創造神、なんか驚かれる
教会がざわついた、クエビコとかいう神様がたしかに聖痕とかいうものをこの左手(の甲の部分にダ〇の大冒険のように)につけてくれたが、もしかしてまずいものだったか?
「なに?!」
「聖痕だと?」
「奴隷がか?」
「ふえぇぇえ?」
「なん……だと……!?」
「俺は見たことがないぞ聖痕なんて」
やはり異常なものらしいぞ……。
「ナギ様、ちょっとよく見せてくれないかな」
神父さんに真面目な顔で言われる、どうなっちまうんだという恐怖もあるが見せないわけにもいかないだろう、左腕を神父さんに差し出した。
「やはり聖痕のようです、これは土の神クエビコ様の聖痕で間違いありませんです、驚きました……」
その言葉に周囲がまたざわつく。
「まじかよ?!」
「クエビコ様だと?」
「奴隷がか?」
「ふえぇぇえ??」
「なん……だと……!?」
「俺、初めて見たぞ聖痕なんて」
神父さんは周囲を見渡し軽く咳ばらいをした、そうするとかすかにざわつきは残ったがいくぶん静寂を取り戻した。
「ナギ殿、世界各地にある教会はそれぞれの属性神を信仰おります、その属性とは火水土風光闇の6属性です、そして教会では属性神に上下は無いという教義から6柱全員の像を祀ることになっております、そしてこの地ダサーラでは過去に日照りがあった際に土神であらせられるクエビコ様が助けてくださったという言い伝えが残っているために、土神様への信仰心が高い土地となっております、事実現在でもそのご利益のおかげで他の土地と比べて土壌が豊かであり、作物が豊作に実り、大地に関係のある製品の品質が上がりやすくなっております」
なるほど、確かに神様はそんなこと言ってたな、それにさらに聖痕で追加補正が働くのか……借金返済の役に立つといいな(正直まだなにがなんだか、自分のことすら分からない状況ではあるが……)
ざわつきは収まらないが最後に神父がこう告げる。
「立場は奴隷ではありますが、この村では土神様はとりわけ大事にされております、なのでナギ殿にたいして邪険に扱う輩は少ないでしょう、他神を信仰している者はここにはほとんどいませんので、ある種の現人神扱いをしてくる者もいるかもしれませんな」
……そういうことか、最初はナギ『様』だったのが聖痕を見てからはナギ『殿』に格上げされていた、納得だ。
「ではナギ君、うちのこの村にある別邸とその工房に案内する、そのあと家族に改めて君のことを紹介しようか」
商人のおじさんはそう言い、神父さんに一礼した、なので俺もつられてお辞儀する。
「ふふっ奴隷ですが礼儀がしっかりしているようですな、ロベルト様ナギ殿を宜しくお願い致します、そしてナギ殿」
そういうと神父、そのほかの教会の関係者が俺に向き直る。
「クエビコ様のご加護があらんことを」
そう言うと一斉に綺麗なお辞儀をしてきた……がいつまでも顔を上げない、そう俺が困惑していると。
「ナギ君、送り出すときはそういうものなんだ、さぁ行こうか」
よくは分からないが教会の入り口まで歩いたところで中の方を向き、軽く一礼してから駆け足で商人のおじさんを追った。
……
家に着いた、工房が家の隣に併設された家のようだ、中に入るように促されると馬車から降りるときにみた女の人が奥の方でせわしなく掃除をしていた。
「マウラ!ジェフ!こっちへ来てくれ」
返事の声が聞こえるとすぐにその二人が集まって来た。
「マウラ、ジェフ、この子はナギ君という、教会で調べてもらったところ犯罪歴はなく奴隷主は権利を失っていた、つまりは準借金奴隷という扱いになったぞ、馬車で話したと思うがしばらくはうちでこの子の面倒を見ようと思う」
よく分からないが一礼しておく、馬車で話していた?何のことだろう。
「さて、次はうちの家族を紹介しようか、まず私はロベルト・パーシモンだよろしくな」
また一礼……頷いた、のほうが近いか。
「次に私の妻のマウラ・パーシモンだ、料理は得意だし、なにより最高に美人だろう!」
わっはっは!っとでもいっているようなその隣でマウラさんが恥ずかしそうにくねくねしながら会釈したのでそれに応じて頷いた。
「最後に息子のジェフ・パーシモンだ、こいつは木工が得意でなぁ、まだ8歳なのだがこの年で大人顔負けな雑貨を作ることが出来るのだ」
へへへっ、とでも言うように鼻をかきながらも幼さが残る少年のジェフは、照れくさいのか首だけを曲げるように会釈した、もちろんこっちもそれに応じた。
「それでな? このナギ君なんだが……ナギ君、左手を出してもらえるかな」
またか、なんだかロベルトさん?は楽しそうにしてるなぁ、そう考えつつもとりあえず言われるままに3人の方に腕を差し出した
「これがなにかわかるか?マウラ、ジェフ」
そう問いかけるが二人は首を横に振る。
「おや?ジェフ……わからないのか? あんなにクエビコ神話が好きなのにか」
ジェフは目を見開いた、すると別の部屋に走って行ったかと思うとすぐに本を持ってまた走って戻って来た、パラパラっと本をめくると、とあるページを開きロベルトさんの顔にずいっ!っと見せつけた。
「とうさん!これだろ?あーすしんぼるだろ?」
「そう、異教ゼウス教からはそう呼ばれているな、では私たちの七神教ではなんと呼ばれているかな?」
また別の本を持って来て、パラパラっと本をめくると、とあるページを開きロベルトさんの顔にずいっ!っと見せつけた。
「とうさん!これだろ?つちのかみのせいこんだろ?」
マウラさんが目を見開いてしまっている、そしてロベルトさんはと言うとジェフを撫でた後、話す。
「ナギ君、しばらく君をうちで引き取ろうと思うがどうだろうか? だが私たちは旅の行商人だ、冬の間はここに留まるが春になり雪が解けたらまた次の冬の初めまでは行商の旅に出るのだ、それまでに君が一人で生活できるように応援しよう……もちろん働いてもらうがな? 金の事なら問題は無いさ、聖痕があるんだ、露天で君が接客でもしてくれたらそれだけでご利益があると思ってたくさんの客が来る、私もそういうご利益があるのさ……なにも気にしないでくれないかな?」
なにも変わらない状況の中、自分は奴隷だった(らしい)、それを脱却できる(らしい)、チャンスが貰えた(らしい)、そう何もわからないのだ、そんな状況の中で目的が生まれた(らしい)、ようやく今迄漠然となにかとしかわからなかった目的を見つけた俺はこの世界に来て初めて口を開いた。
「よろしく、お願いします」
やっと喋った
ここまで主人公がしゃべらないのも珍しいと思う(1話目は除く)




