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第一話 王都への凱旋

魔王との戦いの(のち)、僕ら勇者パーティーの四名は、護衛の騎士団と共にフラヴィア王国の首都アスパダーナに凱旋した。


隊列を組んで城門から目抜き通りへ進むと、沿道には無数の人々が押しかけ、爆発的な歓呼で僕らを迎え入れてくれる。

人々は口々に僕らの偉業を称え、夥しい量の紙吹雪や花束が宙を舞う。

その美しい熱狂の嵐の中を、僕たちは粛々と進んでいった。


やがて王宮に辿り着くと、すぐさま国王より魔王への勝利が(せん)せられ、その日から、約一ヶ月に渡って祝勝のセレモニーが続くこととなった。


この15年間、人類を迫害し、世界を(おびや)かし続けてきた魔王が居なくなったのだ。

対魔王戦を指揮してきた王侯貴族はもちろんのこと、文字通り全ての人が浮かれ、騒ぎ、平和の到来を心の底から喜んでいた。




しかし、その歓喜と祝福に満ちた一時期の喧騒(けんそう)が落ち着いてくると、僕は一人、次第に心が冷えていくのを感じていた。

言いしれぬ不安と焦燥感が、日毎に募り、僕を苛み始める。

魔王を倒すためにただ闇雲に戦い続けてきたけど、その魔王が倒された今、僕は、何をするべきなのだろうか?



王都に帰還してからしばらくして、僕は勇者に関する過去のさまざまな書籍を集め始めた。

これまでにも、魔王が姿を現す度に幾多の勇者がこの世界に召喚されていたようだ。

そして、この国の長い歴史の中で、その内の幾人かは僕と同じように魔王を倒し、この王都に凱旋したと記録にはある。


しかし、いくら詳細に調べようとも、その後の歴史の記録のなかに魔王討伐後の勇者の足跡を辿(たど)ることは出来なかった。


救国の英雄達は、世界を救った後に何故か一様に歴史の闇に埋もれ、その行方は(よう)として知れない。


━━━魔王の居ない平和な世界。


裏を返せば、それは勇者を必要としない世界なのだ。









「どうしたの、浮かない顔をして?」


既に何回目だかも分からない王宮の盛大な祝宴の席で、勇者パーティーの一人であるルナが僕に話しかけてきた。

緩く波打つ金髪に縁取られた美しい顔立ちが、心配そうな表情で僕を見ていた。


「うん、まぁ、さすがにちょっと疲れたのかな?」


曖昧(あいまい)な返事で誤魔化そうとしたが、彼女はその澄んだ青い瞳で僕の黒い瞳を真っ直ぐ見つめながら、

「ここ最近、ずっとそんな『心ここに有らず』って感じね。

何か悩みが有るなら、良かったら聞くよ?」


彼女らしい、優しく誠実な言葉。

だが、僕はその彼女の真っ直ぐな視線をつい外してしまう。


「変な心配かけてごめん。でも少し疲れてるだけだと思うから大丈夫だよ」

そう言って僕は彼女との会話を打ち切る。



眼の前では、無数の燭台(しょくだい)に照らされ、きらびやかに着飾った高貴な人々が談笑し、飽く事なく久々の平和と互いの無事を祝いあっている。

そんな光景を眺めながら、僕はこのモヤモヤした気持ちを素直に彼女に話す気にはなれなかった。






「お話し中に、失礼しても宜しいかな?」


微妙な空気が流れる僕とルナの間に、一人の貴族の男性が割って入ってくる。

長身痩躯(ちょうしんそうく)を豪奢なマントで包んでいるその貴族は、現国王の弟にして最側近と名高い、エトーリア大公国の君主ヘンリエ=ベルクブルク大公だ。


僕らは腰掛けていた椅子から立ち上がり、胸に手を当て、敬意を表す深いお辞儀をする。


「仲間同士で積もる話も有るだろうが、今宵は是非、勇者殿と()()語り合いたいと思ってな」

王族に連なる大貴族らしい優雅(ゆうが)さを損なわない範囲で、大公は僕とルナに多少の意図を含んだ微笑みを向けてくる。


「ベルクブルク大公殿下、(わたくし)は少し、挨拶(あいさつ)したい方々もいるので、失礼ながら席を外させて頂きますが宜しいでしょうか」


ルナが雰囲気を察したのか、大公の頷きを確認したあとで、感じの良い会釈と共に卒なくその場から離れていった。


一人取り残された僕は、大人しく大公の言葉を待った。


「……ローデンシウス卿、少し二人だけで話をしたいのだが、場所を移しても構わないかな?」

「えぇ、もちろんです、大公殿下」


僕は大公の背中に従い、会場に隣接した無数の小部屋のひとつに入った。

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