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第零話 魔王の最後

随分と長い間、僕は戦い続けてきた。

いや、より正確に言うならば、戦わされ続けてきたと言うべきか……。



この世界に来てからというもの、周囲は常に、僕を戦場に駆り立てた。


曰く、


━━━人類の敵と戦い、それを倒し尽くせ、と。






この世界『ワルデニア』に於いて、人類は万物の長ではなく、『魔族』こそが絶対的な支配者として君臨していた。


人に近しい姿を持ちながら、人族とは比べ物にならない程の強靭(きょうじん)な肉体と膨大な魔力を身に(まと)う絶対的強者。



ただし、幸運なことに、彼らは圧倒的な力を持っていたものの、それ故に繁殖の必要性が少なく、我々人類と比べれば、その個体数は非常に限られていた。

また、同族間の連携もなく、むしろ有力な魔族同士はお互いに牽制(けんせい)し、いがみ合っていた。


人は、その微妙な力の均衡を利用しながら、限られた範囲のなかで自らの王国を築き、その命脈を保ち続けてきた。




しかし、数百年に一度の周期で、魔族の中で異常に強力な個体が産まれる。

それは、数十年掛けて徐々に頭角を現し、やがて彼らの一族を統べる『魔王』と名乗ることになる。





今から15年前、その魔王が突如現れ、人類を含むあらゆる生物に対して、その支配下に置くことを宣言した。

大地や空は、魔族が使役する魔物の群れで(あふ)れかえり、人類はもとより亜人を含む全ての知的生命体は、好むと好まざるとに関わらず、自らの存亡を掛けた戦いに引きずり込まれた。


為す(すべ)もなく次々と滅ぼされていく国々のなかで、大陸中央に位置するフラヴィア王国では、魔王に唯一対抗できるとされる『勇者』召喚の儀式が幾度も行われた。

数人の高位魔導師の命と引き換えに、別の世界から並外れた力を持つ人間をワルデニアに呼び寄せる奇跡の技。

そうしてこの世界に召喚された勇者の一人が僕であった。



当時、8歳の少年として召喚された僕は、一月程の促成栽培的な戦闘訓練を施されたのち、魔族と戦う最前線に容赦なく送り込まれる。

地響きをたてて押し寄せてくるオークや巨神族の群れに、王国の騎士団と共に斬り込んでゆく毎日。

強力な魔族と戦えば、たとえ勇者だって命を落とすこともある。

そうして初めは幾人もいた勇者も、気がつけば僕が最後の一人となっていた。



もちろん、そうした戦いを通じて、僕にだってある種の気分的高揚や、達成感が有ったことは間違いない。


ただ、戦い始めて既に10年もの時が経過していた。

例えどんなに崇高(すうこう)な目的があったとしても、僕の心は()りきれ、鈍り、疲れはてていた。


だが、そんな耐え難い苦痛の日々も、(ようや)く終わろうとしていた……。







ついにその日、僕たち勇者パーティーの四人は『次元の狭間』に建つ敵城の最奥部にたどり着いた。

荘厳に飾り立てられた太い石柱が左右に立ち並び、その柱の尽きる所に、()の玉座が据えられていた。


ここに至るまで、大陸各地の魔族を討伐し、そしてこの城の中だけでも数えきれないほどの戦闘を繰り返し、無数の魔物を屍に変えてきた。


あとは、この目の前の敵、魔王を倒せば、僕らの役目も終わる。



━━スラリッ



僕は腰に吊り下げた(さや)から愛剣フラタニティを抜き、そのままピタリと正眼に構えた。

切っ先を敵の中心線に向け、魔王の全体を視界に入れながら相手の出方を探る。

仲間たちも、僕を全力でサポートすべく攻撃魔法や補助魔法の詠唱を始めた。


魔王もまた、ゆっくりと玉座から立ち上がり、四つの腕のそれぞれで膨大な魔力を練り上げ始める。




漆黒の鎧兜に包まれた小山のような巨体の全身から、溢れんばかりの殺気が(ほとばし)る。

その圧倒的な威圧により、建物はもとより、広大な空間の空気そのものが震え始めた。


僕は歯を食いしばり、気を抜けば身体ごと魂まで握りつぶされそうな魔王の威圧に必死で耐える。


これが、魔王の力なのか?






永遠とも、一瞬とも思える(にら)み合いののち、敵の気が、急に揺らぐのを感じた。

理由は分からないが、ごく(わず)かな瞬間、確かに魔王の殺気が弱まる。

それは、ほんの瞬きの間の、更に何分の一かの間だったかもしれない。


だが、仮にそれが何であれ、僕から見れば、それは文字通り致命的な(すき)にしか過ぎなかった。



ダンッ!!!!


僕は地面を蹴りつけて跳躍し、勇者にしか為し得ない速度で間合いを詰めると同時に、振りかぶった切っ先で魔王の眉間からみぞおちまで鎧ごと、深く切り裂いた。

そして、反す刃で脇腹を斜め上に切り上げつつ、突風のように突き抜ける。


ここまで、極々(わず)かな間。


振り向き様に構えなおし、再び次の攻撃に移ろうとする僕の目の前で、ようやく吹き出た血と内蔵を辺りに飛散させながら、魔王の巨体がゆっくりと前のめりに崩れ落ちた。



それが、万物の敵と恐れられた、この世界の頂点たる魔王の最後だった……。







(あるじ)を失った魔王の居城は、急速にその存在が揺らぎ始め、『次元の狭間』に飲み込まれ始める。


僕は仲間達に撤退を指示し、元来た道を全速力で駆け抜ける。その間も、断末魔の叫びに似た地響きをたてながら、城の崩落は加速度的に進んで行く。


(ようや)く僕らが城門から外に飛び出した時、空間の巨大な裂け目が城の残骸の(ことごと)くを吸い込み、そして全てが消滅した。


禍々(まがまが)しい極彩色だった空が、やがて澄み渡る蒼さを取り戻す様を眺めながら、僕は戦いの終わりを少しずつ実感し始める。

後ろから肩を叩かれ、振り向くと仲間の一人が晴れやかな笑顔を浮かべていた。

見渡すと、僕ら四人全員が笑っていた。


━━━そう、やっと終わったんだ。……やっと。



はじめまして、『ふーた。』と申します。


この度は、最後までお読み頂き、誠に有り難うございます!

今まで書き留めていたものを、これから少しずつお届けしたいと思っております。


何分初めての経験であり、至らぬことも多々有るとは思いますが、どうぞ宜しくお願いします。



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