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第十話 山賊達

さて、保護した村人や数珠繋ぎにして連行してきた山賊達と共に、僕らは本隊のいる夜営地に戻ってきた。

既に早馬で色々な指示を伝えていたので、本隊では、全員総出で夜営地の強化に取り組んでいた。



まず、夜営地の周囲の木を斬り倒し、背の高い柵を巡らせていた。


そこへフィリーが合流し、道すがらの打ち合わせ通り、風の魔法を使い周囲の木を斬り倒し始める。

流石は上級風魔法の使い手だけあり、あっという間にかなりの範囲の木が無くなり、周囲の視界が開けてきた。


続けて、彼女は斬り倒した木の枝葉を器用に打ち払い、大量の材木を造り出してゆく。

兵士達はそれら木材を使って宿営地の周辺に柵を二重に造り、また、村人や馬や捕虜達のための簡易な丸太小屋や、陣地の四隅に矢倉を組み上げた。



一方、僕も土の魔法を使って、兵士達の作った二重の柵の間とその外側に、深さ三メートル程の空堀を掘った。

仕上げに、正門につながる4m幅の土の橋を作り、外と内を結ぶ唯一の出入り口とする。



そうして、僅か数時間で構築したとは思えない、確かな防御力を持つ砦が完成した。





四隅の矢倉に二人一組の物見を配し、三交代で夜通し見張りを立てる。


僕は天幕の中で毛布にくるまり、少しでも眠ろうと横になった。

今まで幾多の遠征でそうしてきた様に、直ぐに眠りに落ちる。



それから数時間後、夜半過ぎに人の動く気配を感じ、自然と目が覚めた。

傍らの剣を引き寄せ、愛用のメタルプレート入りの革鎧を手早く着ているところでザルツァがやって来た。


「どうやら、現れたようです」


もちろんそれは、山賊の集団のことだろう。


「フィリーはどうしてますか?」


「フィリオーネ殿は、既に矢倉に上がって監視を続けています」


「分かりました、僕も直ぐに行きましょう」


僕はザルツァの案内で、四隅の矢倉の一つに登った。すると、白金髪を目立たせないようにマントのフードを目深にかぶったフィリーが、静かに手招きしてきた。


フィリーは押し殺した声で、


「虫の音が絶えた。奴らは来てる」


と、彼女は100mほど先の街道を見下ろす形の小高くなった丘を指さす。僕は目を凝らしてみたが、淡い月明かりの元で、ぼんやりとした地形のシルエットしか分からなかった。


「どうだろう、攻めて来るかな?」


ザルツァに問うと、


「微妙なところです。基本的に、山賊は自分よりハッキリと格下の獲物しか狙いません。

その点、これ程しっかりした造りの砦を見れば、普通なら多数の正規軍の存在を疑う筈です。

奴らが敵わないと判断すれば、襲ってくる可能性は低いと思われます」


「寝込みを襲われる心配が無いなら、それはそれで有り難いな」と僕。


ただ、と、ザルツァが続ける。


「その場合厄介なのが、下手をすると、奴らが明日にも自分達の根城を引き払ってしまう事です。

仮に今回奴らを見失えば、再度捕捉し殲滅するのに、相当な手間隙と人員が必要になるでしょう。

出来れば、奴らが油断して一ヶ所にいる時に、一網打尽にしておきたいところですが……」


ザルツァの言うことも尤も(もっとも)なことだ。


でも、あれ?それって僕とフィリーが必要以上に砦造りに頑張りすぎちゃったってこと?

いやぁ、何事も安全第一だからさ、……ははは。


さて、どうしたものか……?






僕らが砦の矢倉の上から様子を伺っていた丁度その頃、当の山賊側でも、これからどうするかについて『お(おかしら)』以下3人が車座になって相談していた。


「お頭ぁ、あれぁゼってぇヤバイっすよ!

あんだけシッカリした砦を作るなんて、間違いなく国の正規軍ですって!

さっさとずらかりまショーよ!」

すっかり焦ったようすの、短髪小太りのオッサン(手下A)が、舌っ足らずに捲し(まくし)立てる。


「っせーな!いきなしビビってんじゃねーよコラぁ。

国軍なんてなんぼのモンじゃー!おーっ?こっちは人質取られてんだよ。簡単に引き下がれるわけねーだろが!

ねぇ、お頭ぁ?」

と、眉なし坊主頭の痩せぎすあんちゃん(手下B)が手下Aに怒鳴り返す。


で、蓬髪虎髭の、筋骨隆々とした「お頭」はと言うと、その厳めしい堂々とした体躯に似合わず、正直かなりビビっていた。


何しろ、山賊稼業は命があってのものだし、危険(リスク)を避けて確実に稼ぐのが彼の信条であった。

手下Aに言われるまでもなく、僅かな時間であれだけの(モノ)を立ち上げる土木力を持った奴等は、恐らく訓練を重ねた国の正規軍だろう。

そんなのに手を出しても、労は多く益は少なかろうというものだ。


しかし一方で、仲間内の体面というものがある。

仲間内からナメられ始めたら、直ぐに統制が効かなくなり、野心家の仲間に寝首を掻かれるなんてことにもなりかねない。

大勢の部下を引き連れて出ばってきた以上、捕われた仲間を見捨てて、自分の口から『逃げよう』などと弱気なことを簡単には言い出しづらい。

所詮は忠誠心など皆無な、寄せ集めのならず者集団だ。自分が手綱捌きを一つ間違えれば、呆気なく崩れ去る関係だ。


お頭は、臆病で学は無かったが、ただの馬鹿ではなかった。

日々色々考えながら、ともすれば自分勝手な行動に走る山賊達を、彼なりに工夫して統制しているのだった。


そしてまた、お頭は女性方面において、甚だ欲望に弱い一面を持っていた。

斥候役の部下の報告によれば、敵の中に、遠目でもそれと分かるほどの、白金髪(プラチナブロンド)のとんでもなく美くしい少女がいたらしい。

もしその報告が本当であれば、ここは一つ賭けに出ても良いかな、とも感じていた。





それにしても、幹部とは殆ど名ばかりで、誠に頼りにならない奴らだ、とお頭は冷めた目で二人を眺める。

騒がしいだけで全く胆の据わらない短髪小太り中年男(手下A)と、いっつも考えなしの、突っ込むことしか知らない痩せぎす眉なし坊主頭(手下B)。

彼等は、先程から飽きること無く同じ様な文句を吐き続けていた。


「ヤバいよ、ヤバいよ、ヤバいよぉ~、さっさとズラかりましょうよぉー」と手下A。


「ぅけけけけっ!さっさと襲って、ブスっとやって、バッサリとバラしちゃいましょうよ、お頭ぁああ!」と手下B。


お頭はため息を気づかれないように自慢の虎髭を扱き(しごき、)ながら、やがて腹を決めた。

そして、なるべく重々しく見られるように勿体ぶって発言する。


「おめぇらの言い分は良ぉく分かった。

……おい、『眉なし』、このヤマぁてめぇに任せた。てめぇは手下ぁ連れてヤツらを殺ってこい!

取れた()()()ぜぇんぶてめぇのモンだ、好きにしな!」


これで、思ったより奴らが弱ければそれで良し。仮に襲撃が上手くいかなくても、自分の責任にはならないだろう。

ついでに言えば、()()()()()自分が貰うつもりだった。

例えば、白金髪(プラチナブロンド)の美少女とか、だ。


「『太っちょ』、てめぇは今回のヤマはおあずけだ。ビビった奴には、でかいヤマは任せらんねぇ。

俺と共に留守番だ」


そう言いつつ、後詰めとして『太っちょ』以下10人ほどを手元に残す選択をした。

これで、もしもの際にも最低限の纏まった人数で退却できる。




手下B改め、痩せぎすで坊主頭の『眉なし』は、わざとらしく自分のナイフの刃をべろべろとナメ回しながら、


「あいよ、お頭ぁ、あいつら全員()ったるわ!

野郎ども!俺に続いて来い!」


ならず者らしい気勢をあげ、大多数の手下を率いて砦に向かって走り始めた。




こうして唐突に、山賊との夜戦が開始されることとなった。

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