第91話「VS黒の騎士ブロード」
何もかも身軽になって帰って来た始まりの街『ライデン』。最前線のギルドが新しい大陸に到着したようだ。人々は速く行きたい速く行きたい。みたいな感じで話題になっている。
そんな中、そこで妙な噂を聞きつけその場所へ行く。
◆果たし状『黒の騎士ブロード』へ。お前と勝負をしたい、場所は闘技場で待っている。時刻は……。
サキはしょりゃあもう摩訶不思議そうな顔で看板を見る。
「何これ、どっかの時代劇かな?」
どうやら【最前線攻略組】ギルド【四重奏】のメンバー黒の騎士ブロードへの挑戦状のようだった。
一風変わったその果たし状は、むしろ周囲の笑いものにされていた。
「最前線組のブロードに勝てるわけないだろう」
「看板を立てるだけ無駄無駄、そもそもこの街には居ないって」
「可哀そうな人、きっとバカなんだわ」
そんなことを聞きたくもない小耳に挟んでしまったサキ。サキは何か違和感を覚えた、ズキリと頭痛がする。それはオーバーリミッツから螺旋弾を食らった時のことを想いだしていた。
「何か……、ひっかかる……」
というわけで、どこの誰だか知らないプレイヤーの所へ行く。黒いコートに身を包んだプレイヤー。
「あの……、えっと。とりあえず顔を見せてくれませんか?」
「……、お前に用はない」
「あいやでも、……私ブロードさんのフレンドだから呼べるし……こんな古典的な。とりあえずお名前だけでも……」
言うと、少年は顔をピクリと上へと上げる。
「……ッ……エイジ、エイジだ」
「え、は……えぇ!?」
摩訶不思議な事だが、それはちょっと前まで自分が居た立ち位置のように思えた。たぶん2週回ったぐらいの立ち位置だ。1回目はエイジさん本人、2回目はどこかの悪役のボス。オーバーリミッツの螺旋弾がそれを脳裏に強く焼き付かせる。
「なら、呼んでくれるのか?」
戸惑うサキ。どうすればいいか解らなくなって混乱する、あたふたする。会っちゃいけない相手に会ってしまったようなそんな動揺だった。
全身が固まる、冷や汗が流れる。その時。
「呼んだか」
ブロードがやって来た。サキは慌てる。
「や! 呼んでない!? 私は何もしてない何も……」
ブロードはサキを無視して続ける。
「VRの中じゃ俺に勝てないことは明白だろう、エイジ」
「それでもだ、それでもお前に俺は挑まなきゃならない」
「良いぜ、それでお前の気がすむってなら相手になってやる」
引っかかっていたものが繋がって、むしろわけが解らなくなって混乱する彼女の姿がそこに居た。
――……そして……決着がつく。一瞬だった、一瞬で終わってしまった。
ブン、と剣をしまう音が響く。
唖然としていたサキ、何かが。また何かがひっかかる。
「ブロードさん、ちょっと質問良いですか」
「ああ、なんだ」
「あなたは、今エイジさんに勝った。……ですよね」
「あぁ、そうだな。観てたろ?」
「あなたは、私の知らない所でゲームマスターを倒してますよね?」
何を言っているのか解らなかった、支離滅裂な質問を投げかけていることも解っていた。
「……」
「あなたは、私の知らない所で妖精を倒してますよね?」
「……」
「あなたは、私の知らない所でオーバーリミッツと戦って負けましたよね?」
「……」
そして決定的な一言を告げる。
「あなたは、私の知らない所で。私のNPCを倒していますよね?」
どこがどうなってそういう思考に繋がるのか解らなかった。だが黒の騎士はちゃんと言う。
「そうだ。俺はこのVRという世界を一方通行で、諦めずに歩き続けた」
しばらく間があって……白の魔法剣士は言う。
「……、なら。私はやっぱり、あなたと白黒つけなければならないと思います!」
決意が、覚悟に変わった。接待ゴルフをするつもりは毛頭なかった。
「この勝負、負けられません! あなたに、黒の騎士ブロードにデュエルを申し込みます!」