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第三話 決断

ふむ、と、大公は少し考えるように良く手入れされた顎髭(あごひげ)(しご)きながら、ゆっくりと語りだした。


「確か、貴卿がこの世界に来てから10年になるかな?

ここ数年は、様々な会議の席で余も直接そなたを見掛けることも増え、貴卿の人となりについてはそれなりに分かっている積もりではある。


そなたは頭の回転も早く、また清廉実直(せいれんじっちょく)な人柄と誰もが口を揃える。

それは、余も同じ考えである」


僕は恐縮しつつも、大人しく話の続きを待つ。




(さと)いそなたなら分かると思うが、魔王という世界共通の敵が倒された今、これからは復興と、政治の時代となる。

それは即ち、形を変えたにせよ、これからも生きるための闘いの日々が続く、という訳だ。

ここまでは良いかな?」


ええ、と、僕は(うなづ)く。


「そこで、なのだが……」

大公は語る。


まずは僕の政治的な立ち位置。


僕は世界を救った英雄であり、この国の民衆だけではなく、世界中の人々に対して圧倒的な人気と知名度を持つ。そしてまた、僕は世界最強の、言わば人の姿をした最終決戦兵器だという事実だ。

確かに僕がその気になれば、どこかの国の上層部を城ごと消滅させることも可能かも知れない。


そんな僕の存在は、この国、フラヴィア王国にとって両刃の剣であった。


自国にいては、その武力は為政者を脅かす脅威であり、万が一他国に流れれば、その国が世界を征することも不可能では無くなる。

更に極端なことを言えば、魔王が居なくなったこの世界では、僕が新しい『魔王』になる可能性だってあるのだ。


僕の動向次第では、世界は再び動乱の時代に変わる、ということだ。





そうした状況下で、フラヴィア王国と僕の存在の折り合いを付け、現状の平和を維持していくための方策が、僕への爵位の授与と領地の下賜だという。

これにより、僕はフラヴィア王国の政治体系に正式に取り込まれ、少なくとも王国と僕との軋轢は無くなる。


続けて、大公の一存だとの断りがあったものの、その先も既に考えているそうだ。

なるべく早い段階で王族の娘と(めあわ)せて、僕を王家の縁戚として国王の盾にしたいとのこと。

そしてそこまでしなければ、兄であるフラヴィア国王は決して僕に安心できないだろう、と。




大公も随分と率直な物の言い方をするな、とは思ったが別に嫌な気はしなかった。

それよりも、僕は今一度、自分の今後について真剣に考えてみる。


確かに僕は、なにものにも縛られない自由な生活を心の底から願っている。

しかしながら、僕という危険すぎる究極兵器の存在を、この国の国王に限らず、この世界(ワルデリア)の全ての為政者が放っておいてはくれないだろうということも、想像に難くない。


悔しいけれど、多分、僕がこの世界(ワルデリア)で今後も平和に生きていくためには、どこかの国の庇護(ひご)を受けるしか無いのかも知れない。


真正面から戦うだけなら、どの様な敵が来ても引けを取らない自信はある。

だが、幾ら僕が勇者だからとはいえ、一人で居れば必ず(すき)が生まれ、そこをつかれれば、無事でいられる保証はない。

しかも、これから長い人生のなかで、いつ、どこで、誰から襲われるか予想もつかないのだ。


敵は、常に正面から来るわけでもない…。





僕は、ここが正念場だと考えた。


ここで考えた身の振り方が、この後の僕の人生の全てを決めるかも知れない。

必死で考え、王国との妥協点と僕の今後の人生の展望を両立する最適解を探す。


正直、これまでの不安と焦燥感のなかでも、薄々ながら考えていた事がある。

それが今、ハッキリと見えた気がした。




僕は大公に向き直る。


「ベルクブルク大公殿下、領地を頂く件については、承知しました。」


そうか、と、普段は表情を余り表に出さない大公にしては珍しく安堵した様子を見せる。


「ただし、……」と僕は続ける。

僭越(せんえつ)ながら、私には頂きたい領地が御座います」


「ふむ、申してみよ」


「それは、クレーヴィア地方です」


大公はその地名を聞いて、怪訝(けげん)な表情を浮かべる。


「クレーヴィアとはまた……。貴卿に任せようと考えていたルクセニアとは比べ物にならない程の貧しい土地柄。

と言うか、有り体に言えば、我が国でも有数の治安の悪さの辺境の地。それでは他国への外聞も悪く、貴卿と我が国との離反を画策する温床ともなりかねん」

そこで大公は一旦言葉を区切ると、

「……とはいえ、貴卿にも何か意図が有るのだろうな?」


さすがは国王の懐刀と言われるだけの(うつわ)だ。頭ごなしに否定するのではなく、僕の話を聞いてくれるようだ

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