元奴隷、霧のダンジョン『アリアドネー』洞窟を攻略す(中編)
「おい小童ども、一番奥のアラクネがいる場所になれば話が通じるから問題は無いが、この次あたりからの蜘蛛たちは本能のままに襲い掛かってくるのじゃ、本能には本能、松明の火を切らすと大変なことになるからなぁ、集中を切らさずに次の層に進むぞい、良いな? フラム君」
「おぉよ! (よくわらんないけど)大丈夫だぜ」
「まぁ……どうせ親玉は既にわしらの侵入に気が付いているだろうがな」
最後に俺たちにぎりぎり聞こえないように呟き、再び歩みを進める。
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「のぁお主たち、さっきは緊張させるようなことを言ったが、もしここの主がワシの事を覚えておったらなのじゃが、蜘蛛たちは襲ってこないかもしれんぞ」
?? 次の層から蜘蛛が本能のままに襲ってくるって言ってたのに……。
「どういうことだ?」
「おぅ! どういう意味なのか説明してくれよ」
そういうとマーロックさんは俺たちの方に向き直った。
「慌てるでない、簡単なことじゃよ……ワシとアラクネの女王は知り合いのようなものなんじゃ、昔は仲よく酒を交わす仲だったのじゃよ」
魔獣と知り合い……だと?
「いやいやいやいやいや、爺さん、魔獣とだぞ? ありえないだろ? しかも何年前の話なんだよそれはよぉ」
「あぁ、俺もそう思うよ、どういうことなのか説明してほしい」
「まぁそうなるじゃろうなぁ……少し長くなるが良く聞いておれよ?」
「ワシが9歳のころ、霧幻平原の霧が突然黒くなってしまう怪現象が起きたのじゃ。
その影響なのかなんなのかはわからないが、突然食料のマッドシェルやウォーキングサーディン、そしてリーフラビットといった基本的な初心者用の狩りの対象が忽然と姿を消してしまったのじゃ」
…… 数十年前の事
「おい、ファートックのジジイ! 獲物狩ってきてくれよ、このままじゃライズの街がなくなっちまうぞ! おい! ジジイ! 聞いてんのかよ! なぁおいって! すげぇ冒険者なんだろ?!」
「うっせぇなクソガキ、俺たちは金にならないことはやらない主義なんだよ」
「そうだぜ? なぁファートック、冒険者なんていつ命を落とすことになるかわかったもんじゃねぇからな、今を楽しむんだ」
ファートックと共に行動している大柄の男が同調する。
「いや、少し違うぜ? ガロット。 お前も図体ばかりでかいんじゃなくてもう少し考えてみろよ、なんだってこんな辺境に来たと思ってるんだ? 冒険か? そりゃ冒険は面白いがな、それだけじゃいけねぇよ、冒険者ギルドがなんでいろんな場所にあるのかわかってんのか? ……まぁここは辺境すぎてギルドはねぇけどよぉ、冒険者になった理由はなんだ? 金か? 名誉か? ちがうぜ……俺はな、歴史に名前を残したいんだ……生きた証ってやつだな」
「何言ってんだよ、ファートック、ガロット、とにかく霧の調査に行ってほしいんだ、お願いだよ」
「なっはっは、行って来てやりたいのはやまやまだがな、命あっての物種だ、まだ調査団も戻って来てない状態で俺たちが出張ってもなんの報酬ももらえないからな……まだ時期じゃねぇな、そういやガキっちょ、てめぇ名前はなんていうんだ?」
「ガキじゃねえし!! 名前は……無い、施設じゃ06号って呼ばれてる……」
「ちっ……なんだよ施設の野郎か、メシは食えてんのか?」
「まともに食えてたらこんなお願いになんて来ないだろ、耄碌してんのか?」
「はぁ? 普通食えてない奴がすることは物乞いだろ? なんで獲物を狩る話になんだよ」
「おいファートックよぉ、ガキ相手にムキになってんなって」
「ガキガキうるせぇな、一回飯貰えても次にも貰えるかなんてわかんねぇだろうがよ! だったら凶暴な魔獣だけ狩ってもらってその後からは自分でリーフラビットを狩れればそれが一番だって思ったんだ」
「ほう……? 意外と考えてやがんだな、ガキのくせに」
「おい! またガキ「まて、二人とも」」
少年の言葉はガロットに止められた。
「おい、お前の言っている魔獣とはどんな奴だ、教えろ」
「え? あぁ……たしか霧幻平原の中央付近に出る大型の蜂だよ、たしかベッコーキラーホークとかだったとおもう」
「あぁ……あいつか、確か麻痺毒を持ってるめちゃくちゃデカイ蜂だよな、なんだってこんな土地に」
…… そう言って考え込む3人だが、しばらくして少年が口を開く。
「たぶん……ユウギリソウの大量発生が原因だ、今年は雨がほとんど降らなかったし暑かったから……」
「なるほどな、となると……原因はそれだけじゃないな、おい! ファートック! 行くぞ、蜂を狩りによ」
「何言ってんだガロット、そんな金にならねぇこと」
「いいや、最高に金になると俺は踏んでいる、さぁ行くぞ、おいガキ! お前も一緒だ」
「は? 俺もか? 何もできないぞ?」
「そんなことはどうでも良い、人を危険な場所に送り出すのに自分はのうのうと街にいるだ? そんなものは通りが通らない、聞いてるかファートック、命令だ」
「ちっ分かったよ……領主様」
「は! そんなことはどうでも良い、行くぞ!」




