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第十三話 虎髭団

「只今到着致しました」


天幕に入ってくるなり、軽く胸に手を当て優雅な略式礼を見せているのは、我が兵団の副団長の1人カール=トリアーだ。

下級貴族の落とし種とかで、一族の厄介者として煙たがられて早くから近衛兵団に入隊させられた、という曰く付きの人物だ。


軽くウェーブの掛かった長めの金髪で容姿端麗。我が陣営では貴重なイケメン担当。

もう1人の副団長であり、質実剛健を絵に描いたような浅黒い肌のへルマン=ザルツァとは対極をなす人物像だ。

ま、余りに違いすぎる人柄ゆえか、かえって二人の仲は良好だと聞くけど。



いずれにせよ、兵数が心許ないこの状況で、彼とその配下の援軍100名の到着は非常に心強い出来事だった。




ただ、彼の到着は全く予期していないことだったので、最初にその点について彼に尋ねた。

それに対してトリアーは、


「全てはエルリック殿の指図です。

我が君出発後、兵士や官吏の募集をしたところ想定以上の人数が集まったため、従軍経験のある一部を急遽武装させて3日でここまで連れてきた、というのが実情です」

「なるほど、しかしエルリックは、なぜ僕らに兵が必要になると思ったのだろう?」


トリアーは貴族然とした優雅な微笑みを浮かべながら、

「街道の治安の為に山賊を捕縛した場合、その後斬るにせよ活かすにせよ、我が君の兵が少なすぎると出発前からエルリック殿は思っていた様です。

ただし、侯都の守りも一定数必要な為、やむなくその様な数で送り出してしまった事を深くお詫びして欲しい、と言っておられました」


僕は、エルリックの輝く薄茶の瞳を思い出しながら、その先を見越した仕事ぶりに素直に感心する。

そのお陰で、色々出来ることが一気に広がった。

先ずは山賊達の処遇を安定させたり、援軍の練兵支援のため暫くここに留まることになるだろうが、それらが落ち着けば直ぐにでもここを発つこともできる。


「なお、こちらがエルリック殿からの書簡です。詳細はそちらに記述があるとのことです。ご覧下さい」


トリアーが、蝋封された羊皮紙を懐から差し出してきた。

僕はその場で素早く目を通して、


「なるほど、兵士や官吏の募集条件を高めに設定したみたいですね。

この調子でいけば、あとひと月も有れば必要な人員だけでなく資材も確保出来る見通しとのことです。

その後で、街道整備を開始する起工式を侯都にて行いたいと書いてあります」


その文面にデニスが意外な反応をする。


「起工式ですか!

多分、ここ周辺の施設の建設は丁度一ヶ月くらいで軌道に乗ると思います。

バーゼルでの起工式には是非参加したいと思いますので、どうか我が君、お許し下さい!」


正直、デニスがそこまで起工式に熱くなる理由が分からなかったが、そこまで熱心に言われれば「そのように計らいます」と答えるしかなかった。

土木技術者にとって、起工式ってそんなに胸熱なの?


たぶん彼特有の性癖だろうな。



そこで気が付いたが、一ヶ月後の起工式には僕も参加せざるを得ないだろう。それなら、ここから先へ(せわ)しない旅を続けるよりは、それまでこの地に滞在する方が良いかも知れない。


まぁ、治安維持の遠征は、当面は新兵の訓練も兼ねて、ここをベースに周囲へ派遣する形で行えば良いかな。



「ところで、測量はどうしますか?

もしこの先の測量を続けたいのなら、援軍も来たので、そのための護衛を付けられますけど……?」


僕はカルロに確認する。


「そうですね、あと2~3週間でこの街道の測量も終えられそうですから、私はこのまま先に進みたいです」


僕はザルツァに護衛の人員を出すよう告げると、騎兵・歩兵合わせて10人つけることとなった。


さて、色々有ったが、これで大抵のことは打ち合わせることが出来た。

まずは、朝食を食べたあと、山賊幹部の聴取を開始しよう。








文官用に建てた丸木小屋を臨時の取調室として、まずは山賊の頭目以下幹部の聴取を順番に行った。

尋問はベックマンが、記録の作成をデニスが、そして僕とザルツァ、トリアー、フィリーが立ち会った。

ちなみにカルロは、街道測量の出発準備に取り掛かるためこの場にはいない。



山賊の幹部は全部で四名。

ちなみに彼等は『虎髭団(とらひげだん)』というらしい。

その『虎髭団』の幹部は、頭目である筋骨隆々のガルミネ。小柄で小太りの『太っちょ』ことクロッコ、砦の襲撃部隊を指揮した痩身坊主頭の『眉なし』ことユライル、そして馬車襲撃を指揮していた『モジャ髭』のヤジークだ。


彼等の話を聞いていて感じたのは、頭目のガルミネは、意外なほど部下からの信頼が厚いようだった。

確かに、100名以上の構成員が彼に従ってきた訳だし、それはただの粗暴なだけの人物に務まることじゃないだろう。

それなりに手下の面倒見も良く、特に戦利品の分配を極めて公平に行っていたらしい。



最後に、そのガルミネの聴取を開始する。


姓名と出身地を申告させた後で、ベックマンから幾つかの質問をした。


基本的に出自も定かじゃない彼等ならず者集団の中で、彼はフラヴィア王国所属の騎士の従卒という、比較的確りした背景を持っていた。

しかし、魔王軍との戦争によりその騎士が戦死、行く宛も無く故郷のクレーヴィアに戻ってきたが、結局は食べることが出来ず山賊に身を落とした、とのこと。


山賊となって暫くすると、その頼りがいの有りそうな風貌からか徐々に人が集まり始め、気がつけばこの街道で最大の山賊団となっていたらしい。


その他、部下のことや根城の事など一通り聞いてはみたが、ガルミネはその全てに対して素直に答えた。

普通、山賊の頭目が捕らえられれば、待っているのは死刑だ。彼もその覚悟が有るのか、もはや隠し事をする積もりも無いのかも知れない。


死地に臨んで、彼なりの潔さを感じた。



最後に何か言いたいことはあるか?と問うと、彼は『出来る限り手下は救って欲しい』との希望を口にした。


ベックマンが、『山賊や海賊は、捕縛されしだい即処刑』が慣習だ、と冷たく答えると、


「俺のような山賊稼業にドップリつかったのはしょうがねぇとして、まだ年端もいかねぇ若造もいれば、昨日今日入った奴もいる。

あんたら貴族達から見れば、虫けらみてぇな命かも知れねぇが、少しは考えてやってくれ」


それに対してベックマンは流石(さすが)に色をなし、


「街道を通る無辜(むこ)の民に対して、無情にも虫けらの如く扱いその命や財貨を奪って来たのは貴様ら山賊だ!

そんな貴様らが、自らの罪を裁かれる時に『情けを掛けよ』などと抜かすとは、余りにも虫が良すぎる話ではないかっ!」


彼の怒声に、ガルミネは(わず)かに肩をすくめ、


「……まぁ、ちげぇねぇ。だが俺は言いたいことを言ったに過ぎねぇ。

決めんのはあんたらだ、好きにしな」

と、そっぽを向いてしまった。



僕は、ベックマンの言い分が当然だと思う。民主主義も人権思想もないこの世界『ワルデリア』であってさえ、彼等の蛮行は絶対に許されるものではないのだ。

が、その一方で、国王の直轄領にも関わらず、半ば打ち捨てられてきたこの貧しい辺境の地で生きることの過酷さも、充分に理解している積もりではあった。


それが、僕がこの件で、彼等に対して非情になりきれない大きな理由のひとつだった。





結局、幹部連中の聴取を全て終えるのに結構な時間が掛かった。


その後、僕らはその場にいた全員で具体的な対応を話し合う。特に幹部を処刑するかどうかについては、何人かの意見が分かれ直ぐには決まらなかった。が、最後には、全員から『僕の決断に任せて貰う』という一任を得る。


そうして(ようや)く出た結論に従って、僕らは行動をおこすことにした。



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