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僕とロリババアの結婚狂想曲

 初めに言っておく。僕はロリコンだ。


 ドン引きしただろう。だが通報は待ってほしい。




 隠したところで仕方ない。小さな身体にはドキッとするし、柔らい肢体を見れば興奮してしまうし、愛読書はコミックLOだ。それはもうどうしようもない事実なのだ。




 だがしかし。


 我々ロリコンには、鉄の掟がある。




 YES ロリータ、NO タッチ。




 我々は、決してロリに触れてはならない。


 それは法があるからではない。


 それがロリコンである者の誓いだからだ。




 故に、幼女を愛し。


 故に、幼女に愛されず。




 永遠に満たされぬ愛欲の炎を抱えたまま棺の中で燃え尽きる事を定められた僕達は、しかし業火の中で微笑んで逝く。


 そして、僕もそうなるはずだった──のだけれど。














「結婚、ですか?」


「うむ」




 玉座から降り注ぐのは、威厳のあるバリトンボイス。白く長い髭を蓄えた国王が発したものだ。




「勇者殿がこの世界に降臨して二年。魔族との戦争は平和的に集結し、人も魔族も少しずつ復興へと歩み始めた」


「はい」


「それも全て勇者殿、そなたのお陰だ。そなたがいたからこそ、この戦争は終わったのだ。本当にありがとう」




 国王が、本来ならおいそれと下げてはいけない頭を易々と下げる。何の因果か、僕はこの異世界の地でそうされるほどに名のある勇者となってしまっていた。




「そんな……僕はただ」




 ──魔族のロリも可愛いな、って思っただけなんです。




「ただ?」


「い、いやぁ……ハハハ」




 出かかった本音をぐっと呑み込む。




「僕は僕の信念に従っただけですよ」




 その言葉に偽りはない。


 気が付いたら召喚されたこの世界で、魔族と戦うための聖剣と力を授かってから、僕の気持ちは一つも変わっていない。




 ――この力で僕は、全てのロリを守ってみせる!!




 その誓いを守っていたら、結果として魔族も救っていた。それだけなのだ。




「『不殺(ころさず)の勇者』――そなたの名声は、魔族たちにも広がっているという。だからこそ、そなたには結婚をしてもらいたいのだ」


「もしかして、相手は……魔族なのですか?」




 うむ、と国王は頷いた。


 僕は国王の意図を理解する。彼は僕の結婚を和平の象徴としたいのだ。




「相手は魔王女コロナ姫。つまり、魔王の娘だ」




 勿論、これは二つの種族にとっていいことだろう。


 異種間の結婚も事実上認めることになるから、庶民の間でも広がるかもしれない。そうすれば、ハーフロリも増えていくだろう。とてもいいことだ。




「すぐに答えるのは、難しいです」




 だけど、僕はそれをすぐに受け入れることが出来なかった。


 だって僕、ロリコンだし。




「そこを何とか、考えてはもらえないだろうか」


「うーん、必ず婚約するとは言えないですけど、前向きに検討はしてみます」




 そうか、と国王は少し嬉しそうに頷いた。とはいえ、僕にできる譲歩はここまでだ。




「では早速婚約者と会ってもらいたいのだ。まずはお互いを知ってからの方が色々と都合がいいだろう?」


「ええ、それはまあ。それで、日取りはいつで?」


「今だ」


「は?」




 思わず不敬な言葉が漏れる。


 いやでも、今?




「実はな、その婚約者はもうこちらに来ているのだよ」




 えっ? と問い返す間も無く、国王は兵士に合図を出した。


 巨大な門が開く。淡い光が差し込む。




「……え?」




 僕は我が目を疑った。


 そこにいたのは、純白のドレスを身に纏った──幼女だった。






 身長は目測で135cm程度。僕がかつて所有していた抱き枕と同じくらいだ。




 身体は細く小さくて、強く触れれば砕けてしまいそう。しかし曲線的で、柔らかそうだ。まだ大人のそれではない甘い香りが、少し離れている僕の鼻腔にも届いている。




 どこかオリエンタルな雰囲気を醸し出す褐色の肌は、ふわりと広がる純白のドレスとのコントラストで眩しく煌めいている。大胆に開いた肩が少し赤みを帯びて、扇情的に感じてしまう。




 身体に対して大きく見える頭は児童独特の黄金的なバランスだ。そこにルビーのように嵌め込まれた紅い瞳は大きく、窓から差し込む光を吸って輝いている。なびくヴェールの裏には、絹のような白髪がさらりと流れた。




 そして。


 頭部の、ヒツジのような巻角。


 ドレスの開いた背中の、一対の黒い翼。


 腰の下から伸びる、細く長い尻尾。




 その存在が、彼女がただの幼女じゃないことを示していた。


 人外だ。


 魔族だ。


 褐色悪魔っ子ロリだ!!






 しかし、喜びとは逆の感情が僕の中に渦巻くのを感じていた。


 喉が渇く。冷や汗が止まらない。




「い、一体いつロリコンがバレて……!?」


「ロリ? ……何のことだ?」


「あ、いや、何でもないです」




 な、なんだ、偶然か。ビックリしたぁ!!


 いやいやしかし、なぜ婚約者に、こんな幼女が?




「お初にお目にかかります、ゆーしゃ様。私は魔王女のコロナ。ゆーしゃ様との婚約のために参りました」




 褐色肌の悪魔っ子ロリ──コロナ姫は、ドレスの裾を掴み、優雅に挨拶をする。


 ……か、可愛い!!


 なんて事だ。可愛いロリは声まで可愛いのか。天使の声と言っても過言ではない澄んだソプラノに、高貴に振舞っていても少し舌足らずな幼さを感じる口調!!


 神だ。これは、神の奇跡だ。




「……ゆーしゃ様? いかがなさいましたか?」


「ハッ!?」




 ああ、思わず放心してしまった。というか天に召されたかと思ったよ、マジで。


 意識をなんとか持ち直して、僕は国王に向き直る。




「ちょっと待ってください。コロナ姫は子供じゃないですか。流石に法的にアウトなのでは?」




 彼女はロリだ。


 ロリコンの僕が永遠に触れてはならない、無垢な花なのだ。




「む? 結婚に関してわが国でそういった法は特に無いが……」


「は?」


「魔族にもありませんわ。成人前の女が嫁ぎに行くことなんてよくある話ですし」




 い、異世界の法律ユル過ぎる!!


 確かにこっちの世界でも昔はそうだったとか聞くけども……。




「ゆーしゃ様の世界では、愛する二人を法が引き離すのですか? 残酷です……」


「い、いやしかし、僕はそういう世界で生きてきたんです! 男子は十八歳、女子は十六歳!! 合法的に結婚できるのは、その年齢からです!!」




 事情を話す僕に対し、コロナ姫は呆けた顔をして、




「あら、でしたら問題ありません」




 なぜか、にこやかに微笑んだ。






「だって私──九十五歳ですから!」






 ──きゅうじゅう、ごさい?




「勇者殿、言い忘れていたが魔族の寿命はおよそ千年、そのため成長も人の十分の一以下なのだ」


「人間で言うと九歳くらいの身体なのですが、年齢だけで言えばもうおばあちゃんですね?」




 二人の言葉が耳からすり抜けていく。


 そんなヒロインのジャンルがあったな、と思い出す。


 見た目と身体は幼く、しかし遥かな時を重ね成熟した精神を持った少女。




 そのジャンルの名は、ロリババア。またの名を──合法ロリ。




「ゆーしゃ様、私が婚約者じゃ、嫌ですか?」


「い、いや、そんな事はないです!」




 むしろ嬉しいくらいです、という言葉を必死で呑み込む。


 触れたい。


 触れてはいけない。


 いや、触れてもいい?


 脳がオーバーヒートするくらいに回転し、しかし議論は堂々巡りで終わらない。




「でしたら、結婚しましょう?」


「で、でも子供との結婚は世間体が……!」


「周りなんて関係ないです。それに私、ごーほーですよ?」




 甘ったるい匂いと声が脳髄を貫く。思考能力が奪われていくのを感じる。


 そして、僕の中の邪悪な心が囁きかける。


 「望んでた展開だろ? ヤッちゃえよ」と。


 だけど、だけど!!




(踏みとどまれ(ロリコン)!!)




 そうだ。僕はロリコンだ。


 幼女の健やかに育つ姿を遠くから見守り続けると誓った、誇り高きロリコンだ!!




「コロナ姫、ごめんなさい。それでも僕は、この話を受ける事はできません」




 僕はコロナ姫に向けて、頭を直角に下げた。


 それが誠意として足りなかったとしても。




「それは、どうしてですか?」


「上手く言えないけど……僕の矜持(ロリコン道)に反するからです」




 明らかに言葉足らずだ。でもそうとしか言えなかった。


 僕は自分に降りかかるであろう最大限の罵倒を覚悟した。


 でも、




「──そこまで仰るのなら、仕方ありません」


「……コロナ姫」


「ですが!!」




 コロナ姫は凛々しくびしっ! と僕をまっすぐ指差した。




「これから私の全力でゆーしゃ様を振り向かせてみせますわ!!」


「……えっ?」




 諦めて、くれないの?


 動揺する僕をよそに、コロナ姫は微笑む。


 伸ばした人差し指を自分の唇に当てて、






「ですから覚悟してくださいね、ゆーしゃ様?」






 その笑みは、妖艶だった。


 僕の何倍もの人生を歩んだ彼女の、大人だけが持ちうる色気。そんな笑みに、心臓が止まりそうになる。


 優雅に去っていくその後ろ姿を、僕はただじっと見ていることしかできなかった。






 頭の中でぐるぐると、いろんな考えが浮かんでくる。


 このまま二つの種族のために、結婚してしまっていいのか?


 自分の欲望に従ってしまっていいのか?


 しかしロリコンとしての誓いを捨ててしまっていいのか?


 そもそもロリババアはロリなのか?




 (勇者)は、(ロリコン)は──どうすればいい?


























「……素直に頷けばいいものを、面倒な小童ですね。さて次の手は──」



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