元奴隷、千里灯台物語(前)
「おい! 貴様! 何なのだこの騒ぎは……いったい何をしでかした?」
駆けつけてきた衛兵の中で金髪をたなびかせた男がそう言ってきた。
「なにもしてない「いません」」
二人でそう返事をする、正確には祈りは捧げたけどね。
「ではなぜこのような騒ぎになるんだ!答えろ!」
さらにまくし立ててくるが、壮年の衛兵が拳でガツンとその男に拳を振り下ろした。
「っっってぇな、クソ野郎……」
「クソ野郎ではない、ファーレン隊長と呼べ」
そう言いながら、もう一発ガツンとその男に拳を振り下ろした。
「ッグォォ……、ちっくしょ……」
両手で頭を押さえて座り込んだ、流石にさっきのゲンコツは痛そうだ。
「悪いな坊主、とりあえじ個々の状況を説明してくれるかな?」
ファーレン隊長というこの人はガタイは良く、白髪に黒い髪が少し混じったような堂々とした人だった。
「これを……これを見た人が大きな声をあげたので、人が集まってきました」
左手の甲をこのファーレンという人に見えるように差し出す。
「ほう……、これは聖痕か? しかも二輪の文様……火と土か」
「隊長! さすがにそんなのはありえないでしょう!? 聖痕を持っているだけでも聞いている限り200年ぶりなのにそれが二輪ですよ?」
「隊長、俺もさすがにこれはどうかと思います……その聖痕が本物かどうか調べたほうが良いのでは?」
一番若い隊員も態度は崩さないまでも、信じられないといった様子だ。
「まったくお前たちは……、ダサーラの話は知っているだろうに、たぶんこの子がその子だろう、だが信じられないという気持ちも分からなくは無いからな、どうだ『千里灯台』の『百年行』に挑んでもらうというのでどうだ?」
隊長さんはニヤリとしながら隊員に目をやると、それに納得するように二人は大きく頷いた。
「それなら俺は文句ない、こればっかりはな」
「百年行なら確かにぴったりですね、僕もそれで良いです」
なんだ? なんだ? 勝手に何か決められてるぞ?
「その百年行とはいったい何なのですか? 勝手に話を進められてしまっては何も分かりません」
アッシュも同じ気持ちだったのか、先に言ってくれた、自分が言うのもなんだけどまったく奴隷らしさは無い。
「おいフリート、説明してやれ」
「は! まずこのポルタの港町はこのベリー大陸の最南端に位置するんだ、そしてそこに200余年前に灯台が建てられたんだ、灯台の灯りは最南端の町の印として漁師や開拓使節団に位置を教えるのにそれはそれは役に立ったらしい……だけどそれは120年ほど前から徐々に弱くなっていって100年ほど前にはまったく灯台としての役割を果たさなくなってしまったと言い伝えられているんだ」
フリートというらしい衛兵が灯台について説明してくれた。
「うむ……そうだな、続きは私が話そう、消えた原因は簡単なのだが灯台に設置された光源となる魔道具が魔力切れになっただけだ、だがその魔道具には何故か誰も魔力を補充することが出来なかったんだ、それで懸賞を懸けて魔力補充することが出来る人を探したんだ、だが与えるだけでは町は潤わないからな、少しばかりの参加費を徴収しているのだ……だが、まぁ分かるだろうが成功した者はいない、それで最近では旅人や冒険者、求道者といった連中から金や物品を巻き上げる儀式というか……洗礼のように扱う風潮があるんだ、それが百年行……百年業という呼び名で受け継がれてきたのだ」
業?
「フリート隊長、そろそろこの人込みを解散させた方が良いのではないでしょうか?」
「ちっ……、さっさとふん縛っちまえばいいんだよこんなやつら」
フリートっていう人は打開策を探すタイプ、もう一人の……誰だっけ? はざっくりタイプらしい、そして隊長さんが続ける。
「まったくお前らは……、とにかく灯台にある導きの大魔石に魔力を注いでもらえばわかることだろう? なんて言ったって……200年前に灯台を建て、導きの大魔石を発動させたのも火神など複数の聖痕を持った青年だったのだからな」
「それもそうですね……」
「はっ……!、化けの皮が剥げるのもあと少しだな」
――そもそも俺はこの聖痕を見せただけなのに、なぜこんな流れになるのか……。
まぁいい、火の聖痕を持っている事には違いがないんだ、灯台に行ってみるしかないか。