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第八話 始めの一歩

「ルナかぁ、今頃元気にしてるかなぁ?」


必死に平常心を装ってみたけど、全然上手くいかなかった。

そんな僕を、フィリーはジッと見詰めてくる。で、僕は、二秒ともたずに彼女から視線を外してしまった。


「ふーん、やっぱ、なんかあった?」


問い詰めてくる彼女に対し、今更何を言ってもダメだと観念した僕は、首を竦めて黙りこみ、何とかこの場が過ぎるのをじっと待つことしか出来なかった。

こういうふとした所で、つい前世での癖が出てしまう。



永遠かと思われるような息苦しい沈黙の後、突然フィリーは明るく

「ま、いいわ。あんまり仕事の邪魔しちゃ悪いから、これで失礼するね」

その声を聞いて、僕は無意識に安堵(あんど)の吐息を漏らしてしまう。


「あ、それから、私は自分用の宿舎なんか要らないよ、あなたの屋敷に泊まるから。

それじゃあね」

と、彼女は入ってくる時と同じくらい唐突に出ていった。



……え?今、去り際に何か言った?

僕の屋敷に住む気なの??

確かエルリックとの打ち合わせで、彼女にも官舎を一つ割り当てることにしてた筈なのに。


まぁ、同じ屋根の下と言ってもそれ相応の広さがあるはずだから、フィリーと一緒に暮らしても、そんなに困ることはないと思うけど、…多分。





それにしても、魔王を倒してこのかた、政治やら女性関係やら、今まで経験したことの無い厄介事が次々と舞い込んでくる気がする。


世界は平和になったはずなのに、僕の心はむしろ、平安とは遥かにかけ離れた状況に追い込まれている。


……なんでなんだろう?






優秀な家令であるエルリックの手腕と、彼に負けず劣らず実務能力に長けた経済官僚達の堅実な働きのお陰で、到着からたった数日で引き継ぎはおろか今後の色々な方針についても明確になってきた。



まず、問題点を整理してみる。


このクレーヴィア地方は、フラヴィア王国最南端に位置する言わばどん詰まりで、周囲は不毛の地に囲まれ、拡張する余地もない。

オマケに、取り立てて特産品もなく人口も多くはないため、周囲から見て交易対象としての魅力も薄かった。


加えて、なだらかな丘陵地が続き景観としては美しいものの、地面を少し掘れば火山性の堆積層にぶつかり、地味は痩せて耕作には向いていない。

主要産業である牧畜も生産性が低く、辛うじて日々の糊口をしのぐに足る程度の話だ。

ゆえに領民の暮らしは貧しく、ひとたび不作等の天災があれば、途端に人々は飢え、犯罪に手を染める者も多くなってしまう。


ま、ここまではその通りだろう。


で、何から手をつけるか主要な幹部達と話し合った結果、今後の施策として以下の三つの大まかな方針を立てた。


①治安の回復と安定

②大規模な公共工事による景気対策

③新規産業の育成


言うまでも無いが、一番大きな問題は治安の悪さだった。

守備隊の常駐する侯都バーゼルの周辺こそ辛うじて秩序が保たれていたものの、領地のほぼ全域でいわゆる山賊達による略奪行為が横行してた。

まずは、その山賊達を討伐しなければならない。


幸いにして、その手の力仕事は僕自身得意だったし、麾下には元近衛兵団の優秀な兵士が揃っている。

この目標の達成は比較的容易だと考えていた。




問題は、そうした犯罪者を一掃したとしても、貧しさという根本的な原因を解決しなければ、犯罪者はその予備軍から幾らでも供給されてしまう。

そこで必要になってくるのが、職のない領民が食べていける『仕事』だ。


現状、この地方のインフラは無いに等しく、街道の整備など、やらなければならない大規模事業に困ることはない。

特に、主要な街道の整備は、誰でも参加が可能な仕事であり、多くの人間を養うことが出来る。そのうえ、迅速に行軍出来る道の確保にも繋がるので、治安維持・向上にも効果的だ。


普通ならここで財源の問題が出てくが、そこは僕の莫大な個人資産が有る。

魔族との10年に渡る戦いを通じて、様々な貴重なアイテムや、価値の高い魔物の色々な素材を数え切れない程所有していた。

あまり大きな声じゃ言えないけど、その資産は、大公国規模の予算数年分を軽く上回る額になると思う。


とは言え、そんな個人資産も無限ではない。公共工事である程度の時間を稼いでる間に、この地方独自の産業や特産品を育成して、侯国の新たな財源を確保しなければならない。

それは、他の地域から人なり金なりを集めることが出来る何かだ。


それを、なんとするか?


それこそが、クレーヴィアが抱える最も深刻な問題であり、エルリック以下の経済官僚達とかなり議論が交わされた所だった。


この世界の定石としては、農耕を盛んにして人口を増やし、都市に人を集めて商工業を育成する、というものだったが、クレーヴィアの土壌や風土は農耕に向かないのは周知の事実だ。

更に言えば、そんな悠長なやり方では、幾ら何でも経済が育つまで僕の個人資産が持たないだろう。



僕には、思うところが有った。


だが、それらの詳細はこれから実行の段階で明らかにしていきたいと思う。







ひとまず僕らは以上の方針に従い、当面の各自の役割を再確認したあとで、手始めに領地の巡回と取り締まりの旅に向かうことにした。


旗下の兵力から騎兵を10騎、歩兵を20名選抜し、そこに僕とフィリー、官僚団からはその長であるベックマン他二名を加えた総勢35名のチームを作る。



そう、この一歩から、僕らの挑戦が始まるのだ……。

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