けたとか。そう考えると貴方はこの世界の恩人でいらっしゃいますね。とても貴方のご恩に報いるにはこれだけでは足りないのは分かっていますが」
森の精霊王様はそう言うと、花々が刺繍された美しい緑色のリボンをくれた。わぁ、素敵!
「私の祝福を込めました。夕理様のこれから先の行く道が平和であり、心に宿る願いが叶いますように」
森の精霊王様の加護付きのリボンってことか! それは大変なものを頂いてしまった。
「ありがとうございます。このリボン、大事にしますね」
「気に入って頂けたのなら良かったです」
そこで、精霊王様は何かを覚悟した顔になると椅子から立ち上がった。どうしたんだろう? そのまま私の前に来ると片膝を付いた。
「私の命は貴方のものです、夕理様。お役に立てるのであれば、どうか如何様にもこの身をお使いください」
いや、なんで私に騎士の忠誠誓っちゃってんのー!! 頭が盛大に大パニックだ。
明陽さん、隣で大笑いしてないで、神様だというのならちょっと助けてくれませんかね。




