元奴隷、再建と宴会と漂流者と
そのあとは大変だった、白い空間でであったカグツチの声、見た目、話し方、様々なことを何度も聞かれた、そして神から直々に声をかけて頂き神託を受けたということから『使徒』様とまで言う人まであらわれてしまい、拝まれてしまいポルカ家のリビングに避難するまではひたすら声をかけれらたのだった。
家の中にはクレタさんとトルカ、そして2名の衛兵と家政婦。
「すまなかったな、おいオカン! 客人だ茶を入れてくれ」
……おかん?
「了解しましただ、何人分ご用意すればよいですかえ?」
「あぁ……っと、6人分だ、お前も飲みたければ7人分でもいいぞ」
「はいはい、わかりましただ、少々お待ちくだせい」
クレタさんより若い(たぶん)のにやたらと老人のような話し方をするその人はオカンという名前の家政婦さんなのだそうだ、ポルカ家は奥さんを早くに亡くしてしまい、このオカンさんがおかんのように……。
――げふんげふん、とにかく母親のように家の手伝いをしてきたらしい、ほうじ茶を人数分+自分の分も淹れて、ぷはぁと一息ついていた……自由だな、首に首輪と緑のタグが付いてるのに。
※緑タグは戦争奴隷の証
皆お茶を飲んで一息……二息……、カグツチについて話を聞かれながら何杯もお茶を飲んでいたのだが、不意にオカンに注意された。
「あなたたち、教会を直すんじゃなかったのかえ? こんなところで油を売ってないでさっさと行ってけろ! 夕餉はうまいもんあんたら全員の分をしこたまこしらえておいちゃるだ」
……
そうして教会の再建に移ったのだが、ベインバンブーの伐採と建材への加工はクレタさんの号令によってすぐに完了する、建て直すために教会跡地の整地と石像の一時退避、その他の雑事は町民が率先して動いてくれたことによって瞬く間に進んでいった。
木材はないのだが、丈夫なベインバンブーが使われているのだ、骨組みは簡単に作られていく、そして壁を創るために下地として竹小舞を編み、その上から土魔法で土を塗り固めた。
急ピッチで作業はすすめられ、何とか作業は夕方までの終えることが出来たため、町長さんの計らいで教会前を使って町人層での宴会が催されることとなった。
オカンの料理は宴会に回されることになり、オカンは「それじゃこの量じゃぜんぜん足りんじゃないのさ、ええさ、ぎょうさんこしらえたるだ」とか言っていたそうだ。
……
広場は昼間とはまた違った騒がしさに包まれている、昼は驚きと不安だったが今は興奮とお祝いのムードから、皆陽気に酒を飲み歌い、声を張り上げて教会についてと灯台について、その町の2大シンボルが復活したことを喜び合っている。
海沿いなだけあってその宴席には海産物が山ほどあり、既に調理されたものや頼んだら焼いてくれるもの、『てんぷら』とかいう油で揚げた料理に生魚、『さしみ』とかいうらしい、初めて見る料理が珍しく思っていたがこれについてはアッシュの方が喜んでいた、アッシュの生まれは内地の山奥だったそうで、魚は食べることが出来てもかなり辛めの塩漬けや、パリッパリになってしまったような干物だけだったようだ、涙を流して食べている。
オカンはものすごい勢いで空いた皿を洗って次の料理を盛り付ける、この人……ただものじゃないんじゃないか?。
「さぁさぁ、わけぇもんたちぃ!ぎょうさんくっていきなよぉお!」
その後もバリバリと料理を作っていくオカンはこの場を取り仕切る料理長かのように、明け方まで猛威を振るうのだった。
って終わるのがこの夜ではない、灯台の物語にはまだ続きがある。
月は天頂を過ぎ一刻ほど過ぎたころだろうか、復活した灯台の頂上からの景色を酒の肴に酒をやっていた町民の数名が、大きな声を、この夜中に張り上げ始めたのだ。
酔っぱらてしまい広場で寝落ちしていた漁師達がその大声のためにむっくりと起き上がり灯台の方を見上げる、だが灯台の上にいる連中もずっと起きて酒を呑んでいたのだからまともに呂律が回ることは無い、大きな声からは何も状況を把握することは出来なかった。
それでも何か大声を上げて海の方を指差している、その方向を見てみると、なにも見えない……真っ暗だ――いや違うぞ、灯台の灯りが一周してその方向を灯す度に小さな漁がこちらに近づいて来ている事に気が付いた。
それを見て漁師衆は大きな声をあげる。
「てめぇら、船を出すぞ! 鶴翼で対象を囲め!」
棟梁と思われる老人が声を張り上げると、周囲の漁師たちが立ち上がり、自分たちの船に乗り込んでいく、そして見事な連携で鶴翼の陣を引いて行った。
※鶴翼の陣、V字型の陣形で相手の先行、又はその全てを取り囲む戦法
たった一艘の船を相手に最大の防衛陣を引くのには驚いたが、さすがに海沿いだからなのか海賊などの対策がなされているのだそうだ。
その船が鶴翼の中にそのまま進んで入って来る、だが漁師たちの船はその船に対して囲みこんだり攻撃したりはせず帰航をはじめた、さらに歓迎の印を揚げるかのように大漁旗を揚げ始めてさえいる。
その船団と船が港に着こうかという距離になったとき、漁師を取りまとめる船団の棟梁が叫ぶ声が耳に入って来た。