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第二話 ベルクブルク大公

幾つかの燭台が灯されただけの薄暗い室内で、僕は大公の従僕に促されて、大公と向かい合ってソファーに座った。


大公は、(しば)しの逡巡(しゅんじゅん)のあとに(おもむろ)に話を切り出す。


「余は、貴卿らの為した偉業に心より感謝すると共に、何かしら具体的なものでその功に報いたいと考えている。

これは、我が国王陛下のお気持ちでもある」


僕は、大公の発言に(うやうや)しく一礼してから、

「ベルクブルク大公殿下、(わたくし)の処遇に関しましては、既に充分良くして頂いています。

先日叙爵頂いたローデンシウス侯爵の爵位だけでも、平民出身の自分にとっては身に余る光栄だと思っております」


ふむ、と大公は僕の真意を測るような視線を向けながら、


「その、爵位についてだが、聴くところによると、貴卿は爵位を受けたものの、侯爵領の受け取りは拒否したとか……。

端的に聞くが、何か、その領地に関して不満でもあるのだろうか?」


ここまで話を聞いて、大公の言いたいのはその話か、と僕は理解した。



先日、この国の国政を(つかさど)る内務卿から、領地を下賜する旨の非公式の打診を受けたが、それをキッパリと断わっていた。


考えてみれば、貴族(かれら)の常識からすれば、叙爵や封土の下賜は人が望みうる最高の報奨であろう。

その報奨を断られた事が、よほどの衝撃だったのか?

それで、こうしてわざわざ王弟殿下がお出ましになった、ということかも知れない。



とはいえ、僕も理由なく断った訳では無いし、簡単に自分の意志を変えるつもりも無かった。


僕は大公に向かい、

「そのような些事(さじ)に、大公殿下のお心を(わずら)わせてしまい、まことに恐縮です。

ただし、その点につきましては、既に内務卿にお話しした通りに、慎んで辞退申し上げたはずですが……」


「無論、その時の話は耳にしている。

しかしながら余は、貴卿の口から直接理由を聞きたいと思っているのだ。

それに、もし貴卿が望むものが他に有れば、最大限の便宜を図れるとも思うが」


大公の強い視線を受け、僕は中途半端に誤魔化すことは出来ないと悟った。

僕は、慎重に言葉を選びつつ話し始めた。


(わたくし)は、内務卿よりご提示頂いた領地に関して、(わず)かばかりの不満もある訳では有りません。

むしろその逆で、平民上がりのこの身には、余りにも過ぎた栄誉ではないかと考えております」


確かに僕は魔王を倒した勇者ではある。

だが、この国の厳格な封建的身分制度においては、もともと一介の平民にしか過ぎない身だ。

それが、今まで次々と栄達を重ねて、遂には先日、爵位としても上級貴族である『侯爵位』を授与された。

この上更に、我が国でも有数の豊かな穀倉地帯を(よう)する直轄領の一部を拝領するなど、僕の功績を以てしても、明らかに分不相応だった。


「その様な栄誉は、我ながらただただ畏れ多いばかり。

非才の身に対する過分なる報奨は、臣下のけじめとして、他の高貴な方々に対しても決して良い心証を与えるものではないと愚考いたします。

それは、誠に恐れながら、ひいては国王陛下の御為(おんため)にもならぬことかと。

それゆえ、領地についてはご辞退申し上げた次第です。」

僕は、大公に対して深々と頭を下げる。



本音を言えば、僕は既に彼等から言われた通り、魔王を倒してやったのだ。

これ以上は誰にも、僕の人生に干渉されたくはなかった。


下手に領地など貰ってしまえば、封建領主として正式に王国の貴族社会に組み込まれてしまう。

それは即ち、この先ずっとこの国の思惑に縛り付けられるということなのだ。


確かに僕は、この先の自分の人生に大きな不安を抱えている。

でも、だからといって誰かに頼る積りもないし、むしろ誰にも縛られずに自由に生きていきたい。


魔王を倒した今、僕は心の底からそう願っていた。

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