創造神、教会へ行く
ダサーラの村に到着した、村の囲いは馬防柵のような木で作られた頼りない物だ、そしてその入り口には衛兵というのが正しいのかわからないが門番が立っていた。
その門番のところで入村のための手続きをすることになるのだが、身分証などは当然持っているわけもないのだ……疑われてしまい尋問を受けることになってしまった。
と言ってもだ、俺は何も記憶にない、あるのは起きたら見知らぬ……と言っても何の記憶もないのだ、まともに質問に対して答えられるはずはないのだ。
衛兵の質問に対して支離滅裂とまではいかないまでもまともに返答が出来ない状況だ、さすがにそのまま素通りで村に迎え入れるわけにはいかないのであろう、身元の称号をするということになり、七神教教会ダサーラ支部に両脇を抱えられて連れていかれた……後ろでは商人のおじさんが苦笑いをしているが、いちおう付いて来てくれているようだった。
……
教会に到着し、衛兵の人はシスターのような人に事情の説明をした、そして数分後には『神々の間』と呼ばれる(らしい)七柱の神の石像に囲まれた場所へと連れて来られた。
入り口から見渡すだけでもなにか荘厳な空気を感じるその空間、だけどなぜかそれでも懐かしい雰囲気を感じることが出来た。
あたりを見渡すと、細かく彫刻さえた6柱の石像、そして3対と3対に挟まれるように立っていた1体の石像は荘厳……いや、なぜかみすぼらしく構えていて顔が全く彫られていないのが分かった。
そうしているとシスターに促されるように出てきた神父のような人に、その場で首輪につけられたタグを鑑定してもらうことになった……そしてその結果は。
俺の今の管理者の名前は『ゾルディエ』という奴隷商らしい、この人は3年ほど前から商人ギルドに奴隷商を経営するための税金を支払うことを滞納していたということが分かった、その時点で奴隷の管理責任と所有者権限は奴隷商ではなく鑑定をした村の教会及び各ギルドで保有されることになる、残る問題はこの自分自身の境遇だ……。
※税金滞納:1年警告、2年罰金、3年権利剥奪、3年税金が払えないと借金奴隷になる仕組み、罰金を掃えた場合3年目の懲罰が延長する厳しい仕組みである
…
次は自分の照会をするようだ。
「ふむ……君の名前は『ナギ』のようです、そして被奴隷状況証は……、大義的には身元不明型の孤児のようですね、扱い的には借金奴隷のようです」
「ですが、この子は『虚』の症状を発症していたようです……ですがこの子は見た目には清廉な若い男性です、そういった特殊な嗜好者を目的として売られた、つまりは慰み者として売られて人身売買をされて奴隷商にわたったという経緯のようです。」
重い空気が辺りを充満させる……だが。
「つまりこの『ナギ』君は準借金奴隷に当たるということですね? つまりそれであれば借金の半額さえ返すことが出来れば借金から解放することができるということですね?」
行商人の男の人はそう若干興奮気味に声を挙げる。
「そうですね、この子に犯罪歴は認められませんし、管理責任権を持つゾルディエ氏は税金および商業ギルドへの更新料が未納のために権利を失効しています、なのであとは本人次第になるかと思います」
神父はそう行商人のおじさんに告げ、一歩引いてから装いを正した。
「ナギ君、辛いだろうが君は50000ルークで君は売られてしまったらしい、だが借金奴隷の扱いで主人が管理権を失ったようですので25000ルーク、つまりは金貨2枚と銀貨5枚を収めることで借金奴隷から解放してあげることができるようだ、だが、これは君が稼いだお金以外では返済することは出来ない、身元の引受人がお金を積もうともその首輪が外れることは無いのです、君自身の努力を当教会では期待しております」
※500ルーク(銅貨5枚)で中流の1泊2日用宿屋に泊まることが出来る
そして準借金奴隷の扱いについて説明してもらえた。
主人かそれに準ずる者に危害を与えてはいけない。
準借金奴隷の契約位置から一定距離(1KM)以上に離れることは出来ない
借金はその魂に刻まれその責任を後世においても逃れることは出来ない
なるほど……どうしてこのような状況になっているのかはさっぱりわからないが……何をしなくてはいけないのかは、ある程度理解することが出来た、だけどその借金をどう返して行けばいいのだ……。
そう考えていると商人のおじさんがその空気を察してか、提案をしてくれた。
「なるほど……、ではナギ君? 君を家で預かりたいのですがいいでしょうか、家にはここまで一緒に来た息子と家内しかいません、数日ではありますが君の様子を見てきましたが敵対することは無いと商人としての目で信じることが出来ると思いました。もちろん、この場で主神様に誓って衣食住は保証します」
だがそれを遮るように神父さんは発言した。
「わかりました、それは問題なければ可能でしょう、とにかくまずは準奴隷契約に奴隷契約を更新する必要があります、まずはそれを行わせていただきます」
そう神父さんが言うと俺を石像の中心へと連れて行った……そして契約変更をしようとしたのだが。
「おや? この子は……一度も洗礼したことが無い?! まさかそんな子が……、 しかし実際に」
ブツブツブツ、自分の世界に入ってしまいブツブツと独り言をし始めてしまった。
「おい! いい加減にしてくれ! 神父? 契約はどうなってるんだ?」
「あ? あ……はいぃぃ! 申し訳ありません、えぇ……と、ナギ様ですが実は……『洗礼』がお済出ないようでしてまだ契約を行うことが出来ませんでした……、なのでまずは一度『クエビコ』様を始めとする神々へと祈りをささげていただく必要があるのです」
しばらく沈黙が流れた……、10歳で自由行動を認められると同時に七神様へ一人前になったとお礼の祈りをささげるのがこの世界の常識らしかった、その年齢を過ぎても洗礼を受けていないと知れ渡れば人口の多い大都などでは異端として扱われてしまう(らしい)のだ、とにかく洗礼を受けなくてはいけない……洗礼といっても、七神に感謝を捧げ、今後の幸福を祈るだけなのらしい。
「ナギ君、状況は良く分からないだろうがとりあえず感謝してます、くらいでいいから祈りを捧げてもらえないか? そうしないと洗礼を受け、この世界の住人として認めてもらえないのさ」
特に断る理由はない、素直に頷いた。




