元奴隷、霧のダンジョン『アリアドネー』洞窟を攻略す(前編)
そして翌日、アッシュを除いた3人でアリアドネ―へと出発した。 少しの間はミラージュロードを歩いていたが、途中で右、つまり霧幻平原に入って行く、だが先日程には霧は濃くはなくそれほど警戒することも無く進むことが出来た。
「いや~、最近の若いやつらは冒険者だって言っても挑戦する気概がみられなくてのぉ、この街ではわしが最後にアリアドネ―に行っていた冒険者なんじゃ、懐かしいのぉ」
「へぇ、じいさん冒険者だったのか意外だよなナギさん」
「なんで冒険者がいなくなったんだ? 儲けれそうな気がするのに」
「……それについては後で説明させてもらおうかの、ほれ――見えてきたぞい、あそこの岩をずらすと洞窟に入れるようになっておるのじゃ」
そういわれて前を見ると、ゆうに3メートルはあろうかという岩が目の前に……こんな重そうなのをずらす事なんてできるのか?
「はっはっは、初めて見た奴はいつも同じ反応じゃな、なぁに問題は無いさ、この岩はな……『霧』の塊の様なものでな、たしか幻霧石とかいったかのぉ」
そう言うとマーロックさんはひょいっと岩を持ち上げて横に置きなおした。 先に説明を聞いて無ければ腰を抜かすような光景だ……岩をツンツンとしてみると少し弾力があり、これだけの力で大きな塊が揺れる。
「はぁ……不思議な素材があるもんだな、はぁ……」
「はっはっは、この岩の素材が今回の目的の糸じゃよ、アラクネの糸はこの平原の霧を体内に取り込んだ精錬された縦糸を使って作られているのじゃよ」
なるほど……確かに丈夫そうだししなやかさもありそうで、魔力に対しての耐性もありそうな、ものすごく便利な素材みたいだな。
「あぁ分かったよマーロックさん、暗くならないうちに早く行こう」
「そうだぜ、早く行ってさっさと街に帰ろうぜ」
「焦るではない、蜘蛛は目は悪いのじゃが、速く動くものを獲物だと認識する習性があるのじゃよ、洞窟の中にある程度入ったら、抜き足差し足しながらのだるまさんが転んだ……じゃ、どうやっても時間はかかってしまうのじゃよ、さぁ行こうかの、ほれほれさっさと付いてこい」
そういうとさっさと洞窟に突入していった。
…… アリアドネーの洞窟(一層)
蜘蛛がたくさんいて糸だらけなのかと思いきや、岩と土によって作られている所謂洞窟というような構造となっていた、地上からは見えなかったのだが何故か木の根のようなものがところどころに見えている。
蜘蛛なんてこの層ではほとんど見ない、隠れてみているという訳では無いと思う、たぶん。 何回も分かれ道はあったのだが、さすがに来た経験のある元冒険者だ、この辺りには魔物や魔獣の気配もないこともあり、直ぐに下の層へと降りるためにある程度整備されたエリアに到着した。 そこには昔の冒険者がさらに地下の層に戻る前に、外よりも安全な野営地として使用していたテントなどが残されていた。
「このテントはセヴァンのじゃな……懐かしいのぉ、使わせてもらうぞい。 ほれ、お前たちも休め、明日はだいぶ歩くことになると思うぞい」
「なんだ爺さん、まだ洞窟に入って間もないのに休憩なのか」
「フラム、とりあえず経験者には従っておこう、意味のないことを言うとは思えない」
…… 第二層
ちらほらと小さな蜘蛛がかさかさと、またはツーーッっと糸を伸ばして降りてきたりと、蜘蛛の姿を見るようになっては来たのだけれども、魔獣というような大きさではないようだった。 何回か分岐点があったのだが、マーロックさんは鼻歌交じりに、俺たちが「次はどの道だ?」「オイ! 爺さん!」という声にも答えることは無く、スタコラと歩いていく。
…… 第三層
サクサクと進んでいたマーロックさんはこの層に入ってようやく歩みを止めた……。
「おい小童ども、一番奥のアラクネがいる場所になれば話が通じるから問題は無いが、この次あたりからの蜘蛛たちは本能のままに襲い掛かってくるのじゃ、本能には本能、松明の火を切らすと大変なことになるからなぁ、集中を切らさずに次の層に進むぞい、良いな? フラム君」
「おぉよ! (よくわらんないけど)大丈夫だぜ」
「まぁ……どうせ親玉は既にわしらの侵入に気が付いているだろうがな」
最後に俺たちにぎりぎり聞こえないように呟き、再び歩みを進める。




