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やっぱりアイスは抹茶が良い

カチ...カチ...カチ...


時計の秒針が奏でる音が部屋に響く。




「......」




夜が更け月明かりが窓から部屋の中に差し込む。


時間を確認するとちょうど日付を跨いだところだった。




「それまだ時間かかりそう?」




必要な作業をしていると部屋に入ってきて話しかけてくる人物がいた。


140cmほどとやや小柄で髪を腰まで伸ばした女の子。


ここまでなら特に気にはならないだろうが、目を引く点が3つ。




腰まで伸ばした髪が光沢のある綺麗な銀色をしていること。




季節は初夏を過ぎ段々と暑くなるにもかかわらず丈の長く黒いコート着ていること。




そして、腰には小柄な彼女に似合わない無骨なベルトとそのベルトに鎖で繋がれた大きく分厚い本。


本の表紙は白くタイトルのようなもので「XX」と書かれている。




「あと5分くらいで終わるから。それまでその本でも読んでるといいよ」




少し意地悪な返事をしてしまったと、心の中で思いながら作業を続けた。




「んー!今この本開けないのわかってるくせに!!兄さんの意地悪!!!」




彼女、鳴神 響は私こと、鳴神 奏の妹である。




       = = = = = = = = = =




私と響は実の兄妹であるが、私には特に目を引くような身体的特徴などは無い。黒髪黒目というこの日本においてはごく普通の外見をしている私と、


銀髪と露草色の瞳という滅多にお目にかかれないであろう外見の響では兄妹と言われても一番最初に思いつくのは養子などだろう。




しかし、両親ともに日本人でありDNA検査でも親子関係を否定する結果が出ていないわけなので、血の繋がった兄妹であることに間違いはない。


(DNA検査の方法などが間違っている場合は、特に考えないが)




まあ、髪色の違いはこの時代では隔世遺伝ということで方が付く。




兄妹そろって年齢的には学校という教育機関に通っているはずだが、とある理由でそういう機関にお世話になることはあまり無い。教育機関に通わなくても勉強なら教えられる人がいれば問題は特には無いと思うが、響は少し通いたいような雰囲気を出していたときもあった。




そんな私達がこんな時間に部屋で何をしているかといえば...




「終わった~」




作業を終えて伸びをする私に対して響が再び話しかけてくる。




「兄さん、今日は何作ってたの?」


「今日は、今回使う刻印式の銃弾だね」




私はそう言いながら作り終えた物を響へ渡した。




大きさや形はは様々な銃に使われる弾と大差はない。


だが一番の違いはその銃弾に刻まれた模様である。




それも1種類の銃弾に1種類の刻印ではなく、同じ銃弾で違う形の刻印が彫られているものもある。




現代では科学が進歩し、文明を形成しているがその裏で同時に魔術と呼ばれる非科学的な力も存在している。(科学的に言うと超能力やエスパーと呼ぶらしい)




魔術なんて胡散臭いものだと私はつくづく思う。


だが、それが使い所を考えれば科学よりも便利であることも知っている。




そして、それが今の私にとってとても有用であることも。




「出来たなら早速仕事に取り掛かろっか」




響はそう言い、銃弾を私に渡すと部屋の隅にあったクローゼットから私用のコートを取ってくる。




仕事用の服に着替える前に私は作った銃弾を装填したマガジンを銃に入れ、


必要な言葉(ワード)を詠唱する。




「"記憶(メモリー)"」




私の手から青白い光が出たと思うと、銃を包み込むように光り、そして段々と弱まり消えていった。




私自身複雑なものより単純な工程ですむ術式を好んでいるが、多用しているものとしては




 発動した時の状態の憶える"記憶(メモリー)"




 自分の身体能力を強化する"強化(アクティブ)"




 魔力で波を作り反響させる"反響(エコー)"




などやや制御が必要なものを使う。






「すぐ終わっちゃうし、そんなに要らないと思うんだけど~」


「備えあれば憂いなしって言うくらいだからね。用意しておいて損は無いはずだよ。」




そう言い、必要な準備を済ませて2人で今回の仕事場へ向かった。






徒歩で10分ほどのビルの屋上にやってきた。


このビルはもう使われておらず、取り壊して別のものを立てるため立入禁止となっているため普通の人は入ってこない。絶好の仕事場所ということになる。




「今回の内容は何だっけ?やることは覚えてるんだけど内容が頭に入らないだよね」


「もう、そんなんだから[半自動射撃人形]とか[部分的怠惰担当]とか[シスコン]とか言われるんだよ、私に」


「シスコンは否定するとして前2つはそのまんまだけどね...っと、よし準備完了」




私の事をちゃっかり貶す響を受け流しつつ準備を終え仕事に取り掛かる。


今回荷物として持ってきたのはスナイパーライフル。バイポッドを立て割れた窓からその銃口を出す。




スコープを覗き、数百m先に建てられているビルから今回の目標の1人を見つける。目標はある企業と裏で繋がっており、非合法な取引をしてるとかなんとか。そこらへんを言われても私達にはあまり関係のないところなわけなので気にせずセーフティーを外し射撃準備を整える。




「今回の相手は中堅くらいだから10秒ってところだね~」




響の話を気に留めつつ、スコープで目標を捉える。




「3カウントでいくよ」




響のその言葉と同時に、私は予め決めておいた魔術を発動していく。




「3」「"強化(アクティブ)"」




その言葉で視界に映るものがはっきり見え、目標の動きがしっかり見える。


目標の部屋が慌ただしくなってきた。こちらの魔術反応に気づいたのだろう。




「2」「"脆性(インラステック)"」




それは自分ではなく銃を対象にしたもので、銃弾をある程度脆くし破壊力を上げる事ができる。目標はその場から動かずにじっと構えている。周りでは何人かが口を動かしているため防壁の魔術でも張っているのだろう。




「1」「"反転(フリップ)"」




だがそれは、いささか慢心というものでは無いだろうか。




「ファイア!」






その声で私は銃の引き金を引く。


銃弾が発射され目標に向かっていく。


ビルのガラスを突き破り目標の3m前で銃弾の進みが止まる。




目標はこちらの方を見てニヤリと笑っている。


目標が何やら口を動かし、部屋にいた2人が壁沿いをこちらに飛んでくる。


銃弾の方向から場所をある程度察しているのだろう。あれはどうやって私達のことを捕らえたりするかそのあとどうやって痛めつけようか考える性根の腐った奴の顔をしている。






そのためだろう、目標の動きが止まっているのは。




そのせいだろう、目標が銃弾から意識を逸らしていたのは。




そのおかげだろう、目標の一人を仕留められたのは。






確かに銃弾の進みは止まった。


だが、銃弾の運動が止まったとは言っていない。


銃弾に付けていた"反転(フリップ)"が発動し、防壁を豆腐の如く崩し、目標の頭が水風船の如く弾ける。




部屋ではとても大きな一輪の彼岸花が咲き、他の人はその光景を見て騒ぎ自分の身が一番と暴れ阿鼻叫喚の巷と化している。






そのタイミングで壁沿いを飛んできた2人がこちらに着く。


2人は何も言わずにこちらへ攻撃を仕掛けてくる。


手に持っているナイフが濡れているため毒なのだろうと察する。


この状況に動じないことから慣れていることも窺える。




あのナイフでかすり傷でも負ったなら毒が体を巡りひとたまりも無いだろう。


そう思いつつも私は毒の痛みで死ぬ感覚を考えいるとナイフが目の前に迫る。


2人同時に動き出し私と響を1人ずつで狙いだしていた。




「でもそれは悪手だと思うんだ。」


「やっぱりそう思うよね。」




迫るナイフを横に避けるように躱しながら呟く。




「"作成(モデリング)"」




私の手にいきなり現れた拳銃に驚いた相手が2歩後ろへと下がってしまう。


残念ながらそこで詰みになってしまう。






身体強化で相手の懐へ飛び込み持っていた拳銃で相手の腹に銃弾をばら撒き風穴をあける。無論相手も身体強化をしていたが、強化される度合いが違ったためにこんな芸当ができる。痛みで動けない相手に小匙1杯程度の同情を渡し、頭に銃弾をプレゼントし終わらせる。




時間で言うと10秒ほどかかったお遊びを終え響の方を確認すると、


迫ってきた相手を持ってきていた本が食べていた




比喩ではなく文字通り。本が開き相手を飲み込んでいく。そんな光景が目の前にあるが、




「今回の仕事、この2人でいいの?」




私は特に気にはしない。前にも見たというのもあるが、あの本を響にあげた私自身が驚いたらそれはそれで、滑稽なことだろう。




「おまけみたいなものから先に終わらせちゃったけど、今回はこの2人で合ってるよ~」






私達の仕事は黒幕が目標ではなく、その周りにいる相手方の同業者がメインターゲット。だから今回のようなおまけを始末しちゃうことはあまりない。




そう言うと響は本を閉じ帰りの準備をする。


それに合わせて私も銃を回収して、響と一緒に帰り道を歩く。




「仕事したからお腹すいたよ~。甘いもの食べたい!」


「アイスならコンビニで買えるから荷物置いたら行こうか。」


「やった~、兄さんの奢りだ~!やっぱりバニラかな~」


「じゃあ抹茶味にするかな。あの苦味が良いんだよね」


「私抹茶の苦味嫌い~。もっと甘い物食べようよ!!」






おかしな生き方をしていてもこんな普通の話も出来ていることに、私自身驚きを隠せない。




そんな他愛もない会話をしつつ家へと帰る道は誰かの流す見えない血で濡れているだろうが、私はその血が私達のものにならないように生きていくだけである。

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