元奴隷、火の町での出会いと修行
翌日の早朝、唯一年を取らなかった漁師の『フラム』が修道士の『マチル・プラム』に連れられて俺とアッシュが泊まっている宿へとやって来た。
「ナ……ナギ殿、いらっしゃいますか? 朝早くから申し訳ないのですが……ふぇぇ」
いつもの修道士さんだな。
「ふぇぇ……あぁぁ……ごほん! ナギ殿! こちらのフラムさんからお願いがあるそうです!!」
あたふたとしながらも、とりあえずフラムさんを紹介して話を促してくれた。
「初めまして、俺はフラムです」
… … …
え? それだけ?
「あいやぁ……、フラムさん? それじゃなにも話が進まないよ?」
修道士さんがフォローをするが「ふぇぇ」を言わないのも珍しいな。
「え?! あ……えぇとですね、突然26年もたったと言われても飲み込めないですし……なんですがね? 一緒にやって来た仲間が突然年を取ってしまって引退ってなってしまったんです、特に漁師がやりたかった訳でもなかったんですが、こうなってしまうと漁師を続ける気にもならなくてですね……」
そんな言葉にしんみりするかと思いきやそんなことは無いのだ。
「さぁあフラムさん、思いのたけをうちまけるのらぁぁあぁ!」
はぁ!? 修道士さん……どうしたんだ?
「まったく――、マチルさんは……昨日遅くまで話を聞きすぎたかな……」
そんなことを独り言のように呟くと続きを話し始めてくれた。
「とにかく続きなんですが、俺……孤児なんです、海から流れ着いたところを当時の棟梁に拾ってもらってそのまま漁師の世界に入って来たんですが……なんというか……」
少し間を開けて続ける。
「マチルさんから聞きました! お二人は旅をしているんですよね! 俺……外の世界を見てみたいんです! ナギさんやアッシュさんは教会を巡る旅をしているとマチルさんに聞きました! いつまでも旅をしているわけにはいかないのは分かっているんですが、この町だけで終わりたくないんです!」
その気迫のこもった声に俺やアッシュは頭を縦に揺らす事しかできなかった。
……
翌日からはそのフラムとアッシュと共に修行を開始した、もとより火の魔法をこの町で修行する予定はあったのだ、それは問題ない、
漂流者の残りのフラムが修道士のマチル・プラムに連れられてきた。
フラムは先代の修道士が海でどんぶらこしていたところを見つけた孤児なのだそう
いままでの気が合う漁師仲間が年を取ってしまい引退、新しい仲間をいまさら作るのもいやなのだそう
そしたらマチルがおもしろい人がいると俺のことを紹介したらしく、一緒に旅をしたいと乗り気になったようだ
とりあえず、少しここで修行する期間が欲しいからまずは一緒に修行してみて、性格を見てみるということになった、修行をもっとしたほうがいいとアッシュも前から言っていたので異論もない、さらにその間にフラムの面倒を見るのはアッシュということで決まった。
……
そして修行。
火の町なので火の魔法、そして風の基礎、水の基礎も使える人がいるということなのでおまけで教えてもらうことになった。
火はマチルさんから、風はなんとフラムから、水は先代漁師棟梁である。
教わるのは定番『火魔法:灯』トーチ、『火魔法:火弾』ファイアバレット、『火魔法:炎質変化』
トーチは灯り用、ファイアバレットは攻撃用で炎質変化は熱を調整するための制御技術である、聖痕のお陰かは分からないがこれらを30分で習得することが出来た、幸先がいい。
「ふえぇぇ……アッシュさん? この子なんなの? ありえないでしょ」
「あははは……、あぁそういえば土魔法や武芸を教わっていた時にも一度見たら既に知っていたかのように扱えるようになってましたね」
「ふぇぇええ!? 見ただけで?」
横でフラムまでも異常者を見るように見てくる。
「そんなこと言われても……、いいじゃないですか、悪い事ではないんですから」
「そうなんだけどね、普通は各属性への変質を覚えるだけでも早くて半年とか長いと数年かかるのが普通なんだよね」
「まったくナギ殿さんは異常です……! って聖痕を二つも持ってるんですものね、最初から異常でした」
そう何度も異常異常って言わないでほしいな、あれ? フラム? どうした?
「ナギさん! マチルさん! 今聖痕って言いましたか?」
「そうなのよ、このナギ殿様はなんと完全な聖痕を二つも持っているのよ」
マチルさん、俺の呼び方がコロコロかわるなぁ。
「ちょっと見せてください……」
そう言って俺の左手を取り紋様を見つめるフラム、少し首をひねって自分の手を見つめる。
「俺にもこんな模様があるんですけど……マチルさん、これが何だか分かりますか?」
どれどれとフラムの手をのぞき込むと……。
「聖痕だ……、一部しかないから欠痕と呼ばれることもあるけど、これでも十分宮廷兵士の兵士長になった前例があるような便利な風の聖痕よ、聖痕持ちがいるだけでも異常なのに複数持ちと欠痕持ちと……ふぇぇぇ」
あきらめのような深いため息をマチルが吐いたところで今日の修行はお開きとなった。




