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野良猫(仮)のあきらめは悪い!  作者:
第1章 異世界旅日記編
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バースデーケーキ爆破事件

 誕生日ケーキの元祖というのは、ギリシャ神話の出産の女神であるアルテミスに感謝を込めて、誕生日に神殿へロウソクで囲んだケーキをお供えした物らしい。




 私が住んでいた日本では、自分のためのケーキだったけど、地球では無い異世界にある国の一つであるここアルカディアでは、古代ギリシャと同じように誕生日ケーキを神殿に供え、この一年の無事を神に感謝するのが普通のようだ。



 ウェディングケーキかと言う様な何段も積み重なってお花やら果物やらで、デコレーションされたケーキが、青タイルの装飾が施された美しい神殿に入っていくのはちょっとビックリだった。


 リュイさん曰く高位の貴族であればあるほど、何段も積み上げた豪華なケーキを供えるのがステータスなのだそう。

 という事は、私もこの国の住人だったら、誕生日には神殿にケーキを奉納していたのかな。


 おっと、自己紹介がまだでしたね。私の名前は佐藤。日本では女子高生なるものをしていた私ですが、驚くことなかれ。ただ今地球とは異なる世界で何故か猫として生きています。


 おかしい。別にトラックに轢かれたり通り魔に刺されたり、怪しい魔法陣から伸びた手に捕まれて引きずり込まれたわけでもないのに。


 ただ何かの恩恵なのか私が望んだ物をなんでも出してくれるチートな首輪のおかげで現在不便な事がないのが救いかな。

 それに、とちらりと私を抱っこして儀式の説明してくれたり美味しいお菓子をくれたりする青年の顔を見る。


 陽の光に美しく輝く銀髪という地球では中々見ない髪色をしたこの人の正体は、人間ではなく魔物である。

 力と正体を隠して人の世で生きる彼と私はこの世界で最初に出会った。そして現在は飼い主とペットの関係にある。


 うん、私がペット側だと思うだろう。私もそう思っていたし、ペットになって一日ぐーたらと惰眠を貪り、愛でられようという魂胆のもと私はリュイさんに近づいたのだが、成り行きで彼と金蘭国の皇帝である桃色がかった茶髪を持つシアンさんが直面していた問題に切り込んだことで、何故か私が彼の主人認定されてしまったのだ。どうしてこうなった。



 まぁ、リュイさんの正体は魔物であり、魔物は自分で主人を決めてその相手に誠心誠意込めて仕えるという種族らしいから仕方が、ない、のか。


 いや、まだ諦めるのは早いはずだ。私は主人の器でないしそもそも問題を解決したのは首輪様だ。だから。安穏としたペット生活をするために、今日も説得頑張らないと!


「ねぇ、デネブに来てから大分経つからそろそろ別の所へ行くのですか?」


 リュイさんは非常に強い力を持つ魔物のために、権力者に狙われることが多いらしく、一所に長くとどまる事は出来ないのだ。よって、放浪の旅になる訳なのだが。


「そうだね、ラグナログを目指そうかな。あの国の氷雪祭は盛大だと聞いているから時期が丁度いいし」


 一瞬、国の名前に妙な不吉さを覚えたが、ここは異世界だから北欧神話関係ないし、大丈夫だよね。



 氷雪祭、楽しそうな響きだね! 今の季節は、一月の終わりに差し掛かったくらいで、一番雪が深くなる時期がやってくるから、季節感あふれる行事は楽しみ。

 氷雪祭って事は、日本の雪まつりみたいに、雪像とか出て来るのかな。


 まだ見ぬラグナログに思いをはせていた私だが、爆発音が辺りに響いて現実へ引き戻される。見れば、道には生クリームの残骸や果物が散乱していた。え、何これ。


「ケーキが爆発したみたいね。何か変な物でも入れていたのかな?」


 リュイさんの言葉になんて怖いケーキが異世界にはあるのだと戦慄していた私だが、そこで一瞬だけ視界が暗転して。


「え、は、ここどこ!?」


 何故か昔の日本にいました。はい、今回も安定のボッチです。しかも、猫のままだし。


 日本昔ばなしに出てきそうな茅葺き屋根の家々が立ち並ぶ街に私はいた。うっすらと雪の帽子をかぶっているのが何とも綺麗だ。


 お店があるのか、どこからか漂う香ばしい味噌だれの香りに知らずお腹がグーとなる。

 そういえば、夕食がまだだった。着物だったり洋装だったり、はたまた袴にブーツを合わせたハイカラさんスタイルだったりの人々の様子を見ていると明治、もしくは大正期の日本なのかなと思ってしまう。


 しかし、いないんですよ、黒髪黒目の典型的な日本人が。やっぱりここは地球の日本ではないのか。


 アルカディアやシャングリラでも思ったが、この世界は地球とは違い金髪や銀髪が優性遺伝なのかよく見る髪色であり、茶色や黒色がかった灰色といった暗い髪色はあまり見ないし純粋な黒髪にはまだ一度もお目にかかった事がない。まぁ、でも今目の前にいる人々はシャングリラとかとは違い群青色や焦げ茶色、灰色や茶髪など目には優しい色彩が多い。向こうだとショッキングピンクとか水色とか金とか銀とかが普通に大勢いたからね。随分と眩しかったぜ。




 そんなことをツラツラ考えていると、鈴を転がしたような可愛らしい声に呼び止められる。振り返れば優しい笑みを浮かべた白い髪の少女が、しゃがんでこちらに手を差し出していた。お、ふわふわした髪が可愛いおっとり系美少女降臨! あれ、騒動がひと段落したから、国に帰ると言ったフユカさんが何故ここにいるのだろう? 



 でも、誘われれば行くと、知り合いという安心感もあって私はニャーンとその手に擦り寄った。うむ、苦しゅうない。もっと撫でで。新緑の瞳が微笑ましそうな色を宿す。



 千鳥柄の着物に縹色の袴を合わせて足元はブーツといった格好のフユカさんは、優しく私の頭を撫でながら抱き上げた。

 そして、耳元でそっと囁かれる。


「こんばんは、今宵は私に誘拐されてくれませんか」


 はい、何だって? 猫誘拐事件が起ころうとしているみたいです。

 でも、誘拐犯が誘拐させてくれと頼むのはビックリだな。猫の身代金はいくらが相場なのかしら。









 てっきり、迷子になった私を迎えに来てくれたのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 彼女が、転移魔法を行使しやって来たのは石灯籠と松の木、そして一面に映えた苔の緑が見事な日本庭園を持つ旅館の前だった。

 立派な門構えに、ここ高級宿なんじゃと戦慄する。趣ある木造数寄屋造りの建物はある種の威厳をもって私達を出迎える。


 だが、フユカさんは気負った様子もなく仲居さんたちの出迎えに頷き、何やら部屋の名前を言う。百合の間か。


 仲居さんの案内で、車や猿の絵がこっそりと彫り込まれた遊び心のある階段を上がって客室へ向かう。

 所々飾られたにっこり笑顔が素敵な起き上がり小法師や赤べこ、そして壁に飾られた天守閣と桜の絵を見て私は思う。


 何この、日本な感じ。すっごい和む。


 部屋についたのか、仲居さんが襖を開けてくれて、入室を促される。部屋に入れば、そこには典型的な和室が広がっていた。

 とはいえ、調度品はどれも凝った造りで庶民が入ってはいけない空気を漂わせている。



 フユカさんは私を抱えたままさっさと部屋に入る。そのまま、部屋の中央の炬燵に向かい、寒かったでしょう、とゆっくりと畳の上に降ろされた。


「でも本当、黄色の毛並って随分珍しいですね。綺麗ですけど」


 今度は頭を撫で始めるが、その撫で方も口調と同じくこれまでと変わらぬ丁寧なもので、部屋の空気があったかいのもあって思わず寝そうになる。


 誘拐されているのに、危機感がないって? でも、フユカさんとは、これまでの付き合いもあるし、私を害そうとする気配もないんだよな。


「佐藤さんはさ、黒についてはどう思いますか」


 しばらく私を撫でていたフユカさんが、ポツリとでも真剣な声音で尋ねてきた。


「漆黒は。このテーブルの色みたいな漆黒を持つ人はどう思います?」


 目の前のテーブルは見事な漆で金の装飾をより引き立てている。深みのある綺麗な黒。黒を持つ人か。質問の意図がよく分からんがそうだな。


「黒は、闇や全ての色を飲み込んでしまう性質から近寄りがたい面もありますが、同時に静かで安らぎをもたらしてくれる夜の色といったイメージがあります」


 私は一旦そこで言葉を切り、フユカさんの方を向く。表情は変わらず微笑んだままだが、目は真剣で笑っていない。私の答えを待つ雰囲気は伝わって来たので続きを話す。


「人が持っていたら嬉しいかな。黒は懐かしくて愛おしい私の大好きな色だから」


 日本人な私の周りは当然黒髪黒目の人たちが大勢いたし、私自身も人間だった時はそうだ。だからきっと故郷を思い出して懐かしい気持ちになるだろう。というか、見たい。



 うーん、日本っぽい光景を見て少しホームシックになったのかも。若干目頭が熱くなってきた。いかん、いかん。


「凄いですね。黒を怖いと言わないなんて。さすが、選んだ主だけあるのか」


 歓喜の念が伝わってきて驚く。でも、私が質問するのはもっと差し迫ったことだ。


「フユカさんが、私を誘拐した理由を伺っても?」


「それは全てが終わってからお話します。佐藤さんを害する意思はありませんので、どうか僕を信じて付き合ってくれませんか。その代わり貴方に不自由な思いはさせてしまいますが、代わりに精一杯お持て成しさせて頂きます。貴方が望むなら何でも叶えてさしあげますよ」


 耳慣れない一人称が聞こえて来た気がするけど、まぁいいか。何だか黒に対するイメージの解答が、フユカさんの琴線に触れたらしく、前よりさらに恭しい態度にこちらが困ってしまう。


 あ、でも何でも叶えてくれるというなら。


「ありがとう。なら、食事をお願いできますか! お腹が空いて死にそうです!」


 慌てた顔でフユカさんが食事の手配のために部屋から出て行き待つこと十五分。

 机の上を埋め尽くすほどの美味しそうな料理の数々が並べられていました。

 お、これはソースカツ丼とソバじゃないか。こっちは鯉の甘煮かな。馬刺しにすき焼きも美味しそうだし、刺身の盛り合わせも捨てがたい。



 猫姿では箸が使えないので現在私はフユカさんの膝に抱っこされて、アーンしてもらいながら食事を堪能しています。気分は殿様。ふははは、うらやましかろう! 



 ソースカツ丼はカツがからりと上がっていてそれがシャキシャキのキャベツとソースがしみ込んだご飯の味が相まって絶妙なハーモニーを生み出すうまさだった。さすが、名物。

 馬刺しは初めて食べたけどニンニクがらし味噌が効いていてほっぺが落ちそうなほどうまい。ご飯が欲しいな、と思っていると、フユカさんはお酒を飲んでいた。心なしか頬が赤くなって色っぽい。目に毒だ。


「食事は口に合いますか? すみません、外には出してあげられないからこの部屋で我慢をしてください」


「いえ、そんな。フユカさんも何か理由があるのでしょう。こんなに良くして頂いてありがとうございます! 大変ですよね、お疲れ様です。あ、景気づけに歌いましょうか!」


 絶対音感を持ち、幼少期はアイドルを目指していた佐藤さんに死角はない! 首輪にお願いしてカラオケマシーンを出してもらい歌う曲は。鍋あるし、鍋の歌にしよう。



 因みに、歌い終わった後はこんな純真な優しい子にこんな事するなんて、と涙と悔恨の大合唱と共に、何故かさらに豪華な食事が運ばれて来た。解せぬ。










 翌朝。雀の声に起こされ爽やかに起床した私は、根菜やキノコなどが入ったすまし汁で体を温め、鮭やカニなどが入った豪華な炊き込みご飯に舌鼓を打った後、お部屋で助けが来るまで軟禁生活だと思っていたのだが。


「今日は鶴ヶ城に行きますよ」


 そう言ってフユカさんの腕に抱きあげられる。因みに今日の装いは雪兎柄の着物に深緑色の袴、足元は茶色いブーツといういで立ちでとても可愛らしかった。




 お城へは椿の咲く坂道をのぼり、武者走りの巨大な石壁にどうやってこれ積んだんだろうと思いを馳せていると着いた。


 うん、この凛とした美しさをもつ白い天守閣をまさか異世界で見るとは思ってなかったよ。


 因みに、スマホの検索とマップ機能で確認したところ、この国の名前は瑞穂国(みずほのくに)といって、都道府県名に共通点はあるが厳密に言うと日本ではない。


 政治も民主主義ではなく天皇が治める専制君主制であり、華族という教科書や小説でしか見ないような日本の貴族も現役で存在する。


 一本の大木から作られた見事な門をくぐりお城の中へ。暗いな。


 宝物庫の前を抱っこされて通り過ぎたときには、怜悧な美しさを放つ刀や見事な漆の食器に並んでダースベイダーの進化形のような黒い兜や鳥の羽で飾られた兜が置いてあって戦国武将の価値観がよく分からなくなった。


 あれかな、フランスで髪に色々載せるのが女性の間で流行っていたけどあれと同じと思っていいの?









 どうも、佐藤さんが今いる場所は天守閣の一番上! 瓦屋根の町並みや遠くに白い帽子をかぶった山も見えますよ。


 お城にきた理由は戦いやすいからだと言っていたフユカさんだけあって、えげつない魔術の罠があちこちに仕掛けられているし、場内は甲冑を身にまとった武士の亡霊が警護のために彷徨っている。これ、ゲームの世界だよね。



「うわ、これ相当怒っているな。僕焼き鳥にされるかも」


 ここまで厳重にしておいても誘拐犯はすでにお通夜状態である。

 えっと、スマホ先生で魔法を調べたら悪逆非道な大魔王も裸足で逃げだすぐらいの攻撃魔法のオンパレードなんだけど。


 これ使える魔物ってフユカさん凄い!?って少し身構えたのだけど。でも駄目なの?


「あれだけ偽の痕跡を世界中にまき散らしたのに、もう見つけるなんてやっぱり愛かなぁ」


 なんて、諦めのトーンで言うフユカさんが私の毛並を優しく撫でる。護衛として傍に控えていた赤べこちゃんがすっと起き上がり前方を見る。



「ま、リュイのカッコイイところ見られると思うし、彼は役に立つと思いますよ。だからどうか主従契約結んであげてくれませんか、佐藤さん」


 フユカさんの小さく呟かれた台詞に私は固まる。は、どういう事。何て思考を巡らせる前に大きな衝撃が伝わって来た。え、何これ。


 首輪さんに尋ねてみれば、城にかけられた魔法がほぼ全て解除されたと。え、誰そのチート野郎。怖いんだけど。


 羽音が聞こえてきて振り返れば、赤べこちゃんが庇うように私達の前に出た。しかし、フユカさんは赤べこちゃんの背中をそっと撫でると後ろに控えさせた。


 赤べこちゃんが乗れとでも言うように目の前にかがんだので私は背中に乗らせてもらう。気分は十二支の物語に出てくるネズミである。猫だけど。バリバリと何かを壊すような音が聞こえ、私のいる部屋に念入りにかけられていた守護の結界が、床に描かれた魔法円が砕け散ったのを見て破られたのだと悟る。



 いや、しかし、何だこの禍々しい空気は。震えて涙目になるフユカさんを前足で優しくよしよししたら縋りつかれた。そりゃ、怖いよね。


「大丈夫、何があっても私が守るよ」


「うわ、イケメン!」



 茶化すようにいうフユカさんだが緊張でがちがちだ。そして、それは唐突に現れた。


妙に福島色が強いのは、旅行で訪れたからです。冬の時期に行ったので、どうしても冬の日本のイメージで出てきてしまうのは、雪が降る会津若松と猪苗代湖です。喜多方ラーメンが美味しかったです。会津若松もレトロな街並みが風情があって素敵でした。これを書きながら、また行きたくなりました。

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