表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/32

トランスリンク!

 思えば報われない人生だった。




 良いことなんてひとつもない、本当にクソみたいな二十年間だった。




 打てども響かず、叩けども鳴らず、努力や苦労は花実とならず――。




 結局パッとしないまま、階段から落ちて死んでしまったんだ。




 あの時ばかりはさすがに考えさせられたね。俺の人生って何だったんだろう? この二十年に意味なんてあったんだろうか? 薄れゆく意識の中で、俺はそんなことばかり考えていた。




 だけど同時に、こうも思った。




「次こそは!」




「次があるなら、今度こそ!」




「今度こそ、俺にチャンスを与えてくれ!」




 果たしてそれは、神様とやらに聞き届けられたのだろう。




 俺はすべてを失う代わりに――。




 いわゆる来世で、ありとあらゆるものを手に入れていた。












「…………はは」




「……ははははっ!」




「わあーっはっはっはっ!!」




 白亜の宮殿、その奥にある王族専用の大浴場で。




 俺は見目麗しい少女たちに囲まれ、この世の栄華というものを楽しんでいた。




「はい、殿下。あ~ん♪」




「うむうむ! うむうむ!」




「いやん! いたずらしゃちゃダメですよぅ!」




「よいではないか、よいではないか!」




 右に侍る子からフルーツをもらい、左に侍る子から柔らかな感触をいただく。




 うんうん、たまらんな~! まさに至福のひと時というやつだ!




「殿下。こちらもご覧になって?」




「むうっ!? な、なんて破廉恥な恰好なんだ!」




「殿下ぁ! あたしのことも見てよ!」




「けしからん! けしからんなあ……」




 元気な子に手を引かれ、しかし視線は危ない水着に釘づけになる。




 あれはいかんなあ。いかんいかん。裸の方がまだまともじゃないのか?




「殿下!」「殿下!」




「フレオール殿下!」




「もっともっと、楽しみましょう?」




「わははははは……!」




 花が浮かぶ湯舟の中に、あるいは神殿にも似た浴室の内に、東西南北、ありとあらゆる種族の女の子たちが揃っている。彼女らは俺のことを殿下、殿下と呼んでいて、中には遊びではない、情熱的な目を向ける者までいた。




(殿下か)




 そう、今の俺はそう呼ばれるに相応しい存在だ。




 成長著しい大帝国の跡取り。独自の軍隊、巨大な交易港を持つ筆頭領主にして、比類なき魔力を持つ大魔導士。若き王子、レイシア・アルトゥム・デリス=フレオールというのが、今の俺の立場と肩書と名前だった。




(反動にしたって、やりすぎな感じはするけど)




 虫けらみたいな人生から一転、王子様としての暮らしか。




 別世界に転生するとは思わなかったが、元の世界に未練なんてものはなかった。これが俺に対するご褒美だというのなら、俺はそれを最大限に楽しむつもりでいた。




「さ~て、悪い子はどこだ~?」




「いや~ん♪」




「わーはははははっ!」




「きゃあ~♪」




 裸のまま鬼ごっこを始め、けしからん水着を次々と脱がしていく。




 それが許されるのが今の俺の立場! むしろ喜ばれるのが今の俺の外見!




 エッチな行動も「英雄色を好む」的な解釈がなされ、俺は止められることもなく少女たちとの戯れを続ける。そしてそれは昼を過ぎ、日が傾いても、いつまでも続けられるのだった。












「あ~、楽しかった!」




「殿下、また誘ってくださいね?」




「うむうむ」




 やがて日が沈んだ頃に、宴はようやくお開きになった。




 満足そうに帰っていく少女たちを見送りながら、きっと俺もほっこりえびす顔になっていたことだろう。




(次は舞踏会でも開こうかな? それとも一転、運動会でもやってみようか)




 溢れんばかりの金があると、終わったばかりだというのに次のアイデアが浮かんでくる。




 参加者はもちろん、今日来てくれたみたいな美少女たちだ。最低でも百人は集めて、みんな楽しめるような催しにして、もちろん中心には俺がいて――。




「虚しい……!」




 執務室に戻ってきたところで、俺はがっくりと両膝をついた。




 ついでに両手も床につくと、サラサラとした金髪がこぼれるように視界を覆っていく。




「何をやっているんですか、何を」




 ツッコミを入れたのは、先に部屋にいた秘書官だ。




 名をイルミスという眼鏡っ子は、冷めた目と呆れ顔で俺のことを見下ろしていた。




「虚しさを感じるくらいなら、もう止めてしまわれては?」




「いや、女の子は素晴らしいんだ! 彼女らともっともっといちゃいちゃしたい……!」




「ですが」




「そう、俺には」




 ち〇こがない――。




 いちもつ。ディック。ロッドに松茸。




 色々な名前を持つ、要するに男性的シンボルが、今の俺には欠片もついていなかった。




 まあ、それも当然の話である。考えてみれば当たり前の話だ。なぜなら今の俺は、




(女なのだから……!)




 レイシア・アルトゥム・デリス=フレオール。




 美しい金髪と、神がかった美貌を持つ、完全完璧な美少女(・・・)




 前世は男だった俺は、なんと今の世に、女となって生まれてきたのだ――。




「くそっ! なぜだっ!」




 なぜ、今の俺にはち〇こがついていない!




 決まっている。女だからだ。女だから、レイシア殿下にはち〇こがない!




(一番大事なパーツなのに……!)




 女の子とのいちゃいちゃも糠に釘。楽しいけれど楽しくなくて、俺の心はいつまで経っても満たされなかった。




 画竜点睛を欠くとはこのことだな。なんで俺は男に生まれてこなかった――!




(しかし)




 一方で、女に生まれてきて良かったと思うことがある。




 それはというのも、この世界はどうやら女尊男卑社会のようで、女だけが人間、男はモノか家畜のように扱われている。もちろんそれには理由があって、それはこの世界の特殊性とも綿密に繋がっていることだった。




(魔法は女にしか使えない、か)




 この魔法が存在する世界、男は不思議な力を持たないようで、女なら当たり前にできることが、男には逆立ちしたってできないらしい。




 空を飛べるか? 剣をバリアで防げるか? 何もないところから火を起こし、重たいものも念動力で運ぶことができるのか? 答えはすべてノーだ。男は人力しか使えない、ひ弱で情けない生き物だとみなされている。




 そんな世界に男として生まれたら、たとえ王族だってろくな目には遭わないだろう。血筋を残すためだけの種馬か、あるいはそうさせないために殺されてしまうか――。




 もちろん大事にされている男もいるが、箱入りや飼い殺しなど、俺が望むようなことではなかった。




(だけど俺はち〇こが欲しい!)




 ち〇こが欲しい。ち〇こが欲しい。できれば男に戻ってみたい。




 そうなったうえで、昼間みたいなことをしてみたいのだが――。




(難しいだろうなあ)




 領地運営。豪商や貴族たちの付き合い。それらはすべて、俺が女だから上手くいっている面がある。たとえ王族でも男子であれば、「男だてらに政治の場に出てくるな」と鼻で笑われておしまいだ。スタートラインにさえ立てない恐れがある。




 隣国との緊張関係、そして国内の反抗勢力の件もある。この国は現女帝が剛腕でまとめ上げた急造国家だ。新進気鋭と言えば聞こえはいいが、まだまだ危うく、そしてまとめ切れていないところが多々ある。暗殺されかけたことも一度や二度ではない。そんな場面を切り抜けるには、そして万が一戦争になった場合にも、魔法の力がなければ抗うことさえできないだろう。




 それに王位継承の問題もある。サディストな母、その母によく似た妹、彼女らを支持する派閥、いずれも高名な美魔女の方々――。




 そもそも、「男になる方法」もまだ見つかっていないんだ。女尊男卑を改善する手だても思いついちゃいない。文明のレベルももっと押し上げていきたいし、男の地位だってもっともっと向上させていきたい。




 やることはたくさんあり過ぎて、しかし問題は山積していて――。




「だけど、俺は諦めないぞ、イルミス!」




「何をですか?」




「俺は、ち〇こを取り戻す!」




「は?」




「俺は絶対に、俺のち〇こを取り戻してみせる!!」




 秘書官がまた、呆れ顔で俺のことを見ていたが――。




 そこだけはどうしても譲れない、確固たる目標というものだった。








 だからこれは、取り戻すための物語だ。




 なくしたものを取り戻す物語。大事なものを再びつかむ物語。




 ち〇こを取り戻すための物語。




 それがこの魔法の世界で始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ