元奴隷、霧の幻影と名前の力
「あの日」
「あの時」
「あの場所で」
「あの奇跡」
なにやってるんだ2人で……、まかせたフラム。
「なにやってんすか2人で」
「ふふふ、まぁのぉ?」
「ははは、なぁ……そうじゃのぉ?」
「いやいやいやいや、だからなんなんですか」
……
霧深き地に危機訪れるとき
白き老人が現れる
……
たった2節だけの言い伝え、各地に言い回しは変わっても同じような言い伝えがあるらしい、そして。
「わし達は、その老人と話したことがあるんじゃよ」
「とても不思議な雰囲気をしている方だったわね」
「老人が現れると同時にこの洞窟剥離で満たされていてな、ワシら2人と老人以外すべての生き物の時間が止まったようになっていた」
「物凄かったな、霧に乗せて魔獣たちを洞窟の外に追い払い、霧の岩で入り口を塞いだのだ」
「まさに神々しい光景っていうかんじだったな、あれは絶対に神様の類だ」
「だけど本人は『私は神ではない』って言ったのさ、だけどあの含みのある言い方は、本人はそうでなくとも確実に神に通じている」
「そして、その老人と同じような雰囲気や魔力……っといっても器が小さすぎてつり合いやしないが、似たような少年が現れた」
「そうだな、あの老人の言った通りに、時の凍る霧の傍にある街には聖痕を持つ少年が来たということだな」
2人の世界……というか昔ばなしはまだまだ続く。
……
「残っておるのはアラクネと人の子か……これはまた珍しい組み合わせじゃな、強い願いを感じて来てみたらスタンピートが発生していたのでな、その中でも強い願いをしていた2人の願いを叶えてやった、その対価として彼らの時間を頂いたがのぉ、時間と言っても寿命ではない、本当に時の流れを止めただけじゃ、近親の者の時間と共に周囲の者の記憶を操作させてもらった、彼らはあくまでも止まっておるだけじゃ、元に戻ったときには自然に生活に戻れるじゃろうぞ」
「……時を」
「……止めた?」
「時魔法はこの世界には存在していないのか? ……そうかここは6元素の力が支配する世界のようじゃな、たしかに時魔法は……む? この世界は……、そうか……いや、だがこれは……なるほどな」
「いや! それじゃ何も分からないでしょう」(フラム)
思わず回顧の語りにもツッコミを入れてしまうフラム。
それに対して渋い顔をしつつもマーロックさんは話を続けていく。
「端的にいうぞ、私はこの世界の創造をした神に関係のある存在だ、だがこの世界の中で行動している間はこの世界の中の力を利用しないと力を行使することはできないのだ、今回は彼ら2人とその家族の時を前借することになった、何年後になるかは分からないが力の清算が終わったときには記憶を含めてうまくつながるように復活することが出来るじゃろうぞ」
「神?」
「神だと? 創造?」
「ええぃ、そんなことで驚いておらんで話を聞け」
神……では無いらしいがそれに近しい存在に叱責されて口をつぐむ。
「何年後になるか……、おそらくはお主、 ――人間の方だぞ? お主が生きている間には復活するはずじゃ、彼らの体を保護しておくが良いぞ、時間は止まってしまったがこれはこれで運命……そう決まっていたことなのじゃ」
「な……ファートックさんとガロットさんが止まっちまうっていうのか? そんなことってないだろ?」
「いや、このような状態になる定めだったようだぞ……案ずるな、停止が解けた未来では2人ともに幸せになっておるようじゃ、……お主は――? お主は名が無いのか? 名には力が宿るのだ、名を付けなくてはこの未来にはならぬのだ、急いで名を決めよ」
「な……突然そんなことを言われても」
「良いか? 名前には力、そして運命を呼び込む力が宿っておるのだ、名の無きものはただ生きることだけを考えるが、名がある物はその生に意味を探す、その行動によって世界に小さな変化が生まれ、その小さな変化が集まることで歴史が移り変わっていくのじゃ、お主に言うのは酷じゃが、たいていの場合名前にはこのように育ってもらいたい、歴史上の偉人のように立派になってもらいたいなど意味がある、そんな願いが積み重なって叶えられるのが俗にいう奇跡じゃな」
「う・・名前か、でも俺にはそんな目標なんてものもないぞ、今の俺にはこの洞窟にいるメンバーが無事であることだけが大事なことなんだ」
「なるほどな……、よしわかった、ならばここにいる3名の志を元にしてこの洞窟やお主の村の繁栄を祈るのではどうじゃ?」
「そうか……そういうのもありなのか、ファートックとガロットさんとマリ・アラの願い、やっぱり身近な人の命だよな、なら
この洞窟の主『マリ・アラ』さんから先頭の『マ』の文字を、リーダーのファートックさんを諫めた冷静な『ガロット』さんから人の間に立つことが出来るようになる意味をこめて『ロ』の文字を、最後にリーダーとして粗暴なようでも素人の俺を元気づけてくれた『ファートック』さんから『・・・』をそれぞれにもらって・・・『マーロック』これでどうだ、これが今から俺の名前だ」
「ふむ……、良い名じゃの……ではワシから最後の説明をするぞ、マーロックとマリ・アラよ、心して聞け」
「あぁ」
「はい、かしこまりました」
「今回ワシはこの世界に力を貸した、時を止めた2人だけでなく当事者のお主たちにも誓約をさせてもらう、まずはマーロック、お主は村へ戻り語り部となれ霧幻平原に踏み入るな……とな、そして霧幻平原には近づくなということも伝えよ、だがこれでは生活に困るじゃろうから、ここでアラクネから糸を大量に貰ってから村に戻るが良い、そうすれば村は栄えお主の言葉には力が宿る」
「そしてマリ・アラよ、糸を蓄えよ、これから数十年の後必ず多量に必要になる、それは一つ二つの村を救うという次元の話ではなく世界に関わる次元での話だ、さらにその糸を固めた素材である『幻霧石』、それをこの洞窟を最低限通れるような広さになるまで敷き固めて置け、数十年後にはここが世界の中心になるぞ、マーロックへの糸についても良いな?」
「まさか『幻霧石』まで知っていらっしゃるとは……、確かに承りました」
「あぁ、俺も多分わかった」
「最後に……といったがすまぬもう一つ、その数十年後に……40年か80年か……それはワシにもはっきりせぬのじゃが、明らかに才気に溢れる人物がこの半島に現れるはずだ、ただ50~60年程度でそれらしい人物に会った場合はまだその人物の器が育ちきっていない、そう思ったらその時点でその人物の人柄を見たうえで一番役に立つと思えるように協力してほしい、よろしく頼むぞ」
そう言い切ると、自称神は俺とマリ・アラのことにはお構いなしで姿を瞬時に消してしまった。
「ふふふ、これから何十年も頑張らないといけないわね? マーロックさん?」
ファウンダー半島での今現在の物語はほぼ終了、閑話(水の街での後日談)を挟んで大陸編へと続きます。




