希望を照らす 太陽の祝福
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
2023年が皆様にとって幸多き一年となりますように。
まだまだ寒い日が続きますのでどうぞご自愛ください。
朝、小鳥の優しい歌声で目が覚めた。なんて贅沢な目覚ましなんだ。うーん、と伸びをして柔らかなベッドから抜けだす。今日の朝ごはんは何かなー。
寝ぼけた頭も、冷水で顔を洗えば幾分スッキリする。フィオ様から借りた着替えのワンピースに袖を通す。
野に咲く花をそのまま織り込んだようなワンピースはとても綺麗で、私が着ていいのかなと思ってしまう。フィオ様いはく、神様である私に相応しい衣装はこれしかないということだったが。
神様だからってそんな畏まらなくていいんだけどなー。普段一般人の生活してるから戸惑う。
部屋から出てダイニングに赴けば、私が一番最後だった。皆早起きだな、とちょっと顔が赤くなる。
「おはよう、夕理さん」
最初にお父さんが気づいて声をかけてくれる。他のみんなも口々に朝の挨拶をしてくれた。私もそれに返す。
「おはようございます」
「おはようございます、夕理様。昨日はゆっくり過ごせましたか」
フィオ様が小首を傾げて尋ねる。今日も安定に可愛い!
「はい、勿論。特に露天風呂が素晴らしかったです。身体の疲れが取れました」
「それは良かったです。今朝食をお持ちしますね」
「ありがとうございます」
昨日の露天風呂から見えた景色は、満天の星空というのはこういう夜空を言うのだというほどに美しかった。本当に宝石箱をひっくり返したみたいだ。地球と場所が異なるからか星の見え方が違って馴染みのある星座は見つけられなかったけど、それも興味深かった。この星ではどんな星座の物語が紡がれているのだろう。
「お待たせしました」
「ありがとうございます。いただきます」
昨日見た星空を思い出してロマンチックな気分に浸っていると、フィオ様が浮遊魔法でお皿を浮かせながら朝食を持ってきてくれた。
朝食は焼きたてのクロワッサンやバターロール、バケットに、チーズがたっぷり入ったオムレツ。新鮮な野菜のサラダにオレンジジュースというものだった。美味しそうな香りに、食欲が刺激される。熱々なうちに味わわなければ、と早速オムレツにナイフを入れた。
どれもこれも美味しい朝食を堪能して人心地つく。
さーて、これから再び愛良さんのところまで行かないとな。
でもなんか、喉に魚の骨が引っかかったような違和感を覚える。このことも忘れないで、と脳に訴えかけてくる記憶がある。はて、なんだったかな。頑張って、私の脳ミソ! 気になって、気になってこのままでは出発できない。
そこで、唐突に世界樹以外にもう一つ解決しなければいけない事柄を思い出した。呑気に飯を食っている場合じゃない!
「あの、森の精霊王様のご様子はいかがですか? 世界樹の魔力を回復させたので、少しは負担が軽くなっていると良いのですが」
「お気遣い頂きありがとうございます。父の様子ですが、苦しそうな様子は見られなくなり、今は穏やかに眠っています。夕理様と薺様のお陰です。なんとお礼を申し上げたらよいか」
「まだ精霊王が目覚める様子はないのですか?」
お兄ちゃんが驚いたように尋ねる。私も世界樹の魔力を回復させれば万事解決だと、半ば思い込んでいたから驚きだ。だからこそ、今まで森の精霊王様の存在が頭から消し飛んでいたのだが。私は何か失敗してしまっただろうかと不安になる。その気持ちを察してか、お父さんが頭を優しく撫でてくれた。
「夕理さんはそれはもう見事に世界樹を癒してみせたよ。あれ以上のことは出来ない。だから、貴方が気にする必要はないよ」
「そうです! 父は今まで世界樹に向けて力を使いすぎていましたから、身体を回復させるために眠りを必要とされているだけだと思います。本当にありがとうございます」
なら良いのだけど。今の今まで忘れていて虫のいい話だが、気になるというかモヤモヤする。
「と言っても、夕理さんは優しいから王様のことが気になってしまうよね。ねぇ、あーちゃん」
お兄ちゃんからの呼び掛けに、明陽さんは心得たとばかりに頷いた。
「生き物を癒し回復させるのは、本来僕の領域だからね。可愛いお姫様の憂いを晴らすためにも、一度王様の容態を診てみてもいいかな?」
「私としてはむしろ有難い話です」
そうだ。明陽さんは救済の神でもあるんだった。もし、目覚めない理由が魔力以外の事柄であれば、この中で一番森の精霊王様を治療するのに相応しい。
「お願いできますか?」
私は胸の前で手を組みながら、明陽さんの顔を見上げて尋ねる。明陽さんは慈愛の籠った神様の笑みを浮かべると、私の頭を優しく撫でた。
「元より病に苦しむものを癒すのも僕の仕事だ。それに可愛らしいお姫様から願われたら頑張らないわけにはいかないな」
「夕理さんが精霊王の治癒を願っているんだ。失敗したら分かってるよね?」
「分かってる! 分かってるからお兄様に向かってそんな殺気を飛ばさないで!!」
お父さんってやっぱり明陽さんに対してちょっと当たりが強いよね。
明陽さんに着いて、私も森の精霊王様のところに向かう。何か出来るわけじゃないが、魔力が必要なだけならお手伝い出来る。私の魔力量は家族の中で一番多いのだから。
なお、何故か、明陽さんを見張るような態度のお父さんも一緒だ。眠っているひとの元に大人数で押し掛けるのも迷惑なので、お兄ちゃんと花楓くん、菖蒲さんは待機だ。
「こちらです」
フィオ様に案内されて訪れたのは、こちらも木と一体化したような不思議な屋敷だった。見たことがない、青いひまわりに似た花が屋敷を彩るようにあちこちに咲いている。大輪の花は見事なまでに美しい。この花の青、フィオ様の瞳の色にそっくりだな。
太い根が絡まった、木の扉を開けてもらう。室内はセンスの良いアンティークの家具が置かれていて素敵だった。こういう時じゃなければ、家具や柱に施された精緻な彫刻を見て回りたかった。家の中が美術館みたいだ。花楓くんも古い建物やお城とか好きだろうから絶対喜んだだろうな。
螺旋階段を登って二階に向かう。この階段、一本の樫の木を削り出して作ったのだという。そう言われてもとても信じられない。妖精さんの建築技術ってすごいんだな。
「ここが父の部屋です。……父様、入るね」
フィオ様が扉をノックしてから部屋の中に入る。家主の許可なく入るのに、一抹の罪悪感を抱きつつ私も歩を進める。わぁ、壁一面が本棚になっている。中身は難しそうな専門書ばかりだ。森の精霊王様は研究者気質なのかもしれない。
部屋の隅に置かれた木製の天蓋ベッド。支柱には蔦が絡まり、天辺では瑞々しい薄紅色の花が咲いていた。森の精霊王様らしいベッドだなぁ。この花本物かな? 甘く香しい匂いが室内に満ちる。良い夢が見れそうなベッドでちょっと羨ましい。が、この花の香りがふいに葬儀場を思い起こさせて怖くなった。
大丈夫。まだ手遅れになっていない。
フィオ様が小さな妖精の姿だから、勝手に精霊王様も小さいと思い込んでいたが、普通に成人男性の身体の大きさだった。森の木々の色をそのまま写しとった深緑の髪をしている。瞳の色は何色なんだろう。フィオ様が繊細なガラス細工のような美貌だから、その父である精霊王様も負けず劣らず美しい。花のような美貌。昔、絵本で見た『眠れる森の美女』の挿し絵を思い出し、ちょっと感心してしまう。
「これは、また……」
森の精霊王様を見た瞬間、明陽さんが難しい顔で唸る。
「様子を見に行くことにして正解だった。この眠りは世界樹の魔力供給によるものとは関係ない。呪いによるものだ」
それを聞いて、フィオ様が一瞬殺気を帯びる。だが、すぐに気持ちを落ち着かせるように何度も深呼吸を繰り返す。当然だ。私も思わぬ事実に心臓がバクバクという嫌な音を立てる。
「呪い……ですか? その呪いの内容は一体どのようなものなのでしょう? 父は大丈夫なのですか?」
問いかける声は静かだったが、明確に震えていた。私はそっとフィオ様の頭を撫でる。大丈夫。いざとなったら、救済を司る光の神様がなんとかしてくれるはずだ。(他力本願)
「癒してはみよう。幸い、呪いを構成している術式はそれほど難しいものではない」
明陽さんの姿がほどけて、金色の獅子が姿に戻る。久々に見たけど、神々しくてやっぱり綺麗だよね。
歌のような、楽器のような、不思議な旋律で奏でられる音楽が響きわたる。癒やされる。ずっと聞いていたい。フィオ様の張詰めた顔が、心なしか穏やかなものに変わる。
旋律は光の粒子へと変わり、精霊王様に降り注ぐ。光に照らされ、なんだか私の身体もぽかぽかしてきた。お日様みたい。しばらく夢のような美しい光景に見惚れていたが、ふいに音楽が止む。
「ふぅ。久しぶりに骨のある仕事だった……」
ドッと疲れた、とばかりに明陽さんがその場に座り込む。
「お疲れ様。ありがとう」
私は明陽さんの首に抱きついた。ううむ、相変わらずすごいモフみ。
「まぁ、後はこの精霊さんに目覚める意志があるかどうかにかかっているな」
「なら、もう見守るしかなさそうだね」
お父さんもそう言うと私の頭を一撫でした。ところで、なんで明陽さんの尾を踏んでいったのだろう。明陽さんは功労者だから労らないといけないのでは?
「父様、父様。聞こえる? ねぇ、早く起きてください」
フィオ様が精霊王様の頬を撫でながら呼びかける。すると、うめき声と共に精霊王様が身動いだ。
「父様! 父様!!!」
「あれ、フィオ……?」
瞼が開き、夏の青空を写しとったような鮮やかな青の瞳が現れる。瞳の色はフィオ様と同じだ。
「父様、父様。あぁ、良かった……」
「え、どうしたんだ? そんなに泣いて。怖い夢でも見たのかい?」
泣き出したフィオ様を、オロオロしながら精霊王様が抱きしめる。
「父様、魔力が不足したせいで、ずっと眠っていたのよ! 本当に心配したんだからね‼」
「そうだったのかい? それは心配をかけたね」
精霊王様はフィオ様の頭を優しく撫でる。慈しむ表情はまさしく父親だった。本当に良かったと私も涙ぐみそうになる。
親子二人だけにしてあげよう。お父さんたちと目配せしあって、そっと部屋を出ようとしたのだが。
「どこかの神々であらせられるとお見受けいたします。このような格好で失礼しま……!」
部屋を出る前に気付かれてしまった。慌てたように起きあがった精霊王様だが、長く眠り続けたためかふらりと身体が傾く。危ない! そこで人の姿に化けた明陽さんが、素早く受け止めた。
「大丈夫? 起きたばかりなのだから、無理はしないほうが良い」
「……ありがとうございます」
わー、明陽さんったら王子様みたい! 絵面が麗し過ぎる。
「今日はゆっくり休んだほうが良いですよ。俺たちはこれで失礼します」
「またね、フィオ様。森の精霊王様」
お父さんがお辞儀するのに合わせて、私も挨拶する。
「本当にありがとうございました! 今、お礼を」
「フィオさんはお父上に着いていたほうが良い。何かあったらすぐに呼んで」
明陽さんの言葉に、フィオ様もまだお父様が心配だったのか心遣いに感謝しながら頷いた。
うんうん、本当にお父様が目覚めて良かったね!




