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第十一話 夜襲

「あ、……来た」


というフィリーの(つぶや)きと共に、遠くから(とき)の声が聞こえたかと思うと、黒々とした木立から人影が次々と溢れ出て来る。

まるで野犬の群れのように勢い良く駆け出してくる様子は、広範囲の木々を切り倒して見通しを良くした甲斐もあり、僕にも辛うじて分かった。


それにしても、鬨の声を上げたら奇襲にならないんじゃないか、と、敵の頭の構造が少し心配になる。


そのまま観察を続けていると、彼らは砦の30m程手前の距離で突然立ち止まった。

詳しくは分からないが、蛍火のようなモノがチラチラ見え、何かの作業をしているようだ。


僕はザルツァの方を見ると、

「火矢、でしょうね」

と、低く抑えた声で教えてくれた。



間もなく準備が整ったのか、こちらの陣地に向けて、山賊達が一斉に火矢を撃ち込んできた。


「思ったより手際が良いなぁ」

僕が感心している傍らで、フィリーが素早く呪文を唱え、空中に複数の竜巻を造りだす。火矢の群れは竜巻に触れた瞬間、その暴風に巻き込まれ、全て陣地外に弾き飛ばされた。

それは余りに一瞬すぎて、多分、山賊達には何が起きたか分からなかったかも知れない。




「あっ、あれ?あれっ、あ、兄貴ぃい!どうしてかなっ?

今のは何だったんでしょう!?」


子分の一人が慌てふためいて『眉なし』に答えを求めた。


山賊側から見ると、彼らの放った火矢の群れは、狙い通りに砦に襲いかかるはずだった。

ところが、その上空に差し掛かった途端に突然ゴウッという突風の吹く音がして、何故か全ての火が消えて見えなくなったのだ。


だが、当然のことながら聞かれた『眉なし』にも、理由なんて分かる訳がない。


「っせーなこの野郎!いいから黙ってさっさと次を撃てやぁ!」

手近にいた子分の頭をひっぱたき、士気を鼓舞しようと怒鳴り散らす。



山賊達は再び火矢の準備を始めた。が、こちらとしては、そんな彼らの二撃目を大人しく待っている義理はなかった。

申し合わせたように、今度は味方が各矢倉から次々と矢を放ち始める。


フィリーもまた、使い慣れた複合弓を引き絞り、狙いを定めて撃ち込んだ。




奇襲を掛けたつもりが、突然の砦からの逆襲に合い、山賊達は完全に浮き足だっていた。

その隙を逃さず、ザルツァが騎兵を率いて正門から飛び出し、敵のど真ん中を切り開いてゆく。

彼等は山賊の背後をとると、遊弋(ゆうよく)しながら巧みに敵の退路を塞いだ。

そして僕も櫓から直接砦の外に飛び降り、遅ればせながら騎兵が開いた間隙を突いて、敵中に斬り込んだ。



種々雑多な防具を纏い、まるで統一感のない武装の山賊達だったが、最初の混乱から意外なほど早く立ち直ると、数に任せて次々と僕に立ち向かって来た。

だが、その緩慢な動作はあまりにも隙だらけで、残念ながら僕と二合と渡り合える者は居なかった。


月光に刀槍が煌めき、僕の跳ね上げた武器やら人間やらが宙を舞う。

同士討ちの心配が無いため、僕は思う存分剣技を振るうことが出来た。



「あ、あっ、あ兄貴ぃい!

意味わかんねぇ!意味わかんねぇけど、人が宙を舞いまくってやがるっ!

こいつはヤバいっ!ヤバすぎッ……!?ぐぇっつ!」


『眉なし』の子分は最後まで言いきることが出来ず、後ろから僕に峰打ちされて気絶する。そして、その体が地面に倒れ込むより速く、僕は子分の体の脇をすり抜け、斜め下から『眉なし』の脇腹を峰打ちで切り上げた。


「ひょぇええええ!?!?」

奇妙な声を上げながら、『眉なし』の痩せた体は駒のように回転しながら、かなりの距離を吹き飛んでいった。


その姿を唖然と見送る他の子分のガラ空きの胴を、僕は瞬時に凪ぎ払う。


その後も僕は休むこと無く立ち回り、程なくして、地面に立っているのは僕と味方の騎兵だけになっていた。







「いったいぜんたい、どーなってんっすか、これは?」

『太っちょ』が驚きの声を上げる。

もちろんお頭にも細かいことは分からない。が、淡い月明かりでも何となく分かった。

一言で言えば、味方の全滅だった。


冗談じゃない!と、お頭は思う。


良くは見えなかったが、こちらが火矢をしかけた後で、向こうの騎兵が突撃して来たのは分かった。

ただその数も大したこと無かったので、砦の規模からしても、恐らくは直ぐに100人は下らない子分どもが、力押しして倒すだろうと高をくくって見ていた。


ところが、だ。




その後、突如集団の前方から怒号と剣撃の鋭い音が沸き上がり、人影が次々と宙に舞うように見え、あっという間にあれだけの数がいた子分達が全員倒れて動かなくなってしまった。

幾らなんでも、これ程の惨敗は予想超えるどころか、その遥か上空を行っている。

相手は何者かは分からないが、トンでもない化け物には違いない。


ーまずは生き延びることだ。


頭で考えるより先に、お頭は素早く砦と反対方向に森の中を駆け出した。




真っ暗な森の中を、お頭と残った10名余りの子分達は出来る限りの速度で走り抜ける。

このまま根城まで急いで戻り、金目の物だけ持って、さっさとずらかるのだ。


そうすれば最低限の再建の芽は残せる。



だが、彼らの背後には、恐ろしい速度で迫り来る追跡者がいた。


それは闇の中で長い白金髪を靡かせながら、木々の隙間を飛ぶように走り抜けていく。

そして恐るべきことに、その速度を維持しながらも確実に一人一人の脚や腕を射抜いて逃走を阻止していた。


ハアッ、ハアッ、ハアッ!


とっくの昔に心臓やら肺やらが悲鳴を上げていたが、死にたくないという一念だけでお頭は走り続ける。


ふと気が付くと、先ほどまですぐ後ろを走っていた『太っちょ』の荒い呼吸が、いつの間にか聞こえなくなっていた。


言い知れない恐怖で止まりそうな足を、お頭は歯を食いしばって何とか無理やり前に進める。



だが、それは突然目の前に現れた。


薄暗い森でも目立つ白金髪に、ほっそりとした人影。

反射的に腕を振って跳ね飛ばそうとした瞬間、鳩尾に強烈な一撃を喰らってもんどりうって地面に転がった。





僕が追いついたとき、蓬髪虎髭の大男は、既にフィリオーネの手によって捕縛されていた。


「多分、これが最後ね」


フィリーはかなりの速度で走っていたはずだが、呼吸が全く乱れていなかった。


「有り難うフィリー、お疲れ様。彼は僕が運ぶよ」


虎髭は気を失っている。僕はその巨体を軽く肩に担ぐと、フィリーと共に砦に戻ることにした。


その他大勢の手下達は、20人一括りで後ろ手を数珠繋ぎにして、兵士達が砦へと連行する。





「ご無事で何よりです」


僕らは、既に砦に帰還していた騎士団副長ザルツァと、文官長のベックマンに迎えられる。

ザルツァの部下に虎髭を引き渡しながら、僕はこの大量の捕虜の収用方法を彼らに相談した。


「そうですね、20名程の戦死者を除いて、先刻の戦いの捕虜は全部で97名です。これだけの数を統制し管理するには、それなりの施設が必要ですが……。

今夜は、このまま20人づつを一括りにして、深い縦穴の中にでも収用するのが手っ取り早いかも知れません」

とザルツァが提案してくる。


「それなら、外堀を2倍の深さにして5区画に分けよう。そこに20人づつ入れて置けば良いよね?」

「我が君には、お手数をお掛けします」


ま、僕の土の魔法を使えば、深い穴を掘ることなんて簡単だからね。

もっと時間を掛ければ、パーティーメンバーの魔法担当、大魔導師エリウル直伝の超上級土魔法で、、色々大掛かりな事が出来るんだけど。



「それと、今回の捕虜の処遇について相談したいんですけど?」


僕はベックマンに話を向ける。

今回の捕虜の処遇は今後の指針となるもので、その対応には政治的なバランス感覚が不可欠だと考えていた。

この場の文官代表である彼の意見は、是非聞いて参考にしたい。


「処遇、ですか?

本来ならば、考えるまでもなく即刻処刑すべきだと思いますが……。

我が君には既に何かお考えが有るようにお見受け致しますが?」


「正直に言うとそうなんですけど、それはそれとして、あなたの忌憚の無い意見を聞きたいのです」


ベックマンは自分の尖った顎先の髭に手をやりながら、

「分かりました、それなら……」

と、自らの考えを語り出した。



彼の意見を纏めると、次のようになる。


処遇、と言ってもそんなに選択肢が有るわけではなく、簡単に言えば『殺す』か『生かす』かしかない。

仮に『殺す』とすれば、この地、この場で全員を処刑してしまうのが最も手間が掛からず合理的だ。

そもそも、山賊相手なら捕縛次第即刻処刑する、というのが慣行だった。


一方、『生かす』と言うことになると、その後の事を色々検討せざるを得ない。

いつまで生かすのか?とか、何のために生かすのか?とかだ。


彼から幾つかの選択肢が提示され、最終的には僕の選択となるが、との前置きで彼なりの回答をもらった。



「なるほど、とても参考になりました。

僕も一晩じっくり考えます。

とりあえず今夜は外堀を改造して彼らを収監し、明日改めて相談しましょう」


僕はそう言うと、山賊達のために外堀の改造に取り掛かり、その作業の進捗にあわせて、ザルツァが部下を指揮して手際よく彼らを外堀に収監していく。

ベックマンは、翌朝の会議まで早速睡眠を取ることにしたようだ。



さて、明日には彼らの処遇を決めなければいけないが、果たしてどうするべきなんだろうか…。

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